竹島 ―もうひとつの日韓関係史 (中公新書 2359)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023599

作品紹介・あらすじ

日本と韓国などが領有権をめぐって対立する竹島。それぞれが正当性を主張するものの議論は噛み合わず、韓国による占拠が続いている。本書は一六世紀から説き起こし、江戸幕府の領有権放棄、一九〇五年の日本領編入、サンフランシスコ平和条約での領土画定、李承晩ラインの設定を経て現在までの竹島をめぐる歴史をたどり、両国の主張を逐一検証。誰が分析しても同一の結論に至らざるをえない、歴史学の到達点を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史学が社会的プレゼンスを失って久しい。いつのまにか、歴史資料に基づいた歴史像の提示という営みは、声の大きい政治家や作家やいい加減な(すなわち歴史学の手法を学んだことのない)学者によって、かき消され続けている。(歴史学の側にも、政治的な闘争の場に乗り出していた部分はあるのだが)

    しかし、この本は、「声の大きい奴ら」を黙らそうと、歴史学の底力を示している。冷静な資料解釈と明快な批判は痛快とさえ思える。とりあえず竹島の領有をめぐる問題は、日韓ともに、本書の検討を経ずして今後語ることはできないだろう。

    ただ、憂うべきはこのような研究史の存在を無視する不誠実な人々である。本書でもその一例として塚本学が厳しく批判されているが、おそらく同様の人間はこれからも存在し続けるであろう。

    であるとすれば、こういう問題には非専門家たる読み手のリテラシーが問われる、ということになるのかもしれない。専門家の仕事とは、意見の対立する相手に直接対峙して論破したり、やり込めることではなく、冷静な議論を提示することにあるのではないか。近年、ガチンコで相手を論破することに意味を見出す政治家や、そのような「わかりやすい」結果に快哉を叫ぶ一般傾向があるように思うが、世の中そういうことではある問題に対する理解は深まらない、ということを本書は改めて教えてくれた。

  •  日韓双方が竹島を自国の領土であると主張しています。両国政府は、竹島が古い時代から自国の領有権の下にあったといいます。しかし著者は、これら双方の主張がともに、断片的な歴史資料などを自分の都合のよいように解釈して繋ぎ合わせたものに過ぎず、学術的根拠を欠いたものであることを解き明かしていきます。

     そして明らかにされることは、実は二十世紀に入るまでは両国とも竹島の領有権に対してほとんど何の関心もなかったらしいということです。結局のところ、1905年に日本が竹島を日本領に編入するとの閣議決定を行ったことが竹島領有権に関する両国を通じての最初の意思表示らしいのですが、このことをもって「竹島は100パーセント日本の領土だ」といえるかといえば、それも疑わしいことのようなのです。

     そもそも古い時代においては、全ての土地についてどこの国の領土だとか誰の所有物だとかいったことは意識されていなかったのではないでしょうか。土地なんて、本来は水や空気と同じようなものですよね。それがいつの間にか各国・各人が「ここは自分(たち)のものだ」と言い合っているなんて、考えてみればおかしな話です。

     でも、領土問題に限らず国家間、民族間、あるいは同一民族であっても立場や価値観を異にする人たちの間で戦わされている「どっちが正しくてどっちが間違っているか?」という議論のほとんどは、実は真偽などではなく単に好き嫌いの問題にすぎないのでしょう。そして人は、事実に対してではなく信じたいことに対して耳を傾けるものなのでしょう。

    “不条理な圧力に左右されることなく、学問的な手続きを経て到達した真実に従って自由な討論と発言ができる。そういう社会を次世代に引き継いでいけたらと切に願う” ── あとがきを締めくくる著者のこの言葉に、潔い学者の良心と信念を感じました。

  • 韓国くん「え?誰?ああ、ウルルンちゃんの友達か。そういやよく金魚の糞みたいにくっついてる奴いたな。名前?いいよどうせ憶えないし。会ったときに適当にアダ名つければいいっしょ」
    日本くん「はい?どちら様で?よく存じ上げませんが、韓国くんの彼女なんですかね…ええ、僕の彼女でないことだけは確かですハイ」
    みたいな扱いだった味噌っ滓・竹島ちゃんは、今頃になって彼氏面してくるふたりより、もっといい人と幸せになってほしいと思いました。

