シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)

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著者 : 麻田雅文
  • 中央公論新社 (2016年9月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121023933

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シベリア出兵 - 近代日本の忘れられた七年戦争 (中公新書)の感想・レビュー・書評

  • 1917年に起きたロシア革命。ロシアはドイツに単独講和を申し入れ第一次大戦から離脱。焦った英仏は反革命軍(チェコ軍)救出を名目に、日本と米国にロシアへ派兵するよう要請。日本は当初派兵に反対していたが、米国の派兵決定とアジアへ南下するドイツへの牽制、共産主義への対処などを理由に日米共同シベリア出兵を決定。しかし、連合国側の思惑と期待を裏切り、日本は増派と派兵地域を拡大しシベリア中部からバイカル湖まで占領する。

    戦争の大義は建前上利他的なものだった。南下するドイツへの牽制の意味もあったが国際社会への建前はチェコ軍の救出という利他的ものだった。しかし、増派と占領地域が拡大・縮小する度に戦争目的があやふやになる。当初のドイツへの牽制からチェコ軍の救出、さらに共産主義の脅威から満蒙の権益を守るため、果ては日本人虐殺事件(尼港事件)の責任をとって北サハリンの資源よこせ、と主張が二転三転し訳が分からない。現地では陸軍特務機関の謀略が失敗しロシア軍人の反革命傀儡政権は機能せず、パルチザンと赤軍に敗走を重ね、撤兵までに7年を要した。

    シベリア出兵を決めたのは寺内内閣だが、後を継いだ原敬は撤兵を決定。統帥権の独立と戦い陸軍大臣・田中義一と連携して参謀本部を抑え込んだ手腕はやはり見事。元老の山形有朋がまだ生きていたことも撤兵のための大きな要因だった。原と田中は、山形に事前・事後にシベリア出兵にかかわる方針について承諾を得ていた。軍の抑えとして山形の力を利用したことが伺える。原の意思を継いだ高橋是清、加藤友三郎も撤兵への道筋を示し、リーダーシップを発揮したことも見逃せない。

    7年に及ぶシベリア出兵は、後のアジア太平洋戦争と類似点が多い。ロシアの地名を中国や東南アジアの地名に置き換えても違和感がないほど。
    曖昧な戦争目的。それを糊塗する美辞麗句な派兵スローガン。統帥権の独立を楯に現地軍の暴走とそれを追認する中央の軍幹部。現地に傀儡政権をつくって日本がコントロールする統治方法。そこで暗躍する軍の特務機関。ただ、昭和との違いは戦争を止めようとした原や高橋、加藤といった政治指導者がいたこと。元老の山形がまだ生きていたことも大きい。著者もいうように、シベリア出兵は政府が軍部を従わせて撤兵に成功した戦前最後の戦争であったという。

    しかし、結局このシベリア出兵は一体なんだのか、よくわからない。それがまた日本的というか、悲しむべきかな。本書は、忘れられた近代日本の戦争を膨大な史料を用いて全貌を描いた稀な書だろう。まだまだ未開の分野らしい。さらに詳細な続編を待ちたい。

  • 我々日本人にも印象が薄い「シベリア出兵」を体系的に理解できる一冊。かくいう私もシベリアというとWW2後のシベリア抑留のイメージが殆どであり、本件については学生時代に知った程度であった。

    WW1やロシア革命との関係や共同出兵した連合国との軋轢などは興味深かったし、以後の日中戦争、太平洋戦争へと突き進む素地がこの時にできていたように思う。

    最近新書の中では中公新書を選択する確率が高くなってきている。それだけ好奇心をそそられる本が多い。

  • これは読んでよかった。

    教科書で触れたシベリア出兵、正直なんでこんなことをしたんだろうと思っていた。第一次世界大戦が起こって、同盟の関係で大陸に行って、でも撤退したのが遅くて批判…てくらいしか触れてなくて、全然意味が分からない。

    分からないのは、知らないから。この本を読んで、全部納得した。外交の怖さ、このころからもう、次の戦争、日中戦争や大東亜戦争の足音は聞こえていたのだ。

    シベリア出兵が次の日中戦争の教訓になっていないという悲劇、という一文も絶句した。
    前回読んだ本に「人類の歴史は教訓が生かされない」とあって、これが戦略のロジック…と思い絶句した。

    となれば、またこの国は…なんて空を仰いでしまう。その時私たちは冷静に物を見ることができるのだろうか(できないだろうな)

