左遷論 - 組織の論理、個人の心理 (中公新書 2364)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 41
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023643

作品紹介・あらすじ

左遷という言葉は「低い役職・地位に落とすこと」の意味で広く用いられる。当人にとって不本意で、理不尽と思える人事も、組織の論理からすれば筋が通っている場合は少なくない。人は誰しも自分を高めに評価し、客観視は難しいという側面もある。本書では左遷のメカニズムを、長期安定雇用、年次別一括管理、年功的な人事評価といった日本独自の雇用慣行から分析。組織で働く個人がどう対処すべきかも具体的に提言する。

感想・レビュー・書評

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  •  ドキッとする本のタイトルである。「左遷」とは、組織の論理と個人の心理のギャップによって起こるという。本人にとっては、不本意・理不尽でも、組織の論理では筋が通っている人事ということもある。これは、自己評価を高くしてしまいがちなことに一因があるらしい。
     本書では、左遷を、組織から一歩引いた視点で客観視する機会と捉え、「道草休暇」を有効に活用し、逆にキャリアアップした例として、古くは菅原道真、森鴎外、現代では池上彰、半沢直樹などを取り上げている。挫折をチャンスにできれば、その人はさらに成長できるということだろう。
     

    • きよっそんさん
      組織がピラミッド型である限り、人の処遇が難しいのはある意味やむを得ないのでしょう。またしっかりとした組織ほど人材に恵まれているでしょうから、...
      組織がピラミッド型である限り、人の処遇が難しいのはある意味やむを得ないのでしょう。またしっかりとした組織ほど人材に恵まれているでしょうから、純粋に仕事だけではない背景で人事がなされるということもあるのでしょうね。
      これが中小の組織だと仕事以外の基準で人事がなされると組織自体の存立が危うくなるでしょうから。
      いずれにせよ人生は長いですから、組織で多少冷遇されたところで、「ところが人生には続きがあった」と自分次第で様々なストーリーが描けるということですね。
      2016/11/27
  • 国語辞典では「それまでの地位から低い地位におとすこと」とあり、ネガティブな意味でとらえられる「左遷」。半沢直樹のドラマを見ずとも、誰もが知る人事異動の1つだ。しかし、人事異動の発令で「左遷」を明確にしているケースはほとんどない。早い話、異動対象者が左遷と感じれば左遷であり、左遷ではないと感じれば左遷ではないのだ。

    組織はダメ部署の変革してくれる助っ人として、その人の能力を買って抜擢したとしても、ダメ部署に異動した本人は左遷と感じるかもしれない。今まで徹夜でひたすら仕事をこなして、高い評価を得ていた者が評価されにくい間接部門に異動しても、落ち着いて仕事ができると喜ぶかもしれない。

    左遷を不本意なものではなく、機会として捉えることだと、著者は言う。左遷とは限られた組織からの一方的な評価にすぎない。その組織ではたまたま通用しなかった才能、実力を他で発揮するよう内省するべきだ。

    と、左遷に対する心構えは参考になるが、「左遷論」という硬派なタイトルから菅原道真や森鴎外、半沢直樹など様々な左遷を分析したルポを想像していたので、ちょっと失望。

  • 【生き方】左遷論/楠木新/20160728/(93/519)<229/48848>
    <きっかけ>
    ・?

    <感想>
    ★会社員は組織の枠組みの中で過ごすことが日常なので、年次や役職等によって自分を位置づけを確認し、その中で埋没してしまう。しかし、会社という枠組みの外に出れば、全く違った景色が見える。客観視することが大切。残りの自生を逆算して考えることもヒント。そのため、会社から離れて自分が個性を発揮する新たな場を探すべき。
    ・左遷と自分が感じる異動を受ける前に読んでおきたい本。結局のところ、左遷か否かは自分自身の受け止め方次第。人間関係、特に恋愛でもそうだが、あまりに相手に傾注しすぎるあまりに、ひとたび何かあるとショックを受けるのは当然と言えば当然。故に、会社の外に自分の存在場所を予め持っておこうというのは頷ける。
    ・他方、人事関係社にも一読してほしい本でもある。日本の会社組織がいかに独自であり、高度成長期にうまく機能していた人事システムが、今の右肩下がり時代に如何に疲弊しているか、そしてその改善が必要なのかを把握すべきだろう。

