保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで (中公新書 2378)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023780

作品紹介・あらすじ

21世紀以降、保守主義者を自称する人が増えている。フランス革命による急激な進歩主義への違和感から、エドマンド・バークに端を発した保守主義は、今では新自由主義、伝統主義、復古主義など多くのイズムを包み、都合よく使われている感がある。本書は、18世紀から現代日本に至るまでの軌跡を辿り、思想的・歴史的に保守主義を明らかにする。さらには、驕りや迷走が見られる今、再定義を行い、そのあり方を問い直す。

感想・レビュー・書評

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  • 筆者は、イギリス社会学者アンソニー・ギデンズが用いた「ポスト伝統的社会秩序」という言葉の解説によせて、今や広義の原理主義が台頭したと指摘する。なにが「伝統」でなにが「権威」かなど再定義する意味はなく、人々は守ろうとしているものが「私の伝統」「私の権威」に過ぎないという可能性を認めている。「進歩」や「革新」といった言葉が輝きを失った現在、それに相対して生まれた保守主義もまた迷走をはじめたというのである。しかしながらそれでも、共通の認識を欠いたまま「保守」を自認する人が増えているとき、「保守とはなにか」という疑問が生じる。本書はそうした経緯でもって著されたようである。

    本書の冒頭にて筆者が引用しているチャーチルの言葉に、「20歳のときにリベラルでないなら、情熱が足らない。40歳のときに保守主義者でないなら、思慮が足らない」というものがある。わたしは20代であるから、チャーチルの論理でいえば正常で、保守主義に対する嫌悪感がある。良い伝統はあるだろう。実益のある権威もあるだろう。しかし他方で、その伝統と権威に圧殺されているものもあるだろう。
    保守とは、守るべきものがある「一人前」の上からの権利主張ではないか。守るものもない、ただ生きることに精一杯の「半人前」には縁遠い。しかしながら、「半人前」が再生産される閉鎖的な社会にこそ保守は力を増す。保守の射程にあるのは、人でなく国であり制度である。秩序あっての人。そのリアリズム、割り切りの良さにやるせなさを感じるのは、わたしが20代だからか。

    以上のように、相容れないとは思うけれど、わたしが違和感を感じる相手とはなにかを知りたい。だからこそ本書を手にとったわけだが、読み終えてみて、なるほどやはり「うっとおしい」と感じる箇所はある。けれどわたしの理解は、多様化した「保守主義」の一面しかとらえられていないこともまた学んだ。
    とくにここで詳しくは述べないが、 エドマンド・バークの「偏見」を逆手にとった政治、オークショットの「人類の会話」という考え方などには非常に惹かれた。守るだけではなく部分的変更を加えること、すなわちは現実的困難から逃避しない態度、自由への容易ならざる闘い、それは耳触りのよい理想論よりよほど魅力がある。

    しかし一点、どうにも納得のいかない箇所がある。わたしは普段「宗教」を軸にフランス史をみている。だからこその疑問なのだが、筆者はフランス革命を歴史における「断絶」とする。すべてをさらにしてしまった革命。たしかにそれは妥当な指摘ではある。しかし、種ないところに生命はない。フランス革命は、はたして過去の否定なのだろうか。すくなくとも宗教に関していうのであれば、長い歴史を紐解いてみたとき、フランスはケルト、ローマ、ゲルマン等々の宗教からついぞ解脱することはなく、キリスト教は妥協の歴史を編んできたのであり、ライシテにしても、フランク王国とローマ教会が接近したときからの絶えざる主導権争いに土台がある。フランス革命はあらゆる起爆剤になったが、引火物なければ爆発もない。否定ではない。フランス革命にも保守のいう「伝統」はある。抽象的な概念を持ち出す政治体制は、むしろフランスの伝統でさえあるように思うのだが、まだわたしの理解が足らないのか。文脈が別のところにあったとしても、やはり筆者の主張にはまだ疑問が残る。勉強はつづく。

  • その時々の進歩に対抗するため、自らの議論を組み立ててきた相対的な立場としての保守主義。その誕生から今日までの変遷を、フランス革命・社会主義・福祉国家としての大きな政府といった歴史の文脈に置き検討した内容。
    人知の限界を自覚し自由を擁護するため過去から受け継がれてきた具体的な慣習・制度を守るというエドマンド・バーグの保守主義の本質を明らかにし、その過去を再帰的に選び直す今日の開かれた保守主義の可能性と変遷を簡潔かつ丁寧に整理している。翻って日本における保守主義。思想の内実を伴わない保守ならぬ、「状況主義的な保守」と現在の秩序をひたすら否認する「保守ならぬ保守」という不毛な両極の状況には気分が暗くなるばかりだ。思想整理としてわかりやすく良書でした。

