金融が乗っ取る世界経済 - 21世紀の憂鬱 (中公新書 2132)
- 中央公論新社 (2011年10月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121021328
作品紹介・あらすじ
過去三〇年間、アングロ・サクソン諸国の資本主義の進展には一つの目立った特徴があった。金融業が実体経済に対する支配権を強化していく「経済の金融化」傾向である。時として金融市場が危機状態に陥ることだけが金融化を問題視する根拠ではない。それは、社会、政治、教育などにも憂うべき結果をもたらす現象なのだ。金融改革、弊害の是正はいかにあるべきか。日本の社会や資本主義への理解が深い碩学による警世の書。
感想・レビュー・書評
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青垣
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経済における金融化、証券化について教えてくれる本。
景気の波によってたまに不況になるのはやむを得ないと思うが、結局、信用創造とか財政出動によって増えすぎたお金が金融危機の規模を必要以上に大きくしているのではないかと思った。 -
難しいよぉ。おいらには太刀打ち出来ひんかったよぉ
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むっちゃ面白かった。金融セクターが世界を不安定化させながら大したペナルティもなく膨張し続けるのを許すならば、繰り返されるバブル崩壊と激しい格差拡大は止まりませんよ、という話。最近の小難しい金融界の動向を政治経済史的に堅実に論証していて、ほんとに1925年生まれ?と思ってしまった。すごい。
最近会計や経理の初歩を学ぶ機会があったが、そこで習った標準的教科書の内容はすでにこうした戦後の「金融化」を反映した内容だったんだと気付かされた。「会社は株主のもの」と習ったが、その思想は全然普遍的なものではなく、本書で説明されているような特殊な歴史によって形成されたものだったという。 -
著者:Ronald P. Dore(1925-)
【目次】
序文に代えて(二〇一一年八月末日、グリッツァーナ・モランディにて ロナルド・ドーア) [i-iii]
目次 [iv-ix]
第1部
1・1 金融化ということ 004
出発点/英米モデルの勝利/「金融化」とは?/金融業者への配分
1・2 資本市場の規模拡大 013
投資とギャンブルの絡み合い/証券化/「信用創造・リスク分散」モデル/慎重さのための保険、ギャンブルの保険/大量破壊兵器/インチキを最小限に抑える方法/「資産」の意味/「信用」を裏付けていた二つの要因/危機への対応/金融業モンスターの生態
1・3 実体経済の付加価値の配分 035
経営者資本主義から投資家資本主義へ/優先順位の変化/資本の再集中化/株式所有の分散状態/思想的変化
1・4 証券文化の勃興 052
株持ち民主主義/政策手段/日本の「立ち遅れ」/証券文化と実質的成長の関係/イノベーションの推進と株式資本/国威発揚/原因ではなく結果/
第2部
2・1 社会を変える金融化 070
二○○八年の金融パニック――急病と持病/所得や富の格差/拡大格差拡大の要因/不確実性・不安の増大/知的能力資源の配分/メディアへの影響/信用と人間関係の歪み/詐欺を防ぐ法的制裁
2・2 金融化の普遍性、必然性? 092
アングロ・サクソン資本主義の終焉?/ヨーロッパでも金融化/必然的な進化?/金融の偏重的膨張/裕福な社会のサービス経済化/「すばらしい構造改革」金融リテラシー――大衆の無知が悪い?/必然性?
2・3 学者の反省と開き直り 111
人類進歩の現れ/「資本市場よりいいメカニズムはありえない」/ベンチャー資本/イノベーションへの二つの道/「成果主義」/農業開発/リスクの分散
2・4 「危機を無駄にするな」 127
問題の国際性/思想的感染/世界政府へ?/ケインズの国際通貨
第3部
3・1 国際協調 138
ロンドン会議とピッツバーグ会議/下り坂/ソウル・サミット
3・2 「適切な」報酬制度 144
ボーナスはなぜ問題か/金融ボーナス問題の前史/制裁のないリスク・テーク/永遠の問題/銀行の報酬体系に変化/過剰な報酬――ボーナス騒ぎと公平さの問題/金経政複合体/まだ「日本型資本主義」と言えるか
3・3 現状維持に終わる金融改革 161
改革論争の主なテーマ、主な当事者/道徳問題/改革論争の主要な場/宣言、ガイドライン、/大義名分/G20の「実践的」提案/銀行の規制――メタボ銀行をどうするか/国家の監督機能強化/自己資本比率/金銭的インセンティブにとって代わるもの/金融業内部の分業強制/派生商品は市場登録へ?/格付け会社の問題/金融商品の種類の制限/FX市場の制御――トービン税/G20での経過/証券のリスク配分と裸のCDS/明るい未来?
3・4 金融化は不可逆的か 203
再び金融化現象の本質について/相対量/投資する主体――個人から組織へ/再び金融資本の膨張について/国家の社会保障制度の衰退/企業の経営権を買う金融業者/「ステークホルダー経営」/株主主権主義へ/傾斜する日本/企業価値研究会/企業価値から株主価値へ/会社は株主のものか
あとがき [226-228]
謝辞 [229-230]
注 [232-242] -
暴走する金融化現象を批判した本。1・3-実体経済の付加価値の配分における株式会社の捉え方が面白かった。現在の日本においては、株式会社の捉え方として「ステークホルダー論」ではなく「株主価値論」が一般的だ。コーポレートガバナンスも「株主価値論」を全面に押し出したものである。しかし、本当に会社は株主の所有物なのか?金融化が進む経済がそうさせたのではないのか?という疑問を持たせてくれたのが良かった。
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ここでさあドヤるぞっていうところで、何回もクルーグマンを引用してて、そういう芸風なんかなと。
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<要旨>
本作では、世界の資本主義体制が「アングロ・サクソンモデル」へと収斂しつつあると主張し、中でも金融部門の肥大化に警鐘を鳴らすものである。
例えば軍産複合体ならぬ「金経産複合体」という言葉は、こうした金融部門の肥大化に対して強く警鐘を鳴らしている。
<感想>
内容に関しては賛同できた。本来金融部門は実業の世界に対して資金を融通することが主目的であった。しかし、金融工学の発達により手品のような金融商品が次々開発され、リスクを低減させる商品(スワップ商品)が世界中にばらまかれた事で、今日の金融危機が引き起こされた。金融自体が「金を儲ける事」の目的とされたのだ。
ドーアは日、独においてもアングロサクソンモデルに収斂しつつあると悲観しているが、その点同意である。
ただ、規制緩和の一方で社会関連資本への投資を増す事で違ったモデルを歩めるのではないかなぁと願っている。