首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)

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著者 : 竹中治堅
  • 中央公論新社 (2006年5月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018458

首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)の感想・レビュー・書評

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  •  本書の要約
     一般的に一連の小泉改革は彼個人の人気・指導力によって為されたという認識が強い。しかし本書は一般的認識とは別の観点から、なぜ小泉改革が可能であったのかを説明する。著者はいかにしてポストとしての首相・自民党総裁は強大な権力を手にし、「首相支配」が実現されたかを細川政権以降の国内政治を詳しく振り返ることによって描き出している。著者は首相支配を可能たらしめた三つの要素を提示する。

     第一に選挙制度が中選挙区制から小選挙区制に変わったこと(これは90年代前半に日本中を覆った政治改革旋風を「権力の維持のみを目的とし、そのためにはあらゆる手段をとるという自民党」(山口二郎「戦後政治の崩壊」より)が利用したため実現した)により、党の公認を受けられるかどうかが政治家にとって死活問題となったことである。かつては”Under LDP rule, party fragmentation was one reason why political system was more decentralized than European counterparts”(Bradley Richardson Japanese Democracyより)と表現された派閥が無力化し、党内の権力が総裁に集中することとなった。

     第二に橋本行革によってもたらされた、法律改正による首相権限の強化である。これにより経済財政諮問会議や郵政民営化準備室などかつて管轄外であった事項も首相が直接指揮できるようになった。
    第三に総裁選での地方票が増えたことにより世論の支持が自民党総裁にとって重要な要素となった。
    以上の「公認権」「行政改革」「世論の支持」という三つの鍵概念を使うことによって著者は、小泉以降の首相も強大な権力を発揮できるであろうと主張する。

     著者の陥った陥穽
     しかし著者の予想は大きく外れる。2008年11月現在、小泉以降安倍、福田、麻生の三人が首相の座に就いたが、いずれも著者が予想に反して首相の強いリーダーシップは発揮されていない。内閣人事局設置は停滞し、郵政造反議員は復党し、(08年度公共事業費削減幅を明記しないなど)骨太の方針は骨抜きであると言われている。三人の首相が重点を置いた政策を見ても、安倍の国民投票法までは良かったが、福田の消費者庁は迷走し、麻生の給付金では閣内不一致を国民に印象付けた。ではなぜ著者の予想は外れたのか。

     私が思うに著者の失敗には二つの要因がある。第一に歴史解釈の無理である。本書の議論は「55年体制」が93年の自民党下野で終わり、94年の政治改革法案に始まる移行期を経て小泉の首相就任を以て「20001年体制」の成立、2005年総選挙を以てその定着という、著者の恣意的な歴史解釈に基づく。著者はあたかもヘーゲルが「歴史の究極目的は自由である」として歴史を認識したのと同じように著者は「細川政権以降の日本政治史の究極目的は首相支配である」として本書を著している。それはある意味とてもわかりやすい。著者の立てた命題に沿った事実のみ、あるいは沿うような解釈を施した上で政治現象の歴史を述べれば全体が一本の筋を通した様に描くことができるからだ。命題に沿わない事実は取り上げなければ良い。多かれ少なかれ社会科学の文章にはその様な性格が避けられないが(社会をあるがままに描くのは不可能)、それにしても本書はそれが強すぎたのかもしれない。現実に起きていた制度改革は小泉の様な人物が用いて初めて効果を発揮するものだったのかもしれないが、その要素を著者はそれを見落とした、或いは意図的に無視した。

     第二に、2005年の総選挙を以て定着とするのはあまりに時期尚早である。今現在に至るまで著者の言う「2001年体制」が成立してからわずか二回しか総選挙は行われていない。著者が「55年体制」という言葉を広めた人物として言及した升味準之輔も三回目の総選挙が終わってから発言していること(58、60、63年に総選挙、64年発表)も考えれば、せめて次の総選挙の行方を見てから断言してほしかった。小泉の個人的能力を過小評価しすぎ、制度面での変更に重点を置きすぎた結果の言わばフライングである。

