国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書 2190)

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  • 中央公論新社
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  • / ISBN・EAN: 9784121021908

感想・レビュー・書評

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  • 決して奇を衒うことのないオーソドクスな国際政治学である。著者は坂本義和と高坂正堯という戦後を代表する二人の国際政治学者の対比から筆を起こしているが、一読して著者が高坂から決定的な影響を受けているのは明らかだ。(著者は高坂の没後20年記念論集『 高坂正堯と戦後日本 』にも一文を寄せている。) 理想主義的で典型的な「進歩的文化人」の坂本に対し、高坂は現実主義の保守反動とされることも多いが、国際政治を「力の体系(=勢力均衡)」「利益の体系(=相互依存)」「価値の体系(=理念の共有)」という三層構造で理解する高坂は、単純なリアリストでもリベラリストでもない。その国際政治観は本書でも度々引用されるヘドリー・ブルら英国学派に通ずるものがあり、理論より歴史を重視し、現実と規範双方にバランスよく目配りする。

    既に指摘されていることだが、著者の言う「均衡の体系」「協調の体系」「共同体の体系」という国際秩序を規定する三つの原理は、50年前に高坂が提示した上述の三層構造にほぼ対応する。近代のヨーロッパ外交は「均衡と協調」(大国間会議による利害調整)に支えられたウィーン体制を経て、ビスマルク時代の「協調なき均衡」(剥きだしのリアルポリティーク)が破綻して第一次大戦に突入するが、その反省にたったウィルソンの「均衡なき共同体」(国際連盟の理想主義)も第二次大戦によって挫折する。結局、三つの原理のどれか一つを欠いても国際秩序の安定は保たれない、という平凡ではあるが極めて深い歴史的洞察が本書の結論だ。

    ウィーン体制を起点とするヨーロッパ外交史の流れを、国際秩序の変遷という観点から手際よく整理してくれているのは有難い。名著であるが著述の構成が入り組んでおり、読むのに少々骨の折れる高坂の『 古典外交の成熟と崩壊 』のサブテキストとしてもお薦めしたい。

  • 「均衡(バランスオブパワー)の体系」、「協調(コンサート)の体系」、「共同体(コミュニティ)の体系」という三つの国際秩序の原理をウィーン体制以降の欧州史を中心に解説されているのだが、勢力均衡がまず最初に必要なんだなと再認識するとともに、効果的な外交が必ずしも国民から支持されない/国益を害する外交姿勢が国民から支持される事は日本に限らず前例が多々あるのだなあと。そして、現在の日本は日米同盟を基軸に勢力均衡を取り戻しつつ、中国を交えた参加国において協調の体系を・・・まあいつの日にか確立できるのだろうか?一定の共通基盤があった欧州においてさえ、ナポレオン戦争から欧州に取り込んだ形でのドイツ再統一まで200年掛かっているわけだが・・・

  • 「国際政治論」の参考文献。
    以下、本書より。

    ニクソンはかつて、「世界史の中で長期にわたる平和が存在したのは、バランス・オブ・パワーが存在した時代だけである」と語った。本書のなかで国際秩序の歴史を概観するかぎり、そのような認識が基本的に間違いではないことがわかる。確かに勢力均衡のみでは平和を永続させることはできない。しかしながら、平和を永続させるための「協調の体系」や「共同体の体系」を確立するためには、「均衡の体系」を否定するのではなくむしろそれを基礎に置くことが重要となる。
    だとすれば、日本外交の未来を考える上で、日本にとってアメリカと中国のどちらが必要かという選択が、意味を持たないことがわかるだろう。また、アメリカと中国の両国とも日本にとって重要であるというのも、今後の日本の戦略を考える上で十分な回答とはならない。
    重要なのは、日本が十分な国力を備えて、日米同盟を安定的に強化して、アメリカが東アジアへの関与を継続できる環境を整えて、その上でこの地域において価値や利益を共有することである。価値を共有することで安定的な「均衡の体系」を構築し、その基礎の上に日中での協力関係を発展させ、この地域の平和を確立することが必要となる。
    われわれは自国の利益や、この地域の平和を考える時に、あくまでも国際秩序全体を視野に入れる必要がある。それを可能とするためには、しっかりとした歴史観を持ち、そして長期的な視野を持つことが必要だ。平和を願い、友好関係を期待するだけでは、われわれはそれを得ることができない。それを実現するための強靭な論理を持たねばならない。国際秩序とは何かを理解すること。それが、そのための最初の一歩なのかもしれない。

