大阪―大都市は国家を超えるか (中公新書 2191)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121021915

作品紹介・あらすじ

停滞が続く日本。従来の「国土の均衡ある発展」は限界となり、経済成長の"エンジン"として大都市が注目を集めている。特に東京に比べ衰退著しい大阪は、橋下徹の登場、「大阪都構想」を中心に国政を巻き込んだ変革が行われ、脚光を浴びた。大都市は、日本の新たな成長の起爆剤になり得るのか-。本書は、近代以降、国家に抑圧された大阪の軌跡を追い、橋下と大阪維新の会が、なぜ強い支持を得るのかを探る。

感想・レビュー・書評

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  • 大都市に存在する対立軸の1つに、市長と地方議会の対立がある。戦後、市長は有権者から直接選ばれるようになったため、その正当性より議会の影響力を抑えられるようになった。確かに自民党長期政権は、地方議員から市長への影響力を強めた。だが、長期政権の動揺の中、都市全体の利益を主張して議会の多数派から支持を得るような改革派首長が登場している。
    大都市では人口流入の減少・流出の増加が続く中、経済成長し続けるために開発事業が行われてきた。民間企業が参入できない地域を開発し、新たな市場を生み出すという「都市官僚制の論理」である。それが成功するうちは良いが、失敗が重なると事業ごとに民営化による効率化を図る「納税者の論理」が浮上してくる。大阪都構想はこれら2つの論理を含んでいるものであり、その両立は容易くない。

  • 【サントリー学芸賞政治・経済部門(第35回)】「大阪都構想」を中心に国政を巻き込んだ変革が行われた大阪。大都市は日本の新たな成長の起爆剤になり得るのか? 近代以降、国家に抑圧された大阪の軌跡を追い、橋下徹と大阪維新の会が、なぜ強い支持を得るのかを探る。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40174332

  • 2020年、2度目となる大阪都構想住民投票が否決で終わった。

    日本で二番目の経済圏の中心である大阪市、そして大阪府が今後どのようになっていくのか、本書をヒントに追っていきたい。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99462165

  • 首都東京以外の大都市が直面する問題が、明確に整理されている。東京の後背地となるのか、それとも地方中核都市の自律的発展を後押しするのか、という選択肢を提示しているが、そこにあるのは現行システム上弱体化せざるを得ない都市の不満である。

    ところで都市と農村との関係は、金とリーダーシップの流れだけで整理できるものではない。食糧その他の供給地として、人の供給地として、地方の大都市以外の場所との関係性をこれからどのように考えていくのかが一つの課題となるだろう。

  • 2012年刊行。
    著者は大阪大学法学研究科准教授。

     過日、大阪市の住民投票で否決された大阪都構想。
     本書は投票前の段階ではあるが、大阪を定点とし、都道府県と市と国、地方自治の過去と現在、そして未来を語った書だ。

     私自身、大阪をはじめとする地方自治体の在り方・将来像について、大阪都構想はもとより、さほど関心を持ってこなかったツケが本書読破で来てしまった。
     そんな読後感である。

     すなわち、
    ① 都道府県、市、さらには政令指定都市の権限・財源・政治運営の仕組み、異同につき十分な理解をしていない。
    ② 現実の大阪市、大阪府、府内の他市の財政状況につき情報を入手していない。
    ③ 二重行政の問題の理解不足の露呈。
     かかる個人的な問題点を把握できただけでも良しとすべきか。

     ただし、
    ① 大阪都構想(あるいはこれに類する制度改革・政令指定都市の解体)で、無駄の削減が可能か。本書で言われる無駄は、結局、バブル期・バブル崩壊期の事業計画の甘さに起因しているだけではないか。
    ② 人口減少が前提となる中で、これまでの同様の府市の対立構図が維持できるのか。共倒れにならないか。
    ③ 結局、国との税源分配の問題に帰着しないか。
     という想念も湧いたところである。

