経済成長は不可能なのか - 少子化と財政難を克服する条件 (中公新書 2116)
- 中央公論新社 (2011年6月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021168
作品紹介・あらすじ
日本社会全体に閉塞感が漂っている。経済は停滞し、年金や医療など社会保障問題も深刻化するばかりだ。大震災の復興財源もおぼつかない。経済成長こそが復活の鍵であるが、日本はもうそれを望むことはできないのだろうか。本書は、日本経済を取り巻く四つの難問-デフレ、財政難、円高、少子化-を社会学の目で整理し、どのような方法でそれらを解決し、経済を成長させることができるかを提示するものである。
感想・レビュー・書評
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学者、行政、政治家、アナリスト、マスコミ、評論家らが、日本のクアドリレンマ 四重苦 に対する解を出せずに経済論戦を繰り広げている。円高とデフレ、財政難、債務残高問題、少子化についての巷の議論を総括。筆者の解は竹中平蔵氏のそれに似る。
本書の考察は、これまで私が読んできた巷の経済論の分析、総括ともなっていた。とても納得感があり、かなり真実に迫ってきているのではないかと感じる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
のっけから暗くて沈んでしまう感じの本です。
筆者いわく、
日本経済は脱出不能の四重苦の中にある。
【デフレ。財政難。膨大な債務残高。少子化。】
どれか1つに対応する策を立てると、他の1つが悪化するという、同時解決不可能状態。
デフレから脱却するには需要の拡大が必要。
⇒需要の拡大には減税や政府支出を直接増やすことが必要。
⇒だが、そのためのお金はない。
⇒借金をするにも国債はすでに膨大な金額だ。
⇒政府の歳出を切り詰めたとしてもそれはその分需要の減少となる。
⇒増税すると消費を控えさせてしまう。
⇒少子化による人口減少は需要そのものを減少させる。
⇒それは避けたいが、出産と育児の充実にあてるお金もない。
⇒若年層の所得向上につなげるにはデフレ脱却が必要
⇒それには需要の拡大が必要・・・・・・
と、全般にわたってこのように「もはや打つ手なし」な感じで書かれているので、日本の将来に希望が持てなくなってしまいます。
ですが、いわゆる世間で言われている「噂」みたいなものを、「そうじゃない」「根拠がない」とバッサバッサと切っていくところは、爽快な感じがしました。
以下はそのうちのいくつかです。
・「無駄の削減で景気回復」は神話であって、政府が支出しなければならないものまで削ることは望ましくない。そもそも何が無駄かは、人によって、また社会によって異なる。スパコンは無駄かどうか。宇宙探査は。
・「日本は十分豊かになったのでもう需要が伸びない」なんてことはない。
・1985年のプラザ合意により「1ドル約240円から約120円」という超円高となったその時からすでに、産業の空洞化は進み、国内の仕事は減少してきている。Made in Chinaが増えたのはこの頃。
・本当は当時からの「分不相応」の円高による不況が20年続いているのに、バブルがあったことで、バブル崩壊の後遺症による不況だと間違って認識されるようになってしまった。
・「GDPが増大しないのは労働者の生産性が上がらないから」はウソ。インドとスウェーデンのバスの運転手の賃金は50倍も違うが、それをもって生産性が50倍高いとはいえない。「車1台作るのに100人必要なのか50人でできるのか」という生産性の話と、GDPにおける生産性の話は違う。
・お金が増えても貯金に回してしまう状態の「流動性の罠」は、個人レベルの話。企業は貯蓄するのではなく「設備投資に見合った利益(需要拡大)が見込めないから投資しない」だけである。超低金利でお金が借りやすくなっても借りずに設備投資が増えないのは、儲かる見込みがないから。
・「潜在的成長率」といったものは架空のもの。正確なものは誰にもわからない。
などなど。
それで、結局、筆者としては、四重苦から抜け出すためには、
今後数年間は国債発行により政府支出を増やし需要を確保し、経済の安定的拡大が見込める状態になれば消費税を増税する。
という方向が望ましいらしいです。
内容が正しいかどうかは全くわかりませんが、経済の基本がなんとなく理解できるような気がする本です。これを読んで以来、新聞の経済関係の記事をよく読むようになってます。この先どうなっても、一日一日を一生懸命生きていこうと思いました。 -
プロローグ 日本が抱える四重苦
第1章 行財政改革論の神話
第2章 「失われた二〇年」の要因論争
第3章 円高の桎梏
第4章 少子化をどう乗り越えるか
第5章 増大する社会保障費の重圧
第6章 未来への投資
第7章 まずはデフレの脱却から -
・日本経済の四重苦「デフレ不況問題」「財政難問題」「国の債務残高問題」「少子化問題」
・日本経済を復興していくために…プライマリーバランスの悪化を覚悟し国債増発、財政支出を行い一定の成長軌道確立→成長の妨げにならないタイミングと範囲で増税→国債発行を減らしていく -
真っ当なことを提言していると思う。やはり問題は、こう言ったマトモな提言が世の中で理解されないこと。これは、TV.新聞を中心としたメディアの責任が非常に大きいと思う。
特に、国債発行に対する無理解?は、TVに負うところが大きいのではないだろうか。今のメディアは煽るだけ煽って何も提言してない。いたずらに国民を不安に陥れているだけのように感じる。
そもそも、今の国民が、貯金の一部を消費に回せばかなりの問題が好転するのではないだろうか。その責任の一部は、マスメディアにも有ると思う。
筆者が繰り返し主張しているように、少子化に一定の歯止めをかけ、高齢化に伴う社会保証制度を確立し、教育と科学技術の国際競争力を維持すれば、日本の未来は格段に良くなると言う主張には説得力がある。
