経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)

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著者 : 猪木武徳
  • 中央公論新社 (2012年10月24日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021854

経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)の感想・レビュー・書評

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  • 2014/4/23読了。Twitterでフォローしてる経済学&金融クラスタの方々に好評だったので読み始めました。タイトルを一見すると経済理論がどのように役立つか解説したものと思いきや、様々な社会問題を考えるにあたって、これまで経済学がどのような前提で議論してきたか、またその前提ゆえにアプローチにどのような限界があるのかを各章ごとで指し示しています。あくまでもモデル学問である経済学の理論を無闇に振り回すのではなく、その用法と効用そして副作用を十分に考える必要があると指し示してくれる良書でした。

  • 次の箇所が印象に残った。

    ・「ここに奇妙な悪循環が存在する。女性社員は「人事
     がキャリア形成ににつながる仕事をさせてくれないから、 離職する」と主張する。他方、人事は「女性はすぐ離職す
     るから、キャリア形成につながる仕事に就かせられない」
     という。人事は、女性の予想通りにキャリアにつながる仕
     事を与えず、女性社員の予想(期待)の正しさを証明して
     しまう。一方女性は、人事部の反論を裏書きするように数
     年で離職して、その予想の正しさを実証する。「お互いに
     そう思うから、そうなる」という状況に陥ってしまってい
     るのだ。この「自己実現期待」の悪循環の罠から。 
    ・米国市民社会における「株主主権」の意味を示す例を挙げ
     ておこう(J・マクミラン『市場を創る-バザールからネット取引まで』)
     エイズの特効薬である抗レトロウィルスは、米国の製薬会社によって開発され、特許が取得された。しかしこうした新薬の製造には多額の研究開発費が投下されているため、製品化された薬品の価格は通常極めて高額になる。この抗レトロウィルスの場合も、エイズに苦しむ多くのアフリカの貧しい患者の手が届かないほどの高額であったため、患者数が一番多いアフリカのエイズ患者を田立に救うことはできなかった。

  • 著者は「経済学に何ができるか?」という問いに明確な答えは、出していない。重要なのは、経済政策における経済学の限界を知ることだ。現代のミクロ経済学の主流は、「合理的で独立した自由な個人」を想定することから出発する。しかし、これは人間類型のひとつを代表したモデルにすぎない。したがい、経済理論と政策の関係について、我々は常に用心深くあらねばならない。

    そして、本書の冒頭に著者は「むしろ理論の役割を限定することによって、その力を適切に発揮できるようにするためである。理論は、我々に何を示し、実際の経済政策の運営のどの段階までの知恵を授けてくれるのかを反省することである」と断言する。経済学の限界を知ることによって、我々は経済学の役割を知ることができるのだろう。

    本書は経済学者の猪木武憲さんが朝日新聞に1年間連載されたコラム「わかりやすい経済学」で取り上げたテーマを中心に、書き下ろされた新書。ただし、本書は、難解な部類に入る本と思う。

    著者は「自分の仕事が人の役に立っているのだろうかとふと考えたことが幾度かあった」。したがい、本書については、経済学者の著者が経済学の限界を、どう考えているのか、そしてどう限界を克服するのか、その訴えに耳を澄まし理解することが、正しい読み方と思う。

    1日1章のペースで読んだが、充実した読書体験だった。★4つ。
    また、同じ著者の「戦後経済世界史」は★5つのお勧め。

    なお、最近、インドネシアでは毎年の最低賃金をインフレ率と経済成長率の合計値で規定するという大統領令が発効し、労働組合は猛反発している。おそらく、定昇分とベアの理論から、政治家が安易に考えた足し算と思うが、これこそ、シュンペーターが「リカード的悪弊」と呼んだ「単純化され抽象化された理論をそのまま現実の政策に当てはめようとする安易な発想だ。

  • 読んだものの、そこまで記憶にない。経済学を多少なりとも学んだ身として、もう一度読んだ方がいいかも。

  • 非常に叡智に富んだ内容でとても面白かった。猪木さんならではの本だと思う。

  • 読了。

  • 本書は1945年生まれの労働経済学・経済思想・経済史を専攻する経済学者が2012年に刊行した、経済学の意義や歴史などの思想部分で広いテーマを論じた本。

    【目次】
    序 章 制度と政策をめぐる二つの視点
      第Ⅰ部 自由と責任
    第01章 税と国債
    第02章 中央銀行の責任
    第03章 インフレーションの不安
      第Ⅱ部 平等と偶然
    第04章 不確実性と投資
    第05章 貧困と失業の罠
    第06章 なぜ所得格差が問題なのか
    第07章 知識は公共財か
    第08章 消費の外部性
      第Ⅲ部 中庸と幸福
    第09章 中間組織の役割
    第10章 分配の政義と交換の政義
    第11章 経済的厚生と幸福
    終 章 経済学に何ができるか

