貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 (中公新書 2422)
- 中央公論新社 (2017年2月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121024220
感想・レビュー・書評
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大阪の西成区、あいりん地区の歴史、社会保障のあり方、様々な論点で論じている。
家族単位のスラム街から、バブル期の日雇い労働者としての街、バブル崩壊後のホームレス化、2000年代の生活保護への移行。
サポーティブハウス スタッフが無償で生活のサポートをしている。専門職ではない。公費の補助が進みにくい。
貧困ビジネスとの線引きが難しい。
現在は、確か星野グループがホテル建てたり、外国からの宿泊客が安宿を求めて来たりと、色々変換期か。
売春も淘汰されて、住み良い街になるといいが、なにせ昔を知っている人は地価が安くても絶対住みたくない場所だろうなぁ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
SDGs|目標1 貧困をなくそう|
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685446 -
初めて足を踏み入れた時、頭をよぎった疑問ーなぜこのような街なのか、行政は何をしているのかーへの答えを知るために手に取った本。
複合スラムから高度経済成長期に伴いドヤの街になり、バブル期には賑わうもバブル崩壊の煽りを最もナイーブに受けて福祉の街へという歴史がよく分かった。
そして、貧困を一つの地域に止めることによるメリット(セーフティネットを重点的に充てやすい)とデメリット(差別などで再チャレンジが難しくなる)も理解した。
財政が厳しい大阪市が生活保護を無制限に支給できるわけではない。匿名性が高く訳ありの人々にとっては過ごしやすい地域であるあいりん地区に生活保護者が流入する状況は全く好ましくないが、再開発で駆逐してはいけない(地価が上がればこの人たちは路頭に迷う)。
今の貧困者に再チャレンジと福祉を当てがいつつ、少しずつ変化を加えていく長期的な政策が行政に求められていると思った。 -
大阪のあいりん地区について、その歴史からセーフティネット、再開発計画等まで丁寧な調査に基づいて詳述している一冊。耳にしたことはあっても、その背景等については無知だったので大変興味深かった。
貧困地域というイメージが強いあいりん地区だが、反面多層的なセーフティネットがあり、貧困者への福祉という意味では先進地域といえる。これから全国の他地域にも大変参考になると思う。
現在進行中の西成地区再開発によって、今後社会的弱者の方はどのようになるのか、注視していきたい。 -
自身が活動する地域にも少なからず貧困層がいるが、アウトリーチを拒み続ける方も多い...。関係づくりを地道にやるしかないなぁ...。
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釜ヶ崎(あいりん地区)の今日までの歴史、出来事を、日本社会のそれと照らし合わせて解説されている。
地域としての釜ヶ崎、あいりん地区(行政によって作られた地域)がどうして生まれたのか、政策によって、振り回される人々。
福祉制度にも労働政策にも乗っかることができない狭間の人々、セーフティネットとしての民間活動があるが、そこには質の保障や法による統制ができないことがあったりする。
結局、不利益を被るのはそこに住む一人ひとりの住民。 -
かつて釜ヶ﨑、今はあいりんと呼ばれる日本有数の貧困地区を、これまでの歴史や改善に向けた取り組みを通じて、赤裸々に明らかにした一冊。
日頃、貧困と向き合うかかわりをしていますが、貧困に陥ったのではなく生まれながらの貧困というべき人たちを支援するというのでは別次元の違いがあると思うだけに、これからどのような対策を打ち出すのか、注目していきたいと思います。 -
『貧困と地域――あいりん地区から見る高齢化と孤立死』
著者:白波瀬達也(1979-)
【書誌情報】
初版刊行日 2017/2/20
判型 新書判
ページ数 240ページ
定価 本体800円(税別)
ISBNコード 978-4-12-102422-0
「日雇労働者の町」と呼ばれ、高度経済成長期に頻発した暴動で注目を集めた大阪のあいりん地区(釜ヶ崎)。現在は高齢化が進むなか「福祉の町」として知られる。
劣悪な住環境・生活保護受給者の増加・社会的孤立の広がり・身寄りのない最期など、このエリアが直面している課題は全国の地域社会にとっても他人事ではない。本書は、貧困の地域集中とその対策を追った著者による現代のコミュニティ論である。
<http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/02/102422.html>
【メモ】
・調査の背景が説明されてます。
Web中公新書 『貧困と地域』/白波瀬達也インタビュー
<http://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/102043.html>
【目次】
まえがき [i-v]
目次 [vi-xi]
地図 [xii-xiii]
序章 暴動までの歴史的背景 001
1 「ドン底」の町 002
戦前の釜ヶ崎
戦後から高度経済成長期にかけて
急激に膨らんだ人口
不安定な職業と住まい
学校に行かない/行けない子どもち
暴力団の跋扈と犯罪の多発
2 相次ぐ暴動と余波 015
暴動の発生
釜ヶ崎対策の展開
大阪市の民生対策
大阪府の労働対策
第1章 日雇労働者の町として 021
1 スラムからドヤ街への段階的移行 023
発展から取り残された地
歌われた釜ヶ崎
2 あいりん地区指定による変化 028
繰り返された暴動
あいりん対策のはじまり
もう一つのあいりん対策
あいりん地区の住民意識
3 寄せ場を拠点化した新左翼運動とキリスト教の取り組み 036
革命の拠点?
