- Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121018601
作品紹介・あらすじ
ヒトの脳に比べてなきに等しい昆虫の脳。ところが、この一立方ミリメートルにも満たない微小脳に、ヒトの脳に類似した構造が見られることが明らかになってきた。神経行動学は、ファーブルやフリッシュを驚嘆させた「陸の王者」の能力を、精緻な実験によって脳の働きと結びつけ、ダンスによる情報伝達、景色記憶、空間地図形成能力など、昆虫の認知能力の解明に乗り出している。本能行動の神秘に迫る最新生物学の成果。
感想・レビュー・書評
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水波誠 著「昆虫ー驚異の微小脳」、2006.8発行。この本も池澤夏樹氏が書評の本で面白いと推薦されていたので、一読しました。私にはとても専門的で難しい内容でした。ただ、ヒトの巨大脳に比べ、1立方ミリメートルにも満たない昆虫の微小脳が素晴らしいものであることはよくわかりました。陸の王者、昆虫の素晴らしい点は3つ。翅による高い移動能力、変態により成長と繁殖の完全分離の実現(効率的な資源利用)、花をつける植物と共生関係。いずれも神経系の働きが密接に関係しているそうです。ヒトと昆虫は進化を極めた双璧なんですね!
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あまり知られていない事柄も含めて、昆虫の脳についての一般的な知識をもれなくコンパクトにまとめた印象。
左右と額の三つ目や錯視も扱う。個体と群れかによって、変温動物だが恒温動物としても受け取れるというあたりはおもしろい。
『群れは意識を持つか』でも考えさせられたが、昆虫は個と群の社会性の問題があるので、読んでいてどれも飽きない。 -
門外漢なので、索引があると有難かった。
<メモ>
・3章「複眼は昆虫の何をものがたるのか」
>> p.51
ヒトの視細胞は、青、緑と赤( 560 nm )に最大感度を持つ。一方で、多くの昆虫は、紫外( 340 nm )、青( 463 nm )と緑( 530 nm )に感度の高い視細胞を持つ。 これを利用して、花の中心部には、紫外線を吸収する領域(蜜しるべ)がある。
>> p.53
アゲハ蝶にも、色の恒常性(https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%89%B2%E3%81%AE%E6%81%92%E5%B8%B8%E6%80%A7)がある。
上記のサイトによると、色の恒常性を含めた色を知覚する機能は、生後の視覚経験によって獲得されるらしい。
色の恒常性を実装するアルゴリズムはあるか?
>> p.56
ハエの視葉は、ラミナ、メダラ、ロビュラ複合体で構成される。視細胞の二次元配列が保たれたまま処理される視野再現構造になっている。
ラミナの情報処理の一つは、輪郭線の強調である。これはラミナ単極性ニューロンの「側抑制」によって実現される。
>> p.58
メダラは、運動する物体の位置と運動の向きを検出する。メダラの全域に配列している局所運動検知ニューロンは六種類あって、ある個眼に隣接する六つの個眼の向きに対応している。
↑移動の向きの解像度は六つであるということ?それとも、六種類の局所運動検知ニューロンの反応度の線形和が取られるのだろうか。
局所運動検知ニューロンのモデルは p.61 に記載。このモデルは、ヒトの大脳視覚野での運動計算にも当てはまる。収斂進化の一つである。ニューラルネットワークでは、図3-8のようなムダ時間系は許容されている?逆誤差伝搬法等が使えなさそう。
メダラには、色対比ニューロンも見つかっており、色についての情報処理も行っていることが示唆される。
>> p.58, 59
ラミナとメダラが局所領域の情報処理を行うのに対して、ロビュラ複合体はより広い領域にわたる情報が抽出される。
ロビュラプレートでは、広い領域にわたる像の動きが抽出される。例えば、広い視野にわたる特有のパターンの像の流れに反応するオプティカルフロー検出ニューロンが約60個ある。
