昭和陸軍の軌跡 - 永田鉄山の構想とその分岐 (中公新書 2144)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021441

作品紹介・あらすじ

昭和十年八月十二日、一人の軍人が執務室で斬殺された。陸軍軍務局長永田鉄山。中堅幕僚時代、陸軍は組織として政治を動かすべきだとして「一夕会」を結成した人物である。彼の抱いた政策構想は、同志であった石原莞爾、武藤章、田中新一らにどう受け継がれ、分岐していったのか。満蒙の領有をめぐる中ソとの軋轢、南洋の資源をめぐる英米との対立、また緊張する欧州情勢を背景に、満州事変から敗戦まで昭和陸軍の興亡を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 陸軍は一貫して対ソを考えて行動しているな、という感想でした。それを周囲の政治家や海軍が忖度したり誤解したり、協同したり。全体的に日本がズルズル引きずり回されてしまったのか。

  • 皇道派・統制派の勃興から太平洋戦争の開戦の判断に至るまで.参謀本部なりの現状分析や判断,葛藤が興味深い.

  • タイトルのとおり、戦前の陸軍を中心にしながら、どうして日本は対米開戦を決意するに至ったかを満州事変のあたりから説明する本。

    その際に、陸軍の大きな戦略構想を担った永田鉄山、石原莞爾、東條英機、武藤章、田中新一などを中心に、その戦略思想の流れ、共通認識と対立点などを通史的に説明している。

    この辺のながれは、すでにある程度理解していたつもりなのだが、あらためて陸軍にフォーカスして読んでみると、思想と思考の多様性がわかってくる。

    また、これまで誤解していた点もいくつかわかった。

    歴史に「もし」はないというが、日米開戦につながっていく必然性とともに、日米開戦が多くの偶然のなかにあり、いくつかの「もし」があったら、それは十分に避けれたものでもある気がしてくきた。

  • 専門的な内容も含むので、難解なところも多い。永田の跡をついだ武藤章の構想を柱としている。

  • 良書だと思う。
    多くの方が、指摘する繰り返し、時間軸逆行もそほど気にはならない。

    人間の営みの本質の多くは変わってなく、やはり歴史を学ぶことの意義を感じさせる。
    本書の流れを企業の内部抗争と見立てて読んでもまた、現代の先進国と開発途上国との軋轢と読んでも十分応用が可能であろう。
    自らの主張をぶつけるだけで決定することの責任を徹底的に回避する大物たちの小物ぶり。裁定者不在(国家間であれば国を超越する機関の不在)か裁定できないシステム(閣議不一致→総辞職)に問題があっただろう。

    以降人物別に思うこと

    本書は永田を中心軸に語られるが、永田の分析にはそれなりのロジックを感じるが、そこから紡ぎだした永田の結論、行動は是なのか?
     ・長州閥の排除をしながら自身が派閥を作ることに 
      疑問を持たないのか??
     ・世界戦争を誘発されるの想定から国家総力戦遂行   のための準備は軍人の思想の範疇としても
      短絡的では?

    石原については多く語られていない。日中戦争泥沼化を予測しその反対の施策を打とうと考えながらある意味身を自ら?引いたのかの理由が不明?中央からの左遷後の石原の行動にも興味が沸く。

    武藤と田中の対立はある意味近い「夢」を見ながらそこへたどり着く「道」の相違なのだろう。日中戦争泥沼化は石原が予測しとめにかかったが強硬な姿勢をとった武藤。そして対ソ戦では、田中に対し石原のロジックで否定は、、、やはり人は経験からしか学べないのか??
    武藤は、東条に対し「万人が納得するまで手段を手段を尽くして戦争となれば国民も奮起する」と進言するが、自身は田中に対して自説を納得させる手段は尽くしたのか??

    総力戦の予測からの資源確保、その手段として「満州国」「大東亜」という構想が誤った「解」であったのであろう、他の「解」を示した指導者はいなかったのか?そもそもそも他の「解」はあったのだろうか??
    他の「解」を見出せないならまたどこかで、同じ不幸を目にする気がしてならない。

  • 2013.3記。

    第一次世界大戦のさなか、のちの陸軍軍務局長永田鉄山は、在ドイツの駐在武官としてその災禍を目の当たりにし、いずれ再度の大戦は不可避であり、そうなれば資源小国の日本に勝機はないという強い危機感を抱いていた。本書の根幹は、「次の大戦に向けた『総力戦の備え』としての資源をどう確保するか(それは軍事的勢力圏の版図決定に他ならないのだが)」についての議論と言える。

