ユダヤとアメリカ - 揺れ動くイスラエル・ロビー (中公新書 2381)
- 中央公論新社 (2016年6月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121023810
作品紹介・あらすじ
イスラエルとアメリカは「特別な関係」といわれる。その結節点にあったのが、強い結束と豊富な資金により、政府や世論に絶大な影響力を見せてきたイスラエル・ロビーだ。彼らはイスラエルのためにアメリカの政財界に働きかけを行う連合体である。しかし近年、若年層を中心に「イスラエル絶対支持」を疑問視する声が増えている。アメリカの外交、経済、さらには大統領選をも左右する彼らの実態を、今明らかにする。
感想・レビュー・書評
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この本では主に、イスラエル・ロビー組織”AIPAC”、そしてアメリカのユダヤ若年層を中心に台頭している”Jストリート”の21世紀以降のアメリカ政治への影響力とその変化が著されている。
2019年5月、イスラエルに旅行に行ってからすっかりこの国に魅せられてしまった。
都市部近くにビーチがあり、比較的治安が良くリーズナブル。そんな旅先を探していた時にこの国に出会った。
美しいビーチ、クリーム色の壁が並ぶ街並み、伝統と現代が共存する日本から遠く離れたテルアビブではほとんどアジア人と出会うことはなく、完全に異国情緒を楽しむことが出来た。ヨーロッパからの観光客が多いように感じたが、地元に住んでいるように見える人も私と同じような観光客も、親しみを持って接してくれた。
観光として訪れた、もう一つの街。エルサレム。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教聖地であるエルサレムに、私はほとんど基礎知識なく訪れたためある意味とても新鮮にこの地を感じることが出来た。
宗教は最も成功している、いまだ解けない洗脳である、というような言葉を聞いたことがある。キリストの遺体が横たえられたといわれる石墓には、今も香油が塗られ、それをかき集めて祈りをささげる信者たちを見たとき、私のような信仰心のない人間よりこの場所に訪れることを望んでいるであろう人たちに申し訳なさすら感じた。
今はユダヤ人の歴史を中心に、宗教とイスラエルという国を学んでいる。次回訪れた際には、テルアビブでのんびりする時間はもちろんキリスト教関連の地をもう少し訪れてみたいと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
米国ユダヤ社会の内側を、イスラエルとの関係性の中で解き明かした良書。文章は論理的で読みやすく、詳細かつ丁寧な記述で、複雑に思える中東情勢を整理しながら理解することができる。米国による「今後の対中東政策」がますます興味深いものとなった。
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2019年9月9日読了。
●P50
「イスラエルは米国の戦略的資産」
●リクード
→1973年にベギンらによって結成された、現代のイスラ
エルの政党で、軍事力の強化による領土の拡大を主張
しており、対アラブで最も強硬な右派政党。
●イスラエルのユダヤ社会は過去20年程の間に右傾化を
強めている。
米国のユダヤ人の多くは、自身のマイノリティ意識や
多元主義や少数者の権利尊重などリベラルな価値観を
重視する傾向に。
政治的にもほとんどが民主党を支持。
●AIPAC(エイパック)
→米国イスラエル公共問題委員会
→イスラエル・ロビー組織
→1980〜1993年に理事長を務めた
トーマス・ダイン
→全米に10の支部と約10万人のメンバー
→AIPACクラブに入るには最低でも年間1800ドルの
会費を払わなければならない。
→10万ドル(1076万円)以上払うと「ミニヤン」
と呼ばれる最上級ランクのメンバーとなり
ネタニヤフ・イスラエル首相やクリントン元大統領、
ノーベル賞作家エリー・ヴィーゼルなど超有名人と
話をする「特典」を与えられる。
「ミニヤン」とはユダヤ教徒が集団でお祈りをする際
の最小限の人数、つまり成人10人を意味している。
→年間のロビー活動費は約300万ドル台。
(3億2300万円)
●イランの未申告核関連施設の暴露
2002年、イランの在外反体制組織「ムジャヒディー
ン・ハルク」の政治部門「国民抵抗評議会」が
イランにIAEA(国際原子力機関)に未申告の核関連施設
があることを暴露。
→アメリカを中心に経済制裁を発動
●イスラエルはイランを「実存的脅威」と見なし
その危険性を強調。
理由①核開発計画
理由②核兵器の運搬手段となるミサイルの開発・製造を
行っている。
理由③2012年にニューデリーでイスラエル外交官が
狙われた事件に関し、イランが「国家テロ」を
行っているという指摘。
理由④イスラエルが「テロ組織」と見なしてる勢力を
支援
・レバノンのシーア派組織「ヒズブッラー」
・パレスチナのイスラーム組織「ハマース」
●ラスベガスのカジノ汪シェルドン・アンデルソン
→ユダヤ系の保守派富裕層。シオニスト。
→エスラレムの首都承認を掲げるトランプ大統領を
支持し、大統領就任式に単独では過去最高となる
5億円を寄付。
●1948年5月、イスラエルが独立を宣言した
11分後に、ハリー・トルーマン大統領がイスラエルを
承認。
●2007年9月、イスラエルがシリア北部の何らかの
施設を空爆。
↓
2008年4月に米政府が突然、イスラエル軍が空爆し
たのはシリアが北朝鮮の協力を得て秘密裏に建設してい
た原子炉だと発表。
↓
米政府はこの情報の入手先を明らかにしなかったが、
イスラエルの情報機関モサドが施設内部に協力者を送り
込んだというのが専ら見方。
●核を保有するイスラエルにアメリカは「見て見ぬふり」
