知的文章とプレゼンテーション: 日本語の場合、英語の場合 (中公新書 2109)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021090

感想・レビュー・書評

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  • 主に論文の書き方、発表の仕方、情報の集め方など学問・研究向けに書かれた本だが、これらのノウハウは応用が効くので読んでよかった。

    文章の書き方に関する本はたくさん読んできたが、多分これが一番参考になる。日本語でものを書く時は、

    1必要なときには主語は略さない
    2短い文章を書く
    3名詞の修飾は短く
    4読点は、分かりやすさと読みやすさで決める
    5語順はわかりやすさで決める
    6あいまいな表現は使わない
    7英語に直してみる

    上記の7点を意識すると、読みやすく、すっきりとした文章が出来上がる。7は今まで見たことのなかった視点で、これは同時に日本語の曖昧さを意味することもあり興味深い発見だった。

  • 途中、他の本に手を出してしまったりして読み終わるにはずいぶんかかってしまったけど、決して読むのに抵抗を感じるような内容や文体だったわけではない。むしろ、どこまで読んだか思い出しながら何度も読んだ部分もある。
    さすがの黒木先生の文章。わかりやすくテンポがよく、簡潔で、それでいて所々にウィットに富んだ例えや引用がある。硬い内容とは打って変わって、読み進めていきたくなる文章だった。第一人者の研究者であり、すでにご引退もされている著者だけど、いくつになっても時代の変遷に対する努力も謙虚な姿勢も持ちつづけていらっしゃるのだなと思う。こういうすゝめの本を読んだ後には、文章を書きたいと思わせられる。

  •  著者は医師で,医学の権威。大学生の本分は,理系だろうと,文系だろうと,「自分の考えを文章にまとめるという,もっとも基本的な訓練」(iii頁)にあり,これからの英語の正規を生きるためには,まずは日本語でしっかり内容のある話ができていかなければならない。こうしたテーマの中公新書には,木下是雄『理科系の作文技術』が先行図書に挙げられるが,そのエッセンスとなる役割が本書にはある。
     日本語の非論理性を認識したうえで(第2章),知的な文章を書くために必要な三原則「簡潔・明解・論理的」を確認し(第3章),説得力のある文書の書き方を,論文,申請書,説明書,エッセイなど,媒体別に解く(第4章)。
     近年,スティーブ・ジョブズやアル・ゴアのように,人を惹きつけるプレゼンテーションを感じる若者が多い。しかし,彼らは決して魅せることだけに力を入れていたわけではない。ここでも必要とされるのは,「簡潔・明解・論的的」の知的三原則であって,彼らが事前の十分な準備なし成し遂げてきたわけではない。
     結局のところ,文系と理系は,筋道を立てて考える点で,本質的に同じであり,英語を話すにしても,ネイティブをめざすのでなく,Globish=「英語を母語としない人々(ノン・ネイティブ)の間の共通言語」として話すのが,日本人にふさわしい知的な表現力であると,著者は主張する。
     各章の最後には,「3行にまとめた大事なこと○点」と名付けられた節が設けられ,まさに「簡潔・明解・論理的」に章内の内容を要約している。また,新書レベルとしては,巻末の引用文献,参考文献が充実している。このあたりは,著者の拘りであるととともに,文章の書き方に拘りを持つ中公新書らしさといえよう。学部ゼミの副読本としても使用した。

  • 唐突に「理系・文系の区別は日本にしか無い」という話から始まる本書。
    この話は、「知的文書の重要性は文理を問わない」ということを伝える切り口となる。このように著者なりの機転やユーモアを交えて、わかりやすい文章とは何か、著者は説く。

    本書の特徴を2つ挙げよう。

    1つは、様々な参考書籍や論文を引用しながら、知的文書の書き方を分析的に解説している点である。この引用が絶妙で、本書の記載を手堅いものにしている。例えば、他人に理解させるためには、すでに述べたことを前提に論理を展開していく文章構造をとるべきだが、これは "Legget の樹" と呼ばれる構造で的確に示される。

    もう1つは、医学系研究者である著者の知識である。例えば日本語の欠点として著者は以下のように述べている。
    -------------------------
    (「第2章 日本語は非論理的か」より抜粋)
    医師としての私の診立てによると,日本語は次の三つの症状あるいは病気にかかっている.
    (1)主語欠乏症
    (2)文法不定愁訴
    (3)あいまい症候群
    この三大症状を把握し,対処療法を施せば,日本語で論理的に表現し,知的な作業を行うことができるはずである.
    -------------------------
    文法が人によりころころと変わる日本語文法の不定性を、医学用語を援用して「不定愁訴」と表現できるのは、著者くらいだろう。

    後半は「英語の重要性」「パソコンの登場」というトピックに対する著者の散文に近いものになっているが、機知に富んだ表現で最後まで面白く読むことができると思う。

  • 英日翻訳に際して文章の組み立て方を学びなおそうと読み始めた。
    読み返すべき箇所が多々あるので購入決定。

    著者の専門は医学者だからだろうか。
    エビデンス主義な書き方や切り口が現代風。
    これからのクラシックになるかも。
    文章の素となる思考を整理するためにも、大学の初年度生や高校生の討論用テキストに採用されていけばとよいと思う。

  • まさかこのタイトルの本に、谷崎や三島の名前を見ることになろうとは、思っても見なかった。

    著者の黒木先生はがん研究者であり、それがこの本の購入動機にもなった。

    「知的文章」に関しては、先の日本の文豪等からも引用し、その教養の広さに驚かされた。

    「プレゼンテーション」に関しては、正直、あまり学ぶところがなかった。
    というよりも、先生とは考え方が合わないようである。先生は、あまり派手なプレゼンを好まないようであるから。

    「日本語と英語」に関する考察も非常に興味深い。
    "Globish"や"Glopanese"という造語は、これから私にとっては、キーワードになりそうでもある。

著者プロフィール

黒木登志夫

1936年、東京生まれ。東北大学医学部卒業。専門はがん細胞、発がんのメカニズム。1961から2001年にかけて、3カ国5つの研究所でがんの基礎研究をおこなう(東北大学加齢医学研究所、東京大学医科学研究所、ウイスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)。英語で執筆した専門論文は300編以上。その後、日本癌学会会長(2000年)、岐阜大学学長(2001-08年)、日本学術振興会学術システム研究センター副所長(2008-12年)を経て、日本学術振興会学術システム研究センター顧問。2011年、生命科学全般に対する多大な貢献によって瑞宝重光章を受章。著書に、『がん遺伝子の発見』(1996年)、『健康・老化・寿命』(2007年)、『知的文章とプレゼンテーション』(2011年)、『iPS細胞』(2015年)、『研究不正』(2016年、いずれも中公新書)ほか多数。

「2022年 『変異ウイルスとの闘い――コロナ治療薬とワクチン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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