スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121022745

作品紹介・あらすじ

「非道の独裁者」-日本人の多くが抱くスターリンのイメージだろう。一九二〇年代末にソ連の指導的地位を固めて以降、農業集団化や大粛清により大量の死者を出し、晩年は猜疑心から側近を次々逮捕させた。だが、それでも彼を評価するロシア人が今なお多いのはなぜか。ソ連崩壊後の新史料をもとに、グルジアに生まれ、革命家として頭角を現し、最高指導者としてヒトラーやアメリカと渡りあった生涯をたどる。

感想・レビュー・書評

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  • スターリンが「非道の独裁者」であったことは確かだが、むしろ彼はレーニンの赤色テロに学んでいる。1990年代以降の解禁文書で明らかになったレーニンによる戦慄すべき指示が、そのことを示している。

    さらに言えば、当時のロシアの経済状態や、干渉戦争・侵略戦争にさらされるという強い留保が必要だとはいえ、国家権力を奪取して「プロレタリア独裁」を通じて社会主義革命をおこし、革命プロセスを遂行するということは、こうした暴力によらざるをえないのではないか、ということになってしまうのではないか。

    とすると、国家権力の奪取によって社会主義革命を成し遂げるということそれ自体に、「スターリン」がすでに内在していたのではないか。逆に言えば、「スターリン」を出現させないような社会主義革命がもし可能だとすれば、それはどのような道によるのか。そうした問いが立てられるのではないか。

    旧左翼が言うように、「別の道」は本当にありえたのだろうか。

  • 「毎日新聞」(2014年9月28日付朝刊)で、
    加藤陽子さんが紹介しています。
    (2014年9月29日)

  • ソ連という国に興味を持って購入。スターリンを通してロシアを理解するという趣旨には叶っていると思う。個人的には独ソ戦の顛末なども学べて良い本だと感じた。

  • 基礎的な知識があることを前提とされているが、それでも読みやすい良書だと思う。
    淡々といろんな側面からの考察がなされているが、それがゆえに「非道の独裁者」感がマイルドになっている感じもある。
    それがあっても、勉強になった。

  • 第二次世界大戦〜独ソ戦からの流れでスターリン。スターリンの本はあまり良いのが見つからない。何が決定版なんだろう。この本は新書だし、一通り流れが分かるので、そこは良い。ただどうも違う。スターリンはもっと残虐なはず。マオを読んだ時のあのもういいからと言う残虐さのリピートがない。すごくあっさりしている。新書だからかな。後は筆者が本当はそんなに悪い奴では無かったのではないか、と言う見方もロシア内にはあると言うスタンスで買いているからもうある。ただスターリンにしてもソ連崩壊後色々な資料が出てきたりしているし、終戦の近い所で書かれたものよりも新しい書を読むべきなのかもしれない。

  • 【スターリンは今もなおロシアと外部世界の間にあって、両者の関係を示す重要な指標なのである】(文中より引用)

    「非道な独裁者」として語られる一方、少なくない数のロシア国民から今なお高く評価されているスターリン。ロシアという窓を通し、スターリンについて、そしてスターリンという窓を通してロシアについて思考を巡らせた作品です。著者は、『東アジアのロシア』等を世に送り出している横手慎二。

    これまで数多くの評伝が数多くの評価と共に著されてきたスターリンですが、近年までに公開された資料に基づき、その評価の幅までをも射程に収めて概観した有意義な作品。スターリンという人物がどのようにロシアにおいて語られているかを考える上でとても参考になりました。

    コンパクトにまとまっていて☆5つ

  • スターリンは、黒海とカスピ海に挟まれたカフカース(コーカサス)地方のグルジア出身。本名はヨシフ・ヴィッサリノヴィッチ・シュガシヴィリ。流刑・脱走を繰り返すなかで捜査当局の追及をかわすために変名を使いだし、そのうちの一つ「スターリン」が呼び名として広まり、定着したのだという。

    「スターリン」で思い浮かぶキーワードは、猜疑心の塊、残酷で無慈悲な政策、大量の餓死者、政敵の大量処刑、といったところだろうか。

    ヒトラーと並ぶ最悪の指導者・独裁者として憎しみを込めて語られることが多いスターリンだが、本書は、できるだけバイアスを排除し、ニュートラルに真のスターリンの姿を描こうとしている。

    スターリンがやろうとしたことは、後進国のロシア・ソ連を「農業国から工業国へ、電化と金属の国へ、機械とトラクターの国へ転化させること」。その為に農民を農業集団化(コルホーズ、ソホーズ)し、その収穫をただ同然で搾取して外貨を獲得し、工業とりわけ軍事産業を強化した。不作の年にも穀物を大量に供出させ、農民の逃散を許さなかったため、ウクライナなどの穀倉地帯で大量の餓死者を生んだ。1933年の餓死者数は、一説には第一次大戦で死亡したロシア国民よりも多い500万に上るともいう。農民の犠牲の上に無理に工業化を進めたための悲劇だった。

    この事件、同じく大量の犠牲者を出した毛沢東の大躍進政策と類似していて怖い。どちらも、理念先行の共産主義・全体主義と、その指導者の失政が生んだ悲劇、と言えるのかも知れない。

    権力を完全に掌握した後も、失政を糾弾される事を恐れるあまり猜疑心に駆られ、潜在的な政敵を次々逮捕して処刑していった(例えば、1936年~38年の大粛清では、68万人あまりが処刑された)という。誰も止められなかった事がホントに恐ろしい。

