老いてゆくアジア: 繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)
- 中央公論新社 (2007年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121019141
感想・レビュー・書評
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現在のアジアは、人口ボーナスを享受している。
国にもよるが、中国などは、2015年には、それが終わる。
スウェーデンの木材産業界のレポートには、中国の建設投資のピークは、2020年とあり、この話と符号する。
人口の波が、キーワードである。
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2007年の本であるが、2014年の今こそ意味を持つように思う。
特に、アジアで何が起こっているのかについて、常に人口が増加しているアメリカ人は理解できないだろうから、よいフックになると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本が高齢化のトップランナーなのは皆様ご案内のとおりだが、アジアでも高齢化は進んでいる。NIES(韓国、台湾、シンガポール、香港)はとっくに高齢化社会に仲間入りしているし、中国・タイも少子化が定着しており高齢化社会に仲間入りしたところ。2020年までにはマレーシア、インドネシア、ベトナムもそれらに続く。
日本やNIESは、少子化が始まった時点で工業化の基盤が出来ていたので人口ボーナス(少子化と高齢化のタイムラグとも言える)のメリットをフルに享受できた。しかし中国やASEANではまだ農業従事者の比率が高く、今後、農村の状況が不安視される。農村から都市への人口流入で、都市は全国的なデモグラフィーを越えて人口ボーナスを享受しているが、農村は逆に一足早く人口オーナスの状態に突入すると見られる。また後発国では高齢化のスピードも速いし、社会保障を整備できる見込みも低い。
ベトナムの少子化がかなり急速だなあというのが個別の感想。 -
本書はアジアのデモグラフィーに着目して、楽観的なアジア経済論に釘を刺しているという意味で、とても意味のある本だと思いました。近年注目された本「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」藻谷浩介著、の先駆けになる本という見方もできますね。特に人口ボーナスの概念解説と、それが経済にもたらすインパクトについてはとても参考になりました。データ分析面ではとても満足です。
ただし気になる点が2つ。
1つめは細かい用語の使い方で間違いが散見されることです。たとえば「高齢化することで貯蓄率が下がり国際収支が悪化する」という記述がありますが、国際収支は常に均衡するので悪化という概念はありません。正確には経常収支の黒字が縮小(もしくは赤字が拡大)。
もう1つ、これが最大気になるので星を2つ減らしましたが、本書の各部分に記載されている提言に関する文章です。これはこの著者に限らず、マクロ経済学しかやったことがない学者に往々にしてみられるのですが、提言が抽象的すぎて「何かを言っているようで何も言っていない」文章になっていること。典型的な表現が「求められる全要素生産性の向上」です。この表現をみるたびに「またか・・・・」と思ってしまいます。経済成長の要因が3つ(労働力、資本、全要素生産性)で1つめと2つめが期待できないから3つめを伸ばせ、と言っているだけですよね。
提案をするなら、もっと深く議論してほしいですね(どうやってのばすのか?具体的に何を向上するのがいいのか?)。あるいは提案部分はせずに分析をとにかくひたすら深くやるか。
そもそも成長会計だけで提言を考えるのは稚拙でしょう。アジアのすべての国が競争しているわけだし、みんなが製造業のスキルを目指してスキルアップしたってハッピーではないですよね。国がおかれた外部環境、自国の競争優位性などを考慮して各国のやるべき対策は異なるはずです。提言を書くなら、かなり気合いを入れて具体的に書いてもらわないとです。
分析面はそれなりに深くて満足できますが、提言にかかわる文章になった瞬間に恐ろしく浅い表現になり落胆してしまったので星3つとさせてもらいました。 -
アジアの人口動態の趨勢を10年前に予測している。中国とタイは2015年を過ぎたところで人口ボーナス期を過ぎるとのことであるが、実態はどうか?
