治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書 2171)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021717

作品紹介・あらすじ

言論の自由を制限し、戦前の反体制派を弾圧した「稀代の悪法」。これが治安維持法のイメージである。しかし、その実態は十分理解されているだろうか。本書は政党の役割に注目し、立案から戦後への影響までを再検証する。一九二五年に治安維持法を成立させたのは、護憲三派の政党内閣だった。なぜ政党は自らを縛りかねない法律を生み、その後の拡大を許したのか。現代にも通じる、自由と民主主義をめぐる難問に向き合う。

感想・レビュー・書評

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  •  治安維持法の制定から廃止までの経緯を、内務・司法両省の競合と政党政治との関係に重きを置いて政治史的に分析している。広範な史資料を用いて、治安維持法が逸脱・拡大していく要因を究明しており、特に1928年改正での目的遂行罪の導入を重視している点が注目される。「取り締まる側」からの治維法史といえよう。

  • また読み返したい。護憲三派内閣だからこそ治安維持法が成立したことなど、実証的に論じられる。反共の強さがかえって国家主義運動を押さえきれず、どんどん拡大をゆるしていく過程が詳細に論じられる。注があってすごい。

  • 本書は政党の役割に注目し、立案から戦後への影響までを再検証する。一九二五年に治安維持法を成立させたのは、護憲三派の政党内閣だった。なぜ政党は自らを縛りかねない法律を生み、その後の拡大を許したのか。

  • 中公新書 「 治安維持法 」

    治安維持法のどこが問題で、どう運用すべきだったのか よく分かる

    治安維持法の問題点
    *国体などの定義が曖昧→政治が拡大解釈→民主主義暴走
    *行為でなく 思想を罰した(死刑もあった)
    *目的遂行罪〜特定の組織の目的に寄与する あらゆる行為を罰した

    国体の定義
    *日本の社会全体、日本国家そのもの
    *天皇制、君主制、統治権
    *植民地における思想統制

    ただ 危険人物は 国が監視して、一般市民に被害が生じないようにしてほしい という考えが 間違っているとも思えない

  • 1枚の写真が証拠とされ、共産党再建の為の集まりだとの特高警察
    の主張から発生した「横浜事件」。1944年のことだった。

    事件は明らかなでっち上げ。しかし、特高警察の過酷な取り調べの
    過程で犠牲者も出ている。

    戦後、元容疑者の名誉回復の為の再審が行われたが、事件の際の法
    律が既に存在しないことから免訴の判決が出た。そうして、2010年になり
    実質無罪とも言える刑事補償が決まった。

    適用された法律は「治安維持法」。元々は共産主義への警戒から
    結社を取り締まる為に生まれたものだった。民主主義・自由主義の
    転覆を計るものから、国体を守る為のものだった。

    1925年に成立した治安維持法の内容は漠然としていた。いかようにも
    解釈出来る。これが後の特高警察の暴走の温床となった。小林多喜二
    の虐殺を持ち出すまでもなく、特高警察にとって治安維持法は錦の
    御旗だった。

    ターゲットは共産党だけではない。新興宗教も次々と弾圧された。
    そして、治安維持法を生んだ政党政治は崩壊に向かい、戦時色の
    強くなった時代には反戦を唱えただけで適用されるようになる。

    本書は治安維持法の誕生と変化の過程、植民地であった台湾・朝鮮で
    の適用から戦後のGHQによる人権指令での廃止までを分かりやすく
    解説している。

    悪法もまた法なりとはいうが、そもそも思想を裁くことには無理がある。
    誰が人様の頭の中まで分かるというのか。悪法が法として通用した
    時代になんて、もう戻りたくないね。

  • 治安維持法が「結社」取締法として成立した点、また政党政治と治安維持法の関わりに着目して、治安維持法の立案から戦後への影響までを再検証している。
    政党政治の衰退とともに、治安維持法がどんどん膨張していく過程がよくわかった。始まりは節度をもって運用されていた制度も、政党政治のコントロールが効かなくなると暴走していってしまうというのは、現代においても教訓としうる事例のように感じた。

  • マガジン9:適用範囲が拡大していった「治安維持法」の歴史に学ぶ
    http://www.magazine9.jp/article/biboroku/9428/

  • 稀代の悪法とも表される治安維持法だが、本書では政党政治の時期にこの法律が生まれたことを重視。その問題設定がとても興味深い。

  • 同法の成立は、1925. 普通選挙法の施行とともに、共産主義への脅威を背景としていた。すなわち、社会が共産化してしまう懸念があったのだ。当初、若槻礼次郎内閣により、成立する。つまり、民主主義の支持を得た政党内閣が成立させたのだ。法の適応としての効果はまだ当時低かったようである。

    1930年代 徐々に取り締まりは強化される。日中戦争、太平洋戦争と、同法は改正を経て、共産主義=国体変革を目指す ことへの取り締まり この考えは、一人歩きを続ける。

    法律が、制御を外れてしまう。政党の自殺、とも筆者は述べていた。

    現在、破防法への反面教師として、その役割を果たしているという。秘密保護法案が成立した、今、読むべき本として、★5つを上げた。

    また著者の中沢俊介は、同世代である。同世代が、これだけの著作を出せること、うらやましくも有り、誇らしくも思う。30代前半は、やはり社会の重要な役割を担うべきであろう。

  • 治安維持法を通して戦前から戦後を描く一冊。
    治安維持法の生まれた経緯がわかりやすく解説されており、
    日ソ国交樹立と普通選挙が契機として
    大きな位置を閉めたとの説明には納得させられる。
    その後の改正や運用についての記載はやや骨太に過ぎる感があるが、
    内容は非常に丁寧で、各事件についてもしっかりと解説されている。

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著者プロフィール

秋田大学教育文化学部講師。1979年新潟県生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、東京大学社会科学研究所助教などを経て、2014年より現職。博士(法学)。
主な著書:『治安維持法』(中央公論新社、2012年)、『議会政治と55年体制』(共編、信山社、2012年)など。

「2014年 『山川健次郎日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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