アメリカと宗教: 保守化と政治化のゆくえ (中公新書 2076)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020765

感想・レビュー・書評

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  •  「宗教が政治とどのように結びついて、ここ一〇〇年のアメリカ社会に影響を与えてきたか」(p.269)を解説したもの。最近出た文春新書の『熱狂する「神の国」アメリカ』と内容が似ているが、文春新書の方が建国からの歴史、ユダヤ教なども含めて宗教全般を扱っているのに対して、こちらの方は二〇世紀の、宗教保守・原理主義の動きを中心に扱っている違いがあり、両者の内容はだいぶ異なる。
     あやふやだった知識が少しずつ整理されていく感じがするが、それでも色んな政治家や牧師の名前が出てくるので、難しい。今回整理できたことは、まず政治的な保守・リベラルと宗教的な保守・リベラルが一致しないということで、p.259には「宗教と政治のマトリックス」が載っている。これを見ると、「政治的にリベラルだけど宗教的に保守」とか、「宗教的には保守だけど政治的にはリベラル」といった部分をちゃんと理解する必要があると感じた。同時に、保守やリベラルの意味するところが変わっていったことを理解するのも難しい。p.102には、「信仰を深める必要性から、人種差別・隔離と言った世俗社会の規範や政府の政策を支持する」のが保守で、「社会の改善によって神の国の到来を速める現世改革力を持つ人びと」がリベラルと呼ばれたが、公民権運動以降、「過激化する運動への積極参加を推進することの是非を問う人びとが、保守派と呼ばれ」、「人種差別・隔離という現実的な社会問題を迅速に解決するために運動に積極的に参加する人びとが、神学的傾向とは関わりなく、リベラル派と見なされる」というのがまた難しい。
    宗教右派の成立については1970年代末、「保守的な福音派を動員し彼らの価値観や世界観を政治に積極的に反映させようとする利益集団を設立して展開する宗教・政治運動『宗教右派』(=『キリスト教右派』)の構想が誕生」(p.175)したということや、カトリックについて、「カトリックは基本的には人工妊娠中絶など声明に関する問題には反対を表明するが、積極的な社会政策には賛成で、民主党と共和党の間を行ったり来たりする浮動票である。」(p.242)など、断片的には色々分かった気はするが、結局全体像を把握する段階には至らず、もっと勉強が必要だと感じた。
     あとは個人的なことで、たしか文春新書の方にも書いてあった気がするが、おれが二週間くらいホームステイしたカリフォルニア州のオレンジ郡、ディズニーランドもあるアナハイムというところは、かつての南部や中西部から移り住んだ保守的な人たちで形成され、かつては性教育の授業の是非をめぐる争いが起きる(pp.159-61)など、結構日本人にとっては怖いところなんだなということを改めて知った。(16/08/21)

  • 堀内一史『アメリカと宗教 保守化と政治化のゆくえ』中公新書、読了。「宗教と政治がどのように結びついて、ここ一○○年のアメリカ社会に影響を与えてきたか」を概説した一冊。宗教右派が台頭し、リベラリ派の衰退を活写する。今年は大統領選挙の年。抑えておくべき経緯は把握できるか。

    (個人的な感慨ですが)アメリカ政治と宗教と概観する上では、森孝一先生の議論をアップデートするそれとして期待したのですが、正直なところ、補完はされたものの、やや不完全燃焼。宗教から政治を見るのか、政治から宗教を見るのかの違いかもしれませんが。

    ただ収穫としては(←滞米経験ある人には認知議論でしょうが)、アメリカのキリスト教左派(リベラル)と右派(逐語霊感的・道徳的清潔主義)は、別々の教派でもないことを数値できちんと示している。

    カトリックでもそうですが(例がよくないというツッコミ無用で)、近代世俗世界との調和を目指すリベラルと、そうでない人というのは、別々の教会に所属していても、教派としては同じというのがよくあるといいますか。

    現実にデノミネーションとして別々はありえるけれども、その立場の違いは、「旗印」だけで鮮明化できないのは事実という話です。先の消化不良の問題は、宗教から政治を見るのか、政治から宗教を見るのかという視座の違いに対する期待の問題ってことです。

    ともあれ、レーガン以降、右傾化は強まっているのは否定できない。ただ政治家はそれを利用することに最大の労力を払うけれども、その功績には応えないというのも、事後含め事実。利用しているつもりで利用されているというのは世の常か。

    神学研究者としての関心の違いから最初に少しその不満足感については言及しましたが、教派的推移、拡大と衰退等々含め、現代アメリカ政治と宗教(AandBはこの順)を理解する上では、基本的データと経緯を紹介してくれるハンディな一冊です(了)

  • 歴史の順を追ってアメリカにおける宗教の移り変わりと、
    政治に与えられた影響を描く。

    宗教に全く触れてこなかった身としては
    一口にキリスト教、プロテスタントと言っても
    その中に信仰の方向性、解釈の差によって
    かくも多くの流派があることに驚かされた。

    それぞれが政治に与える影響も無視できず、
    アメリカ人の考え方の根底に
    こうした流れがあるということを知った上で歴史に触れると
    さらに理解が深まるのではないかと感じた。
    題材が面白く、読みやすい。

著者プロフィール

堀内 一史
麗澤大学経済学部教授。専門は、宗教学、宗教社会学、アメリカ研究。著書に、『分裂するアメリカ社会』(麗澤大学出版会、2005年)、『アメリカと宗教』(中公新書、2010年)、訳書・論文多数。

「2014年 『宗教リテラシー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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