言霊とは何か - 古代日本人の信仰を読み解く (中公新書 2230)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022301

作品紹介・あらすじ

古代日本人は、ことばには不思議な霊威が宿ると信じ、それを「言霊」と呼んだ。この素朴な信仰の実像を求めて、『古事記』『日本書紀』『風土記』の神話や伝説、『万葉集』の歌など文献を丹念に渉猟。「言霊」が、どのような状況でいかなる威力を発揮するものだったのか、実例を挙げて具体的に検証していく。近世の国学者による理念的な言霊観が生み出した従来のイメージを覆し、古代日本人の信仰を描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 言霊とは何か。

    私たちの発する言葉には霊力が宿っていると考えられてきた、という言霊信仰について、私は個人的に好きである。

    音が言葉になる過程、それらを使って人と人が意思疎通を行い、ふつふつと語彙が増えて豊かになってゆく様子を想像すると、なんだかぞくっとしないか?

    本書の中心を読むには「あとがき」が一番適切である。

    「古代日本人が言霊やことばの威力というものをどのようなものだと考えていたか」
    「もともとことばにそなわる威力が発揮されたのではなく、神がその霊力を発揮したと見るべきものである」

    ここだけを取り上げると、力の源は神だったのね、という浅い感情で終わってしまうのだが。

    「古代日本人のことばに対する考えかたは既に原始的なアニミズムを脱し、天神•地祇すべてのことを決定し実現するという次の段階の思考に移行していた」

    という部分が重要なのだと思う。

    必ずしも、神と関わっていると考えるものではない、と筆者は前置きしているのだけど、言葉と社会を捉える一つの観点である。

  •  本著のまとめともいえる文章が序盤に書かれている。

     P17 【「言霊」が神のもつ霊力だったとすれば、ことばに対する当時の日本人の考えは、既に原始的なアニミズムの領域を脱していたことになるだろう。アニミズムというのは、自分たちの周囲にある多くの物にそれ特有の霊力がやどっており、自分たちが目にするさまざまな現象の一部は、そのような霊力によって引き起こされたものだ、というような考えかたである。一般的にはことばもその例外ではないが、「言霊」については、早い段階で、人間には備わっておらず神だけがもつ霊力だと考えられるようになっていたのではないか。】
     この、人から神へ、言霊を奪還させる、神に言霊を戻す論考が、この一冊全体を貫くテーマである。

     もっとも神の時代の血を濃く引き継ぐはずの神武天皇でさえも、多くの神々の霊威に頼るしかなかった。ことばの威力が発揮されて現実に影響を与えるのは、神がその霊力を用いる場合のみである。人間の発した言葉も、神がその言葉を聞き入れて霊力を発揮しているかたちになっている。

     日本武尊の決定的ミスについて論じているところが面白かった。神の前で無礼を行い続けることによる、自滅について取り上げているのだ。「うっかり発言」と本著で書かれているように、日本武尊の物語とは、「ことばに関する失敗」の物語であり、これが中核である。その土地に来たときはまずは国を誉めることが大事なのに、小さい海とバカにして船を沈められそうになり、弟橘姫を失うという重大な損失を被る。この国を誉める行為は、その天皇の発する言葉に威力があるのではなく、天皇が褒めたのを聞いて、神が天皇に支配者としての資格があるかどうか判断するのだ。それをことごとくミスして死んでしまう、という物語が「ヤマトタケル」なのである。

     また、伊邪那岐伊邪那美の、女性が先に発言したのが良くなかったというのは男尊女卑ではなく、むしろ国土の象徴ともいうべき女神を男神がまず褒めたたえるのが重要で、女性を先に惚れる発言させるなんて女性をなめてるのか、といったところだろうか。中国でも、同じらしい。

     さて、この神の言葉の威力、「言霊」は絶対であって、「岩屋に戻ってはなりません」と太玉命がいえば、太陽神である天照大神であろうと、戻ることはできないのである。身分関係なく、神の発言は全員に絶対なのだ。この仕組みが興味深い。
     天若日子と高木神のエピソードも、呪文をとなえて、矢を投げ返すと、容赦なく矢は神を殺している。高木神の発現は他の神に対する祈願でも依頼でもなく、事の実現を期するための呪文である。
    「言った言葉は容赦なくその通りになる」。この神の言霊の恐ろしさ、これは神の恐さと同時に、言葉のとてつもなさ、とりかえしのつかなさも表しているように思う。いや、そんな規模のものではなく、まるで、容赦ない津波とかウイルスで、身分関係なく人が死んでいく、そんな「現実」と、「言霊」は、限りなく近接していくものを感じる。

  • 古代日本人における言霊への考え方について。
    最近、(創作界隈で)言霊とかよく聞くので、とりあえず勉強しとくかーと思って読みましたら、やっぱりそんな便利なものではないというか、古代においては、一般的に考えているような、言葉自体になんらかの霊力が宿って実現する、というような用例ではなく、神が発する、もしくは人が発した言葉に対して神の霊力が働きかけて実現する、ということのようである。(前者は江戸の国粋学者が誤用したもののよう)
    古事記、日本書紀、万葉集から用例とって説明してるのでわかりやすい。(用例の少なさは気になるところではある)
    国望(くにみ)・国誉(くにぼめ)、見るなのタブー、夢相わせ、名付けについてなどの例を引用。
    あくまで古代にのみ焦点絞っているので結論がわかりやすくて読みやすい。

  • ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00236151

  • 【目次】
    まえがき [i-iv]
    目次 [v-ix]
    凡例 x

    序章 『万葉集』の「言霊」――言と霊と神と 003
    「ことば」の「こと」/「たま」という語/古語辞典の説明/『万葉集』に見える実例/「占」と神との関係/「言霊の八十」と「占」/ことばのアニミズム
    ◎ 「忌詞」の風習 (コラム1) 018

    第一章 呪文の威力――神と人と 020
    神のとなえる呪文/海幸彦と山幸彦の争い/富士山と筑波山の違い/呪いのことば/「とごふ」と「のろふ」/神への祈願と呪詛/人間による呪詛/井戸水に対する呪詛/発言による意味づけ/息子たちの危機
    ◎ 行為を禁止する発言 (コラム2) 046

    第二章 国見・国讃め――支配者の資格 048
    支配者による国見・国讃め/典型的な国讃め歌/国讃めの散文的な表現/須佐之男命・天照大神の国讃め/三柱の神の国見・国讃め/国讃めに逆行する発言/神々と天皇/神々の意思/国讃めができなかった話
    ◎ 皇太子選びと国見 (コラム3) 071

    第三章 国産み・死の起源――生と死の導入 074
    神が国土を創造する話/『出雲国風土記』の国引き神話/反復・重複の意味/禊を行う前の発言/国土の創造と神の発言/神の発言による死の導入/天皇の死を語る神話/『日本書紀』の所伝
    ◎ 黄泉国の境界にある千引石 (コラム4) 094

    第四章 発言のし直し――状況の転換 097
    天照大御神の「詔り直し」/「詔り直し」と言霊/国見・国讃めのし直し/皇子の経験した苦難/不適切な発言/二度目のうっかり発言/山の神の怒り/意味のとり違え
    ◎ ことばのとり違え (コラム5) 121

    第五章 タブーと恥――一方的な発言 125
    相手の発したことば/「驚くな」というタブー/妻の死と墓造り/妻に対する夫の怒り/「見るな」というタブー/「吾に辱見せつ」/山幸彦と海神の娘/海と陸の隔絶
    ◎ 黄泉国神話との類同性 (コラム6) 146

    第六章 偽りの夢合わせ――妻の発言 147
    鹿の夫婦の話/偽りが現実に/仁徳天皇と鹿の話/鹿の話の別伝/「鳴く牡鹿なれや」という反語/「鳴く牡鹿」と「なれや」/「刀我野に立てる……」の場合/雪とすすきの順序/伴大納言善男の不幸/他人の夢を自分のものに/郡司の息子の出世/夢合わせと神の意思/刀我野という聖地/夢合わせの特殊性
    ◎ 古代の諺 (コラム7) 181

    第七章 名前へのこだわり――実体との対応 184
    罪人の改名/和気清麻呂と姉の名前/名前に関するタブー/新たに与えられた名前/名前を献上する話/『古事記』の丹塗矢伝説/名前が表すもの/対応ができあがる要因/名前と実体の対応/名前の交換/名前を交換する論理
    ◎ 地名の由来を語る話 (コラム8) 213

    終章 古代日本人の言霊――神のことばがもつ霊力 215
    言霊と神への祈願/神武天皇と語臣猪麻呂/神の「言」と「霊」/『万葉集』以後の「言霊」/『万葉集』の解説書/近世後期の説明/近世の言霊思想
    ◎ 「言霊」と「木霊」 (コラム9) 231


    参考文献 [233-235]
    あとがき(二〇一三年七月 佐佐木隆) [237-241]

  • 言霊、言葉に宿っている不思議な霊威。古代、その力が働いてい言葉通りの事象がもたらされると信じられた。
    言葉には霊力が宿っており、その霊力が禍にも福働く、祝詞、寿詞、呪文、唱え事を、ことわざ、和歌、あいさつ語、忌み言葉など
    古い祝詞は、神々を褒め称え神に供え物を捧げることによって、人間の言葉の威力ではなく神神の霊力が発揮されることを期待する詞章である。

    言霊思想の変遷、古代日本人、現実の世界に変化をもたらすことができるのは神の霊力だけ、言霊は神に属するもの。近世の国粋主義者たち、言葉に宿っている不思議な霊威、

  • 言霊(ことだま)について、誤解してる部分がありました。非常に勉強になりました。

  • 神が話す言葉が現実のものとなっていく例が挙げられている。言葉に魂が宿る、言葉に備わる威力というよりも『神がもつ霊力に頼って事をなそうとする行為』と考えるのが適当なのか、『神が話す言葉だから、現実のものとなる』のか…

  • 言霊、言挙はこわいとかなり信じてる。

  • 14/09/21、ブックオフで購入。

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