人口減少時代の土地問題 - 「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ (中公新書 2446)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024466

作品紹介・あらすじ

持ち主の居所や生死が判明しない土地の「所有者不明化」。この問題が農村から都市に広がっている。空き家、耕作放棄地問題の本質であり、人口増前提だった日本の土地制度の矛盾の露呈だ。過疎化、面倒な手続き、地価の下落による相続放棄、国・自治体の受け取り拒否などで急増している。本書はその実情から、相続・登記など問題の根源、行政の解決断念の実態までを描く。

感想・レビュー・書評

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  • 身につまされる。三代さかのぼるだけでもひと騒動なのに、その間になんかわけのわからないイベントでもあった日には。土地の値段が上がる前提のシステムは難しいなあ。

  • 少し前に自宅用の土地を購入したが、その時にいろいろ疑問に思った土地のことについて知りたいと思い手に取った。
    本書の重要な指摘は2点。
    一つは、利用されない土地をどう管理していくかが問題になるという指摘。もう一つは、土地管理の大前提となる土地情報の集積の問題の指摘。
    最初の点。土地はこれまで希少なリソースをどう分配するか(現有者を保護しつつ利用を促進するか)という問題だった。これからは、それに加えて誰も欲しがらない、利用されない負のリソースをどう分担していくかの問題になる、というもの。
    この点は実は今後の取り組み課題として提示されるだけで詳しくは書かれていないけれど、大きな転換点で行先困難なことは間違いない。
    二つ目の点。こちらが本書の主題で、帯にもあるように、すでに国土のうち九州に匹敵する面積が所有者不明になってしまっており、今後も改善の見込みがないなど、今後の政策を進める上で大きなボトルネックになるという。
    土地を売買した経験がある人は「そんなことない、ものすごく煩雑な書類を書いた」と思うはず。私もそう。
    本書の指摘は、1)登記が義務ではないため放置されること、2)土地台帳が目的別に分散していて土地そのものを管理するデータベースがないこと、が根本にあるという。
    2)はたしかに致命的。今のところ固定資産税用が一番網羅的なのに、それが1)の問題によりどんどん陳腐化しているという。
    それで誰がどう、困るのか?売買する本人だけならまだ民間の問題、個人の問題だったが、東日本大震災のあとの再開発や移転先の決定や建築が「所有者不明」のために遅延するなど公共の問題になってきているという。また、所有者不明=管理者不在=荒廃にもつながる。先日の新聞にも、裏山が土砂崩れを起こして自宅の一部が損壊したが所有者不明のため賠償請求もできないし修復工事もされないし大変困っているという記事を見かけた。
    政治家の仕事はこれまでは富の再分配だったが、これからは負の再分配も範囲、という政治家がいて素晴らしいと思ったことがあるが、この所有者不明、管理者不在という土地もその一つになるんだろう。

  • 農村から都市へ広がる、持ち主の居所や生死が判明しない土地の「所有者不明化」問題。地価下落による相続放棄や耕作放棄地、空き家問題の本質でもあるこの問題の実情から、行政も解決断念する実態までを描く。【「TRC MARC」の商品解説】

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  • SDGs|目標11 住み続けられる まちづくりを|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/689600

  • 人と土地のつながりについて、
    考えを深めるため購読。

    以下印象に残った点。
    ・登記簿と台帳の一体化は、それまで土地台帳が独立して担ってきた土地の物理的な現状の把握という公的な役割が、私的な権利を保護するための登記制度に吸収された過程だったともいえる。

    ・土地の測量の意味も、国の税務の基礎情報の把握という公的なものから、個人の権利の客体(対象)を明確にするためのものに大きく変わっていった。

    ・強い所有権。
    ・土地の利用よりも所有が優先する日本のような状況は、現在、先進諸外国では類を見ないものだ。
    ・本来、公共性の高いはずの土地(国土)が、境界もあいまいなまま、売り手と買い手の合意だけで売買され、開発されていく。
    ・土地(国土)が持つ公益的価値を十分に担保できる制度が整っているとはいい難い。

    以下は私の読んだ他の本とのつながりと、私見。
    司馬遼太郎も、
    「土地の日本人」の中で、識者たちと歴史を振り返った上で、
    日本における、絶対的な個人の土地所有権の強さと、
    それに伴う国土の公益性の軽視を、危惧している。