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東アジアのここまでの経済成長を『人口ボーナス』の視点で読み解いた上で、よく言われる『アジアの経済活力を取り入れよう!』を全否定してくれる本。
そして、すでに東アジア諸国でも少子高齢化の波は始まっているのね。韓国も台湾も中国もタイも人口ボーナスを謳歌した時代は近日中に終了し、高齢化社会に必要な社会福祉制度を
確立するまもなく高齢化を迎える・・・ただし、これだけきちんと分析しているのに終章の結論は酷い。高齢化したアジア諸国を支えるための東アジア共同体などという血迷い事は断固拒否する。東アジアおよび東南アジア諸国の高齢化はそれぞれの国で対処すべきよ。大東亜共栄圏は断念したんだから、うちらが責任をとる筋合いじゃない。 -
医療の普及発展による乳幼児死亡率の劇的な低下と高齢者の長寿化により、世界は急速に高齢化している。
また経済発展は少子化傾向を推し進めることになるため、高齢化と少子化が同時に進行する。
その先頭を走るのが日本であるが、それ以外のアジアの国々でも、高齢化が進行中である。しかもそのスピードは世界最速といわれてきた日本の速度を上回る。
人口構造の変化は、その過程で、人口ボーナスという経済発展に好都合な時期を生む。この時期は子供と高齢者が少なく、労働者人口が圧倒的に多い。
日本はこの時期を巧く活用し、飛躍的な経済発展を遂げた。(団塊の世代と高度経済成長期)
韓国・台湾・香港・シンガポールのNIES諸国も同様である。(「アジアの奇跡」と呼ばれた時期)
中国は現在が人口ボーナス期で、経済発展の真っ最中である。
東京、ソウル、北京のオリンピック開催は、それぞれの国の人口ボーナス期のメルクマールといえるのかもしれない。
ただし人口ボーナス期を過ぎると、経済発展の主力となった大量の労働者が高齢化してくる。この世代は自らが産んだ経済発展の恩恵を受けて近代的なライフスタイルをとっており、子供も少ない。したがって、高齢化は急激である。日本の2007年問題がそれである。
日本は人口ボーナス期をとうに過ぎ、人口減少という新たな段階に突入しているが、NIES諸国も着実に日本のあとを追っている。その象徴が韓国における老人長期療養保険法の制定だろう。いまや世界最速の高齢化の国、世界で最も少子化が進む国となった韓国は、この法律に基づき、2008年7月から韓国版介護保険制度を開始しようとしている。
問題は、日本のように高度な経済発展を遂げた豊かな国においても、高齢者を支える社会制度の再構築のためには、財政的に極めて大きな負担を伴うと予想される中、まだ十分に経済的発展が果たされたとはいえない国々(=国民全体に対するセーフティネットが未整備の国)が、この重圧を乗り切ることができるのか、あるいは人口ボーナスを十分に活用できないまま、この時期を通り過ぎようとしている国々が、これらからどのように高齢化に対していくのかということである。高齢者を支える制度を作るだけの社会的な富の蓄積がないまま「高齢者の爆発」を迎える国では、高齢者問題は貧困と死の問題に直結する。すなわち「人間の安全保障」の問題となる。
こうした問題に対する回答はまだどこにもない。アジア及び世界がはじめて経験する世界だからである。
しかしすくなくとも、高齢化の先頭を走る日本の悪戦苦闘ぶりは、これからそれに立ち向かわなければならないアジア各国の格好のサンプルにはなるに違いない。
その一つのヒントとして著者は日本における地域福祉の取り組みをあげている。コミュニティにおける高齢者支援の可能性である。
おそらくこの指摘は正しい。というよりもそれが残された唯一の可能性ではないか。その可能性の具体的な姿は、いまのところまだ誰にも見えないにしても。
本書は著者が中心になってまとめたJICAレポート「開発途上国の高齢化を見据えて」を増補強化した内容となっている。
アジアの経済と少子高齢化問題に関する基本書となる一冊。 -
『老いてゆくアジア――繁栄の構図が変わるとき』
著者:大泉啓一郎(1963-)
初版刊行日 2007/9/25
判型 新書判
ページ数224ページ
定価 本体760円(税別)
ISBN 978-4-12-101914-1
中国の経済成長率が11%を超えたと報道され、この勢いに引っ張られるかのように、アジア全体の経済も順調に推移している。だが、これはよく喧伝されるように「二一世紀はアジアの世紀」の証明だと考えてよいのだろうか。アジア全体の少子高齢化という現実を見れば、楽観は許されない。いまだ社会保障制度が整備されていないアジア各国の一〇年後、二〇年後を見据え、アジア全域で豊かな社会を構築するための方途を提言。
<http://www.chuko.co.jp/shinsho/2007/09/101914.html>
【目次】
はじめに [i-x]
少子高齢化の波
「まぼろしのアジア経済」を超えて
目次 [xi-xvi]
第1章 アジアで進む少子高齢化 003
1 世界人口とアジア 004
「人口爆発の世紀」から「人口減少の世紀」へ
世界レベルで加速する出生率の低下
開発途上国の人口増加率の低下
「雁行的人口変化」
2 アジアにおける出生率低下の背景 014
人口転換モデル
「多産多死」から「多産少死」へ
出生率の低下と一人っ子政策
子供を持つことの効用と不効用
「少産少死」そして「少子化」
今後の出生率の推移
3 高齢化地域としてのアジア 034
四七〇〇万人から七億人超へ
高齢化のスピード
もはや先進国特有の問題ではない
第2章 経済発展を支えた人口ボーナス 041
1 「東アジアの奇跡」はなぜ生じたか 042
経済発展は結果か原因か
人口規模と経済発展
人口構成の変化
2 人口ボーナスとは何か 052
ボーナスとしての経済発展
ベビーブーム世代による労働投入量の増加
国内貯蓄率の上昇による投資の促進
初等教育の普及による生産性の向上
人口ボーナスはいつまで続くのか
3 アジア各国は人口ボーナスの効果を享受できたか 065
人口ボーナス効果の変化
日本――団塊の世代が支えた高度成長期
韓国・台湾――人口ボーナスにフレンドリーな政策を展開
中国――遅れた人口ボーナスの効果①
タイ――遅れた人口ボーナスの効果②
第3章 ポスト人口ボーナスの衝撃 091
1 人口ボーナスから高齢化へ 092
2 高齢化による成長要素の変化 094
労働力人口の減少
ライフサイクルにみる国内貯蓄率の低下
求められる全要素生産性の向上
3 中国、ASEAN 4 の高成長の壁 105
偽装失業と労働移動
「都市部の人口ボーナス論」
高い国内貯蓄率
中国経済はバブル化していないか?
