新・現代歴史学の名著: 普遍から多様へ (中公新書 2050)

制作 : 樺山 紘一 
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020505

作品紹介・あらすじ

二十世紀末の世界における大きな二つの変化-冷戦に依拠した支配体制の終焉と、グローバル化のさらなる加速-は、当然ながら歴史学にも大きな影響を与えた。旧来の問題設定が無効化した後、進行形の現実の変容に、いかに対峙していくべきか。本書では、現在の歴史学の問題意識を体現する代表的著作を精選し、その意義を読み解く。いま必要な、歴史という経験に学ぶための新たな視座がここにある。

感想・レビュー・書評

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  • 1989年に刊行された『歴史学の名著』(中公新書)の続編で、現代の歴史学がとりくんでいるテーマを示す、18人の著者の本が紹介されています。

    本書に一通り目を通してみて、やはりアナール派にはじまる社会史の観点からの歴史研究が、現代の歴史学において大きな地歩を築いていることがうかがえるように感じました。前著でも、マルク・ブロック、リュシアン・フェーヴル、フェルナン・ブローデルらの著作がとりあげられていましたが、本書ではアナール派第三世代にぞくするル・ゴフの『もうひとつの中世のために』が紹介され、アナール派に代表される社会史の自己革新の一例が示されています。また、日本の歴史学における社会史を領導した網野善彦の著書もとりあげられています。

    そのほかでは、歴史学を超えて広範な影響力をもつことになったウォーラーステインの『近代世界システム』やサイードの『オリエンタリズム』、アンダーソンの『定本想像の共同体』などについても、解説がなされています。

    さらに梅棹忠夫の『文明の生態史観』も、一章を割いて解説がなされているのが目を引きます。たしかにこの著作は、戦後の日本における歴史についての本のなかで、とりわけ大きな話題を呼んだものではあります。とはいえ、その反響は当時の日本の置かれていた状況を背景にして理解することができるものであり、今後も読み継がれていくことになる作品ということができるのかというと、個人的にはやや疑問を感じます。

  • KK1a

  • 2010年刊行。1989年の世界史的大転換を踏まえ、近代化主題の転換が図られつつある歴史学の成果(アナール学派、人口論、西欧史観の止揚など)に沿った書籍をレビューする。レビューを読んでみて、ウォーラーステイン「近代世界システム」とオプライエン「帝国主義と工業化」に特に興味を引かれる。

  • 新書文庫

  • 新歴史学の名著

    本書は歴史学において20世紀後半から21世紀に台頭した潮流を扱っている。政治や経済を中心に据える戦後歴史学に対するアンチテーゼであれば、人口学やジェンダー論なども新たな視野もある。著者はこれらの潮流を3つに大別しているので、私の叙述もそれによることにする。一つ目は、ソフトな人間生活や現実を主題とする「大きな物語の排除」であり、旗振り役はアナール学派であった。二つ目は新たな視点の導入、ジェンダー論的な見方や歴史人口学の刷新などであった。三つめは、非西欧地域の台頭という現状認識から従来の一国史観ではなくグローバルな歴史の見方をしようとするものである。

    本書では、ウォーラ―ステインやアンダーソンなど、有名な著作も含まれているが、それらの単なる概説ではなく、歴史学の潮流の中での位置づけがわかるという点においてほかの概説書との差がある。中でも、近代世界システム論へのアンチテーゼとして、ヨーロッパ内部の諸要因からイギリスや西ヨーロッパの台頭を説明する(「大分岐論」とも親和性が高い)オブライエンの著作が取り入れられていることは注目に値する。コッカの「歴史と啓蒙」も、実はアナール学派(第三世代)に対するアンチテーゼと読み取ることも可能だろう。

    歴史学とは科学としての抽象的な歴史と再現不可能な具体的な歴史の鬩ぎ合いである。いささかヘーゲル的な見方だが、歴史学の歩みはそれらの止揚によって発展してきた。また、そうする見方も一つの歴史の見方なのかもしれない。人間とは切っても切り離せない過去に対する態度を追求する歴史は人間が現在を生き、未来を創る気概を持った動物である限りにおいて色あせることはない。