  • どちらかというと私はリベラルな方だと自認しているが、北方領土にしろ尖閣諸島にしろ領土ということになると素朴かつ土着的なナショナリズムが忽然とわき上がり、江戸時代の竹島が記載してある地図なんか見せられて、「日本固有の領土」だといわれると、『なるほど、そりゃそうだ』と思ってしまうのだが、よく考えてみると、日本海の真ん中に忽然とある島というか岩でとても人が定住できるとは思えない竹島の写真なんか見ると、いにしえの日本人も朝鮮人もこれを領土となんて思うことなんてなかったんじゃないのと思えてくる。日本列島に大和政権のような中央政治機構が現れる以前は、朝鮮半島南部と日本海の島々そして日本列島の日本海側の一部は渾然一体として人の行き来があったんではないのかというのが私の漠然としたイメージではあります。
    本書は竹島の領有権について、歴史学、文献史学の立場から分析し、日本政府及び韓国政府それぞれの見解に対し、誤りを指摘している。その立場は理知的、学問的で好感できる。江戸時代に時の江戸幕府が正式に竹島の領有権を放棄していることははじめて知った。徳川政権の内省的な性格から鑑みれば、十分にあり得べきことで、北方領土を含む北海道にしろ、徳川政権がほとんど自国領としてなすべき事は何もなさなかったことは、天明蝦夷探検隊に対し幕府が行った仕打ちを見れば明らかである。
    「固有の領土」というのは、古来から占有していた領土という意味ではないらしい。我が国が領土であると決定する以前にどこの国のものでもなかった領土という意味らしい。日本政府は、本書のように学問的に確認された事実を少なくとも、教科書には取り入れ正しい知識を国民に知らしめるべきであり、対外的にも、検証された事実をベースに理知的に交渉を進めてもらいたいものだ。

  • 日本側に偏らないのは良。
    歴史背景と論の整理はされている。
    韓国側は単純に資料がないだけか。
    とはいえ、韓国側が支配下に置いていた、というほどでもないが、常用していた感はあるか。
    韓国側が出鱈目を出している訳ではないということを記述している点だけでも評価。
    20世紀初頭からサンフランシスコ条約の背景の影響は大きい。

  • 竹島について古文書を紐解きながらあらゆる面から検証した本です。

    【こんな人におすすめ】
    竹島問題について興味がある人

  • 研究者ってかっこいい。

  • 第1章 「于山島」は独島なのか―韓国側主張の検証1
    第2章 一七世紀に領有権は確立したか―日本側主張の検証1
    第3章 元禄竹島一件―なぜ日韓の解釈は正反対なのか
    第4章 「空白」の二〇〇年―外務省が無視する二つの論点
    第5章 古地図に見る竹島―日本側主張の検証2
    第6章 竹島の日本領編入―その経緯と韓国側主張の検証2
    第7章 サンフランシスコ平和条約と政府見解の応酬
    終章 「固有の領土」とは何か

    著者:池内敏(1958-、愛媛県、日本史学者)

  • 竹島問題について歴史学の立場から冷静かつ緻密に分析している。竹島問題を考えるうえでは必読であろう。
    結局、近世以前の竹島をめぐる日韓双方の主張にはいずれも決定的なものはなく、重要なのは近代になってからの竹島の日本領編入の妥当性ということだ。国民国家や領土という概念が明確でなかった近世以前の事例から、現代の領土問題を語ろうとすることに無理があるということだろう。
    1905年の竹島編入については、当時において合法ではあるが、日本が韓国への影響力を強める時期の編入であり、評価は正直難しいと感じる。やはり、どちらに転ぶかはわからないが、第三者(国際司法裁判所)の判断に委ねるか、さもなければ、「棚上げ」を続けつつ共存の道を模索するかしかないのではないかと思う。

  • 2016年3月新着

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著者プロフィール

1958年 愛媛県に生まれる
1982年 京都大学文学部卒業
1991年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程中退
現 在 名古屋大学大学院文学研究科教授,博士(文学)
著 書 『近世日本と朝鮮漂流民』(臨川書店、1998年)
    『「唐人殺し」の世界』(臨川書店、1999年)
    『大君外交と「武威」』(名古屋大学出版会、2006年)
    『薩摩藩士朝鮮漂流日記』(講談社選書メチエ、2009年)
    『竹島問題とは何か』(名古屋大学出版会、2012年)
    『竹島 もうひとつの日韓関係史』(中公新書、2016年)

「2017年 『絶海の碩学 近世日朝外交史研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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