研究不正 - 科学者の捏造、改竄、盗用 (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023735

作品紹介・あらすじ

科学のすぐれた成果を照らす光は、時として「研究不正」という暗い影を生み落とす。研究費ほしさに、名誉欲にとりつかれ、短期的な成果を求める社会の圧力に屈し…科学者たちが不正に手を染めた背景には、様々なドラマが隠されている。研究不正はなぜ起こり、彼らはいかなる結末を迎えたか。本書は欧米や日本、中韓などを揺るがした不正事例を豊富にとりあげながら、科学のあるべき未来を具体的に提言する。

感想・レビュー・書評

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  • 職場の研究不正セミナーで講師が紹介していた本。医学系の基礎研究者である著者が豊富な事例を紹介しながら、不正の種類・不正がなぜいけないのか等を中心に詳説した内容。まず最初に事例を説明し、その後不正の種類や不適切な行為を事例と関連づけながら解説、なぜ不正が起きるのかについて考察していく。研究会で聞くような内容は網羅されており、加えてあまり詳しくない研究、不正についても知ることができた。多くの研究者にお勧めな1冊。もちろん、これから卒論を書く。卒論生や大学院生にも読んで欲しい。

    ---以下、Twitter(アドレスは、後ほど)

    読了本。黒木登志夫「研究不正 (中公新書)」 https://amzn.to/3InvKus 研究不正について豊富な事例をもとに、研究不正とは何か、なぜそれが生じるのかについて考察した本。職場のセミナーで知って読む。知らない事例も多くあり、大変参考になった。同業者、学生にオススメ #hrw #book #2024b

  • 2022年12月号

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99842123

  • 科学研究の不正はどのようにして起こるのか、それらが生まれる背景にはどのような要因があり、またそれを防ぐためにどのような対策を講じればよいのかについて、実際に研究活動に長くかかわってきた筆者自身の想いも交えながら、論じている。

    研究不正の背景を理解するためには、実際にどのような研究不正がこれまで起こってきたのかや、研究とその発表のプロセスがどのように行われるのかという実態を知らなければならない。

    本書では、40件近い研究不正の事例を数ページずつに簡潔にまとめて紹介しており、また研究者が論文を書き、それをジャーナルに投稿する際の基本的なルールや査読の仕組みなどについても、多くのページを割いて説明している。

    従って、個人の倫理観や研究者同士の人間関係、個々の研究における利害関係といった個別要因だけではなく、科学研究の制度そのものに内在する研究不正の要因についても理解できた。

    特に印象に残ったのは、科学系のジャーナルにおける審査の方法や採用基準についてである。特に一流と呼ばれるジャーナルであれば厳しい査読があり、掲載されるのは非常に難しいという認識を持っていた。

    確かに、掲載が容易ではないのは事実だが、ピア・レビューによる査読は性善説に基づいており、研究の組み立てや理論構築などはチェックされるが、実験データなどは基本的に正しいという前提に基づいて査読をされているという。

    こと研究不正の防止という観点からみると、これは不正防止を目的としたチェックとして構築された制度ではないと言わざるを得ないだろう。科学者の倫理観や科学者コミュニティにおける総合の信頼関係を前提とした仕組みであるといえる。

    このこと自体の是非はさまざまな意見があろうが、実態として研究不正を指摘するのは、ソーシャルメディアにおける指摘や内部からの公益通報、そしてジャーナリストによる調査報道が多いという。

    科学コミュニティの信頼を維持し、また学術研究の自由を守るためにも、研究者やその周辺の様々な機関(ジャーナル、大学、教育行政、スポンサー)など、直接的に研究活動にかかわる人たちも、より体系的な研究不正に対する対策を講じていく必要があるのではないかと感じた。

    本書を読んでもう一つ印象に残ったのが、研究不正が決して少なくなく、また年を追うごとに(認知件数が)増加しているということである。ジャーナルで論文が撤回される件数も2000年以降急増している。

    研究不正が一部の非常識な科学者による行為ではなく、厳しい競争や予算獲得の圧力などにさらされるようになった現代の科学研究の現場においては、構造的な課題であるという認識に立って対策を講じなければならないということを感じた。また、そのようにすることが、アカデミックハラスメントなどで不正に加担させられてしまう若手の研究員など、弱い立場にある研究者を守るといったことにもつながると思う。

    研究不正自体を完全になくすことはできないが、それらを直視して、対策を講じていくことが、重大な研究不正の発生を抑止することにつながる。

    もちろん、その前提に科学者自身の姿勢が重要であるのは間違いない。筆者自身が科学研究の世界に長年身を置いてきただけに、科学者自身の倫理観や研究・科学的事実に対する誠実な態度を持ち続けることを求めている。

    本書の冒頭で掲げられている「誠実で責任ある研究」のあり方は、すべての前提として大切であるし、科学研究以外の仕事においても通じる内容であると感じた。

    (1)誠実な研究(Research Integrity)
    (2)責任ある研究(Responsible Conduct of Research)
        意義(Significance)
        社会性(Sociality)
        正確性(Accuracy)
        客観性(Objectivity)
        透明性(Transparency)
        再現性(Reproducibility)
        公正性(Fairness)
        尊厳(Dignity)

    研究不正をテーマとしているが、その他の領域においても参考にすべきことが多い本であると感じた。

  • 深刻な研究不正の事例、不正の実態、なぜ不正にいたったのか、どういった仕組みで不正を監視しているか、不正をすると結局どうなるか、今後不正を防ぐためにどうすればよいか、そういったことが丁寧にまとめられています。なかなかボリューミーです。エラーもミスも人間である以上ゼロにはできませんが、自分の言動が大なり小なり周囲に与える影響を冷静に考えるための余裕くらいは、なんとか確保しておきたいです。

