北方領土問題: 4でも0でも、2でもなく (中公新書 1825)
- 中央公論新社 (2005年12月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121018250
作品紹介・あらすじ
「北方領土問題」は、日本とソ連の戦後処理をめぐる交渉のプロセスのなかで生まれ、1956年の日ソ交渉においても、これを解決することができず、平和条約の締結に至らなかった。以来五〇年、事態が進展しないなか、中国とロシアの間で、同じく第二次世界大戦に由来する国境問題が解決した。本書は、この係争地を互いに「分け合う」という政治的妥協に至る道筋を検討し、日ロ間への具体的な応用を探るものである。
感想・レビュー・書評
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クリル=千島列島の日露国境問題解決への現実的提言。中露国境画定を参考に、日露双方の「面子」が立つ形で「4でも0でも、2でもなく」、歴史的経緯に拘泥しないフィフティ・フィフティとして、国後・択捉間での国境画定と4島の「特別区」化による政治的妥協を提示する。約10年前の著作だが、その間の日露両国におけるナショナリズム世論の急台頭と国内政治体制の保守・硬直化を考慮すれば、極めて楽観的で実現性は薄い。鳩山一郎内閣の日ソ国交回復交渉を、外因的に不利な状況の中、粘り強い交渉を通して利益を勝ち取った成功例として再評価している点が注目される。
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ロシア外交を専門とする著者が、北方領土問題を中ロ(ソ)の国境問題と比較して議論を展開する。19世紀から続く中ロ国境問題は、国際法ではなく係争地を分け合う政治決断によって解決された。著者は、中ロの方法を参考に、日ロ双方がウィン-ウィンで解決する方法を模索する。
著者の提起は興味深いが、本書の一番の価値は北方領土問題の事実の分析だと思う。教科書にも載る領土問題だが、「北方領土問題」がいつから問題化したのか等の経緯や双方の主張・論点が書れている本は案外少ない。本書は、日ロ双方のバランスをとりながら、北方領土問題について客観的かつコンパクトに記述している点が好感を持てた。 -
その後、某社から竹島、尖閣を含めた解決策についても書かれておりますね。
中ロの事例を参考に、日ロ双方が納得できる方法を模索されていらっしゃいます。
ほかのレビューにありましたが、「北方領土問題」がいつから問題化したのか等の経緯や双方の主張・論点が書れている本は案外少ない。と書かれた方がいらっしゃって、それについて同意でした。
これからの人にとっては、そこの部分を知ることも今後のために不可欠だと思います。 -
一読してわかったことは、とにかく領土問題に客観的見解などない、ということだった。
だいたい、どこがあり得る「線」なのかということも、厳密にみると何とも言えないらしい。(千島列島の先かも知れない)
日本政府は現状を不法占拠と見なしているが、ロシアにはロシアの言い分があり、お互いの主張は近くなったり遠くなったりしつつ平行線をたどったままなのだ。
膠着状態が打開されない一因は北方領土が両国間にとって真に切実な問題ではないからだ、という指摘もあるが、宙ぶらりんな状況を早く解決しなければならないのは当然だろう。
著者は、もとロシアと中国の国境画定プロセスの研究者である。(現・北大スラブ研究センター教授)
その立場から、領土(というか国境)問題に対してユニークな視点を提供している。
それが副題の「4でも0でも、2でもなく」である。結論だけポンと書けば、国後までは日本に戻せ、ということである。
落としどころとしてはアリなのではないか、と思った。また数十年にもわたって出口のない駆け引きを繰り返すより、現実的な線で決着をはかるのがお互いのためになりそうだ。 -
2013年4月末、平和条約締結に向けて加速的な動きが首相から指示された時期であり、これまでの北方領土問題を振り返ることができる書。なるほど、フィフティーフィフティー方式であれば、2と4の中間というのもあり得る。いずれにしても、今後の外交交渉の進展を期待。
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前半は中ソ/露間で行われた国境策定交渉のアプローチを振り返り、
これを踏まえたうえで後半は日露間における