  • これまでの世界秩序が構築されてきたかが、分かり易く著述されており、大変勉強になった。フランシス•フクヤマやサミュエル•ハンチントンの考えなどは、より複雑化と国境以外のボーダレス化が進む現代においてはより多くの人が理解することが求められるのだろうと強く感じた。

  • 題の通り、本書はここ数世紀における国際秩序の過程を概観し、その歴史から得られる教訓を論じるものである。

    かつての国際秩序はヨーロッパ中心に展開されていたが、20世紀頃から日本を始めたアジア諸国の地位が向上してきており、主たる舞台は「大西洋」から「太平洋」に移り変わってきていることがわかる。ただ、私は中東やアフリカ地域も重要な舞台だと思う。それらの地域におけるプレゼンスの確保には、中国政府も注力しているようにみえる。

    著者は歴史的にみても、価値の共有は国際秩序の安定化に資すると述べる。欧米においてはそれが存在したため多様な枠組みが成立しているが、アジアではそうしたことはないのが現状である。東アジア諸国の間には、歴史観や政治体制の相違があるため、東アジアにおける価値の共有を通じた連帯は困難だとは思う。

    中国の台頭によって太平洋が国際政治の舞台になったことで、必然的に日本もその舞台に立つことになった。

    冷戦下における両陣営の間にも少なからず価値の共有があったことは意外だった。また、核戦力の存在があるからといって、軍事力の要素を度外視すべきではないことがわかった。

  •  日本の国際政治学会は東大の坂本義和と京大の高坂正堯による大論争があった。坂本は現実主義の「力による平和」の過度の依存に警鐘を鳴らし、勢力均衡の論理ではなく、世界市民の共和的発想からの平和を基盤に置くことを考えた。一方の高坂は、勢力均衡の観点から坂本を批判した。このような議論が生まれた背景には16~17世紀の宗教戦争にまで遡る。そして、それぞれウェストファリア体制・ウィーン体制・ビスマルク体制・ヴェルサイユ体制・冷戦を経てそれぞれの時代に適した平和を国際社会では模索した。そこにおいては、均衡・強調・共同体の三つの考えを組み合わせて国際政治が動いていった。つまり、既存の国際秩序が新しい状況に応じて柔軟に変容し、進化して弁証法的な作用と反作用を繰り返した新しい国際秩序が作られた。本書ではこの三つの考えを中心に近世から現代までの国際秩序の展開を概観する。 
     この本で興味深かったのは、p 126の記述で、キッシンジャーが述べていた「逆説的であるが、全ての当事国が少なからず不満を持っていることが安定の条件であり、譲歩が降伏ではなく、相手と同様に自国も犠牲が生じているように思わせることが大事である。」という記述がある。この記述は第一次世界大戦後のヴェルサイユ体制の過度なドイツの締め付けによる失敗を彷彿とさせる。やはり、一方的な正義感の押し付けによる善悪二元的な見方は単純であるが、敗戦国側に非を押し付けすぎるのではなく、その国の意向をある程度汲み取ることも大事かもしれない。いずれ、ウクライナ侵攻をしているロシアが国際社会で裁きの場に立たされる可能性は高いが、その際にも一定の恩を売り抑えつけることも大事だろう。
     また、善悪に関しての関連する興味深い記述として、p 256の「善からは善のみが、悪からは悪のみが生まれるのは、決して真実ではなく、その逆も暫し起こる。」という記述がある。このような善意なる行為が、結果として悪意を持つ人よりも不利益を与える行動をしばし見る。
     例えば、日常レベルではプレゼントの状況があげられる。人にプレゼントを何かをあげるときに、それはその人にとって好みであるか、好みだとしてもそれを欲しがるだろうか、色は?大きさは?などを考えないとその人に迷惑になることもある。そのように考え出すとプレゼントをするのは非常に難しいし、かといって行為レベルの話を変えても、その人の好みによっては迷惑である。 
     それを国家間レベルでも当てはまるかどうかの断言は難しい。しかし、他国の善なる介入(例えばPKO)や一方的な正義をかざす軍事行動の結果として状況を悪化させてしまう可能性はありうる。とりわけ、日本は関連法案で自衛隊の一時的な海外派遣が可能になるものの、やはり憲法9条の制約以外にも、その国が本当に「悪」であるのか?介入するタイミング、方法、人員、滞在期間などは適切であるのか?を慎重に検討する必要はあるだろう。仮に介入すべきか否かの議論が発生する場合に、盲目的な他国の追従ではなく、その地域に詳しい官民が合同して情報収集をし、他国の世論も考慮しつつ、その情報をもとに慎重に決断する必要があるだろう。

  • 国際情勢、緊迫化してきてるよねぇ・・・
    ドンドン平和じゃなくなってきてるよね・・・
    キナ臭くなりまくりですよね・・・
    世界は・・・
    東アジアは・・・
    そしてボクらが住まう日本は・・・
    どうなってしまうのか?

