首相支配-日本政治の変貌 (中公新書 1845)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018458

作品紹介・あらすじ

細川連立政権崩壊から一〇年以上が過ぎ、日本政治は再び自民党の長期政権の様相を呈している。しかしその内実は、かつての派閥による「支配」とは全く異なる。目の前にあるのは、一九九〇年代半ばから進んだ選挙制度改革、政治資金規正法強化、行政改革などによって強大な権力を手にした首相による「支配」なのだ。一九九四年以降の改革のプロセスを丹念に追い、浮かび上がった新しい日本の「政治体制」をここに提示する。

感想・レビュー・書評

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  •  本書の要約
     一般的に一連の小泉改革は彼個人の人気・指導力によって為されたという認識が強い。しかし本書は一般的認識とは別の観点から、なぜ小泉改革が可能であったのかを説明する。著者はいかにしてポストとしての首相・自民党総裁は強大な権力を手にし、「首相支配」が実現されたかを細川政権以降の国内政治を詳しく振り返ることによって描き出している。著者は首相支配を可能たらしめた三つの要素を提示する。

     第一に選挙制度が中選挙区制から小選挙区制に変わったこと(これは90年代前半に日本中を覆った政治改革旋風を「権力の維持のみを目的とし、そのためにはあらゆる手段をとるという自民党」(山口二郎「戦後政治の崩壊」より)が利用したため実現した)により、党の公認を受けられるかどうかが政治家にとって死活問題となったことである。かつては”Under LDP rule, party fragmentation was one reason why political system was more decentralized than European counterparts”(Bradley Richardson Japanese Democracyより)と表現された派閥が無力化し、党内の権力が総裁に集中することとなった。

     第二に橋本行革によってもたらされた、法律改正による首相権限の強化である。これにより経済財政諮問会議や郵政民営化準備室などかつて管轄外であった事項も首相が直接指揮できるようになった。
    第三に総裁選での地方票が増えたことにより世論の支持が自民党総裁にとって重要な要素となった。
    以上の「公認権」「行政改革」「世論の支持」という三つの鍵概念を使うことによって著者は、小泉以降の首相も強大な権力を発揮できるであろうと主張する。

     著者の陥った陥穽
     しかし著者の予想は大きく外れる。2008年11月現在、小泉以降安倍、福田、麻生の三人が首相の座に就いたが、いずれも著者が予想に反して首相の強いリーダーシップは発揮されていない。内閣人事局設置は停滞し、郵政造反議員は復党し、(08年度公共事業費削減幅を明記しないなど)骨太の方針は骨抜きであると言われている。三人の首相が重点を置いた政策を見ても、安倍の国民投票法までは良かったが、福田の消費者庁は迷走し、麻生の給付金では閣内不一致を国民に印象付けた。ではなぜ著者の予想は外れたのか。

     私が思うに著者の失敗には二つの要因がある。第一に歴史解釈の無理である。本書の議論は「55年体制」が93年の自民党下野で終わり、94年の政治改革法案に始まる移行期を経て小泉の首相就任を以て「20001年体制」の成立、2005年総選挙を以てその定着という、著者の恣意的な歴史解釈に基づく。著者はあたかもヘーゲルが「歴史の究極目的は自由である」として歴史を認識したのと同じように著者は「細川政権以降の日本政治史の究極目的は首相支配である」として本書を著している。それはある意味とてもわかりやすい。著者の立てた命題に沿った事実のみ、あるいは沿うような解釈を施した上で政治現象の歴史を述べれば全体が一本の筋を通した様に描くことができるからだ。命題に沿わない事実は取り上げなければ良い。多かれ少なかれ社会科学の文章にはその様な性格が避けられないが(社会をあるがままに描くのは不可能)、それにしても本書はそれが強すぎたのかもしれない。現実に起きていた制度改革は小泉の様な人物が用いて初めて効果を発揮するものだったのかもしれないが、その要素を著者はそれを見落とした、或いは意図的に無視した。