    最初は「満州の確保」から始まる。その後「満州+米英との貿易堅持」と、いやそれでは米英と組めなかったら終わってしまう、「満州+華北(中国の一部)」まで必要、との二軸が論争となる(1930年代の仮想敵国はソ連だった)。無数の不確定要素に囲まれながら、例えば戦車だけとっても「米国1,000両、ソ連500、日本わずか40」(1932年段階、P.73)という信じがたいほどの国力差の中、意思決定に当たって何を重視し何を考慮外としたのか、学ぶ点は多かった。

    将棋の感想戦で決着のついた棋譜を追う時のように、我々はその時々の陸軍の判断が最終的に悲惨な結末に至ることを知っている。が、国際連盟が設立され、「あれほどの大戦はもうないだろう」と日本人の多くが思っていた1920年代に、「起きてからでは遅い」と備えの必要を説いたことまで丸ごと否定するのはフェアではない。かといって、もちろん「あのときはあのときなりに言い分があった」というだけで済まされることでもない・・・。

  • 読んでおいて損はない

  •  副題どおり、永田鉄山の構想(一夕会・統制派)がどう受け継がれ、非統制派(皇道派、宇垣・南派、石原莞爾)と、又は統制派内部でどう路線対立があったかが描かれている。「陸軍」と言っても、特に非統制派がそれなりに力を有していた時期には一括りにはできないことを知った。他方、各人個別の思想を掘り下げているため組織としての陸軍の姿は見えにくかったが。
     満洲事変は、関東軍(石原等)及び中央の中堅幕僚(永田等)が連携して陸軍中央を動かした。しかし石原はその後は中国との関係改善や米英との対立回避という不拡大方針だったのに、永田の思想を受け継ぐ拡大派の武藤章に押されてしまう。その武藤も、欧州での大戦勃発後は不介入、日中戦争の早期解決と対米戦回避を目指すも、対英米戦は不可避と考える同じ統制派の田中新一に押されてしまう。事態を拡大させた者が後でそれ以上の拡大派に押され、防ぎきれなくなったのは皮肉だ。
     また筆者は、日中戦争の状況を打破するため対米開戦に進んだとの一部にある見方を否定し、東南アジアで「協同経済圏」を築くための英領への攻撃が必要だった、英米は分離可能だったと陸軍は考えていた、と解説している。

  • 2011年刊。戦前昭和時に日本の政治をリードした陸軍の政治的意思につき、永田鉄山→石原莞爾→武藤章→田中新一の主張を軸として解読する。おそらく書簡等から引用したのだろうが、出典が明確ではない点が気にかかる。が、内容は多面的かつ詳細で非常に興味深く、一読の価値は極めて高いと思う。本書から受ける印象だが、時に正しい認識を持つ人物がいた(例 ①中国の実力・ナショナリズムを踏まえ、日中戦争の推移を正しく予見した石原、②独ソ戦の推移を正しく認識した武藤、③日米交渉での米国の意図を正しく把握した田中)のは間違いない。
    しかし、全体としては、①ドイツの国力分析の不備(特に田中の罪は重い)、②中国におけるゲリラ戦分析の不備(この点は武藤の罪は重い)は否めない。独ソ戦の一因が、ソ連の供給する軍事物資の停滞と石油不足にあり、ドイツがソ連の援助に戦争遂行を依拠していた点を看過した事実は取り返しのつかないミスと思える。また、日清戦争時の臥薪嘗胆の境地を忘れ、隔たってしまった彼らの心性も納得しがたいものが残る。

  • 昭和陸軍は、満州事変を契機に、国際的な平和協調外交を進めていた政党政治を打倒した。その陸軍をリードして行ったのは一夕会中堅幕僚グループであり、その中心的な存在の永田鉄山、石原莞爾、武藤章、田中真一らがどのような政戦略構想をもっていたかを中心に論考している。特に、陸軍省軍務局長の武藤と参謀本部作戦部長の田中の、世界戦略をめぐる厳しい対立の様子が克明に描かれていて興味深かった。

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著者プロフィール

1947年生まれ。名古屋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。現在、日本福祉大学教授、名古屋大学名誉教授。法学博士。専門は政治外交史、政治思想史。『原敬 転換期の構造』(未来社)、『浜口雄幸』(ミネルヴァ書房)、『浜口雄幸と永田鉄山』、『満州事変と政党政治』(ともに講談社選書メチエ)、『昭和陸軍全史1~3』(講談社現代新書)、『石原莞爾の世界戦略構想』(祥伝社新書)など著書多数。

「2017年 『永田鉄山軍事戦略論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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