人はなぜ集団になると怠けるのか - 「社会的手抜き」の心理学 (中公新書 2238)

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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022387

作品紹介・あらすじ

人は集団で仕事をする。しかし集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも一人当たりの努力の量が低下する。これを「社会的手抜き」という。例えば非効率な会議や授業中の問題行動、選挙の低投票率、スポーツの八百長などは「社会的手抜き」の典型である。本書では、このような「手抜き」のメカニズムを、多様な心理学的実験の結果から明らかにしていく。その防止策とは、はたまた功罪とは。リーダー・企業人必読書。

感想・レビュー・書評

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  • 組織などの集団において、どうして手抜きやフリーライダーが現れるのだろう。

    たとえば、作業内容に要因があるのか。
    集団のまとめ方、指示の仕方なのか。
    その人の生い立ちや性差、性格によるのか。

    様々な方向から検証が行われているので、読んでいると、自分が考えるヒントになった。

    結局のところ、手抜きを生じさせないことは難しそうだ。
    特に、外発的な動機付けでは限界がある。(まぁ、ここは予測していたけれど)

    しかし、集団における内発的動機付けってどうやってやるの?というところも、第8章でヒントが散りばめられていて、ありがたい。

    そして、手抜きは時に周囲のためにも必要になってきたりする。確かになぁ。

  • 途中まではよくある色んな心理学実験のデータ紹介。最後の章のまとめが多少面白いかな。

  • 集団になると手抜きするやつが出る。そうは言っても、一人二人でできることなんてたかが知れてる。世の中、みんなの力を合わせないと解決できない問題ばかり。手抜きなやつを排除しても、残った人にしわ寄せがいくだけで誰も幸せにならない。

    手抜きそのものが自然な現象だとしたら、問題は手抜きが偏ることなんじゃないかな。同じ人ばかりが楽をするから不公平。みんなが代わるがわる手抜きできるような、柔軟で大らかな社会であってほしいと思う。

  • 自己実現的予言と自殺的予言

  • ■社会的手抜き
     個人が単独で作業を行った場合にくらべて、集団で作業を行う場合のほうが1人当たりの努力の量(動機づけ)が低下する現象を社会的手抜きという。

    ■社会的手抜きの原因
    ・「道具性」欠如の認識:「自分が頑張っても、それが集団全体の業績にはあまり影響しない」
    ・「努力の不要性」の認識:他の人がしっかり仕事をしているので自分が頑張る必要はない
    ・「評価可能性」欠如の認識:たとえ頑張ってもそれが他の人にはわからないので評価されない

     …日常、指導的な立場にある人が緊急時でもリーダーシップをとることが明らかになった。上司は上司として、父親は父親として、その役割を果たそうとする傾向がある。よほどのことがない限り、責任が分散するとか、日常の役割を放棄して自己中心的振る舞いをすることはないようである。

    ■無意識での社会的手抜き
     社会的手抜きやケーラー効果が意識的に行われるものか否かについては明確ではないが、これまでのこの分野の数多くの研究をレビューした結果によれば、自己報告と実際のパフォーマンスの相関は0.25しかなかった。これは社会的手抜きの大部分は無意識のメカニズムに基づいていることを示唆している。もしそうであれば、社会的手抜きの存在を意識化させれば、それを低減することが可能になると思われる。