  • ロシア革命の混乱の中、第一次世界大戦の終結への諸外国と人々の思惑によってシベリアの地に出兵された、その7年間について分かりやすく書かれています。出兵に意味はなかったと言われていて日本も多くを失ったのですが、では誰が出兵させたのか、なぜ幕引きが出来なかったのか。一人の人間が単純に決めたことではない舞台裏を見るにつけ、あれ、と既視感を覚える場面も、読後感にも、あります。何かを始めることは簡単でも、それを収めることの難しさ。今でも共通して見られるのではないでしょうか。とりあえずやって見たらいい、ダメだったらやめたら良い。ということは会社で働いていると当たり前のように聞きますが、それはとても無責任な発言だと気づかされました。現代の会社で働いていると、それは金銭的な損失でしょうが、ひいてはシベリア出兵のように人命にまで発展する可能性があるということ。何よりも責任の所在が曖昧になってしまうということ。重く考えなければならないと思わされました。

  • 『失敗の本質』で提示された論点を確認するケーススタディとして読む。現場と指揮との乖離・統制不全、グランドデザインの欠如、再学習の未実施など、多くが当てはまる。また、本件の後半から、アメリカ、イギリス、中国と良好であった関係が悪化するなど、先の大戦に繋がる線が見える。歴史の教科書では、ほとんど触れられない事案だが、その後の状況や現在の行動などに多くの示唆が得られる。

  •  在外居留民保護を口実にという表層的な知識しかなかったが、元々はWWI中のロシア革命と独ソ講和を背景に英仏が日米を誘った、ということが発端だった。大陸で勢力を伸ばすとともに英米に恩を売り、国際社会での地位を上げるため出兵に積極的な陸軍、外相。消極的な原敬。それでも当時、米からの共同出兵の提案に乗る形で出兵(1918年)という程度には国際協調的だった。
     しかし、1919~20年にかけ他の主要国が撤収する中、折悪しく尼港事件があったこともあり、沿海州撤収、北サハリン撤収と段階を踏みつつ、1925年にやっと撤収を完了する。
     7年続いた原因として、筆者は「統帥権の独立」「親日政権の樹立失敗」と並び、人的犠牲を思うと手ぶらでは撤兵できないとの「死者への債務」を挙げている。当初出兵に消極的だった原敬が完全撤収にも消極的だった理由もこの「死者への債務」だ。満洲事変・日中戦争とも似ている。

  • 著者は言う。日本人には、シベリア抑留はよく知られているが、シベリア出兵のことはよく知らない人が多い。そして、ロシア人は、シベリア抑留のことはよく知らないが、シベリア出兵はよく知っていると。
    たしかに、ロシア革命後に列強各国がシベリアに兵を進めたということは、歴史的事実として知っていたが、その原因や経過などは知らなかった。また、「あとがき」にも書かれているが、一般向けの本もあまりない。
    そういうわけで、興味を持って読み始めた。ボリシェビキに対する干渉戦争という理解は間違いではないが、日本が出兵したのは、第一次大戦の西部戦線でドイツと戦う連合国が強く働きかけたものであること、出兵に当たって日本政府はアメリカとの共同出兵を条件としていたこと、各国軍が撤退した後も含めて日本軍は7年間も駐留を続けたこと、など知らないことがたくさんあった。そして、統帥権に基づく軍部の独走、現地でのゲリラ戦に対する苦戦、傀儡政権の擁立目標など、後の日中戦争と同じようなことがシベリアでも起きていたのに、その経験を後に生かすことができずに同じ愚を繰り返してしまったことにも驚かされた。他方、撤兵に向けた政治的努力や世論の反対があったことが太平洋戦争とは違っていた。
    2018年にシベリア出兵から100年の節目を迎えるに当たり、日本人の記憶に薄いシベリア出兵について分かりやすく書かれた本書の意義は大きいと思う。

  • ロシア革命による混乱に乗じて各国が利権を得ようと介入したシベリア出兵。自分が生まれる前に他界した父方の祖父(富山)はこのシベリア出兵に従軍していた。朝鮮の光州でも商売やっていたので、大陸に何か思うところがあったのだろうか……。早稲田大学教授の本野英一先生のお祖父さん(本野一郎)登場(当然だが)。うちの祖父は単なる兵隊さんだが、こちらは時の外務大臣。ロシア通として知られ、シベリア出兵に積極的であった(ただし、1918年に57歳の若さで胃癌で亡くなった。寺内正毅も途中で死亡。原敬も死亡。山県有朋も死亡。加藤友三郎も死亡*。是清は生き残ったが、責任者が次々と死んだことも出兵が長引いた一因か。*加藤友三郎は1923年に死亡なので完全撤退までは生きられなかった)。

    北サハリンからの撤兵も含めて7年間にもわたる海外での軍事行動で失われた将兵の数が3,333人(軍属のみの戦病死者)というのは意外に少ない気がした。もちろん、内戦で死んだロシア人の数(8万人という推計は過大かという著者の指摘)に比しての話だが。また尼港事件などでの民間人犠牲者は含まれていない。