     本書の有用性
     では本書は読むに値しないかと言うと、断じてそうではない。本書で詳しく説明されている細川政権以降になされた一連の改革は今も生き続けている。そのためもし今後の首相が小泉の様に絶大な権力を発揮して日本を動かしていくことになれば、安倍・福田・麻生も首相支配に反して次期首相の反動となった、として小渕・森と同列に扱われる日が来るかもしれない。安倍・麻生が大衆的人気を背景に選出されたことも考えると大きな目で見れば「細川政権以降の日本政治史の究極目的は首相支配である」という歴史の一部に組み込むことも不可能ではない。著者の説が正しかったと証明された時、本書は55年体制以後の政治改革の過程を仔細に描かれた良書となる。

     また安倍以降の首相がどうであろうと、小泉が郵政民営化を始めとする大胆な改革を行ったという歴史的事実は変わらない。小泉のポピュリズム政治家的要素からの分析とは全く別の側から、つまり細川政権以降続けられてきた一連の制度改革こそが小泉改革を可能にしたという議論は、制度変更は誰の目にも明らかであるため非常に説得力がある。小泉政権に限っては新制度を存分に活用して自らが重点を置く政策を進めることができたが、新制度を小泉以外の首相が活用できるかどうかは未だ謎であると言える。

  • 小選挙区制導入、内閣強化、自民党総裁選における予備選導入から小泉政権の「成功」、とりわけ郵政民営化実現に至る過程を物語風に解説。あんまり細かいこと書かずにザックリと内閣機能の強化についてまとめた本なので、類書の中では最も読みやすい。首相個人の人気や能力が政権の基盤に直結するようになったため、能力のない人が首相になったら悲惨という指摘はまさにその通り。

  • 橋本さんの業績に対して大きな誤解をしていた。
    マスコミが植え付けるイメージと実態とのギャップに、今更ながら驚く。
    しっかり情報を精査しないとね。

  • 小泉首相が、あんなにリーダーシップを取れていた理由が解けて面白かった!即ち、法改正によって、人と金を握る人物が首相になったから。また、首相になるにあたり、それまでは派閥の力が必要だったのが、国民の人気が必要になったというのも面白かった。確かに、属人性だけであんなに強権を振るうのは無理があるよな。
    あと、責任と権力の所在が一致しているのが良いというのも、眼から鱗だった。

  • 出口治明著『ビジネスに効く最強の「読書」』で紹介

    政治学者が戦後政治の変遷について、事実に基づき丹念にまとめた一冊。頭の整理に。

  • 小泉政権が、なぜかくあり得たか。選挙制度の変遷と、首相の支配力の強化を平易な言葉で分かりやすく示した解説本。読みやすく分かりやすい。

  • とりあえず首相権限は着実に強化されつつある。
    まぁ鳩山はどうかしらんけど。

  • 2009年の政権交代までの現代日本政治史のテキストとして最適。政治改革、行政改革の影響と参議院の果たしている役割を盛り込んで、1990年代以降の日本政治の変貌を分析し、首相の権力が強まる過程を明らかにしている。
    各章のはじめに、その章のまとめ、情景描写や政治家の発言を多用するなど、議論をわかりやすくする工夫がなされており、読みやすい。
    政治家改革、行政改革による首相への権力集中という側面は筆者のいうとおり間違いなくあるが、小泉内閣後の政治の流れを見ると、やはり首相のリーダーシップには「制度」より「人」の要素が強いのではないかという気はする。

  • 1990年代の日本政治の変貌を振り返り、首相に権力が集中していく過程を明らかにした内容。政権交代前までの政治史はおさらいできる。



    長きに渡って自民党は政権与党の地位にあった。55年体制と呼ばれるものだ。この体制の特徴はさまざまだ。衆議院の選挙制度は中選挙区であり、首相の地位を獲得する条件は派閥からの支持が不可欠だった。そもそも首相は派閥から制約されたため、強い権力を振るえず、どの程度の権力が振るえるかは派閥の領袖として保持する実力に左右された。
    行政機構としては、20を越える省庁があり、そのなかで予算・税制・金融という経済政策を担当する大蔵省が大きな権限を誇っていた。

    著者は、このような55年体制に変わる新しい体制が2001年に成立した、という。小泉内閣が成立してからだ。(2001年体制)