4 ベビーブーム世代の生産性 118
農工転換と生産性
ベビーブーム世代の高齢化
5 ベトナムとインドの参入 126
小型中国としての課題――ベトナム
IT国家の課題――インド
アジア経済の行方
第4章 アジアの高齢者を誰が養うのか 135
1 アジアの社会保障制度 138
機運の高まり
アジア各国の社会保障制度
民主化運動のインパクト
世界銀行のソーシャル・プロテクション
2 社会保障制度構築の課題 149
医療負担の増大
疾病構造の変化と医療保険制度
すでに賄いきれない年金負担
世界銀行による五つの年金制度
年金制度改革の政治学
高齢化問題と人間の安全保障
3 開発途上国が直面する困難 165
タイの年金制度
実現しなかった国民皆年金制度
第5章 地域福祉と東アジア共同体 173
1 福祉国家から福祉社会へ 174
鍵を握る二つのコミュニティ
福祉社会への移行
2 日本の地域福祉の取り組みと教訓 178
日本の地域福祉の歩み
国と地方の役割分担
担い手の連携と住民参加
3 真の東アジア共同体形成に向けて 186
アジア地域での協力体制
東アジア共同体形成への課題
アジア福祉ネットワーク
あとがき(二〇〇七年八月 大泉啓一郎) [195-197]
参考文献 [198-201]
索引 [202-204]
【図表一覧】
表0-1 ii
表0-2 v
図1-1 007
図1-2 010
図1-3 015
図1-4 018
図1-5 019
図1-6 022
図1-7 027
図1-8 028
図1-9 033
図1-10 033
図1-11 035
表1-1 037
図2-1 049
図2-2 050
図2-3 052
図2-4 055
図2-5 057
図2-6 059
表2-1 061
表2-2 064
図2-7 067
図2-8 071
図2-9 071
図2-10 073
図2-11 073
図2-12 074
図2-13 074
図2-14 082
図2-15 082
図2-16 088
図2-17 088
図3-1 093
図3-2 095
図3-3 097
図3-4 100
図3-5 102
図3-6 109
表3-1 111
図3-7 113
図3-8 117
図3-9 121
表3-2 122
表3-3 123
図3-10 124
図3-11 128
表4-1 141
図4-1 150
表4-2 152
図4-2 154
表4-3 154
図4-3 162
図4-4 163
表4-4 164
表5-1 190 -
人口ボーナスの経済へのインパクトと、適切な経済構造への変革の必要性の説明は非常に面白かった。ここまでは星5つ。最終章の東アジア共同体の説明が竜頭蛇尾で、マイナス0.5。
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少子高齢化の課題は日本だけでなくアジアにも同じ問題を抱えている。
アジアは今まで人口ボーナスの効果で経済発展し繁栄できた。でも、高齢化が加速する現実に直面して今後は楽観視できない。という内容を各国の人口データと統計で解説した内容。
漠然と好景気高成長のアジアと予想してたが、ことはそう単純ではない。とくに中国では少子高齢化(というか一人っ子政策の後遺症)に伴い社会保障費の増大も見込まれる。アジア各国の人口推移や世代間格差がどういった政治的経済的リスクをもたらしてこれから顕在化してくるのか。これらを見通す上で最適な内容。