競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで (中公新書)

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著者 : 本村凌二
  • 中央公論新社 (2016年8月18日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023919

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競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで (中公新書)の感想・レビュー・書評

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  • わたしはこれまで実際のレースやゲームを通して競馬に興味を持ち、テレビで競馬関係のドキュメンタリー番組をときどき見たり、あるいは必要に応じてWikipediaを読みあさるなどしてきたけれど、自分の知識が断片的になってしまっている自覚があった。実際、日本の競馬についてはそこそこ興味を持ってきたものの、海外の競馬についてあまり知らなかったし、自分の競馬知識を一度俯瞰して整理しておきたいとぼんやりおもっていた。そんなときに『競馬の世界史』というタイトルの新書を偶然見かけて、もう反射的に手に取ってしまった。

    結論から言うと、本書は期待以上の内容だった。競馬には、豊富な財力のある人たちが集まって自慢の所有馬を競わせるという面と、その模様を民衆が観戦し、出走馬にお金を賭けるという面、大きく言ってふたつの側面がある。本書はこの両面をしっかり踏まえているので、記述に大変説得力がある。そして競馬が発展する中で、レース施行の条件を整備し、レースを公正に行う役割を果たす組織としてジョッキークラブが現れてくる。競馬というと、どうしても個々の人や馬を中心に見てしまいがちだけれども、ルールを「制定」し「裁定」する機関について書くという目線が斬新に感じられる。たとえば競走馬の血統書が発行されるようになったのは、売買時に良血だと偽ることが横行したからだろうとわたしは考えていたけれど、それだけではなかった。レースのときには良血馬だと負担重量が増量されることがあり、それをさけるのに血統が悪いふりをするケースもあったという。血統書には、レースでの負担重量を軽くするために血統を偽る不正への対策の面があったというのはやや盲点だった。もちろん最近でこそあまり言われなくなったものの、以前は日本でもマル外の馬がクラシックに出られないとか、マル父のレースがあったわけで、考えてみれば不思議はないのだけど。

    本書で描かれる馬運車開発のエピソードもおもしろい。競走馬を競馬場まで運ぶとき、昔は人が馬を曳いて徒歩で連れていくのがふつうだった。ところがあるとき馬を徒歩で運んでいたのではレースに間に合わなくなる事態が発生したらしく、出走馬を大急ぎで運ぶのに馬運車が作られたという。馬運車が開発されたのは19世紀の前半で、自動車が普及するよりもはるかに昔のこと。だから当時の馬運車の動力は馬だった。馬を運ぶのに6頭引きの馬車を使ったというから、逆転の発想というか、苦肉の策というか、金にものを言わせた解決法でつい吹きだしてしまう。ところが馬運車で運ばれたこの馬は、通常であれば歩かされるはずだった道のりをずっと休まされていたので元気があったのだろう、なんと大レースを勝ってしまう。馬運車は言ってみればルールの穴を突くような形で登場したけれど、この一件をきっかけに馬運車を使う人があらわれはじめたという。

    本書ではクラシック競走成立の経緯についても触れられている。昔は競走馬の能力は7歳から8歳ごろにピークをむかえると考えられていたようで、またレースの方式も出走馬を固定して複数回レースをして勝敗を決めるヒート競走が主流だった。距離も4マイル以上を走るのが当たり前だったという。だから3歳馬による一発勝負のレースとして企画されたセントレジャーステークスやオークス、ダービーが当時としては非常に斬新だった、というのもうなずける。いまや、セントレジャー、あるいは日本の菊花賞にしても距離が長いと言われレベルの低下が言われることもあるわけだけど。

    さらに本書ではサラブレッドの三大始祖を筆頭に、歴史的に重要な馬たちが時代順に紹介されていく。とりわけ後半、戦後に入るとわたしでも名前を知っている世界的な超有名馬が次々に出てくるのだけど、バラバラの点でしかなかった知識が線になってつながっていくのはかなり快感だった。

    日本の競馬についても開国期の時代から書かれていて興味深いけれど、分量的にはそれほど多くない。ただ日本各地にあった競馬倶楽部(競馬の施行団体)が統合されて日本競馬会が設立されたという記述は興味深い。大きな流れで見れば、日本の中央競馬も「1940年体制」と考えられるのかもしれない。

