トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち (中公新書 2451)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024510

感想・レビュー・書評

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  • 『#トラクターの世界史』

    ほぼ日書評 Day402

    先週紹介した『農業と戦争』の著者による一冊。こちらの方が、読み物としては断然、面白い。

    乗用車普及の立役者といえば、T型フォードというのは誰しも知る話だが、トラクターを普及させたのも同社であることはあまり知られていない。ちなみにトラクターの発明者は時代に先駆けすぎた、それでは曳航を得られなかったが、後に洗濯機を発明して富を得たそうだ。

    ともあれ、フォードのトラクター「フォードソン」は、T型にも通ずる低価格設定で、一時期、何と77%という信じがたい市場シェアを取った。
    一方で、その急速な普及の背景には、第一次世界大戦に多くの男性「農業」労働者と、資材運搬目的で(犂を曳く)馬とを多数徴用されたことがある。

    資本主義の落とし子ともいうべきフォードソンは、農場での生産効率向上のため、国策としてソ連が輸入したというのは歴史の皮肉か。

    トラクター台数で見るとアメリカが一貫して頭抜けているが、単位面積あたりで見た場合には日本が2位を3倍ほども引き離してダントツTOPなのは興味深い。このあたりにも農協経由でないシェアリングエコノミーの参入余地が大きいのではないか。

    豆知識ネタとしては、小林旭の歌で知られるヤンマーの『赤いトラクター』と、同社のテーマソング『ヤン坊マー坊』の作詞はいずれも米山正夫(三百六十五歩のマーチが代表作)によるもの。

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  • こういう視点で歴史を掘り下げるのは刺激的で面白い。貴重な資料。近代農業の本質が見えてくる。

  • トラクターの誕生、進化がもたらした農業の変遷と功罪を知る。トラクターは農作業の効率を高め、農民の労働負担を減らして余暇を増やす、そんな利点だけを漠然と描いていた。大きな購入経費負担、振動と騒音による身体被害、多発し減らぬ作業事故、排気ガスによる環境汚染、さらに兵器である戦車への技術転用の歴史など、負の側面をも検証する。なお、最後まで叙事的ならぬ叙情的に著されており、日本のトラクターの章ではもう少し技術面の突っ込んだ紹介が欲しい。さて、昨今のIT活用でスマート農業が進むならば、穀物や野菜は産品というより製品って感じで、農業は第一次産業ではなくて第三次産業に分類したくもなる。

  • 農業の機械化、中でも今では牽引機として幅広い用途で利用できるトラクターに焦点を当てたもの。

    世界的なトラクター開発の流れや歴史だけでなく、日本に置いての歩行型トラクターの開発の話も綴られており、これはトラクター好きは読まないとならないなと思います。

    農業の機械化と戦争の関係もあり、機械化による大地への影響もあり、社会主義の裏にもあったトラクターを始め、
    果たして農業が機械化されたことで、家畜を利用していた頃と比べて本当に豊かになったのか。
    そんなことをふと考えるきっかけになります。

  • 「ウインドーショッピング」という言葉があるが世の女性は好むようである。小生は書店や図書館を散策するのが好きだが、「ライブラリーショッピング」とでも言うのだろうか。
    本書はその中でみつけたものだが、「トラクターから眺める世界史」とはなかなか興味深い。
    「トラクターから戦車が生まれた」とは知らなかったし、「サブカルチャーとしての機械史」も読み物としてはなかなかのものだ。
    ただ本書は幅広いがあまり深くはないので、駆け足のトラクター史であるとも思った。

    2017年10月読了。

  • なかなかマニアックな内容。トラクターの技術が戦車に応用されていたとは驚き。日本のトラクター界を牽引してきた方々に西日本出身者が多いのが興味深い。

  • ヤンマーに繋がる人に資産家が通帳を渡して好きに使えと言ったというエピソードが載っていた。剛毅だね。
    トラクターの構造を細かく説明しておらず今一内容を理解できず。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/502398618.html

  •  トラクターという切り口で、世界の農業や政治の変化を語るというのが何と言っても面白い。

     田舎の本家筋が農家だったので、トラクターもあったのを記憶しているが、こういう歴史があったのかと、ちょっと感動。

著者プロフィール

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年、『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房)で日本ドイツ学会奨励賞、2013年、『ナチスのキッチン』(水声社/決定版:共和国)で河合隼雄学芸賞、2019年、日本学術振興会賞、『給食の歴史』(岩波新書)で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』(青土社)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、『カブラの冬』(人文書院)、『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館)、『食べること考えること』(共和国)、『トラクターの世界史』(中公新書)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『歴史の屑拾い』(講談社)ほか。共著に『農学と戦争』、『言葉をもみほぐす』(共に岩波書店)、『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)などがある。

「2022年 『植物考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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