ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書 2272)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022721

感想・レビュー・書評

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  • ・歴史的背景や世界情勢と共に、ヒットラーの残した演説から150万語分(速記されてたり、映像、音声で残っているもののみ)を、ナチスが与党になる前と与党になった後で分けて分析している
    ・どのような演説がされて、ヨーロッパを戦禍に巻き込んだのかが描かれていた
    ・ナチスが独裁していた頃も選挙結果だけ見れば、国民に望まれてたように見える。しかしナチスの資料には、党員ではない国民には「距離を置かれていた」又は「嫌われてた」ことが書かれていた
    ・ナチスの蛮行は全く支持できず、悪魔だと思う
    ・ヒットラーも独裁者として人間性は最悪だった
    ・しかし、演説家としてみると、群集心理学を学び、弁論術を学び、オペラ俳優から発声法・ジェスチャーの効果的な使い方等を学び、実践し問題点を改善し続け、最新技術を使いこなす、ある意味『勤勉』な姿が見える
    ・テロール教授の怪しい授業という漫画で、テロリストやカルト信者等凄く偏った考えを持つ人々が狂ってるが、一方で、合理的で最新技術に貪欲な勤勉さがあると説明されてたことを思いだした

  • ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書) 新書 – 2014/6/24

    2015年8月24日記述

    高田博行氏による著作。
    アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)の演説データを集め分析を加えた上で
    ナチ運動期、ナチス政権の勃興から終わりまでの変化を読み解いていく。

    自分の知らないヒトラーの側面を知った思いがする。
    私たちの抱くヒトラーのイメージは当時のナチスの狙い通りのイメージのままだ。
    (ある意味ナチスのプロパガンダは優秀だったということだろう)

    飛行機をチャーターし全国を遊説しまわった選挙活動というのは凄い。
    今の時代でもある程度参考になりそうだ。
    (当時は野党でありラジオ放送を使えなかった為)
    併合や進軍の度の国民投票、住民投票。
    国民投票、住民投票したからと言って必ずしも合理的、正しい解答を導くわけではない。
    それにしてもナチスは選挙、住民投票しまくりだなと。
    似たような独裁者のスターリン、毛沢東、ポルポトは
    虐殺数こそ上かもしれない。
    ただ選挙を経て世の中に登場してきた訳ではない。
    時々日本の政治で相手を非難する際にヒトラーとなじることがある。
    いつも独裁者と言えばヒトラーにしか例えることが出来ないのかと違和感を覚えていた。
    スターリンや毛沢東、ポルポトもいるだろうと。
    しかし他の独裁者とは決定的に違うのだ。登場してきた背景が。
    (もちろん第二次大戦中でも総理大臣が絶えず交代した日本に今後も独裁者が君臨するとは思えないが・・)

    ヒトラーは演説することができたというのは間違いのない事実で才能があったのだろう。
    世間で言われるラジオがあったから熱狂が生まれたというのはある意味誤解なのだという点が意外であった。
    ラジオ放送に向かって音声を吹き込んだヒトラー演説は聴衆へ語りかけた演説とは別物だった。
    ゲッベルスも認めていたように生の演説、聴衆との一体感は大事なのだ。
    ただ敗戦近くでは失敗したラジオに向かって吹き込む演説しか放送できなくなっていた。

    それにしてもこれだけのヒトラー演説データを分析した事が凄い。
    わが闘争、ゲッベルスの日記と本書の演説データからの分析によってより当時の実態がリアルに立体的に浮かび上がってきたように思う。

  • 結局、最後に勝つのはラジオでもネットワーク配信なのでもなく、目の前にいる人間とラウドスピーカーなのであるという現実。

  • ヒトラーの演説を、6つの期に分けて分析。
    私たちが最もよく知るヒトラーの映像は、彼が最も勢いを持っていた時代のもの。
    その後、政権を掌握し、政情が悪化するころには、聴衆の熱気は失われ、ヒトラー自身も演説の意欲を失っていたという。

    歴史の舞台裏を見て驚愕する、一冊。

    これを、歴史書ではなく、自分の仕事(スピーチやセミナーで人を動かす仕事)にしようと思ったので、「ビジネス実務」としました。

  • [妖惑の所以]熱狂的な身振りと扇情的な叫声、そして過激なレトリックに満ちているものと思われがちなヒトラーによる演説。国民を鼓舞し、「狂気」へと駆り立てていったとされる演説の実態はいかなるものであったかを、計量的なデータや音声や映像の記録をもとに検証した作品です。著者は、大阪外国語大学の教授などを歴任され、近現代のドイツ語史を専門とする高田博行。


    ナチスやヒトラーに関する作品は数あれど、弁論術や言語データを利用しながらここまでその本質に迫った研究は珍しいのではないでしょうか。ヒトラーの歩みに合わせたドイツの歴史を縦軸に、言語論的な情報を横軸に据えながら、ヒトラーの演説が解き明かされていく様子は圧巻の一言です。


    〜国民を鼓舞できないヒトラー演説、国民が異議を挟むヒトラー演説、そしてヒトラー自身がやる気をなくしたヒトラー演説。このようなヒトラー演説の真実が、われわれの持っているヒトラー演説のイメージと矛盾するとすれば、それはヒトラーをカリスマとして描くナチスドイツのプロパガンダに、八〇年以上も経った今なおわれわれが惑わされている証であろう。現在そして今後とも、われわれが政治家の演説を目にし耳にするときには、膨らまされた「パンの夢」に踊らされ熱狂している自分がいないかどうか、歴史に学んで冷静に判断できるわれわれでありたいと思う。〜