    以上に述べたように、本書では競馬にまつわる話題がかなり手広く手際よく紹介されていて、競馬の歴史を概観するにはかなり読みやすいと感じる。一方、個々の人や馬のエピソードなどはどうしても淡白になってしまうので、競馬になじみのない人がいきなり本書を読むと味気なく感じるかもしれない。その反対に、競馬のことをある程度知っている人でも、もの足りなさを感じるかもしれない。アレフランスが出てくるのにダリアは出てこないの?とか、バックパサーが出てくるのにドクターフェイガーやダマスカスは出てこないの?とかカブヤラオーが出てくるのにテスコガビーは出てこないの?などなど。

    本書ではセントサイモンが当然取り上げられている。セントサイモンが種牡馬として一気に栄華を極めた時代については書かれているけれど、その後セントサイモンの父系が急激に細ってしまったこと(いわゆる「セントサイモンの悲劇」)についてはとくに言及がなく、この点もややもの足りなく感じる。一方20世紀のはじめごろに、英ダービーを制する牝馬が次々現れた(1908,1912,1916)ものの、それ以降牝馬の勝った例はないことについては書かれている。これはひとつの説だけれど、有力種牡馬がいなくなり「端境期」みたいなものが生まれたときに牝馬が活躍をはじめるという話がある。このあたりの説はたとえばサンデーサイレンス亡き後の日本の競馬について言われてきたことではあるけれど、「セントサイモンの悲劇」と対比させる形で、20世紀初頭の牝馬によるダービー制覇について触れてみてもおもしろかったのではないだろうか。

    また本書は公正な競馬を実現するために重ねられたいろいろな努力を紙幅を割いて説明しているので、せっかくだからたとえば発馬機(ゲート)の歴史に触れてみてもよかったのではないか。あるいはレースの格付け(グレード制)の歴史をかるく解説してみてもおもしろかったのではないか。著者はエピローグで「日本の競馬のレヴェルはもはや野球やサッカー以上に世界レヴェルにある」と書いている。その主張の当否については議論があるだろうけど、それなら日本が「パートI」国に昇格し、格付けが国際化したことなどを踏まえておくと、主張にもっと厚みを出せただろうとおもう。20世紀以降の競馬について、本書の記述は有名馬の活躍や有名なレースを列挙する方向に重心が傾いてしまっている感がある。一方、20世紀以降でも競馬にまつわるルールを整備するような努力は続くわけで、そういう話題をもっと取り入れるとバランスがよくなったのではないだろうか。

    競馬は創作か実話かわからないようなエピソードが豊富なので、そう考えると本書の記述は総花的で記述に厚みがないように見えるかもしれない。でも逆にいえば、本書に登場する固有名詞を検索したり、Wikipediaを読むなど、「続きはWebで」方式でさらに楽しめるということでもある。そういう意味で、競馬に関する個々の細かいエピソードは断片的に知っているけれど、全体的な歴史や流れはよくわからないという人なら、本書は十分楽しめるのではないかとおもう。巻末には馬名索引がついているので、名馬カタログ的にパラパラながめてみるのもありかもしれない。

    中公新書というとお堅いイメージがあるけれど、本書は意外にもかなり気楽に読めた。一方これは余談だけど、わたしの手元にある本書の初版には、わたしでも気づくような誤字らしき箇所がいくつか見られた。あと、文章が若干こなれていないように感じられる下りもあり、校閲に不安を感じてしまった。

  • 2017/5/2読了。
    教科書ですね。p135とp210に付箋。

  • タイトル通り競馬の歴史について俯瞰する本。古代の競馬から最近の競馬までザックリと解説する。
    競馬の楽しみはいろいろあるが、おそらく大半は馬よりもお金が好きな人達だ。この本には金儲けのノウハウが全く書いていないので、ギャンブル好きには読む価値は無いと思うが、文化としての競馬が好きな人には大変面白い内容で、この本を通読すれば、競馬が
    どのように発展してきたかがよく判る。
    著者は東大の名誉教授。歴史が専攻で他にも馬の文化についての著書がある。世界中の競馬場を巡り、歴史的なレースにも立ち会ってきた経験があり、所々に自
    身の体験が紹介されている。
    競馬は多くの人が関わる催し物であり、1頭の馬を巡って様々なドラマがある。馬に纏わる話(血統、レース)関わった人々(騎手、調教師、馬主、主催者)や
    レースの内容など、知らなかった話がいろいろあって大変面白く読めた。

