トルコ現代史 - オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで (中公新書 2415)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024152

作品紹介・あらすじ

1923年に建国したトルコ共和国。革命を主導し、建国の父となったムスタファ・ケマルは、共和主義・民族主義・人民主義・国家資本主義・世俗主義・革命主義という6原則を掲げ国家運営の舵を取った。それから約1世紀、数度のクーデタ、オザル首相の政治改革を経たトルコでは、エルドアンが政敵を排除しながら躍進を続けている。ケマルが掲げた6原則を通して、トルコの百年の足跡を振り返る。

感想・レビュー・書評

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  • 非常に読みやすく、ドラマチックで面白い。しかし内容は大変充実している。個人的な見解だが、本書はまさに新書らしい新書といえ、中公の歴史本では傑作の1つではないか?とさえ感じた。
    著者が若くて驚いたが、若さゆえ?の謙虚な(読者のことを考えた)姿勢で書かれたのだと思う。
    私が「黒海の国際関係」という本を読むにあたり、ほぼ無知だったトルコについて、政治史の概略を知ることができた。
    元来は(エルドアン前までは)エリート層や軍の主流が世俗主義者であったということが興味深かった。軍というと、私は勝手に保守的・伝統主義的なイメージを持っていた。だが、この国の保守主義とはケマルによる共和国建国の理念を堅持することのようだ。(最近では新オスマン主義というような、建国以前の過去に回帰する保守主義もあるようだが。)また、軍が、クーデター後には国難への対処を図り、権力を再度立法・行政に返還する…という行動法則も独特だと感じた。
    最近のタイ・ミャンマー情勢ではないが、軍部クーデターやその動機についても知りたくなった。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/689620

  • 建国から2016年までのトルコ共和国の歴史をふりかえる本。約300ページと新書にしては少し厚めではあるが、これを読み込めばトルコ国内の状況と対外政策の経緯の概略を掴むことができる好著。入門書に最適だと思う。

    今年でトルコは建国百周年を迎えるそう。本書執筆時からの変化としては内政ではISの弱体化と震災、外交ではウクライナ戦争であろう。NATOの加盟国であるトルコはウクライナ戦争以降も欧米と歩調を合わさず、ロシアと関係を保っている。その背景には昔からの現実主義的な政策運用があるようだ。

    また特筆すべきは政軍関係だろう。共和国史の中で何度も軍部によるクーデターが起き、政権が崩れたこともあった。ここからわかるように、トルコ政治では軍のシビリアンコントロールがきいていなかったようだ。ただ、2016年にもクーデターが起きた経験から、政府優位にするための改革がなされた。

    本書の理解をさらに進めるためにはトルコの統治構造を知るべきだと思う。トルコ国内の人種問題や対外関係についてはさらに勉強したい。

  • 227-I
    閲覧新書

  • トルコは来年、建国100周年を迎えるんですね。
    私が面白く読んだのは、エルトゥールル号事件について。せっかく明治の日本人がトルコの方々を助けてくれたおかげで、トルコは親日家の方が多いです。いつまでもこのいい関係を築いていきたいですね。
    もっとトルコのことを知りたいです。

  • 【行進の足跡】文化や歴史については日本人の間でも何となく知られているトルコ。同国がくぐり抜けてきた波乱の現代史を振り返りながら,今日に到るまでの政治・経済・外交の歩みについて記した作品です。著者は,トルコへの長年にわたる留学経験も有する今井宏平。

    著者があとがきで述べているとおり,トルコの現代史に関する手頃な作品というのがあまりなかったため,新書という手軽な形でこのような本が世に出たことそのものが嬉しい限り。代表的な人物の写真等も掲載され,トルコについて勉強したいという方に,取りあえずオススメできる一冊でした。

    〜トルコ共和国のあゆみは,新たな国家建設の指針であった六本の矢との対話であった。〜

    久しぶりにイスタンブールへ行きたい☆5つ

  • 重厚で読み応えのあるトルコの現代史だった。三度にわたる共和制の成り立ちを丁寧に紐解いていて勉強になる。その中でも第三共和制から現在に至るまでが本書の主眼となっていて、文字通りのトルコ現代史を知ることができた。ところどころに挟まれたコラムも面白い。

  • トルコ現代史

    オスマン帝国の滅亡から、トルコ共和国ができ現代までの歴史の変遷を丁寧に説明している。
    2002年に公正発展党が政権を握ってから、経済的に安定成長を続け、国際的にも存在感を強めつつある。
    最近はトルコ国内で多くの事件が起こり、隣国のシリアやイラクの混乱への対応、難民問題をめぐるEUとの関係などもあり、また公正発展党出身のエルドアン大統領と安倍首相との良好な関係、2014年末から15年初めに上映された日本とトルコの合作映画『海難1890』もあり日本でもトルコへの関心が高まっている。