    やはり、特定の人間のB/Sに資産として土地が載るなんて、おかしい。
    土地は所有することができるものでなく、生きている間借りている、
    というのが正しいあり方なのではないか。

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    第1章 「誰の土地かわからない」-なぜいま土地問題なのか(空き家問題の根源ー森林・農村から都市へ/なぜ管理を、権利を放置するのか/法の死角ーあいまいな管轄、面倒な手続き/下落する土地の価値ー少子・高齢化、相続の増加)/第2章 日本全土への拡大ー全国888自治体の調査は何を語るか(死亡者課税による“回避”-災害とは無関係の現実/相続未登記、相続放棄の増加ー土地に対する意識の変化/行政の解決断念ー費用対効果が見込めない)/第3章 なぜ「所有者不明化」が起きるのか(地籍調査、不動産登記制度の限界/強い所有権と「土地神話」の呪縛ー人口増時代の“遺物”/先進諸外国から遅れた現実ー仏、独、韓国、台湾との比較)/第4章 解決の糸口はあるのかー人口減少時代の土地のあり方(相続時の拡大を防げるかー難しい法改正と義務化/土地の希望者を探せるかー管理・権利の放置対策/「過少利用」の見直しをー新しい土地継承のあり方)

  • 土地の登記ってこんなにいい加減なのかと参考になった。

  • この問題は本当に奥深い。
    日本の土地制度が実際問題として機能不全化しているが、解決には抜本的な改正が必要になるけどそのコストは膨大であるが、メリットが見えにくい(実際には大きい)という問題で、これ戸籍制度にも近いような気がする。

    それぞれの台帳を一つに集約するとか、土地に対して紐付けする・所有者に対して紐付けるとか、マイナンバーをつかってどうにかならないものか・・・

  • 空き家問題から派生して、この本。
    空き家対策の解決が難しい理由の一つとして、日本における登記制度の不完全さがあるのです。
    それは、日本における不動産所有権の登記は効力要件ではなく対抗要件にすぎないことから、相続時における名義変更が義務ではないこと。
    そんなことから、50年以上名義が変更されておらず、登記簿上の所有者がこの世にいないということは珍しくありません。

    また、自分がそういった土地を相続されていること自体を知らなかったり、自治体の固定資産税事務の担当者も、不在地主の相続人を探すことに費用と時間がかかってしまいます。
    そしてこの問題は、解決の糸口がないままどんどん拡大していってしまうのです・・・

    この本で言いたいことは「第4章 解決の糸口はあるのか」でまとめられているので、そこを読むだけで本書の意図は伝わります。
    自治体アンケートの結果は、その基本知識に厚みを持たせるためのもの、という位置づけでしょうか。

    ワクワクするような話題ではありませんが、こんな問題が日本に残ったままでは、地方創生の足かせになることは自明であると感じました。

  • 土地の所有権の登記が怠られている結果、所有者不明の土地が多数存在する。
    その根源には、地籍調査が一向に進んでいないことがある。特に都市部の地籍未調査面積は40%近い。

  • 少子高齢化が進む現代における土地の「所有者不明化」の増加問題について様々な視点から論じている。

    特に現行の不動産登記制度についての問題点(相続登記が申請義務無し等)は大きな課題と思う。先延ばしにせず、早急に国として改善検討すべきだと思う。

    正直、国家として土地についての統一的なデータベースが無いというのが信じられない。我々市民の認識が薄いことも一因なので、本書は非常に有用な気づきを与えてくれると思う。