  • 今まで、こういう本ってありそうでなかった。

  • 平地競馬の誕生や馬券の取り組みなどを欧米や日本様々な地域でどのように競馬が今日まで発展していったかの変遷を書いた一冊。

    ヒート競走から現在の競走になる変遷、サラブレッドの誕生、競走年齢の低下や距離短縮など今からは想像もできないような競馬が行われていたことやまた馬券の面で見ると不正が横行するなかでの制度の整備に苦心したことが本書で学ぶことができました。

    また本書では時代に活躍した名馬についても書かれており、名前だけしか聞いたことのない馬の当時の様子や強さも知れてそちらも勉強になりました。

    日本馬のレベルの向上による活躍や海外でのレースも買えるようになり、ますます日本競馬における世界との距離が近くなるなかでルーツを知ることのできる貴重な一冊だと感じました。

  • やはりこのテーマを新書で出すにはボリューム不足の印象。

  • 内容はともかく、なんとなく中公の編集の質が下がっている気がする。企画はいいと思うのだけど。

    内容は、世界の競馬をこのボリュームに入れるのだから、忙しくなるのは仕方ないよねって感じ。

  • 競馬版、世界史の教科書とでも言うべき一冊で、興味深く読ませてもらった。広く様々な国や時代に触れている分、内容が浅く留まるのは否めないが、競馬がいかにして今のような姿になったかをざっくりと感じることはできる。
    その競馬の歴史的な流れを理解することは、海外馬券が解禁された今の競馬ファンには重要なことだし、各国の競馬の違いを踏まえた、より正確な予想の一助となるやもしれない。

  • ○この本を一言で表すと?
     競馬好きが書いた競馬の歴史の本


    ○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
    ・競馬については私が子供の頃にゲームセンターでやったメダルゲームやテレビゲームくらいの知識しかありませんでしたが、周囲でよく競馬の話になるので、小ネタとして競馬の世界史を追ってみようと思ってこの本を購入しました。

    ・著者が「世界史の叡智」と同じというのを買った後で知りました。「世界史の叡智」はマイナーな人も含めて取り上げていたので個別の歴史としては面白いものの、著者の憶測や現代の政治家との比較の記述が歴史家というよりは「その辺にいる年配のおっさんの戯言」というレベルのものでした。著者が競馬について長年情熱を持って追い続けているからか、この本は競馬の始まりから現代まで、しっかりと地続きになった記述になっていてよかったです。

    ・古代ローマの競馬のメインは戦車の競争であったこと、ローマ市民を政治的盲目にさせるために民衆に無償で与える「パンとサーカス」のサーカスが戦車の競技場を意味していることなど、興味深いことが書かれていました。(第1章 古代民衆の熱狂―競馬の黎明期)

    ・16世紀初めに王位につき、イギリス国教会を立ち上げたヘンリ8世が馬に興味を持ち、各国の名馬を集めたこと、17世紀から馬比べから始まった競馬が始まったこと、初期の競馬はヒート競争(日に予選を何度も走って決める競争)だったことなどが書かれていました。(第2章 英国王の庇護のもとで―近代競馬の胎動)

    ・馬の存在価値が軍馬としての価値だったため、重量に耐えスタミナがあることが良馬の条件だったが、銃の発展により重い鎧に意味がなくなり騎乗する者が軽装になったことで、敏捷さに重きを置く軽種馬の生産が注目されることになったという現代へのサラブレッドへの流れが興味深かったです。サラブレッドの三大始祖として、トルコ軍から盗んでイギリスに持ち込まれたターク馬のバイアリーターク、アラブの馬主からイギリスの水兵が盗んでイギリスに連れて行った馬の中でダーレー家に引き取られたダーレーアラビアン、フランス国王に献上されたが痩せこけて見栄えがせず、地方で水の運搬車を引いていたところをイギリス人が引き取り、ゴルドフィン伯爵によって取得されたゴルドフィンアラビアンの経歴が述べられていました。(第3章 サラブレッドの誕生―品種改良のはじまり)

