日本の統治構造: 官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書 1905)

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019059

作品紹介・あらすじ

独特の官僚内閣制のもと、政治家が大胆な指導力を発揮できず、大統領制の導入さえ主張されてきた戦後日本政治。しかし一九九〇年代以降の一連の改革は、首相に対してアメリカ大統領以上の権能を与えるなど、日本国憲法が意図した議院内閣制に変えた。本書は、議会、内閣、首相、政治家、官僚、政党など議院内閣制の基盤を通し、その歴史的・国際的比較から、日本という国家の統治システムを明らかにするものである。

感想・レビュー・書評

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  • この本は日本の統治構造の歴史や、国際比較から、現状と課題を提示してくれる本。

    日本の統治構造の現状
    まず、日本は議院内閣制の国であるのだが、戦後の日本の政府構造を観察してみると、議院内閣制のカタチが本来の議院内閣制のモデルから独自に発展してきた経緯がわかる。

    議院内閣制とは、一元代表制、つまり、行政権を持つ内閣が、議会の信任によってのみ成立しているということ。(大統領制は、大統領と議会が別々に選出され、民意が二元的に代表される)
    したがって、議院内閣制においては、権限の委任関係が以下のような1つの流れになる。

    有権者→国会議員→首相→大臣→官僚

    しかし、日本では、あまりに長い間政権交代が起きなかったため、本来首相の決断によって任命されるはずの大臣が、派閥の力関係が反映された上で選ばれるようになった。また、身内でポストをローテーションするために、大臣は原則1年ごとに交代する慣行も生まれた。
    その結果、大臣は首相のために働くというだけではなく、派閥のために働くという動機が働くようになり、政権の主体として補助者たる官僚を使いこなすはずの大臣が、官僚から言われるままに行動する大臣へと変化することで、上記の権限の委任関係が正常に働かなくなってきた。
    この状態を著者は議会を背景とする議院内閣制に対して、省庁の代表者の集まりを背景とする官僚内閣制と呼んだ。


    官僚内閣制の特徴
    官僚内閣制の大きな特徴は、政策立案システムにある。
    通常、議院内閣制の政府の政策は、選挙結果から民意を汲み取るため、その政党が掲げるマニュフェストに準じた政策がなされる。つまり、全体の政策の方向性が事前に決まっていて、それに合わせるように個々の政策の辻褄を合わせることとなる。
    しかし日本では、長い間政権交代が起きなかったため、総選挙が政権選択選挙にならず、有権者の選択によって首相や内閣が決定されることが少なかった。その結果、民意を汲み取れず、政権の目的が不明確化した。
    そこで、官僚組織構造から民意を汲み取ろうとした結果が、官僚内閣制へと繋がっていくこととなった。
    日本の官僚組織は、各省庁→各所轄→それぞれの所轄している業界などの諸団体へと社会的に開かれており、日々情報や要求が多方面から寄せられることになる。
    また、官僚は彼らからの陳情を元に政策を策定していく。つまり、枝葉の民意を積み上げ、他部署との調整作業を通じて次第に政策が形成されてきた(省庁代表制)。
    言い換えれば、官僚内閣制は、マニフェストの代替物を作り出す仕組みとして機能してきた。


    官僚内閣制の問題点
    上述した官僚内閣制の最大の問題点は、民意が民主的正当性を持たない形で現れることで、有権者の意向を集約し、政治家が政策を策定する機能が働きにくい点にある。

    官僚内閣制における積み上げ式の政策策定では全体的な方向性が曖昧になり、既存政策の廃止や方針変換といった、トレードオフが避けられない政策の必要性が高まっている現代において機能不全が起きている。
    したがって、政策を総合化し、社会の目指す方向性を明確にする決断をできる権力核が必要になる。そのためには、本来の議院内閣制の姿に軌道修正する必要性が出てくる。

    今後の課題
    議院内閣制を確立するためには、政党が主体となって衆議院総選挙前に政権公約を練り上げ、有権者が政党、首相候補、政策の3点セットを選ぶ事ができるようにする必要がある。
    これが出来れば、権限の委任関係が明確化し、首相の地位が向上→首相と大臣の関係が同輩的色彩から上下関係の強いものに→政策の責任の所在が明確化することで、官僚の役割の変化に繋がっていく。
    また、衆議院における権力の強化に伴い参議院には別の役割を担わせる必要が出てくる。生命倫理問題、死刑制度の是非、皇室制度などじっくり議論される必要のある事項や、超党派的な合意形成を必要とされる憲法改正、財政再建、外交問題等においての長期的視点からの調査提案機能を持たせ、多数派民主制を補完する制度を構想する必要性も指摘している。

