国家と歴史 (中公新書 2137)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021373

作品紹介・あらすじ

アジア・太平洋戦争の「清算」は一九五一年締結のサンフランシスコ講和を始めとする一連の条約で終えたはずだった。だが八〇年代以降、教科書、慰安婦、靖国神社、そして個人補償請求と問題が噴出。日本政府は司法の支持を頼りに、一連の条約を「盾」とし跳ね返してきたが、世界の民主化、人道主義の浸透の前に政策転換を余儀なくされつつある。戦後日本の歴史問題の軌跡を追い、現代国家はいかに歴史と向き合うべきかを問う。

感想・レビュー・書評

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  • 確かに国家には歴史観は必要だと思う。定まった考えがなければ施策を上手く説明、理由づけするのは難しくまた世論の納得感も得られない。過去を誤りのない真実はとして証明するのは不可能だ。それを絶対と決めつけるのが危険な事も分かる。
    絶対はないと言う前提のもと、自分なりの考えを持ち人に強要する事なく、あらゆる考えを受け入れる事が大切だと感じる。歴史観は個々の人々の周りに、そして心の中に作り上げていくものだ。

  •  あっと驚く内容があるわけではないが、東京裁判から21世紀初頭までの長い期間と幅広い論点を丁寧に論じている。
     講和条約とそれに続く近隣国との二国間協定・条約を、著者は「講和体制」と呼ぶ。日本人の自省の不足を含め不十分な点はあり、また日本に対しては復興と政治的安定を重視、西独に対しては近隣諸国との関係改善を促すという米の異なる戦略も背景にあった。一方でこの体制は、国家間の和解を実現させ、歴史問題を安定的に管理する基盤となったという。
     しかし1980年代から教科書問題や靖国問題が国際化し、続く1990年代には封じ込めてきた戦後補償問題が噴出してきた、という流れである。
     また終章で著者は、「講和体制」の下、戦争や植民地支配の「リアリティ」を欠いた「平和国家論」が国民に浸透していたとも指摘。この点、添谷芳秀の述べる戦後安全保障政策についての「九条−(日米)安保体制」とも共通点を感じる。

  • タイトルが内容と一致していない。副題の「戦後日本の歴史問題」が適切だろう。内容は戦後の戦争責任問題を追った労作だが、経緯に重点を置いた記述は少々退屈。

  • 波多野澄雄『国家と歴史 戦後日本の歴史問題』中公新書、読了。戦後日本は、先の大戦をどのように検証し、国民に説明し、負の遺産にどのように向き合ってきたのか。一億層懺悔から戦争記念館まで--。「脱帝国化」に失敗した戦後日本の歩みを概観し、未来への説明責任を展望する一冊。


    帝国臣民とされた旧植民地出身者は講和により外国人と規定された。帝国においても日本人とみなす一方で対内的には戸籍をもって外地人を峻別、転籍の自由も認めなかった。国籍と戸籍は統治の便宜的技術として利用されたが、脱帝国後もていよく峻別は利用された。

    旧植民地出身者に対する扱いや靖国神社の「宗教」としてのあり方は「脱帝国化」の失敗であり、「『歴史問題』は必ずしも日中戦争・太平洋戦争や植民地支配に起因するものばかりではない。問題の源をたどると国民国家としての形成時にさかのぼるものもある」。

    憲法の言う平和国家論を『国是』として守り抜こうとすれば、村山談話を力強く支えるような内実を与える必要がある。その内実とは、近代日本の戦争と膨張主義の遺産についての歴史的検証可能な知的的基盤の形成。この「未来への説明責任」が最も欠如している。

  • 太平洋戦争が終わってもうすぐ70年が経つというのに、いつまでたっても出てくる戦争の話題。何で今も中国人や韓国人が訴訟を起こしてるの?歴史教科書問題ってよく騒いでるけど何でそんなに騒ぐの?という戦後生まれの方々に是非オススメ。
    戦後史をずっと研究していた著者様(大学教授)なので、非常に言葉を選んで中立的に書いているなあという印象を受けた。ここに書いてある歴史問題の経緯は、日本国民のどれくらいが知っているのかなと思った。

  • アジア・太平洋戦争の「清算」は、一九五一年締結のサンフランシスコ講和を始めとする一連の条約で終えたはずだった。だが八〇年代以降、教科書、慰安婦、靖国神社、そして個人補償請求と問題が噴出。日本政府は司法の支持を頼りに、一連の条約を「盾」とし跳ね返してきたが、世界の民主化、人道主義の浸透の前に政策転換を余儀なくされつつある。戦後日本の歴史問題の軌跡を追い、現代国家はいかに歴史と向き合うべきかを問う。

  • 週刊東洋経済の「読書特集号」で、推薦されていたので読んでみた。

    一言で言えば、戦後の日本と東アジア諸国との見解の違いがどのようにして生まれたのか、政治史の視点で丹念に追った本だと思う。新書にしては、中味は濃いと思う。

    内容は3部にわかれており、一部のサンフランシスコ講話体制では、先般の扱い、国家補償と戦争賠償、植民地帝国の清算の視点から戦後の体制がどのように成り立ったかをまとめている。二部では、80年代の靖国問題、教科書問題、戦後補償をどのような心情として扱ったかをまとめている。三部では、細川政権から村山談話の問題などの歴史認識を扱っている。

    戦争のある歴史認識は非常に難しい問題であり、その原因や人への刑罰・補償、などの形や言葉だけでなく、実際の形(金銭など)での補償などは当事者の認識や両者の歴史や関係が含まれる。事実とは何か、そしてどのようにそれを処理していき、歴史の視点でどのように見るべきなのか、いろいろ考えさせられた。