    最後に、歴史を、単なる老人の昔話から区別するうえで重要であると思われるコッカの章を引用したい

    “たいていの場合、行為と意図には巨大な割れ目が口を開いている、それぞれの時代に生きて人々の経験や意識のうちに自覚的に存在していたのは歴史的現実の一部でしかなく、過去の知覚と経験の再構成だけでは総体としての歴史を十全に理解することはできない。むしろ、過去の庶民の主観的な知覚・経験をそのまま再構成することに歴史学が終始すれば、歴史学がそうした「歪み」を倍加して示すことにもなりかねない”p224

  • 前篇を出版した1989年に世界史の構造変化が起こり、その続篇として刊行したとの事。世界史については詳しくないので、その変化についてはなんとなくでしかイメージできないのだが、社会人向けに編纂したとされるここに紹介されている原典を読む人は一般社会人にどの程度いるのだろうか?という疑問もある。
    中には歴史学に留まらず政治学や経済学で扱われる本も掲載されており、ここに「普遍から多様性」といった、もはや歴史学単独では社会や世界を語ることができない時代状況が表われているとも言えなくもない。

  • 1750年頃まで、世界の中核地域であった中国の揚子江流域、日本の畿内と関東、西ヨーロッパの経済は、平均寿命、綿布消費量、識字率などの点でほぼ同じだった。商業的農業斗プロト工業による市場経済の発展がみられたものの、人口増加に対する土地の制約に直面して、森林の枯渇や土壌浸食による食糧・繊維原料・燃料・建築資材などが不足する事態に陥った。西ヨーロッパは、消費地に近接した炭鉱地帯からの石炭の利用と、新大陸との貿易の拡張によって克服することができた(ポメランツ「大分岐」)。

    <紹介されている主な本>
    「近代世界システム」I.ウォーラーステイン
    「オリエンタリズム」エドワード・W.サイード
    「もうひとつの中世のために」ジャックル・ゴフ
    「敗北を抱きしめて」ジョン・ダワー
    「帝国主義と工業化1415~1974」パトリック・カールオブライエン
    「想像の共同体」ベネディクト・アンダーソン
    「無縁・公界・楽」網野善彦
    「日本中世の非農業民と天皇」網野善彦
    「近代移行期の人口と歴史」速水融
    「近代移行期の家族と歴史」速水融

  • S201-チユ-2050 300098340

  • 「歴史学」のブックガイド。
    「歴史学」の歴史と現在の到達点を振り返っての選書であり、それぞれの著作について、訳者が直接、その反響や関係する事件・論争・他の学説などを取り上げ、簡潔にまとめあげている。

    「そもそも歴史とは」の現時点でのこたえが、ここに上げられているひとつひとつの書物である。

    20もの書物のガイドなので、自ずからそれぞれの紙幅は少なくなるが、上記に書いたとおり、単なる要約ではなくそれらの書物がどのように読まれたのかも含め、ポイントを抑えているので読んでいて混乱することはなかった。

    直接元の本に当たって、全然読めなかった場合にも、要点を絞ってあるだけにこのガイドは参考になる。

    置いておいて、ちょっとずつ読んでも面白い一冊。
    僕はするすると全部読まされてしまいましたが。

  • 現在における歴史学の潮流を、簡単に知ることができて良かった。恥ずかしながら全然知らない本もあって、勉強になった。とくに、クールズ『ファロスの王国』の紹介は、ジェンダー史学をどう史学史的に位置付けるかがわかってよかった。

    前著『現代歴史学の名著』に引き続き、今回も日本近代史の著作が入っていない。ダワーの『敗北を抱きしめて』は戦後史だし。日本の近代を対象にした「名著」というのは、実はまだ手薄なのかもしれないなあ。自分の一生の仕事として、そういうのが書けたら望外の幸せだろうなあ…。

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