物語現代経済学: 多様な経済思想の世界へ (中公新書 1853)

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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018533

作品紹介・あらすじ

アメリカ型の経済学教育の導入により、経済学の一元化が進み、自由な思考にとって最も貴重な多様性が失われている。本書は、主流派が真剣に読まなくなった、マーシャル、ケインズ、サムエルソン、ガルブレイスらの経済学を再検討し、今日的視点から彼らの問題意識や問いかけのもつ意味を考察するものである。異端派を排除してきた「ノーベル経済学賞」の問題点をも指摘しつつ、相対化を忘却した現代の経済学に警鐘を鳴らす。

感想・レビュー・書評

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  • 歯が立たない。本書を読み終わっての感想である。
    「失われた20年」にあえぐ日本経済においては、エコノミストがそれぞれ違った意見を吐き散らすとともに権威低下が著しい。
     逆に言えば、誰しもがそれなりの日本経済への意見を言える状況でもある。
     そのなかで「経済学」をキチンと知ることができるかもしれないと本書を手にとったのは、本書の「物語」というリードにある。「物語」であるならば、素人にもわかるように解説しているのだろうと思ったが、いやいや本書の内容は「専門書」であり、とても難しい。
     本書の「プロローグ」の末尾に「現代経済学の歩みを物語として楽しんでもらいたい」とあるが、とても「楽しめる」内容ではないと思えた。
     しかし、我慢して読み進めれば「ケインズ」なり、「サムエルソン」「ハイエク」などの経済学的位置やその理論の雰囲気はわかるような気がした。とても理解できるなど大それたものではないが、経済学の「匂いはかげた」程度だろう。
     本書で納得出来た内容は、あとがきの「あるキーワードが新聞や雑誌に登場するほどの勢いで流行し始めたら、多少の警戒感を持ったほうがよいというのが私のモットー」である。
     なるほど、そうであるなら今回の衆議院選挙における安倍晋三の「3%のインフレ目標と日銀の無制限緩和」「大量の建設国債の日銀引き受けと公共投資」などは、それの最たるもののように思えるが、どうなのだろうか。
     本書は、ある程度の「経済学的」素養を持った人を対象としたものなのだろう。とても「物語」などではなく、「表題に偽りあり」という意味であまり評価できないと思えた。

  • 基礎知識がないとなかなか難しいなあ。
    物語ではなくて、経済学体系の歴史書だな、これは。

  • ケインズ革命(1930年代)から新自由主義(20世紀末)までの経済学史本であり、
    主流派から異端派に至るまで、多様な思想が栄えては廃れた歴史の流れを解説している
    初学者が手に取る一冊としてはとても良い

  •  いわゆる”異端派”から見た現代経済学の多様性。本書は、今日の「主流派経済学」とは一線を画した、いわゆる”異端派”経済学者たちの思想を改めて振り返ることで、現代経済学の意義と限界を考察した一冊である。
     本書で取り上げられている”異端派”経済学者の思想を見ると、その根底にあるのは、現代経済学が「科学」であろうとするが故に見逃してきた「非経済的価値」や「人間の非合理性」に対する注目である。例えば「第5章◎異端派ガルブレイスの挑戦」では、現代経済学の「通念」でもある「消費者主権」や「市場に従属する企業」といった概念への根本的な批判が紹介されている。このように、自らのキャリアを賭けて経済学の新知見を切り開こうとする、経済学者の「生き様」が描かれているのも本書の魅力と言える。
     一方で、”異端”を知る上での前提となる「主流派経済学」に関する解説はほとんどないため、経済学に不慣れな者にとっては難しく感じる記述も少なくない。やはり、本書の内容を理解するには、経済学の基礎知識をあらかじめ勉強しておくことが必要だろう。

  • 第1章 現代経済学の黎明
    第2章 マーシャル経済学の魅力と限界
    第3章 ケインズ革命
    第4章 サムエルソンの時代
    第5章 異端派ガルブレイスの挑戦
    第6章 リベラリズムの後退
    第7章 ノーベル経済学賞の憂鬱

    著者:根井雅弘(1962-、宮崎県、経済学)

  • ◆アメリカ発の経済学研究や、それに基づく経済学徒への教育スタイルが、学問としての単純化・矮小化を招いた。この弊害を憂う著者が、経済学の真の広範さ、豊潤さ、多様性を、世間に、中でも経済学徒に問いかける一書◆


    2006年刊行。
    著者は京都大学大学院経済学研究科教授(現代経済思想)。

     アメリカから流入する経済学から多様性が失われ、それを学ぶ学生や、若手研究者から経済学の多様性への理解が失われた。結果、他説の長所への寛容さが失われるばかりか、自説のみを経済学全体と看做す、狭矮な視野と自己満足?にも見える言説が蔓延し、例えばそれは「規制緩和」「インフレターゲット」「民営化」の一元的流行に現出している。

     元来、多様性と長所・短所を併有する経済学的言説が、一面的・独善的な有り方で、経済論議のみならず政策採用される危険が亢進する今。
     この独善性は、経済学の標準的教科書の記述から多様な学説紹介が落ち、また若手の広範な経済研究書の読書量減少が、その根底にあるのだろうか?。

     かような懸念を憂いた著者が、少しでも状況を改善すべく、元々多様性の存在した現代米国経済学につき、現在までの歴史的過程を素描し、その実を世に知らしめんと試みたのが本書である。