    まず、そもそも平和って・・・
    どういうことでしょうか?
    平和って、やっぱり戦争がない状態ですかね・・・
    戦争や紛争がない状態・・・
    激しい対立がない状態・・・
    みんなが安心していられる状態・・・
    あたりでしょうか・・・
    逆に平和じゃない、ってどういうことでしょうか?
    戦争や紛争やテロが起こっていて・・・
    激しい対立があって・・・
    安心なんかできなくて・・・
    って感じでしょうか・・・
    そう考えると、世界中で全く戦争や紛争が起ってないことなど、ほぼ無くて・・・
    どこかで、戦争や紛争が起きてて、テロが起こったりして・・・
    いろんな国や地域で対立してて・・・
    様々な不安がいっぱいで・・・
    過去から現在まで、世界が上記のような状態、平和だったことなんて、おそらく無いんだと思われます・・・
    しかしまぁ・・・
    そんな中で・・・
    人間様は・・・
    2度の悲惨な世界大戦を経て・・・
    戦争や紛争が極力起きないようにして、とりあえずの(国際的な)秩序を保つ・・・
    という程度のものは拵えてきたわけです・・・
    決して戦争が無かったわけではないですが(というか何だかんだ結構あったけど)、20世紀の後半からは大国間の大規模で世界的な全面戦争は起こっていません・・・
    仮初めの平和ではあるけれど、どうにかこうにか秩序という名の平和は築いてきた・・・
    その期間の長さは18世紀以降最長記録!!
    しかしそれが!今!また揺らいできている!わけですね・・・
    歴史を振り返ると、新興国が力をつけて大国化したり、大国が衰えて『力の真空』が生じたりして、それでパワー・バランスが崩れる時に新しい戦争や紛争が勃発することが多い・・・
    おお・・・
    今まさに・・・
    中国を筆頭にいろんな地域で新興国の力が増し、地域大国が増えつつあり・・・
    逆に唯一の超大国のアメリカは衰退し始めているなんて言われてしまってる・・・
    このパワー・バランスの変容にどう対処すべきなのか?
    新たな戦争や紛争の勃発を防ぐにはどうしたら良いんでしょうか?
    本書は・・・
    過去、どのようにして秩序(平和)が作られ、保たれてきたか?そしてそれがどのようにして壊れていったのか?
    今の国際政治、国際秩序というものが生まれた18世紀以降の主にヨーロッパの歴史を振り返り・・・
    この問題を考察するための一つの視点を与えてくれる・・・

    著者は本書で国際秩序の原理を3つの概念で説明している・・・
    ・均衡
    ・協調
    ・共同体
    の3つの体系ね・・・
    『均衡』は勢力均衡(バランス・オブ・パワー)を指す・・・
    これは力と力が均衡し、バランスがとれることによって、国家間関係の安定が築かれて、平和が可能となる、というもの・・・
    軍事力とかの国家の力【パワー】が基になるヤツですね・・・
    『協調』はみんなで利益を上手いこと分け合いましょう、その方がみんな得でしょ、そのためにみんなで協調しましょう、というもの・・・
    各国が共通の価値観に基づいていれば、色々あるけど何だかんだ分かり合えてる関係が築ける・・・
    そういう関係であれば、理性的に合理的に判断でき、みんなが自国のことだけでなく、全体のことを考えて協調し、安定的な平和が生まれる、というもの・・・
    『共同体』は自由な国々が連合し、みんなで理性に基づいて共同体を築くことによって、安定的な平和が生まれる、というもの・・・

