不況のメカニズム: ケインズ「一般理論」から新たな「不況動学」へ (中公新書 1893)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121018939

作品紹介・あらすじ

長期にわたった景気の低迷に対して、小泉内閣が行った「構造改革」は有効な措置といえるのか。経済学者間の意見は対立し続け、経済学への信頼までも揺らいでいる。ケインズは一九三〇年代の世界不況を目の当たりにして主著『雇用・利子および貨幣の一般理論』を執筆した。本書はその欠陥も明らかにしつつ、ケインズが論証することに失敗した「不況のメカニズム」を提示し、現代の経済政策のあり方を問うものである。

感想・レビュー・書評

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  • [4版]2010年7月30日

  • ふむ

  • 新古典派とケインズの主張の比較をし、ケインズの矛盾点があればそれを指摘し、解決案をしている。なぜ不況になるかを論証している。完全雇用環境でなければ、消費不足が不況に引き起こすという。なぜ消費不足になるかといえば、経済の先行きへの不信である。その克服には世代交代が必要だという。公共投資、税金による失業者救済などの効果も論証している。

  • 3

  • ケインズの経済学の話なので難しかった。後半から実社会での出来事を検証していたので、だんだんわかってきた。

  • 同じ著者の「成熟社会の経済学」と基本的に同じ論旨であるが、こちらは必ずしも成熟社会を前提としていない。という事は需要不足不況は何も成熟社会で欲しいものがなくなったからではなく、人々のマインドセットが悲観的に染まっているからと言う事になる。何しろケインズの時代から需要不足不況(デフレ)はあるというのだから。
    こちらの方が先に書かれたものらしいが、どちらかと言えば本書の説明の方がしっくりくる。また本書には安易な不況脱出の処方箋が書かれていないのも好感が持てる。
    デフレの根本原因が人々の悲観的なマインドセットにあり、世代が入れ替わらなければマインドが変わらないというのであれば、何をやっても不況脱出はできない。いくら市場に金をジャブジャブ注ぎ込んでも、一部の金持ちの銀行口座に積みあがるだけである。また公共工事による雇用の創出も非自発的失業者の絶対数から見れば正に焼け石に水であるし、著者が言うほど雇用の流動性があるとも思えないので、公共工事による非自発的失業の解消⇒需要の創出に至る景気の転換は起こりそうもない事は理解できた。

  • わりと難易度は高かったが、面白かった!
    社会保障論の最後の課題図書。ケインズの理論を修正しながら、新たな不況動学を作る試み。

    キーワードは流動性選好、時間選好率。
    消費関数と乗数効果を否定。

    非常に深い議論だった。
    しっかり武器化するには、あと数回は読まねばなるまい…

  • 歴史に残る世界恐慌の時代にケインズが発表した『雇用・利子および貨幣の一般理論』当時の経済学では説明出来なかった不況のメカニズムを世に示した
    ただ不況のメカニズム「不況動学」は不況を経過し好況のサイクルに進むと人間は都合よく忘れ批判の的にすらなる

    先進国には投資機会がなく「豊富のなかの貧困」が起こる

    総需要を増やす目的の投資はその場しのぎ

    生産性向上の効率化ではなく需要創出のための効率化が重要

    貨幣保有の願望(貯蓄)がデフレを引き起こし貨幣の存在が需要不足の理由とも言える

    不況のなか政策の方向性として「構造改革」か「財政出動」は必ずテーマとして上がるが日本最大の資源とは労働力である
    そしてリストラによってスリム化させる効率化では失業手当が増えてしまう
    つまりは不況期においては財政出動して仕事を与えることこそが効率化である
    資本の縮小化・リストラ・構造改革・・・これら残された者だけを救うノアの箱舟ならばはじかれた者は・・?失業手当の費用が増すだけである

    さらに失業手当を支払われても不況期には所得から貯蓄へのマインドが高いから穴を掘って埋めるだけの仕事でもマシになる
    100投資して30の便益が残せなくても便益がゼロになるまで財政出動したほうが良い
    (この部分が公共事業のすすめとなり誤解されケインズの批判に繋がる)
    これは民間企業だと100投資したら100以上の利益がないと実行されないのと違い国でしか出来ないことなのだろう