北方領土の国境問題を検討する一書。
構成が面白く、読んでいて全編にわたって飽きない。
北方領土問題に暗い自分にとっても
争点、問題がスムーズに理解できた。
また筆者の主張も納得のいくものであり、
ひとつの意見として非常に参考になった。 -
完全に解決した領土問題である中露の国境問題の方法論を分析し、日露間の「北方領土問題」に適用するにはどうしたらよいかを細かく考案している。
特筆すべきなのは筆者のスタンスが冷静であることだ。サブタイトルの通り、四島返還論や二島返還論ではなく、二島+αを考えていくことを主張しているものの、筆者はその他の立場についてもその価値を認めている。
過去の歴史に学び現在に活用するという視点でも重要な示唆を与えてくれる良書。北方領土問題に感心のある方は一読をオススメする。 -
この著書は、「北方領土問題」というテーマを中露と日露の国境問題比較論を元に考察し政治的な妥協や日露間への応用の可能性を探っている。序章では現在なお続いている北方領土問題が、日本とソ連の戦後処理をめぐる一連のプロセスの中から発生した問題であり、1956年の日ソ共同宣言によるロシア側の2島返還検討と日本側の4島一括返還方針から始まる主張の食い違いからどう踏み出すのかが課題であるという。第1部では中露、中央アジアの国境問題を例に取り、法律的な議論を排除したフィフティ・フィフティ方式という相互の利益に配慮した解決方法が縷々解説されており、実に興味深い。第2部では中露の教訓を日露に適用して考察する。ここでは多方面から2島(色丹・歯舞)返還+αを模索し分析する。日露のフィフティ・フィフティや国境線をどこに設定するのか?国境地域に暮らす人々の解決への望み、相互の利益等が解説されている。
以上、日露相互の主張が平行線を辿り袋小路に入っている現局面において、両国が妥協しうる第3の道があるということを啓示する書物であると感じた。 -
メドベージェフ大統領の国後島電撃訪問(2010年11月)があったせいか,2005年12月発行の本書が平積みにされていた。真っ赤な帯が付けられ,そこには「ロシアの 言い分を知らずに 戦えるのか」という少し煽動的な文言が…。
しかし,本書の中身はいたって冷静である。北方領土問題の発生の経緯と過去の交渉経過を整理した上で,中国とロシアとの間の国境紛争が全面的に解決された事例を踏まえつつ,北方領土問題の現実的な解決方法を展望している。
2006年度大佛次郎論壇賞受賞作 -
北方領土問題について平易にまとめられている新書だが、内実は、ロシアと中国の国境問題解決を日露間にも当てはめる、あるいは応用することは可能なのではないかという問題提起を伴った本。
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中国にとっても中央アジア国境を安定させるのは急務だった。中国とは19世紀も含めて絶えず軍事衝突していて緊張の源だった。日露の国境は平和だった。
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日ロの領土問題を中ロの問題と関連付けようとしていることは評価するが、分析内容はまったく評価できない。結論も最近の状況を述べるだけで建設的な意見を見受けられなかった。
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20090219
良書
ソ連と中国の国境画定作業を事例として、北方領土問題の解決を考察する。
固有領土論の危うさ、2島解決を邪魔したアメリカ、漁民は2島返還で充分、
旧島民と新島民の分布、等々を紹介。
解決策としては、歯舞色丹国後を日本に、択捉をロシアに、の3:1論が妥当では、と。
最近のロシアの経済危機、人口危機で、4島返還の可能性も出てきたが、、、
さてどうなりますやら。
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前半の読破には根気を要したが、後半から面白くなった。
耳慣れない地名が大量に出てくるため、地図がもっと多く使われていれば分かりやすかった。 -
中ロ国境の話まで読破するのは正直根性が要る。結論はきわめて現実的。
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北方領土について中ソ間の解決方法を例示しながら、落としどころを探す本