これらのことを、様々な政策で実現する責務が政府にはあるし、メディアも後押しをする必要があると思う。 -
アベノミクスそのものである。著者の提言と実際の政策がリンクしているのかどうか知らないが、5年と言う時間がその主張が全くのフィクションであったことを証明してしまった。円は徐々に高くなって元の木阿弥、日銀による国債買い入れも銀行の当座預金に現金を積み上げただけだ。
過去最高の企業業績も円高で簡単に吹き飛んだ。失われた20年の原因が円高にあったとの認識は間違いないだろう。ただ為替レートは意図したようには動かせないのだ。
未曾有の量的緩和も著者が言うように本当に害がないのなら良いのだが、『大したことではない』と言う認識のインフレが起こった時の我が身への影響を考えると恐ろしくなる。いずれにせよ著者の主張する綱渡りの工程表には何らかの決定的な誤りがあることは結果が証明しており、経済学の世界では一見もっともらしい言説もまるで信用ならないことを改めて認識した。
とは言え、家計や企業会計と国庫財政を同一視した議論が多い中で、社会政策と財政との関係がロジカルに整理されていて勉強になった。こう言う視点は社会学者ならではだろう。 -
著者:盛山 和夫[せいやま・かずお](1948-)社会学。
〈https://kaken.nii.ac.jp/d/r/50113577.ja.html〉
【目次】
プロローグ 日本が抱える四重苦
第1章 行財政改革論の神話
第2章 「失われた二〇年」の要因論争
第3章 円高の桎梏
第4章 少子化をどう乗り越えるか
第5章 増大する社会保障費の重圧
第6章 未来への投資
第7章 まずはデフレの脱却から -
覚えていない。
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現在、日本がおかれている状況が厳しいことは誰の目から見ても明らか。
しかも、何かの対策をしようとすれば、他に不都合が生じる四重苦の状態で、何から手を付けるべきか特効薬が見いだせない状況です。
そのような課題に対し、増税や将来への投資などを恐れずに行って行こうという提言の書です。
今の状況では、難しい面も多々ありますが、いずれにしても思い切った手法により、打開策を考えるしかありません。
再度政権交代をした中で、今後に期待したいものです。
日本経済を取り巻く問題の構造の四重苦(クァドリレンマ)
①デフレ不況問題②財政難問題③国の債務残高問題④少子化問題
政府支出が「ムダ」だと見なされる観点
①その支出は、それ自体としてはモノやサービスを生み出していない。
②その支出は何らかのモノやサービスを作り出しているけれども、作り出されたモノないしサービスは、人々によって利用されていない。
③その支出が作り出しているモノないしサービスは人々に利用されているけれども、そうしたモノやサービスは社会的な観点からみて必要性や重要性が乏しい。
政府支出の「ムダ」
①何が本当の「ムダ」と見なしうるかに関係なく、政府支出の何かを削減すれば、それ自体としてへGDPにとってはプラスにならず、マイナスになる
②したがって、GDPの観点から見れば、ある政府支出をムダだと見なすならば、そのムダを削減する一方で「ムダではない何か」に対して支出する必要がある。すなわち、Aの支出を「ムダ」だとして削減するとすれば、それに代わるBの支出を用意し、かつ、Bの方がAおりも何らかの観点から見て有益だと判断できなければならない
「失われた二十年の最も大きな要因は、円高」
良い大きな政府
①個人の不運や災厄やリスクに対する支援のしくみとしての社会保障の充実
②社会的連帯感や共同性の醸成
③良い社会保障を通じての経済の活性化
日本経済を活性化するために重要なこと
→最終的に「民間レベルでの経済活動の拡大」に寄与することをめざした「政府による」投資
政府でしかできない投資
①少子化対策②高齢者向け社会保障③教育と科学技術
めざすべき財政の状態、財政構造が「平常化」している状態
①「国債費を除くいわゆる「政策的経費」が、基本的に税収でまかなえていること」。これは、「プライマリーバランスの赤字が解消していること」に等しい
②「その歳出において、必要な政策が遂行されていること」
四重苦脱却のための工程表
①増税する②成長を通じて税収を増やす③政策的経費を削減する
まずは、プライマリーバランスの悪化を覚悟しながら国債発行を拡大して必要な財政支出を行い、一定の成長軌道の確立を図る。この段階で、成長によってある程度の税収増を見込むことができる。その上で、成長の妨げにならないタイミングと範囲で増税し、それによってさらなる税収増を図る。そうした、成長と増税を通じての税収の増加にあわせて、ある時点からは逆に国債発行額を減らしていく。こういうプロセスしかありえないのである。
<この本から得られた気づきとアクション>
・ジレンマの状態とはいえ、手をこまねいている場合ではない。どこかの時点で思い切った手を打つことで、展開させる必要がある。
・未来への投資の重要性を常に意識する。
<目次>
プロローグ 日本が抱える四重苦
第1章 行財政改革論の神話
第2章 「失われた二〇年」の要因論争
第3章 円高の桎梏
第4章 少子化をどう乗り越えるか
第5章 増大する社会保障費の重圧
第6章 未来への投資
第7章 まずはデフレの脱却から -
日本経済がかかえる4つの問題がそれぞれ同時に解決するのが難しい、だから財政問題は置いておいて経済成長とデフレ解決を先にしようという論は納得感はある。
ただ、国債を日銀が引き受けるのが問題ないという点の根拠が薄弱に感じる。他の国がやっているから問題ないというわけではないし、そもそもアメリカの大規模な量的緩和などの影響が将来的にどう影響してくるかは不明。国際的な立場も異なるので、日本としては慎重で良いと個人的には思う。
また、国債を増発して経済を活性化するというが、問題はどういう手法で経済を活性化させていくかということで、そこまでの議論がされていない点も残念なところ。