天使とは何か キューピッド、キリスト、悪魔 (中公新書 2369)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023698

感想・レビュー・書評

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  • 借りたもの。
    西洋の美術や文学に現れる「天使」とは一体何なのか?
    この本は、巷によくあるオカルト一辺倒なものではなく、美術からその図像を解釈するだけのものではない。
    「天使」というイメージの中にある奥深さを紐解いていく一冊。

    そもそも聖書の正典だけでなく、外典にも表れる天使。彼らはキリスト教と異教、正統と異端の境界を揺るがす存在だった。
    神学者たちが真面目に?天使について論じていた内容に触れ、古代自然哲学の一環(要素)として現れたり、占星術のつながり(確かにイエスの出生を予言したのも占星術に基づいていた)もあったし、異教の神々の性質を引き継いでいたり。
    古代から人々の信仰の対象にもなっていた。それは宗教の枠を離れ今日でも映画やアニメで人々を魅了する。

    今のキリスト教では「神の子」とするイエスを、かつては「天使」と解釈する論説があったこと(異端となった)。「神の子」と人間を繋ぐ橋渡しとしての天使たち。
    それは幻視という形を取り、そのイメージ、ヴィジョンが美術で表現されるようになる。
    ボエティウスの「宇宙の音楽」が「天使の合唱・合奏」となり、美術表現に落とし込まれてゆく。

    悪魔(堕天使)についても言及。
    『創世記』では「神の子」である天使が人間と交わって「英雄たち」を生んだという。それが人間に「悪」をはびこらせたというが、それはこの際どうでもいい(古代の人の後付け、責任転嫁っぽいから。単に悪魔のルーツが天使であるという話をしたいだけだろうし)、ギリシア神話のティタン神族の神話との類似性を指摘。
    ここではキリスト教とギリシア神話の境界が曖昧になっている。
    また、堕天使たちの行動から人間の「自由意志」問題を垣間見る。

    最後は近代以降の宗教教義や古代自然哲学の解釈を離れた天使たちを紹介。それはもはやミューズだ。

  • 天使がどのように伝えられて来たかよくわかった

  • 20190623
    抽象的な音楽にたいして、具体的な声楽や器楽は感覚的なものとして、一段と低く見られる傾向にあったのだ。とはいえ、宇宙(コスモス)がその数学的秩序によって音楽的な調和を保っているとする発想は、近代的な天文学の発展の原点となるものである。また、可聴域の外にあるような宇宙の「音」を探ろうという最新の研究もあるようだ(神話はつねに回帰してくる)。
    (p.87)

  • おもに絵画に描かれた天使像を中心に、その描かれ方から天使に対する歴史上の扱われ方を見ていく。多神教の影響が大きく異教の神・霊的存在という要素と習合し、キリストと同一視されてきた天使の設定がキリスト教の厳格化とともに教義上のシンボルとなりかけたが、芸術家をはじめとする人々の欲求が天使の描写を通して異端的だが魅力あるものに仮託されるようになっていく。堕天使・悪がいるからこそキリスト・善なるものも輝く。

  • 神、天使、堕天使、悪魔・・・
    目からウロコなことがたくさん。おもしろかったです。

  • H田さんも推してたのでゲットしてみた。初出の記載はなかったが、ちょっと新書書き下ろしとは思えないような充実した内容であった。

    日本の神仏に限らず、信仰の対象というのはたやすく習合してしまうようで、ユダヤ教や異教とキリスト教、さらに人間と神の中間存在である天使はその境界もはっきりしない。ニカイア公会議以来、キリスト教正統教義の懸命の定義づけにもかかわらず、現在に至るまで、過去のコンテクストを引きずりながらも自由に飛び回る天使たち。
    「神は死んだ」以後、よりいっそう自由に表現されるようになった近現在の天使像を解説した5章が個人的には一番面白かった。

著者プロフィール

岡田 温司(おかだ・あつし):1954年広島県生まれ。京都大学大学院博士課程修了。京都大学名誉教授。現在、京都精華大学大学院特任教授。専門は西洋美術史・思想史。著書『モランディとその時代』(人文書院)で吉田秀和賞、『フロイトのイタリア』(平凡社)で読売文学賞を受賞。ほかに、『反戦と西洋美術』(ちくま新書)、『西洋美術とレイシズム』(ちくまプリマー新書)、『最後の審判』『マグダラのマリア』『アダムとイヴ』(中公新書)、『デスマスク』 『黙示録』(岩波新書)など著書多数。

「2024年 『人新世と芸術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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