    ロシア国内でのスターリンの歴史的評価は、未だに割れているとのこと。因みに、スターリン擁護派は、「スターリンの犯した政治的誤りや違法行為は、彼が歴史的偉業を成し遂げる過程で生じた付随的現象として」過小評価する傾向にあるという。「スターリン主義とは、「犯罪と失敗、それに歴史的勝利の不可分の一体」だと」。

    本書を読んで、スターリンの人物像や事績を何となく掴むことができた。スターリン、冷酷非道な面はあるにしても、案外普通の人とそう変わらない人物だったのかも知れない。

    バランスの取れた良書と思う。

  • スターリンという人物ほど評価の分かれる人はいない。しかも、ソビエト連邦を率いた独裁者だけあって経歴の謎の部分が多い。
    本書はスターリン関係の研究や書物を幅広く取り上げ、スターリンの経歴や評価について紹介されている。

    読んでて、スターリンの人生の中でのポイントと思われるのは、まずはグルジアに生まれた育ったこと。いわゆる「ソソ」の時代。そしてカフカース地域で生きたことで民族問題に取り分け関心があったこと(これが現在のロシア民族問題につながっていく)。幼少期の家庭環境や神学校時代に馴染めなかったことなど様々な事象がある。

    次に神学校から退校処分後の「コーバ」の時代。社会革命に共鳴し、地下活動を開始。1903年にはロシア社会民主労働党ポリシェヴィキに属し、潜伏活動。捕まればシベリア流刑という死と隣り合わせの時期である。この時期にスターリンの疑り深い人格が形成されていく。
    この時期に出会ったレーニンの影響も計り知れない。レーニンの「赤テロル」など強硬な手法は後のスターリンにも引き継がれていく。

    ロシア革命後の政争、カーメネフ、ジノヴィエフとの争い。トロツキーとの争い。この時期になるとスターリンのしたたかさが滲み出てくる。

    1928年より、スターリンの否定的評価の土台となる数度の「5ヵ年計画」が実行される。当時はイギリスとの関係も悪化しており(後に対ドイツで協調に転換)、目下の課題は工業力であり軍事力であった。
    工業力を高めるためには資本を工業分野に投入する必要がある。そのためスターリンは農民の中でも富裕と見なした者から膨大な税を課し、その他農民からも搾取した。この施策により、死者数は数百万とも数千万人とも言われている膨大な人数であり定かではない。

    さらに1930年代以降は粛清の嵐である。三人法廷(トロイカ)を設け、ジノヴィエフやカーメネフ、トゥハチェフスキーらが処刑されていく。さらにキーロフやトロツキーの暗殺などもある。

    そして第二次世界大戦では例えば1939年フィンランド戦争、1941年から始まったドイツのソ連侵攻の際の攻防戦では、大人数の軍隊の突撃戦を繰り返して膨大な死者を出している。これは1939年ノモンハン事件の際にソ連軍死者数は日本軍死者数の約10倍という数からも無謀な作戦であるということが分かるだろう。
    ただし、結果的にスターリンは第二次世界大戦の勝者となり、戦後すぐもアメリカとの協調関係は維持する必要性も理解していたらしい。この点は政治家スターリンの凄さと言えよう。

    そういう意味では戦後の医師団事件やメグレル事件などのでっちあげ事件はスターリンの晩年ということもあり、耄碌した末に起こしたのかもしれない。

    上記に書き連ねたようにスターリンの歴史を紐解くと人間スターリンが垣間見えると同時に、スターリンの功罪も少し見えてくる。この功罪を今後どう評価していくかが課題となるのだろう。

  • 本書は、ヒトラーとともに独裁者として名の知れたヨシフ・スターリンの生涯を、彼の生い立ちから性格の変遷、そして言動や功績・失敗、彼を取り巻くソ連内外の事情などを通じて概観する書籍である。また、スターリン死後におけるソ連研究者やフルシチョフ、ゴルバチョフらによるスターリンの歴史的評価をも取り扱っており、ある政治家に関する普遍的な歴史評価の難しさを示唆している。

    青年期までを除き、ソ連全体としての動向の中にスターリンを位置させて論じているため、単に彼の言動を知ることに限らず、ソ連指導部が行ったことも勉強することができた。第1章から3章までは資料の少なさに関わらず、レーニンに接触するまでのスターリンの実像をそこで実際に見ていたかのように描いているので興味深かった。特に彼が母に宛てた手紙が残っていることに衝撃を受けた。

  • やはり人を中心としての歴史の方が分かりやすいので
    大河ドラマは人気なのだろうか。

    本作はスターリンの一生を当時の情勢を含めて(多分)さらりと紹介している。
    (側近や条例など、掘り下げようとすればもっと分厚い本となるだろうが、初心者にも手に取りやすい一冊であった)

    出生年代が不確かだったり、父親疑惑や貧しい家庭、地方出身というのは意外であった。
    (また、家族が結構不幸というか、幸せな一家団欒ではないのだなぁ。。)

    断言せず、可能性を示唆したり、違う方面の情報も紹介してくれたりと 
    可能性の一部として提示してくれているので更にとっつきやすいかと思う。
    ジョブズ氏も一緒に働く事で同僚に嫌われたりしたし
    スターリンもどんどん周囲の人を逮捕しているし
    当事者がどんな対応をされたかによって印象は変わるだろう。。

    今コロナ禍で 確かにスパッと決めてくれた方が楽な方面もあるので 正しいかどうかはあるけれど
    強烈な指導者というのを歓迎する風潮も分からなくはないかなぁ、とも思う。
    後、交代すると前任者の方がよかった となるような。

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著者プロフィール

慶應義塾大学名誉教授

「2017年 『黒海地域の国際関係』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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