  • 研究不正のありがちなポイントを並べるだけでなく、研究不正の事例を挙げて事実を述べていく構成。
    卒業や任期の締め切りがある中で成果=論文を出すことが求められる。いいデータが出ると上司に承認され、研究室での立場も向上する。そんな中、自分が欲しかった結果やデータ、統計結果が出ない時にどうするか、時間もない…となった時に果たして魔が差さないとは言い切れるか。考えさせられた。

  • ★現象優先の生命科学の危うさ★生命科学の研究者が研究不正を過去の事例から淡々と分析する。日本だけでもこんなに不正があったのかというのは単純に驚きだ。STAP細胞よりもノバルティスの問題の方が企業に都合のいいように研究が使われていた意味では問題が根深いのがよく理解できた。キャラに引っ張られるのがいかに危ないことか

    科学といっても数学などに不正は生じにくく、医学と生命科学で目立つという。後者は理論の前に現象を優先し、抽象化があいまいなまま進んでいくからという。とにかく目の前の人を治すために、という思いがあるのだろうが、確かに同じサイエンスでも言語がまったく違う。

    一般の人に分かりやすいようと、ところどころに笑いを交えようとするのが、こなれていなくてむしろおかしい。

  • ディオバン事件もSTAP細胞事件も詳細に経過や考察が記述してあり興味深く読んだ。色々と不正の背景を考察しているが、結局は研究者の「美意識」によるところが大きいのだと思った。「ピアレビューは性善説で科学的な意義を評価し、ソーシャルメディアに審査は性悪説で粗探し」。

  •  研究不正の「総覧」として著された本。日本にこういう本や研究が少ないという指摘をしているだけあって、事例を網羅的に述べている。
     この著者の本を立て続けに読むことになったのだが、この人は研究室の管理的な立場が長く、研究者として研究に従事する私たち世代、私たちの後輩世代がどういう立ち位置にいるのか見えていないのではないか。研究のうち、実験やデータ整理、事実の裏付けといったことは、科学的であることを求められる以上、不可避なものであり、そのほとんどが「作業」である。そういった作業にスポットを当てないと、研究不正の実体は明らかにできないのではないか、そんな考えに至ることができた。
     総記として著されたというだけあって、事実そのものの記述は浅く、著者の評価が前面に出ている。医学、生理科学の分野で不正が多いという事実に対し、裏を取り、必要に応じて聞き取りを行っている点は興味深く読めたし、著者自身医学の研究者であるので、著せない裏の思考や本音がちらほら出てくるところも見逃せない。
     そういった意味でこの本に欠けていることがある。研究とは何か、ということである。技術に関連する研究は、実用化と社会貢献を主眼に置く研究であるが、それゆえ前述した作業が欠かせない。一方で、知見を広げる意味での研究は、オッカムのカミソリにあるような、シンプルな説明、美しい証明に価値がある。本書を読む限り、異なる様相を持つ研究というものが何なのか、著者の思考に欠けている。それゆえゴシップの線を越えられない無駄話と、「研究不正」というテーマを逸脱した事例にあらわれている。たとえば数学の不正について、ポアンカレ予想を証明したペレルマンへの対応についての記述が浅い。数学者の数学に対する態度についても、浅い(岡潔の考えを述べるなら藤原正彦の孫引きではお粗末で不誠実である)。大阪地検の事例などは、研究不正ですらない。
     人が、社会が共有し生活に役立てたり、精神を豊かにするための知識はどうあるべきか、そうした知識を事実として固めるにはどうあるべきか、そういった視点がないと、何が違法で何が不正で何が卑怯なのかは全く見えなくなってしまう。著者のような一流の学者であっても、読者を見えなくして義憤だけを連ねた悪書を残すことができるという実例であろう。

  • 過去に起こった研究不正を紹介しつつ、それぞれの事例が起きた要因、露見する過程、防ぐ方法について考察する本。
    生命科学、医学等、理論よりも現象・臨床を重視する傾向の強い分野で不正が多く、物理学や数学では比較的少ないという。
    扱っているのは最先端の研究でありながら、画像差し替え、サンプルすり替え、単なる嘘など、不正の手口は案外と単純。もちろん本書の説明が非常にかみ砕いてあるから単純に見えるのだろうが、基本的には性善説で成り立っているコミュニティだからこそ、不正を見抜くのは難しいのだと思わされる。
    p225でソーシャル・メディアによる論文評価の可能性に触れる。伝統的なピア・レビューに比べると、性悪説で「粗探し」を行い、サイエンスとしてのメリットを評価せず告発を目的にするという特徴がある。研究データのオープン化が進むことで、ソーシャル・メディアによる検証が生産的に発展していく可能性があるのか、どうか。

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著者プロフィール

黒木登志夫

1936年、東京生まれ。東北大学医学部卒業。専門はがん細胞、発がんのメカニズム。1961から2001年にかけて、3カ国5つの研究所でがんの基礎研究をおこなう(東北大学加齢医学研究所、東京大学医科学研究所、ウイスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)。英語で執筆した専門論文は300編以上。その後、日本癌学会会長(2000年)、岐阜大学学長(2001-08年)、日本学術振興会学術システム研究センター副所長(2008-12年)を経て、日本学術振興会学術システム研究センター顧問。2011年、生命科学全般に対する多大な貢献によって瑞宝重光章を受章。著書に、『がん遺伝子の発見』(1996年)、『健康・老化・寿命』(2007年)、『知的文章とプレゼンテーション』(2011年)、『iPS細胞』(2015年)、『研究不正』(2016年、いずれも中公新書)ほか多数。

「2022年 『変異ウイルスとの闘い――コロナ治療薬とワクチン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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