  •  「個人が単独で行った場合にくらべて、集団で作業を行う場合のほうが1人当たりの努力の量(動機づけ)が低下する現象」(p.ii)を「社会的手抜き」と呼び、「社会的手抜きと関連があるさまざまな社会現象を取り上げ、社会的手抜きの視点から分析」(p.239)した本で、具体的には「生活保護の問題、投票率、仕事中のインターネットの私的利用、八百長、集団浅慮、援助行動、カンニング、リスク行動、腐ったリンゴ効果、フリーライダー効果など」(同)を扱っている。
     おれは教員をやっているから、もちろん個人の発達の課題とか、カウンセリングとか、そういうものにも興味はあるけど、むしろそれよりも学級経営や集団授業をする視点で、教員のどういう声かけや振る舞い、あるいはどういうメンバーが集団全体の雰囲気を作るか、ということにはもっと興味があるし、学びたいと思っている。この本はそういう期待に応えてくれるもので、教員として興味深い事例が多いということを感じた。以下、気になった部分のメモ。
     まず「集団サイズと集団の生産性」(p.17)のデータが面白い。このグラフによれば5人までは生産性が上がるが、そこから先はあまり生産性が伸びていない。グループワークは5人まで、という感じだろうか。また、「社会的手抜きに対する集団の許容度が低下しはじめたと感じられた場合には、集団を分割してサイズを小さくするほうがよいであろう。組織サイズのスリム化は余裕のない組織ほど必要性が高いものと考えられる。」(同)ということもヒントになるかもしれない。でも手抜きに対する許容度って、どういう感じなんだろう?と思ったりもする。たださらに重要なのは「集団形成の初期に生産促進的圧力が加えられることによって、高い生産水準規範が形成された場合、監督者が退出しても高水準の規範が維持された。いっぽう、初期に規範水準が低い場合は、後半で監督者による圧力が加えられても、規範水準は低いままであった。このことから、いったん集団の中で社会的手抜きが発生すれば、場合によってはそれが暗黙の集団規範となり、その影響が長期間残ってしまうことが考えられる。そして、そのような状態になれば、集団を解体しない限り、回復させるのはかなり困難であるかもしれない。」(p.24)という部分は、教員だったら聞いたことはあるだろう「黄金の3日間」とか、初めに見せしめを作るとか、後から緩めるのは簡単、とかいったフレーズやエピソードと合致するもので、やっぱりそうだよな、と思う。そして話と直接関係ないが、心理学の授業で習ったかもしれないが、TATという「絵画統覚検査」(p.61)を、高校の英語のライティングの課題で応用することはできないかなあ、とか思った。ちょっと調べてみたい。次に、与える課題をチャレンジングにした方が生徒が食いつく、というのもあるが、これも当然ながら「認知欲求が低い被験者は挑戦的な課題であろうがなかろうが社会的手抜きを行った」(p.65)ということだから、やっぱり色んな課題からオプションで選択できるようにする、というのが理想だろう。そして、よく「ブレーン・ストーミング」は集団のファシリテーション技術の文脈で扱われることが多いが、これも「相互作用集団よりも名義集団のほうが、アイディア総数だけでなく独創的なアイディア数も多いということが明らかになった」(p.81)ということで、つまり「単独でアイディア出しの作業を行ったあとに相互作用集団と同じ人数である4人をランダムに集め」(p.80)た方が、うまくいくらしい。その後のpp.84-5ではアイディアの量ではなく質に関して、「実行可能性」と「独創性」という対立する概念が出てくるが、これを生徒に示して、ブレーン・ストーミングの後、実行可能で独創的なものに近づけるために、アイディア同士をつなげたり、模倣したりして変えていく、という方向を示すことがいいのではないかと思った。それから、「ルーチン化の呪縛」(pp.112-3)の話は、おれの前の仕事と関連する話題だったから、これも面白かった。つまり「訓練すればするほど、いざというときの行動の柔軟性が失われて、訓練で想定した以外の事態が発生した時に対応行動がとれない」(p.113)というのは、「訓練業界」にはバランスが難しいところ、ということだと思う。いざというときの行動は、結局は個人の資質なのか、とか。スポーツにおける社会的手抜きの話は、スポーツに興味のないおれにはあんまり面白いと思わなかったが、「チームの凝集性を高めることが集団競技の動機づけの低下を防止することに効果がある」(p.155)というのは、当然だが、実験ではその凝集性を高めるために「相互理解、関係構築、協働、コミュニケーション、目標設定、リーダーシップ、役割の明確化と需要、チーム規範といったテーマのもとで、研修訓練を2日間(正味12時間)にわたって行う」(同)ということをやったらしいので、学級開きから早い段階でこういったテーマで道徳の時間に意識的に仕掛けていくというのは割と大事なことだと思った。それと同時に、「応援は主観的には選手のパフォーマンスを向上させると思われている(選手自身も思っている)が、現実はそのようにならず、逆に応援は、どちらかといえば選手のパフォーマンスを阻害する傾向が強い」(p.176)という。だからと言って応援しなくていい、とも言えないし、普通の学級だったら応援という行為によって集団の凝集性を高めるという効果を重視した方がいいのではないかと思った。ただ最も教員として気に留めないといけないのは「腐ったリンゴ効果」かなあ、と思う。はっきり言って、どういうクラスを担任しても、言葉は悪いが「腐ったリンゴ」的な人物がいる、あるいは集団の中では(不幸にも)そういう役割になってしまう人物がいるものだと思うし、そういう人物を矯正しようというのは、おれの力不足のせいもあって、なかなかうまくいかないし、むしろリスクの方が多い。「やる気がない人に罰を与えていることが集団成員にわかるようにすることより、高い目標を設定して集団成員に示すことのほうが社会的手抜きを防ぐためには効果的であることがわかった。」(p.195)ということだそうだから、これは実践する価値があると思う。それから「プロスペクト理論」という、「利益の増大は主観的価値の増大(プラス方向)をもたらすが、主観的価値はすぐに頭打ちになってそれ以上伸びなくなってしまうのに対して、損失の増大は主観的価値(マイナス方向)の増大につながり、損失の増大に伴って主観的価値はますますマイナス方向に急激に増大する」(p.189)というのも納得。何かの本で、人が店の行列に並ぶのは、それに並ばなかったことによって損したという気分を味わいたくないから、というのを読んだ気がした。そして「社会的手抜き」の反対は「社会的補償」らしいが、それこそ「無用の用」(p.207)ということで、「同僚や上司の無能さを嘆き、それを支えている自分がいかに苦労しているかを語ることは、しばしば見られるが、これは社会的補償を表明していることにほかならない」(p.208)、つまり「無能な同僚の存在は周りの人の自尊心と動機づけの向上や維持に貢献している可能性もある。」(同)ということで、これもずーっと思っていたことだけど、納得。最後に、「優れた他者の情報を知らせること」(p.221)について、短期的には効果があるものの結局集団全体の士気を下げる、というから気をつけないといけない。「リーダーは情報の提示によって競争心をあおるのではなく、個人の貢献が集団全体にとっていかに重要かという『社会的不可欠性認知』を高めるような仕方で情報提示を行うべきであろう。そのために能力が低い人に対しては他者が従事しないユニークな仕事を担当させたり、集団全体の目標やそれを達成すれば得られる報酬を明確に提示するといったことも考えられる。」(p.221)という部分は参考になった。
     教職課程とかで集団の心理について、あんまり習ったことがない気がするが、こういう知識は必須でやらないといけないことなんじゃないかなあと思う。同時に、たぶん経験則で書かれた教師向けのクラス・マネジメントの本の実践と一致する部分は多々あるので、経験を積めばこういう理論はもしかすると勉強しなくても後から補える、ということではあるかもしれない。「あとがき」で紹介されている『グループ・ダイナミックス 集団と群衆の心理』という本もぜひ読んでみたい。(22/01/28)