    ともかく他国の内戦に干渉するという、今も繰り返される軍事介入の典型。利害関係者が非常に多岐にわたるにもかかわらず、そして新書という限られたスペースにもかかわらず、大変わかりやすく書かれており、オススメ。当時の国内での動きもシベリア出兵というファクターを1枚噛ませると見えてくることも多々あり、勉強になった。

    余談だが今年は大和和紀「ハイカラさんが通る」の劇場版アニメも公開されるとか。あれもシベリア出兵が時代背景……というか、まさにそれがなければわけわからない物語。今の若い人もこの本を読んで、「ハイカラさんが通る」を観に行かれることを強くオススメしたい(違)。

  • 第一次対戦末期の激動の時代。世界の力関係も刻々と変わり、昨日の敵が今日の友、政治による駆け引きと、武力による力関係で、不条理なこともたくさんあっただろうと思う。
    原敬が総理大臣の頃は、総理大臣は今よりも、全然権限がないこと、などあまり知らなかった。
    また、レーニンの革命直後の不安定な状況、山県有朋と原敬の関係など、臨場感のある筆致だった。
    軍が内閣と別に権力を持ってること、様々な人の思惑の相違からシベリアからの撤退が遅れるなど、誰かが、強力な意思を持ち、早く判断し、ぐいぐい引っ張れるといいのにと思ったか、それが、ファッショに繋がる考え方なのかも知れない。

  • 終章で纏めているように「大陸における既得権益の維持と拡大を図ろうとした結果、出兵地域は拡散していったと考えられる。出兵の大義名分が二転三転したのも、拡大・縮小する戦線に、何とか辻褄を合わせようとしたためだ。そもそもチェコ軍団の救出という利他的なものだった大義名分は、満蒙権益の擁護など、次第に日本の利他的なものへ堕ちていった。」に尽きます。ほんとうに昔から政府も軍部もスケベ心が見え見えなのです。マスコミも戦績が良い時は好戦的だが、戦争が長引くと、手のひらを返したように反戦を声高に叫びます。今昔変わりなし。

  • 「“用語”が何となく知られている他方で、内容が然程詳しく知られているでもない」というような史上の事案は多々在る。そういうモノに関して「手際よく説く」というのが、“新書”の「望ましい役目」だと思うが、本書はそういう役目を確り果たしてくれる一冊だ。
    「シベリア出兵」だが…これは大正時代の第一次大戦の終わるような時期、色々と混迷した当時の世相等が語られる文脈で「さらり」と用語が登場する…そういうような、「軽い扱い」である印象を免れ得ない。が、実際には「7年間」もの長きに亘って、国外で軍事作戦が展開され、出て行った将兵や現地の人達の中に大きな犠牲が生じていた事案で、もっと注目されて然るべきなのであろう…
    こういうようなことを踏まえて本書は登場したようだ。事態が発生したのが1918年ということで、間も無く“100年”ということにもなる…2014年頃、発生から“100年”ということで「第一次世界大戦」にスポットライトが当たった経過が在ったが、著者はそういう事柄も意識して本書に取組んだようだ。
    価値ある一冊で、多くの方に薦めたい。

  • 1920年代前半、日本軍が遠くイルクーツクまで出兵していた事を知る人はあまり多くないと思われる。

    この出兵から撤兵に至る経緯や、その間に起こった内外の交渉について、興味深い記述が続く。

    昨今の南スーダンでのPKO活動を巡る議論にも示唆を与えてくれる一冊。

  • シベリア出兵とは、戦前日本の大正デモクラシーが有効に機能した最後の輝きだったのかもしれない。

     シベリア出兵については、シベリア出兵を奇貨としてとして極東進出を目指す勢力と、国際協調路線の下に積極的な進出に懐疑的な勢力が激しく衝突した。
     当初は国際的な世論に押される形で、シベリア出兵がなさたにも関わらず、大義を次第に喪失しついには、ただ犠牲だけを払って終わったシベリア出兵。ただ、シベリア出兵を終わらせたのは、大正デモクラシーが機能した証左だったのかもしれない。

    そして加藤友三郎の株が急上昇。
    鈴木貫太郎と近いものを感じる。

  • シベリア出兵について、主に日本政府の視点から。とてもわかりやすい。

  • 1917年11月に勃発したロシア革命。共産主義勢力の拡大に対して翌年8月、反革命軍救出を名目に、日本は極東ロシアへ派兵、シベリア中部のバイカル湖畔まで占領する。だがロシア人の傀儡政権は機能せず、パルチザンや赤軍に敗退を重ねる。日本人虐殺事件の代償を求め、北サハリンを占領するなど、単独で出兵を続行するが……。本書は、増派と撤兵に揺れる内政、酷寒の地での7年間にわたる戦争の全貌を描く。

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