     具体的には、
    ➀ 「レッセフェール」の問題を鋭く突き、米国経済学会の礎となったリチャード・イーリーから筆を起こし、さらに資本主義の適正化や社会的正義に関心を持った黎明期の経済学者の業績を説き起こす。
    ➁ ケンブリッジ学派を創出したアルフレッド・マーシャル、
    ➂ ケインズ、
    ➃ サムエルソン、
    ➄ ガルブレイス
    と進ませ、
    ➅ ハイエク復活の意義と問題点、
     さらに
    ➆ 「スウェーデン銀行経済学賞」(ノーベル経済学賞)の持つ偏頗性
    を叙述していく。

     著者自身、制度学派、あるいはポスト・ケイジアンに親近性を持つため、数理解析やモデル提示よりも、実証性と社会的正義・フェアネスへの感度の高い著作と言える。
     当然、フリードマンらには手厳しく、例えば、引用だが「レーガノミクスにつき、平和時における最長の経済拡大をサプライサイド的実験の成果とは…見ないだろう。…大幅な減税による消費需要の盛り上がりに主導され、…歴史は、サプライサイド・エコノミーは…ケインズ主義の一種に過ぎなかったと結論する」
    などというように、なかなかの痛快さである。

     また、おそらく若手研究者や学生(特に経済学部)に対する応援・叱咤の書であるため、読ませたい参考文献は、少数ながらも重厚なものばかり。
     私のように新書でお茶を濁そうなんて著者のお叱りを受けそうに感じられるほどだ。

     もっとも本書自体は、経済学の大家の引用部分、こなれない翻訳文の理解し難い点を除き、叙述に無茶な難しさはなく、
    ➀ 制度学派とその復権傾向。
    ➁ フリードマンのような亜流ではなく、真の意味の新古典派経済学の理解。
    ➂ 問題解決のためのバランスに配慮したサムエルソン経済学(新古典派総合)。
    ➃ 異端ながら、経済問題を社会と学界に問うたガルブレイス経済学。
    これらを素描するには適した書ではないだろうか。

     殊に、エピローグとあとがきには、著者の問題意識が詰まっている。ここを読むだけでも、現在の経済学の狭小・矮小さ、そして歪曲の問題点に思いを致すことができるはずだ。

  • 同じ著者の、「入門 経済学の歴史」を読み、わかりやすかったので、出版年が古い本書を読んでみた。他のレビューでは、物語とはいえ難解だったという声も多いが、確かに本書でいきなり経済学の基礎を学ぶとなると厳しいと思う。それなりの基礎知識を整理し、関連付けするためには良い物語形式の本だと思う。


    個人的に、目次別にそれぞれ気になった言葉を書くと

    ・現代経済学の黎明(アメリカ経済学、数量経済学)
    ・マーシャル経済学の魅力と限界(マーシャルやシュンペーター)
    ・ケインズ革命(乗数理論を中心に)
    ・サムエルソンの時代(古典派総合としての立場と限界)
    ・異端派ガルブレイスの挑戦(制度の中での問題解決をするのではなく、問題提起をする人としての立場)
    ・リベラリズムの後退(ハイエクの復活から、レーガノミックスの流れ)
    ・ノーベル経済学賞の憂鬱(自然科学とは異なる、経済学の特殊性)

    著者の本書の活用の願いは、はじめに と エピローグに書いてあるが、経済学が制度化されていることの弊害として、現在の経済学が相対化されていないことの危機感から本書を書いている。

    どの分野でもそうだが、専門バカになると周りが見えなくなるので、教養が必要なように歴史に学び、自分の分野を相対化したうえで、未来に生かしていくことは大切であると思った良書だった。

  • サムエルソン、ガルブレイスといった著名な経済学者について学ぶいい機会になった。

  • [ 内容 ]
    アメリカ型の経済学教育の導入により、経済学の一元化が進み、自由な思考にとって最も貴重な多様性が失われている。
    本書は、主流派が真剣に読まなくなった、マーシャル、ケインズ、サムエルソン、ガルブレイスらの経済学を再検討し、今日的視点から彼らの問題意識や問いかけのもつ意味を考察するものである。
    異端派を排除してきた「ノーベル経済学賞」の問題点をも指摘しつつ、相対化を忘却した現代の経済学に警鐘を鳴らす。

    [ 目次 ]
    第1章 現代経済学の黎明
    第2章 マーシャル経済学の魅力と限界
    第3章 ケインズ革命
    第4章 サムエルソンの時代
    第5章 異端派ガルブレイスの挑戦
    第6章 リベラリズムの後退
    第7章 ノーベル経済学賞の憂鬱

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  • とても楽しく読了。
    刺激に溢れる先人の言葉に魅了。
    また、先に読んだクルーグマンの著作を別角度から補完。

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著者プロフィール

1962年、宮崎県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。著作に、『今こそ読みたいガルブレイス』(集英社インターナショナル新書)、『英語原典で読むシュンペーター』(白水社)、『現代経済思想史講義』、『経済学者の勉強術』、『来るべき経済学のために』(橘木俊詔との共著)、『ブックガイド基本の30冊 経済学』(編著、以上四冊は人文書院)など多数。

「2021年 『16歳からの経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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