  • 去年の11月に出されたわりと新しめの1冊。1945年以降の日本という「国家」が戦争をどのように捉えてきたのか、を時代の変遷とともに描いた1冊。新書にしてはややボリューム多めですが、東京裁判から教科書問題、靖国問題、慰安婦などなど、いわいる「歴史問題」をここまで集約してくれた本はなかなかお目にかかれないと思うので、非常にお買い得な1冊だと思います。基本的に日本の資料のみで構成されていて、そのせいなのかなんなのか、日本の国勢のみで国際事情が語られている気がしないでもないのですが(極端な書き方だけど)、そのぶん、ある程度、話が単純化されていて、わかりやすいといえばわかりやすかったです。全然どうでもいいけど、土井たか子さんがわりと地位のある人だと初めて知りました。結婚したい。

  • 筑波大学人文社会科学研究科教授(日本政治外交史)の波多野澄雄(1947-)による、戦争犠牲者への国家賠償を中心とした戦後日本国家の歴史観の検証。

    【構成】
     序章 戦争検証の挫折
    第1部 サンフランシスコ講和体制
     第1章 東京裁判と戦犯釈放
      1 東京裁判 遠ざかる日中戦争
      2 講和と戦犯釈放問題
     第2章 「戦争犠牲者」とは誰か-「国家補償」と戦争賠償
      1 援護立法と「国家補償」
      2 戦争賠償への意識-冷戦下の東南アジア賠償
     第3章 「植民地帝国」の清算-請求権と国籍放棄
      1 特殊な取引-在外私有財産と賠償請求
      2 国籍放棄の非情
    第2部 1980年代-「公平」と「受忍」
     第4章 靖国神社問題の国際化-中曽根公式参拝の挫折
     第5章 歴史教科書問題
     第6章 戦後処理問題の「終焉」-受忍論による国家補償回避
    第3部 世紀転換期-冷戦・五五年体制崩壊後
     第7章 「侵略戦争」をめぐる攻防-細川発言から村山談話へ
     第8章 「言葉」から「償い」へ-新たな「和解政策」の模索
      1 戦後補償問題の噴出
      2 2007年の最高裁判決-個人補償の否定
     第9章 中韓との歴史共同研究-何が違うのか
     第10章 かすむ村山談話-靖国問題と戦争記念館論争
     終章 「平和国家」と歴史問題-未来への説明責任

    世に「歴史問題」と呼ばれるイシューがある。

    戦後日本の「歴史問題」の多くは、1930年代から~1945年にかけて戦闘が行われた「さきの大戦」に起因するものである。そして、それらの問題の多くは、「政治問題」である。
    政治問題化したからこそ、書店の近現代史のコーナーには「歴史問題」に関する書籍ばかりが並んでいる。東京裁判、従軍慰安婦、靖国、南京、歴史教科書等々。
    それらの多くは歴史学者ではない人間によって書かれ、一方の主張によって他方を非難する不毛な内容である。

    それらの浅薄な各論の議論に欠如しているのは、国家の歴史観はいかにあるべきかという視点とのそのバランス感覚である。
    ありとあらゆる戦争被害を徹底的に洗い出し、それに対する国内外の犠牲者に対して無差別・平等に賠償・補償を行うべきなのか。あるいは、戦争の侵略性を否定し、対外補償を打ち切り、国内については「受忍」を強いるのか。もちろんそのいずれの両極も解にはなり得ない。

    この極めて難しい外交上の舵取りを行うのは「政治」の責任である。
    その政治に対して疑念を呈したり、批判を加えるのであれば、これまでの外交・国内政策で政府が築き上げてきたロジックをまず理解すること、そして局面局面でそのロジックが孕んだ問題点を的確に抽出することが前提である。

    本書では、冷戦下のサンフランシスコ講和体制では、東京裁判の受容のあり方も、国家賠償の交渉相手も限定されざるを得ないという前提が示されている。
    また、大日本帝国の植民地であった朝鮮、台湾については、かつては「戸籍」によって区分されていたものが、帝国が崩壊したことにより「国籍」による区別が生じていた。

    1980年代は、本来「歴史化すべきでなかったもの」が歴史問題化すること、あるいは「政治化するはずでなかったもの」が歴史問題化することへの大いに戸惑いであったのだろう。

    1990年代以降は、80年代に部分的に湧出した歴史問題が、冷戦という凍結装置が取り外され、政権交代・戦後50年というタイミングも相まって一気に国家が対峙・解決すべき問題として取り上げられた。が、戦後50年から17年も経過した2012年現在に至るも、この問題が収斂しないままに至っている。

    本書は、議論の前提となるこれまでの経過とその問題点を的確に抽出しながら、解決のヒントを提示している。それは、図らずも「政治化」してしまった問題を歴史学者の手による学術研究という手段によって「非政治化」していく方向である。

    歴史は学問である。

    政治化してしまった問題を、最終的に解決するのは政治的課題であるが、政治的決断の前提となるのは冷静で実証的な歴史学手法による研究以外にあり得ない。そのためには、著者のように誠実で実力のある歴史研究者の存在が不可欠であるし、本書のような良書が多くの人に読まれるべきである。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、1階文庫本コーナー 請求記号:210.76//H42

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著者プロフィール

現職:筑波大学名誉教授
専門分野:日本政治外交史
代表著書:『「徴用工」問題とは何か――朝鮮人労務動員の実態と日韓対立』中公新書、中央公論新社、2020年
『幕僚たちの真珠湾』朝日新聞出版、一九九一年/吉川弘文館、2013年
『宰相鈴木貫太郎の決断――「聖断」と戦後日本』岩波書店、2015年
『国家と歴史――戦後日本の歴史問題』中公新書、中央公論新社、2011年
『太平洋戦争とアジア外交』東京大学出版会、1996年

「2022年 『国家間和解の揺らぎと深化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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