  • フランス革命、社会主義、大きな政府と闘ってきた保守主義だが対する進歩主義が衰退した今日何を守るかが問われている(伝統、権威、職場、家族、地域)日本の保守政党も

  • 保守主義の父であるエドマンド・バーグを生んだイギリスが、EUから撤退し、アメリカではトランプが大統領になり、このような時代だからこそ、もう一度「保守とは何か」を問い直す時期なのかもしれない。

    保守というとよく言われるのが、変化を嫌いカビの生えた伝統を墨守することだと思っている人も多いと思う。しかしこれは保守ではなく、伝統主義です。

    保守とはエドマンド・バーグが「フランス革命の省察」の中で以下のように述べている。

    「何らか変更手段を持たない国家には、自らを保守する手段がありません。そうした手段を欠いては、その国家が最も大切に維持したいと欲している憲法上の部分を喪失する危険すら冒すことになり兼ねません。」

    守るべきものを守るために自ら変わることである。それは気候に応じて着替えるのと同じで、服は変わるが中の人間は変わらない。これを「心頭滅却すれば火もまた涼しい」という理論で人間限界も考えずに、服と一緒に人ごとごと変えようとするのがリベラルだ。

    周辺各国の政治思想が大転換期にある中で、今まさに、日本は何を守り、そのためにどう変化するのか?問われる時期。

    そんな時期だからこそ、この「保守主義とは何か」を読む必要がある

    この本は保守の源流とその変遷を、リベラルとの戦いを通しわかりやすく説明している。

    保守主義を大雑把に全体を知るにはいい入門書になると思う。

  • 進歩主義に対立する概念としての保守主義。しかし、進歩主義が停滞する中で保守主義も相対的な価値だけでは意義を持たなくなりその対立概念を模索する中で変節してきている。そもそも保守とは何を保守するのか?をバーグやエリオットからフリードマンに至るまでの主張を示しながら説明してくれており非常にわかり易い。その中で我国の状況は伝統や歴史に謙虚である側面が極端に弱まっており、傲慢さを感じざるを得ない。保守が持つ多様性を包摂する構えに期待したい。

  • 保守主義は伝統や慣習に固執する考え方だと思っていたが,この本ではバークをベースにしながら,伝統や慣習などを重視しつつ漸進的に改革していく考え方と定義されていたように思う。こうした保守主義は参照するところがあると思った。

  • 正直、わからなすぎて、読みかけで放置してたが、この度読了。少し政治がわかったので楽しく読めた。そういう意味では、思想の本を一冊くらい読んでからが良いのか。

    「保守主義」に関する本。そもそもの源流から、現在の亜流まで。

  • リベラリズムやポピュリズムに比べ焦点の当てられることの少ない保守主義について取り上げた一冊。
    どちらかといえば地味な立ち位置であるため、目を向けにくい部分ではありますが、これまで語り継がれてきた「伝統」を守るという意味で必要な考え方かもしれません。
    主義というと凝り固まった考え方になってしまいますが、進歩主義と保守主義の良いところを抽出した見方を持つことが重要だと感じました。

  • 進歩主義に対抗して生まれた保守主義は、それゆえにその内容は不明確な部分が多く、何なのかが分かりにくいところがあります。それは何故なのかについて、その歴史的な成り立ちを解説することで解かれています。時代時代でその主人公は変わりますが、保守たる意義を受け継いで、保守の定義を守り続けること、これが弛まなく続いて来たのだと分かります。保守というが何を守っているのか。本書を読むことで彼らの成さんとするところを知ることができました。

  • 「最近の日本は保守化している」などど簡単に言うが、その意味は明確ではない。
    革新や進歩主義への信頼が揺らぎ、その対抗軸であったのが何を保守するのかが明確でなくなった。欧米の歴史でも、対抗軸が共産主義であったり大きな政府であったり、その中で守るべきものが変わっている。
    自己の主張の押し付けや復古主義は保守主義ではない。
    守るべきものを大切にしながらも、変わらないものを守るために緩やかな変化を是とする謙虚な保守主義。著者の言葉に背筋が伸びた気がした。

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著者プロフィール

東京大学社会科学研究所教授

「2023年 『法と哲学 第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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