    ・1666年のロンドンの大火災後、ロンドンの復興とともに秘密クラブが設立され、その中にジョッキークラブがあったこと、ジョッキークラブの創始者に王族のカンバランド公爵がいて、ジョッキークラブが競馬の権威になったことなどが書かれていました。十八世紀当時の競馬がある程度成熟した馬による長距離のヒート競争だったのを、3歳の若駒を短距離で一発勝負で走らせれば何度も走らせるような中弛みがない刺激的なレースになるだろうと始められたのが、現代のクラシックレースに連なっている流れも書かれていました。(第4章 クラシックレースの成立―十八世紀のヨーロッパ競馬)

    ・競馬が賭けの対象として労働階級にも広まり、あまりに熱中し過ぎて身を滅ぼす者も出てきて、不正の温床にもなるなど、その功罪が問われるようになっていたことなどが書かれていました。馬のえさに毒を混ぜる、発着係を買収するなど、収拾がつかなかったであろうと当時の混乱を思わせる記述がありました。同じ頃、馬齢重量制の整備などのルールを定めて構成にする動きもあったこと、クラシックレースと呼ばれるレースが定着して、その中で三冠馬となる馬が出てきたことなどが述べられていました。(第5章 市民社会と近代競馬の発展―十九世紀のヨーロッパ競馬)

    ・アメリカでは独立戦争から軍隊として馬の数を用意する必要があり、アメリカ大陸への馬の持ち込みや生産が入植当初から行われていたというのは興味深いなと思いました。アメリカでも競馬が発展し、それ以降南アフリカや開国当時の日本等でも競馬が持ち込まれ、外国人居留地に住むものの娯楽として成り立っていたと書かれていました。(第6章 馬産地ケンタッキーの台頭―十九世紀の世界の競馬)

    ・アメリカ流の騎乗の仕方が広まったり、フランスで凱旋門賞が創設されたり、競馬後進国イタリア産のネアルコが凄まじい実績を叩き出したりと、競馬の元祖イギリス以外における二十世紀の競馬の活況について述べられていました。(第7章 凱旋門賞創設と国際レースの舞台―二十世紀のヨーロッパ競馬)

    ・アメリカの競馬が隆盛し、あまり他の大きな大会が開催されない時期にブリーダーズカップを創設することで世界中の有力競争馬が集まってきたこと、あまり競馬を知らない私でも知っているサンデーサイレンスがアメリカの馬でありながら日本のファームに買収されて種牡馬となったことなどが書かれていました。(第8章 繁栄する合衆国の英雄たち―二十世紀のアメリカ競馬)

    ・日本でも陸軍の要請で競馬が始まり、流行したが不正の温床となって1908年から1924年まで馬券の販売が禁止されたこと、司馬遼太郎の「坂の上の雲」で書かれていたような日露戦争での騎兵の評価はあまりなく、「騎兵が充実していればロシアは無条件降伏していただろう」と言われるような評価だったこと、競馬場を創設した安田伊右衛門が陸相から手を引くように言われても遂行して今は安田記念に名を残していること、日本中央競馬会の二代目理事長の有馬頼寧が教育事業につくしながら公職追放にあい、唯一受けた仕事で競馬環境の改革に励んで今は有馬記念に名を残していることなど、現代に繋がる話も合って面白かったです。(第9章 日本競馬の飛躍―二十世紀の世界の競馬)

    ・ディープインパクトなど、二十一世紀になって活躍した馬など、現代に繋がる話が書かれていました。(第10章 国際化時代のビッグレース―現代の競馬)


    ○つっこみどころ
    ・古代ローマや中世・近代ヨーロッパの競馬の歴史はそれなりに充実していましたが、後半の第8条以降は個別の馬に焦点があてられていて、歴史の流れより個別トピック中心になっていて、頭に残らない内容になっていました。

    ・競馬の歴史自体は興味深いと思いましたが、競馬に興味のない私がこの本を読み終えても現代の競馬に対してはそれほど興味を持てないままでした。

  • -

    中東生まれのアラブ馬を始祖とし、イギリスで誕生したサラブレッド。この純血種は名馬エクリプスの登場で伝説化され、欧米から世界中に広まった。ダービーなど若駒が競い合うクラシックレースが各国で始まって人気を博し、二十世紀以降、凱旋門賞をはじめとするビッグレースが創設された。観衆の胸を躍らせた名勝負の舞台裏では、人と馬のいかなる営みがあったのか。優駿たちが演じた筋書きのないドラマを世界史としてたどる。

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