  • 東京財団の研究員による所有者不明土地等、現在の土地の管理に関する問題について述べた本。国による不動産登記制度に問題があるため所有者の管理が不完全となっており、納税、災害対策、再開発等の行政や事業に不具合が生じている。しかしながら、個人の利益や権利とも大きく関係するため誰も改革しようとしないことが、最大の問題点であることがよくわかった。
    「固定資産税は、市町村税収の約4割を占めている」p52
    「(アンケート結果)土地の納税義務者数に占める死亡者課税の人数比率は、6.5%。約200万人と推定される。免税点未満も含めると7.4%、280万人」p63
    「公共事業目的以外で土地の寄付を受け付ける自治体はないことがわかった」p83
    「(受け取らない土地事例)「公的利用が見込めない」「個人の都合によるため」「権利関係に問題あり」「維持管理が負担になる」「原則として受け取らない」」p85
    「(地籍調査のまとめ)国土管理の基本情報で「地籍図」と呼ぶ。不動産登記法第14条1項に基づくため「14条地図」とも呼ばれる」p95
    「(地籍調査進捗率(2016年))全国52%、京都8%、三重9%、東京23%、大阪10%。沖縄、佐賀は99%」p96
    「(2010年4月1日現在)全国法務局に備え付けられている図面は約681万枚。うち284万枚は「地図に準ずる図面(多くは戦前の土地台帳の付属図で、明治時代に作成された和紙に毛筆で書かれたものもある)」」p98
    「(筆界未定)合意が取り付けられていない土地の界で、地番が「+(プラス)」記号で表示され「筆界未定地」と記載される。筆界未定地は分筆できないため、不動産物件としての価値が下がる」p102
    「売り手と買い手が合意すれば、測量をせずに公図の面積でも売買は成立する。売買契約書には「公簿面積とする」と記載」p105
    「土地売買は、農地以外は売買規則はない。農地については、農地法に定めがあり、所有権の移転に当たっては事前に農業委員会の承認が必要」p121
    「市街化区域と市街化調整区域は、それぞれ国土面積の4%と10%にすぎない」p123
    「利用の見込みがなく、買い手もつかない土地は、手放そうにも「行き場がない」のだ」p155
    「(土地の所有者等の情報)不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳、さらに国土利用計画法にもとづく売買届出などによって把握されている。しかし、台帳間の情報連携はない」p166

  • 所有者不明の土地がなぜうまれ、何が問題なのか詳説している

    そもそも日本の法律では土地に対する財産権などの観点から所有者の権利が強く
    所有者が同意しないと公共の目的であっても利用は難しい。
    その一方で登記の手続きは煩雑であり、また特に地方では土地の価格はタダ同然のところもあり
    登記が義務ではないこともあり相続に伴う登記が行われないこともままある。
    登記が行われない場合には土地は相続人により共有され
    2代、3代と登記されないまま土地が相続されると所有者の数は鼠算式に増える場合もある。

    上述のような問題の解決としては
    登記の手続きの簡素化、手続きコストの引き下げ
    土地所有者に関するデータベースやネットワークの整備
    所有者不明や所有者不在の場合に地方自治体や国が公共の目的のために
    効率的に土地を利用できるための権利関係などに関する法整備などが必要である。

  • 2018/07/15

  • 人口減少は直接的、間接的に様々な社会制度の持続可能性を損なっており、新たな制度設計が求められているが、本書ではその中でも土地問題に焦点を絞り、非常に分かりやすく問題の本質を説明してくれている。

    全国で所有者が不明の土地がすでにかなりの面積(九州の全面積を超える)に上っており、さらに増加し続けているとのことである。

    土地の所有者が不明になる背景には、社会的な背景としての少子化、高齢化による人口減少は一つの大きな要因である。しかし、それ以外にも経済的な背景として、地方、郊外を中心に土地(山林や農地を含む)の活用が進まない現状があり、そもそも土地を持つこと、土地の権利を主張することの経済的な意味が低下しているという実態がある。

    それに加えて、明治以降の土地登記制度は土地の登記を義務付けておらず、すでに明治以降数世代にわたって登記がなされていない土地について、関係権利者を確認して登記を行うことは非常な困難を伴うという実態がある。

    このような状況の中で、自治体も土地所有者も、土地の権利に「触れることが出来ない」実態があるように感じた。

    本書は、自治体へのアンケートや土地の登記の実体など、現場の実情を丁寧に踏まえながら、以上のような背景をバランスよく紹介してくれている。

    所有不明土地の問題は、空家、災害対策、インフラ整備など、様々な面で行政の施策や地域のまちづくりの障害となっており、土地の権利という私権の問題を超えて、公益性を帯びてきている。

    本書でも指摘されているように、欧米(日本が土地制度をつくるときに参考としたフランスでさえも)においては土地の公共性、経済面における外部性の存在を認識した制度設計に移行しており、日本でもそのような政策が求められていると思う。