労働運動の高まりと公園の封鎖
キリスト教の活動
釜ヶ崎キリスト教協友会の結成
4 建設業に一元化される日雇労働 046
重層的な下請け構造
一九八〇年代の好況
出稼ぎ外国人の増加
5 一七年ぶりの暴動とバブル崩壊 051
不正への怒り
バブル崩壊の衝撃
機能不全に陥った失業保険
日雇労働者の高齢化問題
バブル崩壊後の暴動
第2章 ホームレス問題とセーフティネット 065
1 寄せ場機能の衰退とホームレス問題 067
野宿者を生み出す背景
生活保護の適用と野宿者の減少
再び定住空間となったあいりん地区
2 あいりん地区におけるセーフティネットの多層性 077
四つの取り組み
あいりん対策によるセーフティネット
キリスト教系団体によるセーフティネット
社会運動団体によるセーフティネット
生活保護によるセーフティネット
第3章 生活困窮者の住まいと支援のあり方 091
1 居住支援のかたち 093
ホームレス支援のステージ
住まいから排除されやすい野宿者
無料低額宿泊所の位置づけ
住まいをめぐる利害の一致
居住支援の展開
2 サポーティブハウスの取り組み 104
その仕組み
入居経路と入居期間
入居者の属性
3 サポーティブハウスの成果と課題 112
社会的孤立への対応
直面する課題
4 住宅扶助の引き下げがもたらす弊害 119
大幅に減額された家賃
住宅扶助引き下げのねらい
あいりん地区に与える影響
生活困窮者の住まいをめぐる構造的問題
第4章 社会的孤立と死をめぐって 127
1 社会的孤立を生み出す背景 128
大都市の一人暮らし高齢者
互いの過去に踏み込まない
日常化する孤立死
2 社会的孤立の帰結としての孤立死 138
頻発する異状死
西成区における社会的孤立・孤立死対策
あいりん地区における社会的孤立・孤立死対策
求められる新たな地縁の創造
3 無縁仏に対する集合的弔い 146
公的機関による集合的弔い
社会運動団体による集合的弔い
4 あいりん地区における個別的弔い 156
カトリック系施設「ふるさとの家」の取り組み
僧侶たちの取り組み
死が紡ぐ新たな地縁
第5章 再開発と向き合うあいりん地区 163
1 西成特区構想とは何か 165
橋下市長の登場
釜ヶ崎のまち再生フォーラム
(仮称)萩之茶屋まちづくり拡大会議
まちづくりと西成特区構想の邂逅
2 何が議論され、どう決まったか 172
税収と歳出のアンバランス
老朽化した「あいりん総合センター」の行方
公開会議での激しい攻防
示された方向性
3 岐路に立つあいりん地区の多層的セーフティネット 180
変化しはじめた町
山積する課題
トータルケアは可能か
社会資源の統合困難
手厚いケアの表裏をなす「強い管理」
再開発と手厚いケアの両立困難
地元住民とは誰か
終章 地域の経験を活かすために 199
この地域が刻んだ歴史
貧困と対峙する地域社会
あいりん地区の行方
あとがき(二〇一六年一二月 白波瀬達也) [207-211]
関連年表 [212-216]
主要参考文献 [217-222]
【抜き書き】
◆172頁
橋下が西成特区構想を立ち上げたとき、まちづくりの担い手たちは、それと距離をとるべきか、それとも今までの蓄積を施策に反映させるために積極的に関与すべきか葛藤があった(ありむら・寺川二〇一四)。
しかし、かねてから釜ヶ崎のまち再生フォーラムと深いつながりがあった経済学者の鈴木亘が西成特区構想の有識者座談会の座長となることで、草の根のまちづくりと大阪市のプロジェクトが邂逅することになった。大阪市特別顧問として市政に強い影響を及ぼすことができる立場でありながら、同時にあいりん地区のまちづくりの経緯や担い手を熟知していた鈴木が両者の媒介者となることで、西成特区構想は大きく前進したのだ。
◆197頁
西成特区構想は、衰退著しいあいりん地区に大きな変化をもたらす起爆剤となった。〔……〕西成特区構想は、もはや後戻りできない段階まで進んでいるが、あいりん地区に暮らす「サイレント・マジョリティ」が被るリスクについて一層敏感である必用があると筆者は考えている。 -
あいりん地区の歴史的変遷が丁寧に説明されていた。特に,日雇労働者の街から単身高齢の生活受給者の街への変化が印象的。
さまざまな団体の支援がセーフティネットになっているが,逆にさまざまな団体が支援をおこなってきたがゆえに連携がとりにくくしているということも学べた。
「西成特区構想」のくだりでは,トップダウンだけでなくボトムアップもあったことが述べられていた。街づくりは誰にとっての街づくりなのか,というのを考えさせられた。