  • 経済学と実態が繋げて書いてあるが、読みずらい。

  • 猪木武徳が2012年に発表した新書。ガッチガチの経済学に関する本かと思ってましたが、社会学や倫理学など幅広いクロスオーバー的な内容でした。昨今、社会的に取り沙汰されている様々な問題について、経済学だけでは語れないし、逆に経済学を知らないままでも語れない。それだけ純粋な理論よりも実践や色々なものに対する知性が重要だと感じました。この本を理解するには、ある程度の素地が必要かもしれないです。あと、一つ一つの話題の分量が少ないので、気になった部分は別の参考書にあたりましょう。

  •  私は1975年に大阪大学経済学研究科に入学したのだが、そのときに猪木先生はMITでPh.D.を得て、着任したばかりであったと記憶している。私は国際金融の専攻だったため、労働経済学を教える猪木先生の講義を受けるチャンスがなかったが、なぜか他の院生を通じて、先生と親しく交わる機会を得た。猪木先生は父上が猪木正道氏(京大教授・防衛大学長を務めた高名な政治学者)だけあって、とにかく品の良い先生であった。しかも、学識がおそろしく広く、しかも語学の達人であった。彼はMITではドイツ人のアメリカへの移民を研究してPh.D.論文を書いたので、まず、英語とドイツ語に堪能である。そこに加えてフランス語も読めるという。彼の研究室にはTimes Literary SupplementやLe MondeやDer Spiegelが何冊も置いてあり、私が愚かにも「これら、全部読むんですか?」と聞いたら、「そうです、読みますよ」と軽く答えられてしまったのは、驚きであった。
     さて本書の特徴は経済学に出来ることと、出来ないことをキチンと整理し、経済学の限界を明確にしたことではないだろうか。世界的に1980年代以降、レーガン・サッチャーに代表される「アングロサクソン的な自由主義的・市場主義的経済観」が主流となっていると思われるが、市場に任せておけば貧困や失業問題が自動的に解決されるものではないことは自明の理である。もちろん、貧困や失業をどうとらえるかにも、対立する考え方が存在する。何が正しいか、という問題は極めて哲学的・倫理学的な問題であり、猪木氏はアリストテレスのニコスマス倫理学を引用したり、トクビル、ヒューム、A.スミス、F.ナイトなどの著作を引用しながら、経済学上の問題には対立する価値観が立ちはだかり、その間のバランスを取る必要を強調する。
     さらに社会的問題は経済学の論理だけでは解決出来ない、実際上の困難が存在する。すなわち、政治的な問題である。猪木氏は具体的にTPPを挙げる。TPPは確かに日本の農業に困難をもたらすかも知れない。しかし、TPPは中国には参加要請がなく、中国はTPPを中国封じ込めの意図があると考えている。一方で、中国は軍事力を増強しており、アメリカと同盟を組む日本は、国際政治・外交上の配慮をここにする必要があると著者は指摘する。
     あるいはユーロ危機の問題を見ても、経済学の論理では、あれだけレベルの違う国々が統一通貨を使うことの危険性が指摘されていたのに、政治的判断(欧州統一という名前のもとのドイツの封じ込め)が優先されたことが指摘される。
     また副題にあるように制度的枠組みにはそれなりの歴史的な理由があり、急激な制度変化はしばしば意図せざる副作用をもたらすと警告を発する。
     猪木氏は「個」と「社会」の対立、「効率」対「公正・公平」、「自由」対「規律・秩序」の緊張関係の間で知性を働かせてバランスを取ることの重要性を古今の思想家の著述を借りながら、深く考察している点に改めて感銘を受けた。労働経済学から出発しながらも、氏の関心は経済思想に向けられ、1987年に『経済思想』という分野・概念別に経済学の歴史を俯瞰するという斬新な著作を上梓されており、その学識の深さ・広さにはいつも敬服させられてきたが、本書も格差問題、少子高齢化問題、産業の空洞化問題、財政赤字問題等々、困難な経済問題に直面する日本の今後を考える上で、単に経済学だけではなく、広く、政治や哲学・倫理の視点を持つことの重要性を教えてくれる。
     なお、本書は決して易しい本ではない。しかし、消化の良いものばかり食べていては、身体の健康が守られないのと同じように、精神を健全にするには本書のような、かみ応えのある本を読むことは大いに有益であると信じる。


    追伸:なお氏の著作に『文芸にあらわれた日本の近代』(2004年)という本があるが、明治以降の小説に日本の近代社会がどのように描かれてきたかを考察している。通常の文芸評論家にはできない芸当を披露しており、理科系学問の経済学者のなかにあって、珍しく文学を愛し、かつ経済学的にそれを料理してみせる技を著した優れた著作である。

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経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)の作品紹介

さまざまな「価値」がぶつかり合う、現代の自由社会。その結果、数々の難問が私たちの前に立ちはだかっている。金融危機、中央銀行のあり方、格差と貧困、知的独占の功罪、自由と平等のバランス、そして人間にとって正義とは、幸福とは-。本書は、経済学の基本的な論理を解説しながら、問題の本質に迫る。鍵を握るのは「制度」の役割である。デモクラシーのもとにおける経済学の可能性と限界を問い直す試み。

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