    2001年体制の特徴を以下並べてみる。

    1)衆議院の選挙制度は小選挙区・比例代表並立制。
    2)首相の地位獲得・維持する条件で重要なのは世論からの支持を得ること。小選挙区・比例代表制では、政党本位の選挙戦が行われ、選挙の顔として首相の人気が与党の戦績に直結する。
    3)首相の権力は自民党総裁としての権限や首相としての権限に与えられ強いものとなった。一方派閥は弱体化。派閥の領袖の実力は首相の権力を左右する条件ではなくなる。
    4)橋本政権下の行政改革の結果、行政機構は一変し、1府12省庁に再編。とくに内閣府が大きな役割を果たし、逆に行政改革の過程で大蔵省の機能が分割された。旧大蔵省=財務省の権限が縮小し総務・国土交通・厚生労働省という巨大省が誕生し、政策決定過程で発言権を高めている。

    5)参議院議員の影響力が高まった。

    こうした2001年体制と呼ばれる首相が強い地位を獲得するようになったは、90年代に行われた政治改革と行政改革のためであるという。


    政治改革は主に2つあった。
    選挙制度と政治資金制度が変わったことである。
    1つは衆院選で小選挙区・比例代表並立制が導入され、政党の公認権の重みが増した。
    もう1つは政治資金規正法が強化される一方で、政党助成制度が導入された。政治資金規正法強化で政治資金の透明性が高められ個々の政治家にとって政治資金を獲得することが難しくなる。他方、政党助成制度が導入され、政党は容易に政治資金を集められるようになる。こうなると個々の政治家は党から配分される政治資金の重要性が増してくる。派閥の資金力が低下した理由はここにある。



    なにより1995年の橋本政権の行政改革の功績は大きい。橋本龍太郎は日本政治に多大な遺産を残してくれた。
    内閣府に経済財政諮問会議を置いたことは官邸主導の源流である。小泉政権では、ここで内閣全体の経済・財政政策を議論し、意思決定を行う場となった。これは首相を補佐する体制が強化されたことを意味する。そして内閣法が改正され、内閣官房が政策の立案を担当することが認められた。また内閣府が首相直轄のかたちで設置され、首相を補佐する組織・人員が拡大された。だから首相が関心を抱く課題は、主管庁ではなく、内閣官房や内閣府に事務処理を担当させることが容易となった。まさにいまに続く官邸主導のコンセプトを具現化したものである。

    橋本政権では大規模な行政改革が行われた。これは首相・橋本自身が行政改革に多大な関心をもっていたことと、自民党が政権を賭けて新進党と競争していたことが大きい。緊張感と競争が政策の質を高めた良い事例である。この橋本の行革の置き土産の上に小泉改革が花開くことになった。



    2001年体制が成立した歴史的意義は責任の所在と権力の所在が一致したことだという著者の主張には納得だ。
    55年体制では、首相という地位そのものは、首相に就任する政治家に大きな権力を保障していなかった。首相として大きな権力をもてるかどうかは、派閥の領袖としての実力があるかどうかにかかていた。つまり責任と権力が一致しない。このために、政治が国民から見てわかりにくいものとなっていたというわけ。
    01年体制成立によって、国民に権力をもっている政治家の責任を問いやすくなり、以前に比べ日本の民主主義の質は確実に高まったというが、この件はどうだろう?
    最近の政治動向はもちろん含まれていないので、政権交代後の民主党も含め、著者の続編が望まれる。というより読んでみたい。

  • 小選挙区制・比例代表並立制のもとで、選挙戦は政党間の争いを中心に行われることになった。比例区では、有権者は政党に投票するので、これは無論のことである。小選挙区では各政党は一人しか候補者を立てず、有権者は候補者がどの政党に所属しているかを大きな判断材料として投票する。p37

    小渕内閣とその後の森内閣は、自民党の伝統的派閥政治が完全復活したかのように見える。p104

    首相の地位を獲得・維持するうえでは、派閥の支持よりも、世論の支持を得ることが何よりも重要になりつつあった。派閥の力は確実に弱体化し、この裏返しとして、首相が総裁として持つ権限は強まっていったからである。p138

    【2001年に実施された行政改革】
    内閣府や経済財政諮問会議の設置は、首相の権限を拡大させるうえで、大きな意味を持った。p141

    新しい選挙制度では、無所属として当選することが難しくなったため、総裁は個々の政治家の生殺与奪権を持つといっても過言ではない。総裁は公認権を利用して、自分の意向に従うように自民党の政治家を牽制することができるようになったのだ。p151