  • ものごとを特定の権力者が決めていないことがわかる。

  • 出版が2007年と少し古いが今でも妥当する部分が多いのではないだろうか。筆者は、日本の統治機構の特徴について、人事グループによって組織された省庁による代表性とする。この点、閣僚すらも省庁の代弁者に過ぎない。もっとも、本書を読み進めれば官僚・政治への批判に徹しているわけではないことが分かる。官僚も自立的な支配層を形成しているわけではなく、所管業界との利益・相互調整関係や脆弱な政党組織に端を発する政官関係など、根深い日本社会の特質の中で官僚制が規定されている。閣僚が省庁の利益を代弁するのはそうすることが動きやすいからであり、それは自民党支配の安定に伴って閣僚ポストが専門知識などではなく褒賞として差配され、せいぜい1年程度交代してしまう面が大きい。
    本書の内容はどれもどこかで聞いたことのあるようなものばかりだが、改めて通して読むことで日本の政治構造を深く理解することができた。ただ、第二次安倍政権以降の官邸主導の話は当然出てこないので、今の行政のあり方を学ぶには他の書籍を当たる必要がある。

  • 議院内閣制のあるべき姿と、日本の現状。
    平成デモクラシー史と重なる問題意識も。

  • [再版]2007年11月5日

  • 日本政治の仕組みについて、議院内閣制を中心に据え構造的な力学・問題点を解説した一冊。

    大きく3部構成をなしており、第1・2章では官僚、第3・4章では与党を切り口に日本型の議院内閣制を解説する。そして第5・6・7章では比較による日本政治の分析や提言が加えられる。
    各章内では読んでいて飽きることもままあったが、章ごとに明確な役割が与えられているため、全体としては議論の位置付けを見失いにくい構成となっている。

    紛れもない名著と言って差し支えないだろうが、2007年発行のため現在では少々時代遅れの感が否めない。
    後半で一応、小泉内閣に象徴される行政改革にも触れてはいるが、本論として扱っているのは80年代までのいわゆる55年体制になる。
    現在に通ずる政治構造については竹中治堅『首相支配』が詳しいと思われ、本書はそのための前提といったところか。

    しかし古さという欠点を補ってなお余りある記述の充実ぶり、そして政治上の問題を政治家や官僚個人の能力でなくその構造に求める視点は、現在でもその価値を失ってはいない。
    むしろ現在の政治を考える上での文脈として従来型の自民党政治の知見は不可欠であり、日本政治を学ぶ上での「一冊目」としてまずお薦めしたい。

  • 前半は目新しさを感じなかった(学校で教師がこれの受け売りを話していたからか)。本来首相に権力が集中するはずの議院内閣制で省庁による官僚内閣制が戦前から行われてきたこと、自民党と政府の二元体制が続いて政策立案と実行の垣根が曖昧になったことで日常的な政府活動は安定するが大きい政策転換は難しくなった。二大政党制による政権選択で強固な政党が誕生し、首相に権力核が出現すれば政策課題が解決できるに違いないというのが筆者の見立てっぽい。

    正直論点が多く、話の筋をぼんやりと理解した程度なので勉強しなおしてくる。特に後半はなかなか難しく読めてない気もするのでいつかもう一回読むつもりではある。効果的な政策を実現するためには何がいいのか難しいが、首相がだれであっても安定した政府運営をできるような仕組みが良い統治構造とするなら、この本を受けてなされた改革はあまりいい結果を生まなかったような... 2021/5/27

  • 政策決定過程にいかに自民党が大きな役割を果たしているかが分かった。

  • その名のとおり、「日本の統治構造」について把握・確認・整理したいときに読んでおくべき基本の一冊ですね。日本における議院内閣制の特徴や、政治家と官僚の関係、二院制の構造などについて、本当に丁寧に解説されています。

  • 第29回(2007年) サントリー学芸賞・政治・経済部門受賞、TVにもよく出る有名な先生の作品。万人向けの新書ならではの良著であり、政治について語るならこのレベルは抑えておく必要はあるだろう。
    ただし、民主党政権誕生やその後の憲政史上最長記録の安倍政権についての考察・記述は全くないので、増補版を期待したい所。

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