帝国大学―近代日本のエリート育成装置 (中公新書 2424)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024244

作品紹介・あらすじ

今なお大きな存在感を持つ旧七帝大。明治維新後、西欧の技術を学ぶため、一八八六年の帝国大学令により設立が始まった。本書では、各地域の事情に応じて設立・拡充される様子、帝大生の学生生活や就職先、教授たちの研究と組織の体制、予科教育の実情、太平洋戦争へ向かう中での変容などを豊富なデータに基づき活写。建学から戦後、国立総合大学に生まれ変わるまでの七〇年間を追い、エリート七大学の全貌を描く。

感想・レビュー・書評

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  • [再版]2017年4月15日

  • 旧帝国大学の歴史がよくわかった

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/689615

  • 近代日本のエリート育成装置として設立された7つの旧帝国大学のお話です。私の母校である阪大には農学部がないという事実に気付かされました。当時の文部省は、総合大学とは7つの学部(理・工・医・農・法・経・文)を有する大学と定義していたので、そういう意味では阪大は総合大学ではないね(笑)。

  •  帝国大学の歴史は即ち長男・東大の歴史でもあるが、九大の教員としては、帝国大学の四男坊・九州大学を中心に読んでみると、長男と四男との制度的格差を痛感できる。シビアな言い方をすれば、帝国大学そのものも、戦前の家父長制の中に位置づけられていたと言える。
     7帝大の創設時期をマクロ的な日本経済史に大凡位置付けてみると、東大(1886年)は企業勃興期、京大(1897年)は日清戦後期、東北大(1907年)と九大(1910年)は日露戦後期、北大(1918年)は大戦景気、阪大(1931年)と名大(1939年)は高橋財政から戦時経済期に相当する。したがって、同じ「帝大」であっても、それぞれの創設や学部の新設過程を見てみると、時代背景が色濃く滲み出ている。
     東北大と九大の新設は、日露戦後期の財政難ゆえに、大蔵省からなかなか予算を認められなかったが、古河家からの寄付が両校創設の実現に大きく貢献したことは、もう少しクローズアップされてもよい。当時の「古河財閥は足尾銅山の鉱毒事件で社会の厳しい批判を浴びていた」(38頁)が、内務大臣の原敬の斡旋を受けて、総額104万円の寄付をもたらした。それは、あくまで世論を和らげる一策だったかもしれない。しかし、明治期の官立学校の新設が基本的に地元負担を求められてきた中で、官立学校よりもさらに費用のかかる帝国大学の設立に対して、こうした財閥側からの支援が無ければ、いまごろ東北大以降の帝大は、現在とは異なる規模に据えられていた可能性もあり得る。
     他方、教育者に注目をしてみると、山川健次郎に関する記述が散見されることに、目を奪われる。山川は東京帝大の総長を務めたのち、1911年に九州帝大初の総長となり、さらに再び東京帝大の総長に就任しているが、図らずも戸水事件や沢柳事件に絡まれてしまったり、大正時代の学制改革に加わったり、東京帝大の航空研究所の付置(1918年)を構想したりと、彼の教育人生そのものが帝大の歴史だったと批評しても過言ではなかろう。
     大学史に限らず、学校の歴史はこれまで教育史の中で語られてきたが、近年、就活・就社・人材供与や学閥・同窓ネットワークの研究が進むにつれて、社会経済史の中にもしっかりと組み込んでいくことが重要だと思われる。こうした研究史を、以前から得意としていた慶應義塾だけの独壇場にしておいては、企業史の中で一面的な学卒者像ができてしまうかもしれない。
     なお、今日降って湧いた「秋入学」問題に関して、本書では明治・大正期の実態が125-126頁に記されている。東京都の小池百合子知事が2020年4月29日に第7回全国知事会に出席し、「もともと明治時代は9月だったんですね」と発言しているが、その後のプロセスと、この問題における「パンドラの箱」の中身は、本書で十分に検証されたい。

  • いつの時代も基礎研究は卑下されるし、就職は大変なんだな。

  • 旧帝大として現代まで生き続ける帝国大学の歴史について、時代背景を交えながら詳細に解説する新書。

    設立の意図、莫大な費用などがありありと描かれており、大学の設立が明治の初めという時代の一大事業であったことが良くわかる。

    「大学をつくる」というのは現代でも別の意味で困難であるのだろうが、帝国大学においては全くのゼロからのスタートでありながら、国家の存亡をかけた事業としての位置付けであり、どれだけ困難でプレッシャーがかかった事業であったかを知ることができた。

    もう少しページ数を増やして、学生の声を登場させてくれるとより理解しやすかった気もする。

  • 548円購入2018-06-23

  • <目次>
    プロローグ なぜ帝国大学か
    第?部 誕生と発展
     第一章 東西両京の大学 − 東京・京都
     第二章 列島の南北へ − 東北・九州・北海道
     第三章 拡充と増設 − 大阪・名古屋
    第?部 高等学校生活
     第四章 予科と教養教育の間
     第五章 自由と人間形成
     第六章 入試から進学まで
    第?部 学生から学士へ
     第七章 エリートたちの学生生活
     第八章 大正デモクラシーのなかで
     第九章 官から民へ − 職業の世界
    第?部 教授たちの世界
     第一〇章 教授への道
     第一一章 講座制と大学自治
     第一二章 学界の支配者たち
    第?部 終焉と転生
     第一三章 大学財政の問題
     第一四章 戦時体制のもとに
     第一五章 国立総合大学へ
    エピローグ 研究大学への道



    2017.05.27 見もの・読みもの日記より
    2017.10.19 読書開始
    2017.10.23 読了

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著者プロフィール

1936年神奈川県生まれ。一橋大学経済学部・東京大学教育学部卒業。東京大学
大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。名古屋大学教育学部助教授、東京
大学教育学部教授、国立大学財務・経営センター研究部教授などを歴任。
東京大学名誉教授、教育学博士。
著 書 『試験の社会史』(東京大学出版会、1983年、サントリー学芸賞受賞;
     増補版、平凡社ライブラリー、2007年)
    『高等教育の日本的構造』(玉川大学出版部、1986年)
    『学歴の社会史』(新潮選書、1992年、平凡社ライブラリー、2005年)
    『日本の教育システム』(東京大学出版会、1996年)
    『日本の高等教育システム』(東京大学出版会、2003年)
    『教育と選抜の社会史』(ちくま学芸文庫、2006年)
    『大学の誕生』(上下、中公新書、2009年)
    『高等教育の時代』(上下、中公叢書、2013年)
    『新制大学の誕生』(上下、名古屋大学出版会、2016年)
    『帝国大学』(中公新書、2017年)他多数

「2019年 『新制大学の時代 日本的高等教育像の模索』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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