    「聖域なき構造改革」p160

    「骨太の方針」p162

    青木幹雄「参院は首相の解散権も及ばない。内閣はしっかり支えるが、言いたいことは言うというのが基本線だ」p200

    「改革をとめるな」をキャッチフレーズに、郵政民営化への賛否を唯一最大の争点として、総選挙を戦い抜こうとする。参議院議員の世耕弘成が中心となる「コミュニケーション戦略」チームまで立ち上げ、広報戦略にも万全を期す。p235

    政界の奇跡としての「郵政事業の民営化」p236

    【55年体制から2001年体制へ】
    1. 政党の間で競争が行われる枠組みが定まった
    2. 首相の地位を獲得・維持する条件が変わった
    3. 首相が保持する権力が強まった
    4. 行政機構の姿が一変した
    5. 参議院議員が保持する影響力が増した p238

    【55年体制とは?あらためて】
    1. 衆議院の選挙制度は中選挙区制であり、主要な政党は自民党とそのライバルであった社会党であった
    2. 首相の地位を獲得・維持する条件として重要であったのは派閥から支持を獲得することであった。首相=自民党総裁が「選挙の顔」として有権者にどの程度アピールできるかは重視されていなかった
    3. 首相はほかの派閥から制約されたため、強い権力を振るうことは難しかった。首相がどの程度の権力を振るえるかは派閥の領袖として保持する実力に左右され、自民党総裁としての権威や法律によって首相に与えられる権限は
    重要ではなかった
    4. 行政機構としては、20を超える省庁が存在し、そのなかでは、予算、税制、金融という主要経済政策を担当する大蔵省が大きな権限を誇っていた
    5. 政治過程の中心にいるのは、政権を成立させる面でも政策を立案する面でも、衆議院議員で、参議院議員の影響力は薄かった p240

    【2001年体制の特徴】
    1. 衆議院の選挙制度は小選挙区・比例代表並立制であり、主要な政党として自民党と民主党が競い合っている。この二党に加え参議院で法案の成否を握る公明党が影響力を保っている
    2. 首相の地位を獲得・維持する条件として重要なのは世論から支持を得ることである。小選挙区・比例代表並立制では、政党本位の選挙戦が行われるため、「選挙の顔」として首相の人気が与党の戦績に直結するからである。この反面、派閥の支持はもはや重要ではなくなっている
    3. 首相の権力は自民党総裁としての権限や首相としての権限に支えられ、強いものとなった。一方、自民党内では、派閥が弱体化し、派閥の領袖としての実力は、首相の権力を左右する条件ではなくなった。ただ、世論からの支持が、首相が権力を存分に行使できるかどうかを左右するようになっている
    4. 行政改革の結果、行政機構の姿は一変し、一府十二省庁に再編された。現在の行政機構には三つの特徴がある。第一に、内閣府が大きな役割を果たしていること。第二に、行政改革の過程で旧大蔵省の機能が、財務省、金融庁、日本銀行、内閣府の四つに分割されたため、旧大蔵省=現財務省の権限が縮小した。第三に、本書では必ずしも十分議論できなかったが、総務省、国土交通省、厚生労働省という巨大省が誕生し、政策決定過程のなかで発言権を高めている
    5. 参議院議員の影響力が高まった。1989年や1998年の参議院選挙におけふ自民党の敗北や派閥の弱体化がきっかけとなって、1990年代を通じて自民党の参議院議員は政治過程における影響力を高めたのである。p242

    2001年体制は集権的なたいせなのである。この体制のもとで、首相はほかの政治家や政治組織に対し、非常に強い地位を獲得し、「首相支配」と呼べる状態がつくりだされている。p242

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首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)の作品紹介

細川連立政権崩壊から一〇年以上が過ぎ、日本政治は再び自民党の長期政権の様相を呈している。しかしその内実は、かつての派閥による「支配」とは全く異なる。目の前にあるのは、一九九〇年代半ばから進んだ選挙制度改革、政治資金規正法強化、行政改革などによって強大な権力を手にした首相による「支配」なのだ。一九九四年以降の改革のプロセスを丹念に追い、浮かび上がった新しい日本の「政治体制」をここに提示する。

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