    この3つの秩序の原理をもとに300年の国際関係を振り返ると・・・
    均衡と協調が見事に合わさって生まれたのがナポレオン戦争後のウィーン体制であり、ヨーロッパに(比較的)長きに渡る安定的な秩序が生まれ、平和が訪れた・・・
    しかし理想的だった均衡と協調によるウィーン体制が崩れ、均衡重視のビスマルク体制に以降し、ビスマルクが失脚すると次第に勢力均衡が崩れ、第1次大戦が勃発・・・
    ウィルソン米大統領が共同体の秩序を主導し国際連盟が創設される・・・
    第1次大戦後は勢力均衡こそ戦争の原因だ、と勢力均衡は否定され、一躍共同体の秩序による平和が期待された・・・
    しかし、理想的とされた共同体による秩序により、平和になると思いきや・・・
    アメリカ、ドイツ、日本が新興国として台頭、一方でイギリス、フランスは弱体化し、またもや勢力均衡が崩れ、第2次大戦へ・・・
    均衡や協調による秩序が欠けた、共同体による秩序だけの国際連盟は第2次大戦を止めることはできなかった・・・
    国際連合は2度の大戦の反省から、均衡と協調による秩序を軸とした共同体を目指したけれども・・・
    すぐに米ソ冷戦が発生したため、機能麻痺に陥ることが多々あり、共同体としては不完全に・・・
    でもどうにか、核による抑止力やそれを含む均衡と協調の秩序と不完全ながら共同体の秩序により、20世紀の後半の冷戦時、冷戦終結から21世紀の現在までは大国間の大規模で世界的な全面戦争は起こっていません・・・
    それが一応『長い平和』と言われる所以です・・・
    しかし、冒頭書いたように、今世界でパワーバランスが変容して来ています・・・
    中でも東アジアでは中国の台頭により、特に勢力均衡が変わってきてます・・・
    中国のパワーが増すということは、そのパワーを背景に中国は周辺国に対して、ますます譲歩をする可能性が少なくなり、話し合いで交渉しなくなり、もっともっと自分に有利な状況を強制してくるようになるということ・・・
    ううむ、困りますね・・・
    さて日本はどうすれば良いか?
    著者は言います・・・
    『勢力均衡のみでは平和を永続させることはできない。しかしながら、平和を永続させるための協調の体系や共同体の体系を確立するためには、均衡の体系を否定するのではなくむしろそれを基礎に置くことが重要となる』
    『だとすれば重要なのは、日本が十分な国力を備えて、日米同盟を安定的に強化して、アメリカが東アジアへの関与を継続できる環境を整えて、その上でこの地域において価値や利益を共有することである。価値を共有することで安定的な均衡の体系を構築し、その基礎の上に日中での協力関係を発展させ、この地域の平和を確立することが必要となる。』
    と・・・

    勢力均衡だけの秩序は脆い・・・
    脆いけども、これがベースにないと、平和は保たれない・・・
    もちろん勢力均衡の源たる核の抑止力を含む軍事力なんて理想を言えば無い方が良いに決まっている・・・
    そんなものがあるから戦争が起こるんだ、という考えも分かる・・・
    けれども、過去、勢力均衡が崩れた時に2度の悲惨な世界大戦が起こっているという点と、まがりなりにも現実に『長い平和』をもたらしているという点を無視してはダメなんだと思います・・・
    まず勢力均衡を基礎としつつ、敵対するのではなく、価値観をなるべく共有し、利益を共に享受できるように協力関係を築いていく・・・
    そうすることで平和の確度が高まっていくのかな、と・・・
    もちろん本書にある要素や原理だけではないですが・・・
    世界は過去どのような原理に基づき平和を構築しようとし、挫折し、そしてあくまで仮初めの平和ではありますが、とりあえず今の秩序を築いたのか、参考になるし・・・
    また今後どのように考えれば、この壊れやすい平和というものを守っていけるのか・・・
    本書はそのちょっとしたヒントにはなるはず・・・
    オススメちゃん!

  • 日本国憲法のせいだろうか。多くの日本人が外交というと平和外交か恫喝外交しかカードが無いと思うほどの外交音痴ぶりだが、本書は歴史をひもときながら、外交とは何かを教えてくれる。

    均衡の体系、協調の体系、共同体の体系の織りなす国際社会の視座が得られ、今後の日本の行く末を考える土台を与えてくれる。

    ・キッシンジャー:国際的な講話というものは、たとえそれが強制されたもので無く、受諾されたものであっても、常に、いずれの当事国にとっても、何かしら不条理なものと映るのである。逆説ではあるが、当事国がみな少なからず不満をもっているということが、安定の条件なのである。安定秩序の基礎は、関係当事国の相対的な安全--従って相対的な危険を意味する--にあるのである。
    ・新聞・雑誌がこの時代(19世紀)に急速に普及したことで、他国へのステレオタイプや神話も醸成され、それにあわせて敵意が芽生えることもあった。
    ・ヨーロッパ協調が機能するための2条件。1.主要な大国の間でパワーが均等に分布。2.それらの国が自制した行動を取ること。
    ・均衡が力の体系ならば、共同体は価値の体系。
    ・パスカル:力と正義を一緒におかなければならない。
    ・キッシンジャー:現代の危機が力を行使するだけでは解決され得ないことは自明の理である。しかしながら、これをもって、現在の国際関係において、力がなんらの役割も果たさないとは考えてはならない。
    ・抑止、均衡は自動的なものではない。
    ・伝統的な国際社会は自助原理に頼っていた。つまり、集団安全保障体制やPKOは適切に機能しない。
    ・ニクソン:世界史の中で長期にわたる平和が存在したのは、バランスオブパワーが存在した時代だけである。