    着眼点の勝利☆5つ

  • 150万語に及ぶ演説原稿を書き起こし、それをコンピュータにかけて単語の出現頻度等々を定量的に分析したものを素材として、「史上最凶の煽動者」ヒトラーに迫る好著。本書の優れているのは、こういったハード面からの分析と、身ぶりや抑揚、聴衆を鼓舞する演出といったソフト面のそれの両方が、ともに高いレベルで達成されている点である。著者は言語学者だということだが、私はてっきりレトリック、あるいは宣伝の専門家だとばかり思っていた。そのくらい、その方面の指摘も鋭いのである。
    こけおどしの「魔術的」なヒトラー(および彼の演説)を、後世の私たちもまた「恐るべき」「悪魔」などとふんわりしたもの言いで大雑把にくくることが多かったが、こうして科学的に丸裸にされた彼は、尾羽うち枯らしてむしろ哀れですらある。21世紀の今、書かれるべきだった良書と言えよう。

    2016/9/15〜9/25読了

  • 25年間150万語に及ぶ演説のデータを分析した物。
    意外だったのは政権をとってからのヒトラーは演説を面倒臭がってやらなかったということ。

  • ヒトラーの演説を、古典期のギリシャに始まった弁論術(①発見、②配列、③修辞、④記憶、⑤実演)の観点から、表現技法、音調、使用する単語や動詞、主語や目的語の使い方に至るまでを細かく分析し、さらに演説の時刻による差異、大衆心理の利用、アメリカ流の広告術を用いたプロパガンダの手法、ジェスチャーによる聴衆への効果等、論理より感情で訴える演説の裏には緻密なからくりがあり、それをいとも美しくこなすことのできるヒトラーは真の天才的な演説家であったことを物語っている本。
    また、ヒトラーはオペラ歌手によって発声法の指導を受け、それによって演説中の基本周波数(ヘルツ)を変化させていたなど、非常に興味深い裏話もあった。

    まったく関係ないが、ヒトラーとクビツェクの関係はジョブズとウォズニアックのそれと似ているなぁという印象を受けた。

  • 歴史上最も有名であろう独裁者、アドルフ・ヒトラーの演説について、言語学、弁論術、ジェスチャーなどあらゆる方面から分析を試みた力作です。

    ヒトラーの演説が、なぜ当時のドイツ国民を鼓舞できたかについては、そのジェスチャーの巧みさにあるということが一般的に言われてきました。
    しかし、筆者は演説文そのものに着目することで、それが緻密に計算された、弁論術として非常に高度な演説内容であったことを明らかにしてゆきます。
    またジェスチャーの技法についても、ある舞台俳優の指導を受けることによってより洗練されたものとなり、演説の完成度をさらに高まらせたことを指摘しています。

    しかしながら、国民は次第に彼の演説に飽きるようになります。ナチス政権発足から1年半後にはすでにその傾向がみられるという指摘には驚きを隠せません。
    また、人々に演説を聞かせるために、ナチスはラジオを積極的に活用し、聴取を義務化しましたが、それは却って国民に「聴く意欲」を失わせ、ヒトラーと国民の距離を遠ざけてしまう結果となったようです。
    この現象を、筆者は、ヒトラーと国民の関係が、演説の「語り手」と「聴き手」の関係から、単に「管理する者」と「管理される者」に変えてしまった…と表現しています。
    第二次世界大戦勃発後にはその傾向はさらに顕著になりました。ヒトラー自身が敗北のストレスから演説を避けるようになったこともあり、国民の心はますます離れてゆきました。国民から信頼を得られない演説は、どれほど弁論術に長けていようと、かつてのような効果はもたらさなかったのです。
    そして1945年4月30日、ソ連軍が迫る中でヒトラーは自殺し、翌5月初めにドイツも無条件降伏を受け入れ、第三帝国は消滅することとなりました。

    従来のヒトラーのイメージを覆す、興味深い研究です。

  • 「強い印象を残す事象」というものは「事実」または「事実の一部」かもしれないが、実は「真実でもない」のかもしれない。或いは、「事実」に真摯に向き合おうとする中でこそ、「真実」に近付くことが出来るのかもしれない。「強い印象を残す事象」の“印象”に引き摺られた「判っている」と言い張ってみる「知ったかぶり」や、何やら“建前論”を振り回して「事実」に向き合うことを避けてしまうようなことからは、「真実」には辿り着くことが出来ない…

    そんなことを思わせるドイツ語学者による労作である。お奨め!!

著者プロフィール

京都市生まれ。学習院大学文学部教授。Dr. phil.(ブラウンシュヴァイク大学)、DAAD給付奨学生、フンボルト財団招聘研究員。近現代のドイツ語史、歴史語用論、歴史社会言語学。主要著作にGrammatik und Sprachwirklichkeit von 1640-1700(単著 Max Niemeyer 1998, Reprint: Walter de Gruyter 2011)、『ドイツ語が織りなす社会と文化』(共編著 関西大学出版部 2004年)、『歴史語用論入門』(共編著 大修館書店 2011年)、『言語意識と社会』(共編著 三元社 2011年)、『ドイツ語の歴史論』(共編著 ひつじ書房 2013年)、『歴史語用論の世界』(共編著 ひつじ書房 2014年)、『ヒトラー演説』(単著 中公新書 2014年)、『歴史社会言語学入門』(共編著 大修館書店 2015年)。

「2015年 『欧米社会の集団妄想とカルト症候群』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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