    <引用>
    ・個々の社員が左遷だと認識するこては少なくなさそうだ。こういう誤解が生まれるのは、人事異動の意図や理由を対象者にきちんと説明しないという慣行が影響している。本来は、どのような目的があって、今回の異動が組まれて、どのような観点で対象の社員を動かしたか等
    ・抜擢⇔左遷、自分の受け止め方の問題。
    ・自分のことは3割高く評価。客観的に問題のない異動でも左遷に思えてしまう心理がある。
    ・BOOK人事部は見ている
    ・行動成長期のような全員が上位職を目指すという雰囲気は相当変化しており、昇進よりも自分の仕事上のキャリアを重視する考え方が強くなっている。
    ・仕事と人がマッチしていない。
    ・欧米:労働に従事する範囲や内容が明確⇔日本:必ずしも明確でなく漠然
    ・日本:会社のメンバーになることは、契約以上の関係を結ぶこと、共同体の同質性
    ・トップに立たず、無理せず常に上位25%に入りながら、役員等の上位職との関係をうまくやっていくのが一番賢いやり方。
    ・サラリーマンになることは、人間関係についてえり好みができぬこと(城山三郎、サラリーマンになること)
    ・会社員は組織の枠組みの中で過ごすことが日常なので、年次や役職等によって自分を位置づけを確認し、その中で埋没してしまう。しかし、会社という枠組みの外に出れば、全く違った景色が見える。客観視することが大切。残りの自生を逆算して考えることもヒント。そのため、会社から離れて自分が個性を発揮する新たな場を探すべき。
    ・順風満帆な状態ではリセットはできない。
    ・左遷は人生を輝かせるために地中に埋められた原石のようなもの。それを発見して磨き上げるためには、左遷自体やその背景にある会社組織を良く知ること。加えて、自分自身に正面から向き合うことが求められる。それを通して、左遷をチャンスに転換できる余地が生まれる。
    ===qte===
    左遷論 楠木新著 日本で働く組織人への応援歌
    2016/3/27付日本経済新聞 朝刊
     タイトルは刺激的だが、読み進めていくと、日本の企業・組織社会の実情を豊富な取材と著名人が遭遇した左遷話を交えながら解説していることがわかる。企業人でもあった著者自身も決して順風満帆に出世街道を駆け上がってきたわけではない。いろいろな部署を渡り歩き定年を迎えた。その中で社内や取引先での会話から垣間見えた身につまされるような組織内の論理に疑問を持ったようだ。
     結論からいえば、左遷は人生のターニングポイントであるかもしれないが、決して汚点ではないということだ。人生を見つめ直すいい機会だと著者は指摘する。
     欧米の企業社会では左遷という概念は生まれにくいという。職務を厳格に定義して雇用契約しているからで、それが遂行できないと解雇される。また、転勤の有無が賃金格差をもたらす職制も存在しない。これは日本独特のもので、約30年前に制定された男女雇用機会均等法に対する便法にすぎないと断じる。
     日本では「お任せする」「空気を読む」ことで組織内均衡が保たれており、それを踏み外すと左遷の憂き目に遭う。だが修復を図ろうとするときにも同じ手法に頼らざるを得ず、現実には難しい。こうした事情の中でどう生きていくべきか。本書は「組織人への応援歌」として読める。(中公新書・820円)
    ===unqte===

  • ストーリー!!