     さて、かなり多様な視点で書かれている本書。対立軸としては以下の如し。
     ① 大阪府と大阪市(都道府県と市町村)
     ② 東京と大阪
     ③ 大阪と他の中核都市
     ④ 京阪神
     ➄ 地方自治体と国
     ⑥ 都市と農村
     ⑦ 市街地と郊外
     ⑧ 大阪等日本の都市と他国の都市

     あるいは、別の切り口として、
     ⑴ 戦前と戦後、そして平成時代の史的変遷
     ⑵ 官僚的側面と納税者という地位的・人的側面、
       あるいはそれらの対抗関係
     ⑶ 選挙制度を含む政治面と、
       税務・予算分配という財務面、
       都市問題(かつては公害・上下水道などのインフラ整備。現在は高齢者・医療介護など)

    という3つの側面という多様な視座が、本書ではキーとなっている。
     これらは、かなり混乱させがちな多様性レベルであり、確かに良くまとめ上げたなぁ、という印象の一方、流石に判り難いよ、という印象とが混在する。

     要再読か。

  • 著者:砂原庸介  

    【目次】
    はじめに [i-viii]
      大都市「大阪」の来歴/「大阪都構想」と大都市の役割/本書の構成
    目次 [ix-xiv]

    第 I 章 大都市の成立と三つの対立軸――問題の根源 003
    1 自治の確立――三市特例から六大都市へ 003
      大都市のイメージ/市制施行と有力者による支配/三市特例とその廃止/市長の役割をめぐる論争/都市官僚制の成立/国家事業から都市計画へ
    2 国家への挑戦――特別市運動と東京都制 016
      拡張する大都市/「大大阪」へ――全国最大の都市に/特別市運動の論点――府県監督への不満/東京の特殊性/東京都制の成立と特別市運動の挫折
    3 挫折と埋没――「特別」でない都市へ 028
      特別市制と残存区域問題/府県と大都市の対立――政令指定都市制度へ/財政調整制度の導入――都市から農村への分配/伸長性を持つ財源の喪失/全国計画のなかの大都市/大阪市の位置づけ

    第II章 都市問題と政治――先進地域としての縮図 041
    1 大都市が抱える宿痾 041
      都市の改造と「貧民」の排除/釜ヶ崎形成の起点/戦前の産業公害/公害の激化――府と市の権限争い/先頭を走った大阪市――都市計画と都市官僚制/権限と財源の制約
    2 革新勢力の台頭と退潮 052
      革新勢力の源流/統一戦線の挫折/一九五五年体制下の停滞/革新自治体の時代――黒田了一の府知事就任/革新の衰退――社共共闘の瓦解/都市官僚制との距離
    3 自民党長期政権下の大都市――進む多党化 064
      「保守の危機」と自民党の対応/「都市政策大綱」という提案/多党化とその影響/大都市は「搾取」されてきたか/選挙制度の歪みと「自民党システム」

    第III章 未完の再編成――拡張の模索 079
    1 大阪市域の固定化と都市基盤の整備 079
      揺らぐ都道府県境界/広域行政と府県合併/大阪市域拡張の試み――中馬馨の挑戦/大阪府による「機能分担」の主張/戦災復興から万博へ/臨海部への拡張
    2 行き詰まる大阪 093
      府による開発――大阪府企業局/開発事業の重複/人口流入の終焉/再開発事業の過剰な競合/リーダーシップ欠如の象徴/「スラム」から貧困問題へ/整理できない密集市街地
    3 浮上する大都市――二〇〇〇年以降の都市回帰 107
      「世界都市」への挑戦と挫折/都市への回帰/「自民党システム」の動揺/地方分権改革――溶解する自民党の基盤/補助金削減と財源移譲/顕在化する都市と農村との対立

    第IV章 改革の時代――転換期に現れた橋下徹 123
    1 遅れてきた改革派 123
      「相乗り」と「無党派」/「納税者の論理」による行政改革/大阪府の転落/無党派知事横山ノック/大阪府政の安定と継続/チェック機能の弱体化/橋下徹の登場
    2 「橋下改革」――論点と対立構図の推移 139
      圧勝からの改革/国への働きかけ/水道事業統合問題/WTC庁舎移転問題/府議会自民党の分裂/大阪府と大阪市の再編構想/「大阪都構想」
    3 「大阪維新の会」結成――地方政党という戦略 156
      新党結成と府市議会議員の参加/対立構図の確定――既存政党と大阪市長/統一地方選挙の戦略/大阪維新の会の圧勝/ダブル選挙という手法/高投票率での勝利/ローカル・ポリティクスの“全国化”

