歴史と私 - 史料と歩んだ歴史家の回想 (中公新書 2317)
- 中央公論新社 (2015年4月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121023179
作品紹介・あらすじ
日本近現代史研究を牽引してきた大家が、八〇年以上にわたる自らの歩みを語る。若き日の共産党体験、歴史観をめぐる論争、伊藤博文から佐藤栄作にいたる史料収集と編纂、岸信介、後藤田正晴、竹下登などへのオーラル・ヒストリー…。その秘話やエピソードは、歴史の面白さを伝えると同時に、史料を集め、次代へ引き継ぐ歴史家の責任の重さをも物語る。史料を駆使して近現代史を切り開いた泰斗の稀有な回想録。
感想・レビュー・書評
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日常の何気ない選択が人生を決定的に変えることがある。もしもデモに参加していなければ樺美智子は長生きしたことだろう。ブントと訣別していた可能性もある。国史を研究していたわけだからひょっとすると保守論客になってもおかしくはない。今日の行き先次第では自分が死ぬこともあり得るのだ。
https://sessendo.blogspot.com/2020/09/blog-post_52.html -
[評価]
★★★★☆ 星4つ
[感想]
著者と司馬遼太郎のエピソードを書評サイトで知って、読み始めたんだけど近代、現代の日本の政治に対する著者の取り組みは非常に好感が持てる内容だった。
現在を生きるものが少し過去、あるいは現代の人々の手紙や日記等のような資料をまとめ、書籍として出版することは未来の歴史家が今の世の中を調査するための貴重な参考文献になるだろうし、現在の人々にとっても今まで知られていなかったことを知る良い機会になるだろうと思う。
ただ、戦後から現在にかけての政治については私はほとんど知識を有していないので読み流す感じとなってしまったことは残念ではあるがそのうち知る機会もあるだろうと思う。 -
アマゾンの気になるレビュアーがおすすめしていたので手に取る。 オーラルヒストリーの先駆者が自身について語る。資料を発掘し、資料を保存するというのがいかに大切なことかを思い知る。 本書で筆者は明治新政府を支えた人物は自分が歴史に残る仕事をしているという気概を持っており、したがって記録が克明に残っているという趣旨のことを言っている。平成の世の指導者たちはどうなんだろう?大戦の時の
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失敗は?
それがユーモラスに語られるような場面は無い。 -
大久保利謙『日本近代史学事始め』みたいなものか…と思ったらちょっと違う。とにかく色々な人に連絡をとってインタビューをして史料を預かり/貰い、出版して…みたいなことがずーっと書いてある。すごい仕事量である。と同時に、たくさんある資料群の整理について、誰と仕事をしたかいちいち書いてあって、えらいもんだなと思った。
ずーっと読み進めていると、なんだか自慢話のようだなあ…と思っていたところ、最後のほうで「どのみち人は、他人の話を聞いたら自慢話だと思うわけで、私が何をしゃべったって自慢話だと思うでしょう。」(p.265)と書いてあって、「あ、自分の話は自慢話だと認識してるんだな」と思った。
ただ「新しい教科書」についての記述は分散的で、ひとつの「章」になっていない。のはちょっと意外だったか。 -
勉強になりました。
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東大名誉教授の日本近現代史学者である伊藤隆氏の自伝というか、オーラル・ヒストリー。1人の歴史家の人生として、非常に面白かった。
著者は、学生当初こそマルクス主義を信奉していたが、その後、反マルクス主義、実証主義を貫き、反対の立場の歴史学者からは、「反動歴史学者」や「御用学者」と非難されてきた。著者の主張は、「マルクス主義の一般法則、発展段階説と階級闘争論で日本近代史を読み解こうとすると大変な矛盾が生じる。それを解決するためには、前提(=マルクス主義;評者注)を取っ払わなければならない」というもので、今から思うと至極当然のことと感じるが、マルクス主義史学が歴史学会を席巻していた当時に一貫してこのような主張をしてきたことは大変勇気がいることだったろうと思うし、敬意を表する。ただ、東大受験生の入試答案を採点していると、受験生の大半が過激な左翼としか思えないという感想も述べられていたが、それは言い過ぎではないのかと感じるなど、著者にも「反共」というバイアスが結構かかってるのではないかという印象も持った。また、「新しい歴史教科書をつくる会」に関わったのは著者にとってあまり良い判断ではなかったのではないかと考えるが、そのことについてあまり触れられていなかったのはちょっと物足りなかった。
本書で述べられている、歴史学者の人的つながりの話や、オーラルヒストリーのインタビュー等での人間模様はなかなか興味深く、面白いものだった。特に、平泉澄氏へのインタビューのエピソードが印象深かった。
本書を読んで、近現代史史料の開拓と蒐集の重要性もよくわかった。近現代史史料の整備という点で著者の功績は大きなものがあると感じた。著者がいなければ、今頃、散逸して所在不明になっていた史料がたくさんあったのではないかと思われる。 -
日記・書簡の史料収集、歴史観論争、そして政界、官界へのオーラル・ヒストリー。近現代史を切り開く。
日本近現代史を牽引してきた大家が、八十年以上にわたる自らの歩みを語る。その秘話やエピソードは、歴史の面白さを伝えると同時に、史料を集め、次代へ引き継ぐ歴史家の責任の重さをも物語る。史料を駆使して近現代史を切り開いた泰斗の稀有な回想録。(2015年刊)
・まえがき
・第一章 共産主義との出会いと訣別
・第二章 昭和史へー史料収集事始め
・第三章 木戸日記研究会のことなど
・第四章 革新とは何か
・第五章 ファシズム論争
・第六章 近衛新体制をめぐる人々
・第七章 戦前・戦中・戦後の連続性
・第八章 茨城県議会史と東大百年史
・第九章 明治の元勲から岸・佐藤まで
・第十章 昭和天皇崩御
・第十一章 インタビューからオーラル・ヒストリーへ
・第十二章 竹下登、松野頼三、藤波孝生
・第十三章 海原治、渡邉恒雄、宝樹文彦
・終 章 史料館の挫折と人物史料情報辞典
・あとがき
ものすごく明け透けに書かれており、めっぽう面白い。残念なのは人物索引が欲しいところ。 -
法学部の武田先生をはじめ知り合いが沢山登場していた。ちょっと驚いたのは、先年亡くなった経済学部の加藤瑛子先生(日本経済史担当)が登場していたこと。東大100年史の編纂に携わったことがあるらしい。また東日本大震災時の佐賀香織さんとのエピソードも出て来る。
また116ページに後藤隆之助保管の海軍省調査課の史料がうちの大学に移管されたことも記してある。
著者がおこなった数々の聴き取りのエピソードが面白いのはもちろんだが、現役研究者とのさまざまな人間関係とか諸々が色々と滲み出ていて(時にははっきり出ていて)、そっちのほうがむしろ業界的には興味をそそられる部分があることは否めないかも。