    土地=資産→個人の問題という一面的な捉え方から脱却し、土地を地域の中でどのように扱っていくかを考え、管理、利用といった実態の課題と、所有に関わる法的な問題をある程度切り離して対応することができるような制度にするべきなのではないかと感じた。

  • 私有地の約20%で、すでに所有者がわからない。地価下落による相続放棄や空き家問題の本質であり、行政も解決断念する実態を描く

  • ■問題1
    ・行政が現在の土地の権利者が誰なのか把握できておらず、徴収できたはずの固定資産税収入が失われている
    ・土地開発の際に現在の権利者が分からず、その調査が難航するため土地の整理や開発が進まない

    ■事例
    ・六本木ヒルズの開発時、対象となる六本木6丁目は権利未確定の区画も多く残っており、境界調査だけで4年を要した。

    ■原因
    ・相続手続きをするメリットが殆ど無い一方で、手続きが非常に煩雑である
    ・権利者が死亡した際、死亡者が所有する土地の所在地の自治体に通知されず、また個人情報保護の厳格化のため戸籍上の自治体への問い合わせも煩雑化している。また何世代も前から登記がそのままだった場合、相続資格者全員の確認が必要になるが、明治の代まで祖先を遡って現在生存している権利者全員とコンタクトを取る必要があるなど、法制度が現実的でない。
    ・権利者が海外在住であったり、投機目的で外国人から別の外国人へ売買されていたりと、権利者が多様化しており現在の権利者を調べようにも追い切れない。外国人も権利者になりうるのでマイナンバー制度で一元管理するわけにもいかない。
    ・特に地方では自治体側に調査する余裕が無く、調査結果として得られるであろう固定資産税の増収はそれほど多くはない。

    ■問題2
    ・権利者が不要な土地を手放したくても引き取り手がいないため、固定資産税を払い続けなければならない

    ■原因
    ・利用価値の低い土地は売れない上に、自治体も不要な土地は払い下げる傾向にあるため寄付を受け取らない

    ■解決事例
    ・ランドバンク:各地域で権利者が不明な土地や権利者が不要に感じている土地を積極的に取得し、地域内で有効利用できるように支援する機構

    ■その他
    ・土地の権利者を確定させるために明治期まで祖先を遡って、相続権がある子孫全員とコンタクトを取る必要があるとなったら、その土地を取得することにどれだけメリットがあっても諦めるよなあ。
    ・地方だけでなく東京など都市部にも多く見られる問題らしい。
    ・日本は諸外国に比べ土地の私的所有権を強く認めており、土地の公共的性格に基づく所有権の制限をしづらい雰囲気があるらしい。
    ・手続きが面倒臭い問題、相続とかで調査コストが肥大化してしまっているについては法制度の改正で解決するしかないし、土地に対する私権をもう少し制限する方向で運用しても良いんじゃないかなあ。

    おしまい。

  • 所有者不明の土地が全国で増えている。
    直接的な原因は相続放棄や相続未登記。直接的要因は、登記なしでも土地取引ができること、名義変更の手続きが煩雑なこと、資産価値の低い土地の場合むしろデメリットが大きい場合があることなど。また、自治体による地籍調査の遅れも指摘される。
    さらにその背景には、日本の法制度がある。土地への所有権がきわめて強く設定されている点と、不動産登記制度の成り立ち。現在の登記簿は不動産の物理的状況を明確にする機能と権利移転の状況を明確にする機能を兼ねているが、本来前者は土地台帳として地租徴収のため国が管理、後者は法務局で管理していた。戦後に前者が法務局に引き継がれたことにより、国が土地所有者の情報を管理しなくなった。

    地図情報を使った便利なアプリやサービスが作られている一方で、同じ土地に関する情報でありながら、人の生活にかなり直接影響を及ぼすこうした問題が未解決のままになっているのかと驚く。もちろん未解決になるにはなるだけの面倒さがあり、調査に膨大なコストがかかる上、所有権やプライバシーといった面倒な問題も絡む。孤児著作物の問題とも似通う点がある。

  • 2017/12/09 京大合同ビブリオバトル 一回戦

  • うーん、、、。イマイチでした。

    問題提起はわかりやすい。が、その先がイマイチ。。問題があります、なぜ起きてます、
    まず、著者は政策アドバイスがお仕事?なようで、最後の章はこうしたらいいんでは?という話であって、

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