     第二に、2005年の総選挙を以て定着とするのはあまりに時期尚早である。今現在に至るまで著者の言う「2001年体制」が成立してからわずか二回しか総選挙は行われていない。著者が「55年体制」という言葉を広めた人物として言及した升味準之輔も三回目の総選挙が終わってから発言していること(58、60、63年に総選挙、64年発表)も考えれば、せめて次の総選挙の行方を見てから断言してほしかった。小泉の個人的能力を過小評価しすぎ、制度面での変更に重点を置きすぎた結果の言わばフライングである。

     本書の有用性
     では本書は読むに値しないかと言うと、断じてそうではない。本書で詳しく説明されている細川政権以降になされた一連の改革は今も生き続けている。そのためもし今後の首相が小泉の様に絶大な権力を発揮して日本を動かしていくことになれば、安倍・福田・麻生も首相支配に反して次期首相の反動となった、として小渕・森と同列に扱われる日が来るかもしれない。安倍・麻生が大衆的人気を背景に選出されたことも考えると大きな目で見れば「細川政権以降の日本政治史の究極目的は首相支配である」という歴史の一部に組み込むことも不可能ではない。著者の説が正しかったと証明された時、本書は55年体制以後の政治改革の過程を仔細に描かれた良書となる。

     また安倍以降の首相がどうであろうと、小泉が郵政民営化を始めとする大胆な改革を行ったという歴史的事実は変わらない。小泉のポピュリズム政治家的要素からの分析とは全く別の側から、つまり細川政権以降続けられてきた一連の制度改革こそが小泉改革を可能にしたという議論は、制度変更は誰の目にも明らかであるため非常に説得力がある。小泉政権に限っては新制度を存分に活用して自らが重点を置く政策を進めることができたが、新制度を小泉以外の首相が活用できるかどうかは未だ謎であると言える。

  • 小選挙区制導入、内閣強化、自民党総裁選における予備選導入から小泉政権の「成功」、とりわけ郵政民営化実現に至る過程を物語風に解説。あんまり細かいこと書かずにザックリと内閣機能の強化についてまとめた本なので、類書の中では最も読みやすい。首相個人の人気や能力が政権の基盤に直結するようになったため、能力のない人が首相になったら悲惨という指摘はまさにその通り。

  • 橋本さんの業績に対して大きな誤解をしていた。
    マスコミが植え付けるイメージと実態とのギャップに、今更ながら驚く。
    しっかり情報を精査しないとね。

  • 小泉首相が、あんなにリーダーシップを取れていた理由が解けて面白かった!即ち、法改正によって、人と金を握る人物が首相になったから。また、首相になるにあたり、それまでは派閥の力が必要だったのが、国民の人気が必要になったというのも面白かった。確かに、属人性だけであんなに強権を振るうのは無理があるよな。
    あと、責任と権力の所在が一致しているのが良いというのも、眼から鱗だった。

  • 政治改革から小泉政権までの流れや背景がよくわかった。

  • 小泉改革以前と以後の流れが理解できる良書です。

  • 自分が学生時代からの政治の動きがわかりやすくまとめられていて参考になった。
    「田中角栄」からこの本で「小泉純一郎」までの流れ。この次は、民主党政権から第二次安倍政権までの流れがわかる新書はないものか?

    (108)

  • 出口治明著『ビジネスに効く最強の「読書」』で紹介

    政治学者が戦後政治の変遷について、事実に基づき丹念にまとめた一冊。頭の整理に。

  • 小泉政権が、なぜかくあり得たか。選挙制度の変遷と、首相の支配力の強化を平易な言葉で分かりやすく示した解説本。読みやすく分かりやすい。

  • とりあえず首相権限は着実に強化されつつある。
    まぁ鳩山はどうかしらんけど。

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著者プロフィール

竹中治堅(たけなか・はるかた)
政策研究大学院大学教授 1971年生まれ。
1993年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大学助教授、2007年同准教授を経て2010年より現職。
単著に『首相支配』(中公新書)、『参議院とは何か 1947~2010』(中央叢書、大佛次郎論壇賞受賞)、共編著に『二つの政権交代』(勁草書房 2017年)などがある。

「2022年 『「強国」中国と対峙するインド太平洋諸国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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