  • 18世紀から現代に至る「国際秩序」の歴史を「均衡(バランス)」の体系、「協調(コンサート)」の体系、「共同体(コミュニティ)」の体系という3つの秩序原理の組み合わせから位置付ける試み。

    ヨーロッパ世界においてはじめて「勢力均衡」が成立したのは、18世紀のスペイン王位継承戦争後のことであるが、こうした「均衡」の体系は、たとえば19世紀後半のヨーロッパ国際秩序である「ビスマルク体制」において典型的に再現される。

    またその「ビスマルク体制」は、ナポレオン戦争後に成立したウィーン体制、すなわちヨーロッパにおける共通の価値(これは啓蒙の世紀である18世紀にスミスやヒュームらによって唱えられた「商業的社交性」の精神等によって支えられている)を前提に実現された「均衡による協調」の時代が徐々に崩壊(協調が失われ、剥き出しのナショナリズムが跋扈)していく過程で登場した。

    第一次世界大戦は、天才・ビスマルクによるアートとしての政治が失われ、均衡が崩れたことによって出現した。大戦後には「共同体の体系」が、しかし「均衡」「協調」という重要な要素を欠きながら登場する。とくに1931年の満州事変はヨーロッパ的な国際秩序原理とは異質な大国の行動が国際秩序を崩壊させたトリガーとしての画期性をもつと分析される。

    1931年の満州事変から10年後の1941年、英米による協調の精神を盛り込んだ「大西洋憲章」は第2次大戦後の冷戦期の「均衡の体系」の基礎となった。その後、ブッシュ(父)による「新世界秩序」構想、クリントンの「民主主義の共同体」構想を経ていく。

    現在は第2次大戦後の「大西洋」中心の時代から太平洋を中心とした時代への転換点であり、日米中の均衡と協調が、今後の「国際秩序」の鍵を握る。

    やや難解な部分もなくはないが、国際関係を2国間関係という点と点の関係の集合から理解するのではなく、面として一貫してとらえようとする著者の試みはひとまずは成功しているのではなかろうか。剥き出しの「均衡」と共通の価値観を背後にもつ「協調」が相即不離の関係で成立することが、今後の国際秩序を構想する上で非常に重要だということが、歴史的な視点から説得的に論じられている。

  • [世の軸足の探求]18世紀から21世紀にわたる国際社会とそのパワーシフトを概観しつつ、その時代の国家間関係を規律していた国際秩序にスポットライトを当てていく作品。「均衡」、「協調」そして「共同体」という体系を基に、時代的にも空間的にもマクロ的な視点から解説を加えていきます。著者は、ヨーロッパを中心とした国際政治を専門とする細谷雄一。


    力や理性に対する考え方が大きく異なる3つの体系を用いながら、とことん丁寧に国際政治の沿革をなぞるバランスのとれた一冊でした。二国間関係が主になりがちな国家間の関係を、その射程を広げて地域、さらには世界規模から俯瞰していく様子はお見事。リアリストの著作の系譜にまた1つ傑作が生まれたと言っていいのではないでしょうか。

    極めて客観的な視点で貫かれた記述ではありますが、下記のとおり、特に終章において述べられる細谷氏の主張は極めて明確。ある意味では「地味で面白みのない」提言のように思われるかもしれませんが、国際政治の背骨部分をしっかりと規律するものの味方を学ぶために非常に有意義な教訓が得られたと思っています。目まぐるしく外交が動く世の中にあって、改めて沈勇な姿勢が大切であることを痛感。

    〜平和を永続させるための「協調の体系」や「共同体の体系」を確立するためには、「均衡の体系」を否定するのではなくむしろそれを基礎に置くことが重要となる。〜

    それにしてもやっぱりメッテルニヒってスゴいな☆5つ

著者プロフィール

慶應義塾大学法学部教授、東京財団政策研究所 研究主幹。
1971 年生まれ、慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得退学、博士(法学)。国際政治、イギリス外交史。主要著作:『外交による平和──アンソニー・イーデンと二十世紀の国際政治』(有斐閣、2005 年)、『迷走するイギリス── EU 離脱と欧州の危機』(慶應義塾大学出版会、2016 年)ほか。

「2024年 『民主主義は甦るのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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