  • 京大法学部、大手生保で人事労務、のち支社長
    MBA


    すべての異動に意味があるというよりは、空いているポストに人を当てはめるという実務上の理由だけのケースもある。
    18

    ● 40歳以降、自力による敗者復活はほぼない。
    他人頼み、自分の努力や能力を磨くこと、すなわち自力で実現できるものではない

    40代以降に再び評価を得るケースは、ほぼ次の3点に限られる

    1 過去に一緒に仕事をした上司や先輩からのヒキ

    2 上司や先輩が事故や病気で出社できなくなったときの穴埋め。会社は継続的に業務を行う必要があるので、力不足と思ってもその人材を昇格させて急場をしのぐ

    3 女性登用などのように、対外的なアピールのために特定の対象者の評価を引き上げるケース

  • 何だか何を述べているのかよくわからない本だった。それはなぜかというと、この本が論じている左遷そのものが曖昧なものだからだろう。「左遷」って話題にはあがるけど、辞令で左遷とされないように公式に出てくる言葉ではない。一方で、どこか正義をなして苦境に甘んじるみたいな色合いもあるように思う。汚職したあげくの異動や配置転換はあまり左遷っていわない気がするから。結局は、自分はちゃんとやってたのに、こんなに尽くしてきたのにどうしてという会社や仕事が好きな人々の片想い的な感傷を指してるって感じかな。
    でも左遷されたという思いが人の心をくじくことも確か。本書によれば欧米的な働き方では(クビになるから)左遷はないとのこと。左遷があるのは日本的な就社的な働く文化だからだと。それが純真な社畜の心を踏みにじりもするのだから、日本の就社的雇用関係って悩ましい。
    いいこといってるなと思ったのは、「左遷を主張するのは強者の身勝手な論理」(p.31、p.142)としているところ。飛ばされた先でも頑張っている人がいるわけで、そういう人を前に左遷されたとくさっていたりするようなことを指している。そんな振る舞いをするくらいならやめればいいのだ。外資系企業だったら問答無用にクビになるところを一応給料払ってもらえるんだから考えようによってはいい身分だよね。結局は飛ばされながらもしがみついている自分を「左遷」という言葉と意識で正当化しているってわけ。

  • これは、淡々と読んでしまいました。その中で江坂先生の「冬の火花」を何度か引用しているので、是非これを読みたいと思います。
    あと近所の本屋で城山三郎先生の「毎日が日曜日」の帯に楠先生がオススメ!って書いてあって。
    楠木先生って有名なんだ!と感心しました。確かに内容は落ち着いて読めるし実感共感することばかりです。
    これからも先生の本をたくさん読みたいと思います。

  • 企業の人事を取り扱う新書をよむのは久しぶりだなと思ったが、気づけば『人事部は見ている。』と同じ著者だ。あれ以来の、この手の本。

    つまるところ、こういう本は貴重。
    企業の人事をテーマにするというのは書きにくいことだと思うが、紹介のあった『トヨタ人事方式の戦後史』は興味がわいた。

    前著(人事部は見ている。)よりも、考えさせられる内容が多い。
    あるていどの年代になると「過去の実績を踏まえた配置となりやすい」とか「マネージャー自身がきちんと部下を育成したかを顧みず、仕事ができないと訴えてきたり、やたら転出させたがる人もいる」といった、人事あるあるも実感。

    「左遷」かどうかは別として、「転勤」が本質的なテーマとしてあるのは事実。これを受け入れる人が昇進していくというのも、どの組織にもあるのであろう。その背景に、もともと男女雇用均等の流れがあるというのは、なるほどとも思う。

    加えて、そもそも専門分化された組織なら流動的な異動はない(欧米の企業ならそうなのであろう)。
    また、部署間の「序列」イメージがあるというのも深い指摘。

    江崎彰『冬の火花』も読んでみたい。結局職場だけでなく「もう一つの自分」を持てという。それもそう。キャリアデザインみたいな観点も、あるよなあ。

  • ビジネス

  • 企業にとって合理的でも当人にとっては非合理に感じられる社内異動や出向。その左遷が生じるメカニズムを日本の雇用慣行の観点から解析。後半は個人としてこの問題にどう向かい合うかを指南。一社勤めで節目の年齢を迎えた今ちょうどいい本であった。

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著者プロフィール

楠木 新(クスノキ アラタ)
楠木ライフ&キャリア研究所代表
1954年神戸市生まれ。1979年京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を経験。47歳のときにうつ状態になり休職と復職を繰り返したことを契機に、50歳から勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年に定年退職した後も精力的に活動を続けている。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表。著書に、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『定年後』『定年準備』『転身力』(共に中公新書)など多数。

「2022年 『自分が喜ぶように、働けばいい。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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