  • ・集団になると人は怠け、単独作業より努力の量が低下する。1+1が2にならない
    ・社会的手抜きを無くすのは難しい
    ・女性は対人関係指向で人間関係に注意を払う傾向がある
    ・男性は同調しないことで他者より優位に立つことを考えたり、それができなければ集団から離れたりする
    ・腐ったリンゴ効果は存在する
    ・対策としては、リーダーによる働きかけ、監視、社会的手抜きという現象がありそれが現に見られたという情報を与えるなど

  • 集団での作業努力が個々人の努力量の総和よりも低下する現象「社会的手抜き」を、綱引きや居眠り、生活保護や投票に至るまで数多くの具体例を提示しながら、その対策について論じている本。


    ここで明らかになるのは手抜きが、ただの怠惰だけではないということだ。
    例えば、仕事中にインターネットの利用などのサイバー手抜きを行うと気分転換ができたり、士気の上昇などが確認されている。また、集団サイズが大きい場合において、手抜きに対する許容度が大きければ、社会的手抜きの悪影響を受けにくいといった報告もある。
    このような手抜きの性質を筆者は、1.努力の不要性、2.道具性、3.評価可能性を挙げて説明を試みている。
    1.努力の不要性は、個人のパフォーマンス(成果)が、集団の業績にどれだけ貢献するかどうかの指標である。ほとんど全体に影響がなければ努力の必要性を感じなくなる。

    2.道具性は、個人あるいは集団のパフォーマンスがどれだけ報酬になるかどうか(成果や業績が報酬に役に立つか)の指標である。パフォーマンスの向上が報われないと感じると手抜きに繋がる。

    3.評価可能性は、集団の報酬が個人の報酬につながるかどうかの指標である。全体が潤っても個人が貧しいままではモチベは低下する。

    このように、手抜きにはある種の「合理性」が見て取れる。もちろん、社会的手抜きによる損失は存在し対策を講じられてきた。だが、逆にその社会的手抜きが、集団や組織を維持している側面も存在している。「手抜きの攻防戦」は今に始まったことではなく、今後も決着がつきそうにもない。
    なら、手抜きの多面性を認めた上で、どう付き合っていくのか。それを考えるのが今後の課題である。

  • きめ細かい指導を受けて入学してきた新入生が大学で直面するのは、選挙権を持つ大人として扱われ、自主性が重んじられることです。大学での実り多い日常を過ごしてもらうためにあえて、「怠ける」を題材にした本書を推薦します。

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000865030

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著者プロフィール

大阪大学大学院人間科学研究科教授

「2011年 『グループ・ダイナミックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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