    第一世界大戦で敗北したオスマン帝国は、条約によって解体されようとしていた。
    しかし建国の父、ムスタファ・ケマルの尽力もあり、ローザンヌ条約によってトルコの独立を認めさせ、初代の大統領となった。
    トルコにいるクルド人は、「トルコ人」への同質化を迫られた。(抵抗はあった。)
    その後の第二次世界大戦では、第一次世界大戦の教訓から、トルコは「現状維持」を第一に、1939年から42年まで、イギリス・フランス・ドイツ・ソ連との間に全方位外交を展開した。トルコは注意深く中立を保ち、大戦末期に連合国に加わった。

     外交では、第2次大戦後、トルコは西側陣営への傾斜を強め、朝鮮戦争へは4500人を派兵。その貢献もあって1952年にNATOへ加盟する。
     しかし、1964年のトルコのキプロス派兵によるアメリカとの関係は悪化。さらに1974年の第2次キプロス紛争が起こると、アメリカのフォード政権はトルコへの軍事援助と軍備品の売却を停止し、対米関係は悪化した。
    第二次世界大戦当時、ソ連の脅威からアメリカを始めとした西側に傾いていたが、ソ連の国力が衰え、キプロス紛争などが起こると逆にソ連との距離を近づけていった。
    そしてまた1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻すると、トルコの重要性が高まり、再度アメリカなどはトルコに近づいていくことになる。

     1980年9月12日、治安の悪化などを理由に軍がクーデタを起こし、そして新しく1982年憲法がつくられた。この新しい制度のもとで政権を担当することになったのが祖国党のトゥルグット・オザルです。
     オザルは新自由主義的な経済政策を推し進めるとともに、「トルコ-イスラーム統合論」によって政教分離に抵触しない範囲でイスラームを正当化しました。
     また、外交面では親米政策を取り、大統領として迎えた1989年の湾岸危機では、ほぼ独断で多国籍軍のトルコの基地使用を認めた。
    しかし、そのオザルが1993年に急逝するとトルコの政治は再び不安定化。首相にはデミレルの後継者である正道党(公正党の後身)の党首で経済学者でもあった女性のチルレルが就任したが、また、クルド人問題についても解決の道筋は見えず、オジャラン率いるPKKが海外で戦闘員を育成し、テロ活動を繰り返した

     そうした中で、親イスラームの福祉党が1994年の地方選挙や95年の総選挙で躍進。
     ところが、この台頭は軍部の警戒感を招き、98年に福祉党は解党。99年からはエジェヴィトが首相となり、02年まで政権を担うが、00年と01年には経済危機が起こり、ハイパーインフレが発生。

     この危機を受けた02年の総選挙で大勝したのが現在の大統領エルドアン率いる親イスラームの公正発展党。
     経済的にも安定したトルコはG20のメンバーとなり、その存在感を増加。
    現在は世界18位の経済力を誇る。
     外交も、ダーヴトオールの提唱した「中心国」の概念のもと、地域の「大国」として中東地域を安定させようとしている。
     
     特にシリア内戦において、トルコは当初アサド政権の退陣を求めたものの、アメリカの不介入の方針もあって、ISの台頭、ISに対抗するために存在感を増したクルド人の武装組織、さらにはロシアの介入と、トルコにとって厄介な事態を次々と引き起こしている。
     また、シリアからの難民は2016年12月の時点で約279万人がトルコに流入しており、このシリア難民の統合はトルコの民族主義にとって大きな問題となるだろう。
     また、PKKとの和平交渉も現在は頓挫しており、現在68歳のオジャランが存命中に和平を達成できるかがひとつの鍵となる。

    クルド人問題は現在も解決されていない。
    国を持たない民族であり、自分達で独立することを目指している。
    だからつねにクーデターなどが起きる環境にあるのだろう。

  • あまり馴染みの無いトルコについて建国から現在までわかりやすくまとめた一冊。政治と軍部の関係、世俗主義、そしてクルド問題などこれ一冊で概略がつかめる。何より著者が若いことにより驚愕した。

  • 1923年に建国したトルコ共和国。革命を主導し、建国の父となったムスタファ・ケマルは、共和主義・民族主義・人民主義・国家資本主義・世俗主義・革命主義という6原則を掲げ国家運営の舵を取った。それから約1世紀、数度のクーデタ、オザル首相の政治改革を経たトルコでは、エルドアンが政敵を排除しながら躍進を続けている。ケマルが掲げた6原則を通して、トルコの百年の足跡を振り返る。

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著者プロフィール

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究員

「2017年 『国際政治理論の射程と限界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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