    この本では自分なりに常識としていつの間にか覚えてきたものがガラガラと崩れ落ちた
    いままで100冊以上の数えきれないほどの本を読んできたけれど超オススメの一冊
    これは一読するべきです
    ケインズの一般理論は読んだことないし難解なパズルとも言われるが小野教授のこれは理解しやすい

    そして不況動学とは不況というサンプルがないと研究が進まないし未だ完成されていない学問だろう
    だからこそ今回の歴史的な不況が不況動学の発展となり今後の政策に活かされることを心の底から望む

    ただ不況期を乗り越えた頃には相変わらずな人類は高リスクな行動に向かい
    同じような過ちを犯すのだろうけれど。

  • ケインズ経済学と新古典派とを比較しながら、ケインズが主張したかった(十分に主張できなかった)経済理論を『不況動学』という視点で展開する。新古典派の主張は、供給サイドが決定されればそれに応じて需要が決まるというものである。すなわち、基本的に非自発的失業のない状態(完全雇用)が実現できている新古典派では、需要不足や需要不足による不況は否定される。しかし、著者は需要不足こそが日本の不況の根本原因だと主張する。

    需要不足は、①消費の時間選好と②流動性の罠(貨幣保有願望)に起因する。特に、貨幣保有願望は、貨幣が非常に特殊な財ゆえに起きる貨幣そのものに対する需要であり、「将来に不安を持てば益々貨幣保有欲求が高まる(=消費が増えない)」という点には実感としても納得がいく。

    不況を脱するためには、十分な雇用を創出する規模の公共投資が有効であり、まずは働きたい人に働ける場を提供することが重要である。すなわち、少々効率が悪くても、余った雇用を吸収することが先決であるということである。一方、インフレターゲットは、人々に正しいインフレ期待をどのように持たせるかという点が不明確であリ、その点で効果が乏しいと指摘する。また、本格的な景気回復には、(過去の経験を持たない)世代交代が不可欠であると主張する。

    需要不足が何故生じるのかという点を、消費と投資の面から考察した本書の主張は興味深く、不況のメカニズムに関する著者の主張は納得性が高い。しかし、具体的な景気回復策という段になると、やや説得力は落ちる。特に、著者の主張する『良い』公共投資をどのように判断するのか、「良いか悪いか」の効果測定、優先順位づけを事前にどのように行うべきなのかがよく分からない。

    もっとも、デフレや不況から簡単に立ち直る特効薬のような「経済政策」など存在しないわけだから、著者がそれを十分に説明しきれていないことは批判には当たらないだろう。むしろ、「通貨を大量発行すればデフレは解消して景気が回復する」といった類の考えがいかに無責任極まるトンデモ理論であるか、本書を読むことで再認識できると思う。

  • 菅総理に影響を与えていた小野善康 阪大教授の2007年の著作。貨幣への執着が起こす景気後退(守銭奴的流動性選好?)。需要不足による不況の解説。寺田寅彦の『津浪と人間』が引用され世代交代がもたらす問題を指摘しているのが印象的。
    ケインズ概論としても読める(^-^)

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著者プロフィール

小野善康

大阪大学社会経済研究所特任教授。1951年(昭和26年)、東京都に生まれる。東京工業大学工学部社会工学科卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。武蔵大学助教授、東京工業大学教授、大阪大学社会経済研究所教授・所長、内閣府経済社会総合研究所所長などを経て、現職。大阪大学名誉教授。専攻、マクロ動学、国際経済学、産業組織。著書に『寡占市場構造の理論』『国際企業戦略と経済政策』(日経経済図書・文化賞受賞)、『貨幣経済の動学理論』『不況の経済学』『金融 第2版』『景気と経済政策』『国際マクロ経済学』『景気と国際金融』『誤解だらけの構造改革』『節約したって不況は終らない。』『不況のメカニズム』『成熟社会経済学』『消費低迷と日本経済』など。

「2022年 『資本主義の方程式』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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