    第V章 大都市のゆくえ――ふたつの論理の相克 173
    1 制度改革の条件 173
     市長対議会/大都市の位置づけ/革新自治体との比較/都市の政党というポジション/政党再編成の可能性/ふたつのハードル――参議院と東京都政
    2 大都市制度の設計――争点とその対応 185
      都市への配慮は可能か/現行制度下の限界/都市の自律――府県と政令指定都市の統合/地域限定の分権改革/大きすぎる大都市
    3 都市をめぐるふたつの論理 198
      企業体としての大都市/フロンティアは残っているか/もうひとつの「大阪都構想」/「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」/ふたつの論理のトレードオフ/「大阪都構想」が浮き彫りにするもの

    終 章 「大阪」の選択に向けて 211
      「大阪都構想」を支えた状況変化/都市における政党政治の創出を/国家と大都市/政治的な寓話との訣別

    あとがき(二〇一二年一〇月 砂原庸介) [223-228]
    註記 [229-240]
    参考文献・図表出典一覧 [241-247]
    歴代大阪府知事・市長 [249]
    大阪関連年表 [250-254]

  • 160213 中央図書館
    別に橋下徹のビジョンを批判したりする内容ではない。地方都市の政治論である。「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」の相剋が、首長の意思を引き裂き、国家と大都市の軋轢につながる。

  • まず、この本は橋下体制の是非を問うものではない。
    そこに至る経緯を含めて考えるべきという示唆を与えるものだと私は理解している。

    以上の点について、しっかりと答えてくれる本はこれを置いて他にない。

  • 「大阪都構想」が注目される「大阪」を題材に、近代以降の大都市行政の歴史を丁寧にたどりながら、日本における大都市の問題を論じている。
    大都市をめぐっては、戦前から現代に通じる3つの対立軸―市長VS地方議会、東京VSその他の大都市、大都市VS全国(あるいは農村)―があるとし、それにそって分析を進めている。また、大都市行政に普遍的なものとして「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」というトレードオフの関係をもつ2つの論理の存在を指摘し、「大阪都構想」にもその2つの論理が内在していると指摘する。そして、それらをいかにバランスさせるかが重要であると主張している。
    本書は、大阪の都市行政(市政・府政)の歴史、そして、それを通じての日本の都市行政の歴史が非常によくまとまっていると感じた。また、大阪都構想を橋下徹氏の個人的なパーソナリティと結びつけるのではなく、政策として客観的に分析しようとしているのにも好感が持てた。
    個人的には、大都市は、日本経済、また地域経済を牽引する重要な役割をもった存在だと考えており、一元的なリーダーシップによって企業体としての都市全体の利益を見据えた経営を目指す「都市官僚制の論理」がより強化されるべきだと思う。その点で、大阪都構想というのは都市としての力を強化するための一つの解答になりうるのではないかと感じた。著者は、「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」のトレードオフ性を強調するが、私は、2つの論理は都と特別区等との役割分担により両立可能なのではないかと思う。
    「都市官僚制の論理」と「納税者の論理」をどのような手続きでバランスさせるか、という点についての、著者の提案である「都市における政党政治の創出」については、興味深くはあるが、地方自治に一律に国政のような政党政治を持ち込むことにはいささか懸念がある。ただし、大都市に限定して、地方議員選挙に比例代表制を導入したり、議院内閣制的な仕組みを導入することは検討に値すると思う。現行の地方自治法は、大都市であっても、小規模な町村であっても、一律に同様の二元代表制を規定しているが、本書を読んで、それぞれの自治体の性格に応じて、統治システムを選択可能にする多元的な自治制度が望ましいという思いを新たにした。

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著者プロフィール

神戸大学教授

「2023年 『世の中を知る、考える、変えていく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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