経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書 2185)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021854

作品紹介・あらすじ

さまざまな「価値」がぶつかり合う、現代の自由社会。その結果、数々の難問が私たちの前に立ちはだかっている。金融危機、中央銀行のあり方、格差と貧困、知的独占の功罪、自由と平等のバランス、そして人間にとって正義とは、幸福とは-。本書は、経済学の基本的な論理を解説しながら、問題の本質に迫る。鍵を握るのは「制度」の役割である。デモクラシーのもとにおける経済学の可能性と限界を問い直す試み。

感想・レビュー・書評

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  • 2021/05/29再読する

  • ユーロ危機や格差、投資など人々の相反する価値がぶつかる事象を、経済学の観点から解説する。
    著者によれば経済学を通じて事象を論理的に見ることは大いに役立つが、だからといって経済学の単独の論理がすべてを解決するのではないと説く。その上に人間の情念が左右する政治的な要素が加わることを言及する。
    物事を解決するには正論をかざすだけでなく、複眼的な視点を持つことが肝ということだろう。

  • 2014/4/23読了。Twitterでフォローしてる経済学&金融クラスタの方々に好評だったので読み始めました。タイトルを一見すると経済理論がどのように役立つか解説したものと思いきや、様々な社会問題を考えるにあたって、これまで経済学がどのような前提で議論してきたか、またその前提ゆえにアプローチにどのような限界があるのかを各章ごとで指し示しています。あくまでもモデル学問である経済学の理論を無闇に振り回すのではなく、その用法と効用そして副作用を十分に考える必要があると指し示してくれる良書でした。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=39376

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB1051553X

  • 東2法経図・6F指定:B1/5/Wakisaka

  • 331-I
    小論文・進路コーナー

  •  経済学の基礎のキソが学べる一冊。本書は――書名とは裏腹に――経済学の「限界」を考察することで、逆に「可能性」を明らかにするというアプローチを採る。ただ、難しい理論の話は少なく、第1部は身近な話題(税金・インフレなど)から経済学を考える内容となっており、第2・3部は経済を行う主体である「人」について倫理・思想面から考察を行っている。
     著者の結論は「経済学が力を発揮できるのは、その論理を用いて説得が可能な価値選択以前の段階までであり、それ以降は政治的な選択に任すほかない」(p.238)という、一見すると身も蓋もないものである。ただ、経済の主体である「人」が、矛盾した二つの欲求を望む「二重思考」から自由でない以上、その行動を理論化することには限界があるのは当然であろう。むしろ重要なのは、ある経済政策について、どこまでが経済学の「論理」に拠るもので、どこからが「政治的な選択」に拠るものなのかを見極める眼を持つことである。
     本書は、何か斬新な主張を展開しているわけではないが、経済学に興味を持たせる様々な「キッカケ」を提供してくれる一冊であり、非常に勉強になった。

  • 経済
    社会
    政治

  • 次の箇所が印象に残った。

    ・「ここに奇妙な悪循環が存在する。女性社員は「人事
     がキャリア形成ににつながる仕事をさせてくれないから、離職する」と主張する。他方、人事は「女性はすぐ離職するから、キャリア形成につながる仕事に就かせられない」という。人事は、女性の予想通りにキャリアにつながる仕事を与えず、女性社員の予想(期待)の正しさを証明してしまう。一方女性は、人事部の反論を裏書きするように数年で離職して、その予想の正しさを実証する。「お互いにそう思うから、そうなる」という状況に陥ってしまっているのだ。この「自己実現期待」の悪循環の罠から。 
    ・米国市民社会における「株主主権」の意味を示す例を挙げておこう(J・マクミラン『市場を創る-バザールからネット取引まで』)
     エイズの特効薬である抗レトロウィルスは、米国の製薬会社によって開発され、特許が取得された。しかしこうした新薬の製造には多額の研究開発費が投下されているため、製品化された薬品の価格は通常極めて高額になる。この抗レトロウィルスの場合も、エイズに苦しむ多くのアフリカの貧しい患者の手が届かないほどの高額であったため、患者数が一番多いアフリカのエイズ患者をただちに救うことはできなかった。

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著者プロフィール

猪木 武徳(いのき・たけのり):1945年生まれ。経済学者。京都大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学大学院修了。大阪大学経済学部長を経て、2002年より国際日本文化研究センター教授。2008年、同所長。2007年から2008年まで、日本経済学会会長。2012年4月から2016年3月まで青山学院大学特任教授。主な著書に、『経済思想』(岩波書店、サントリー学芸賞・日経・経済図書文化賞)、『自由と秩序』(中公叢書、読売・吉野作造賞)、『文芸にあらわれた日本の近代』(有斐閣、桑原武夫学芸賞)、『戦後世界経済史』(中公新書)などがある。

「2023年 『地霊を訪ねる もうひとつの日本近代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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