ロビュラでの情報処理についてはわかっていないが、形の識別等がされると予想されている。
>> p.69
ミツバチがヒトと同じ錯視を示すことは、像の輪郭検出に、同じ様式の情報処理がなされることを示す。 -
途中で返却
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第1章 昆虫の繁栄を支える小さな脳
第2章 ファーブルから現代まで
第3章 複眼は昆虫の何をものがたるか
第4章 単眼はどんな働きをしているか
第5章 空を飛ぶしくみ
第6章 匂いを感じるしくみ
第7章 キノコ体は景色の記憶に関わる
第8章 匂いの学習と記憶
第9章 ミツバチのダンス
第10章 ハチやアリの帰巣と偏光コンパス
第11章 微小脳と巨大脳
著者:水波誠(1957-、福岡市、生物学) -
昆虫にも記憶や学習ができるとは全くの驚き。特に蜂やアリのような社会性を持ったやつらは、他の昆虫たちに比べ、コミュニケーションが必要な分、頭がいいらしい。高々100万個程度のニューロンで景色を記憶できるのだから本当に、驚異の微小脳である。
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バイオミミクリーへの関心から派生して「昆虫」の本を読んでみる。
そういえば子供の頃は、昆虫好きだったなと思い起こしつつ、最近の「昆虫」への関心は、1年半くらい前に宮古島でキャンプをした時にスタートしている。
自然のなかで、ボーとしたり、散歩したりしているなかで、目の前を蝶とか、蛾とか、色々、昆虫が飛んでいる。
ふと、こんなに小さなものが、どうやって飛行を制御しているのだろうという疑問が湧いた。
小さの蝶の大部分は、羽で胴体の部分は限りなく小さくて、脳もほとんどないに等しい大きさ。
こんな小さな脳でどうやって様々な情報を処理して、それを動きに伝達して、風とか、色々な条件の変化に素早く適応しているのだろう、ということが不思議で仕方なかった。
昆虫は、なんだか地球外からやってきた生命というか、高性能の工学機械のような気がした。
という感じで、この本を読んみた。
新書にしては、かなり本格的な本かな?素人的には細かいところはついていけないところもあったが、興味の対象は全く同じかな?
こんな小さな脳でどうしてこんなに複雑なことをなしているのか?
ということ。
純粋に好奇心が満たされるとともに、そのメカニズムを知ることは、色々な領域で応用できそうな進化的な知恵がたくさんあることに納得した。 -
正直、私の脳では実験についての説明や数式は全くもって分からなかったのだけれど、昆虫の構造の凄まじさは実によく伝わった。人間以外の高次な生命体と意思疎通が出来なくとも、せめてもう少し尊重する世界で在れと望む。http://kazatom.blog.fc2.com/blog-entry-738.html
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寝る前の読み聞かせ用。名文が多い。(by 父)
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ヒトの脳に比べてなきに等しい昆虫の脳。ところが、この一立方ミリメートルにも満たない微小脳に、ヒトの脳に類似した構造が見られることが明らかになってきた。神経行動学は、ファーブルやフリッシュを驚嘆させた「陸の王者」の能力を、精緻な実験によって脳の働きと結びつけ、ダンスによる情報伝達、景色記憶、空間地図形成能力など、昆虫の認知能力の解明に乗り出している。本能行動の神秘に迫る最新生物学の成果。
ハチやアリ、ゴキブリなどの昆虫の小っちゃな脳に関して、これだけの実験・研究が行われているというのに驚きました。脳に電極を刺して・・・なんてサラッと書いてありますが、おそらく想像を絶する高度な技術が必要ではないかと思われます。学習能力や記憶に関する実験が多数紹介されていますが、このあたりもう少し初心者向けの図や写真を充実した本が出れば理解が深まりそうです。とにかく、昆虫の微小脳や体の構造に秘められた驚異のメカニズムとそれを追い続ける人間のあくなき好奇心の両方に驚きながら読むことができました。