イスラエルも「中東に核兵器を持ち込む最初の国になら
ないが、2番目に甘んじることもない」という矛盾と
不透明な政策を取ってきた。
●1654年9月初め、「聖カテリーナ」という船が
マンハッタン島南端の小さな港に着いた。
ブラジルの港町レシフェから半年以上をかけた長い苦し
い航海の末、当時はニューアムステルダムと呼ばれてい
たこのオランダ領に着いたのだった。
船には23人のユダヤ人が乗っていて、彼らこそ現在の
米国に最初にやってきたユダヤ人とされている。
※1492年に新大陸を発見したコロンブスに関しては
確証がない。彼もまたユダヤ系。
●ロビー活動とは一般に、民間の個人や団体が、自分たち
が好ましいと思う政策決定や法律の制定が行われるよ
う、議員や政府関係者に働きかけること。
議場から出てきた議員にロビーで働きかけたことから、
ロビー活動と呼ばれるようになった。
●イスラエル・ロビーの力の源泉
①圧倒的な動員力
②豊富な資金力
③ユダヤ票と米国の選挙システム
→フロリダ州はいつも接戦
※米国の選挙システムの勉強
④豊富な人材・人脈
●新興イスラエル・ロビー「Jストリート」
→イスラエルの利益を高めるために積極的に発言する
こと。
→イスラエル政府がとる政策を無批判に指示するのでは
なく「自分たちの価値観に合えば支持し、合わなけれ
ば反対する」という是々非々の姿勢を貫く。
●イスラエルの右傾化
→近年、民族、あるいは宗教としてのユダヤ性を国の制
度や政策として前面に出し、国家への忠誠を重視する
傾向が強まっている。
→最大の理由は、中東和平プロセスの失敗と軍事衝突や
テロの継続・拡大
●イスラエルの右派政党リクードとアメリカ・共和党の
結びつきが近年増してきている。
●エバンジェリカル(福音派)は、政治的には保守的で
共和党を支持する傾向が強い。
さらにエバンジェリカルの多くがイスラエルを強く支持
しており、米国の中東外交を親イスラエルの方向に引っ
張っている。
エバンジェリカルの信者たちは、「神の子イエスが人間
の罪を贖い救済する」という「福音(良い知らせ)」を
そのまま受け入れ、キリストの受難と復活だけが原罪を
持つ人間を救済すると信じている。
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米国のユダヤ人は全人口の2%程度で、マイノリティグループの1つに過ぎない。彼らは米国におけるマイノリティの権利を守ることを重視するとともに、「同胞国家」イスラエルの存続のたmにあらゆる助力を惜しまなかった。イスラエル独立当初は多額のイスラエル国債を引き受け、米国政府や議会に対しイスラエルを支援するようロビー活動を行ってきた。米国ユダヤ社会の全面的な指示や支援がなければ、イスラエルは存続できなかったかもしれない。米国のユダヤ人の多くは、自分たちがマイノリティであるだけに、多元主義や少数者の権利尊重などリベラルな価値観を重視する傾向が強い。政治的にもほとんどが民主党を支持している。それだけに米国ユダヤ釈迦の多数は、イスラエルのユダヤ社会が自分たちの価値観とはそう反する方向に進んでいるという意識を強めている。特に若い世代を中心に1990年前後から、右傾化が続くイスラエルへの批判が強まった。
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ワシントン最強のロビー団体「米国イスラエル公共問題委員会:AIPAC(エイパック)」。
アメリカの外交政策に強い影響力をみせてきたイスラエル・ロビーは、イスラエルのためにアメリカの政財界や世論に働きかけを行う連合体である。しかし近年、イスラエル絶対支持に疑問を呈する声が米国ユダヤ人若年層を中心に増えている。
本書は、イスラエルとアメリカの特別な関係の実態と歴史を踏まえ、従来のイスラエル・ロビーとは違う新たなロビー団体の成立背景と変化する米国ユダヤ社会を紹介しつつ考察した内容。
冷戦を背景に中東でソ連に対抗するため、冷戦後はイランやテロの脅威のためイスラエルを支援し特別扱いしてきたアメリカの歴史と経緯をコンパクトにまとめている。一方、米国国内のユダヤ・ロビーの力の源泉(豊富な資金と人脈、動員力、ユダヤ人たちの政治意識の高さ、投票率)もデータと図でわかりやすく解説している。本来リベラルな考えをもつ米国人口の約2%、およそ700万人のユダヤ人たちの政治的志向と、その彼らの意向を無視するかのように右傾化するイスラエルとそれを絶対支持するAIPACや、宗教的理由からイスラエルを支持するキリスト教右派との結び付き、党派性を帯びたアメリカ政治の現状と矛盾が考察されている。ここに米国ユダヤ人社会に亀裂が生じているという指摘はなるほど。
そんな若者を中心にしたリベラルな米国ユダヤ人たちの不満をすくい上げる形で「Jストリート」という新たなイスラエル・ロビー団体が生まれた経緯も紹介している。イスラエル・ロビーも一枚岩ではないということや、彼らのアメリカ政治における無視できない力と可能性を知ることは、2016年大統領選挙が近いいまこそ読まれるべき本だし意義のあることだと思う。 -
2016/7/13
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319.53||Ta
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イスラエルとアメリカは「特別な関係」といわれる。その結節点にあったのが、強い結束と豊富な資金により、政府や世論に絶大な影響力を見せてきたイスラエル・ロビーだ。彼らはイスラエルのためにアメリカの政財界に働きかけを行う連合体である。しかし近年、若年層を中心に「イスラエル絶対支持」を疑問視する声が増えている。アメリカの外交、経済、さらには大統領選をも左右する彼らの実態を、今明らかにする。