イスラームの歴史 - 1400年の軌跡 (中公新書 2453)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121024534

感想・レビュー・書評

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  • 世界的宗教学者がイスラーム1400年の歴史を概観。誕生から近代化、世俗化との葛藤までを、宗教運動や思想的背景とともに解説し、西洋がつくり、文明の敵とみなしてきた歪んだイスラーム像の修正を迫る。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40251273

  •  2001年9月11日に同時多発テロが起こったとき、アメリカ国内でムスリムたちへの激しい差別や暴力が蔓延った。イスラム教は信条のためならテロをも厭わない危険な宗教と見做され、中東風の服装をした人が街で襲われたり、飛行機搭乗を拒否されたりした。当時のジョージ・W・ブッシュはそれを危険と判断し、テロ行為は、本来平和的なイスラム教の教えに反するものだと声明を発表した。また自らモスクを訪れることもした。実際、テロを起こした集団は、テロ直前にイスラムの教えでは禁止されている酒を飲み、クラブで豪遊していたという。敬虔なイスラム教徒であれば絶対にしないような行為をした彼らが「イスラム原理主義者」と呼ばれるのは明らかに間違っている。そういった正しい情報が拡散されると、アメリカ国民たちの中にもイスラム教について「知る」ための行為が広がっていったという。

     この本には、西暦600年ごろにイスラム教を作ったとされるムハンマドの出自から、ムスリム同士の内乱期、西欧による強引な近代化と植民地化、現代のイスラム国家が抱える課題まで、史実に則って幅広く書かれている。イスラム教の教えは本来、争いを嫌い、神のもとで全ての人間が平和的な暮らしを送れるよう導くものだ。同時多発テロのようにあまりにも大きな衝撃を与える出来事が起こるとそれが全てのような気がして、身近なところに原因を見出そうとしてしまうけれど、そのような短絡的な思考は危険だと改めて感じた。クルアーン(コーラン)の中にはいかなる暴力を正当化するような記述もない。

  • 227-A
    閲覧新書

  • ムハンマドが理想としたのは社会的弱者に対して思いやりのある共同体秩序だった。共同体内部での争いを良しとしなかったため、ムスリムたちの目線は必然的に外部に向かい、イスラームは帝国を作り上げる。
    スンナ派やシーア派、さらに踏み込んで各派の神秘主義思想などは高校世界史からだいぶ踏み込んでいて難しかったが、思想の違いが抑圧や対立を生むことがよく分かった。個人的には最後の原理主義のところが面白かった。原理主義者たちは始めは西洋の近代文明を肯定的に捉える。イスラム文化との調和を図るものの、そこには限界があり、イスラム教が古来理想としてきた秩序とは乖離した行動をとるようになる。これは自分たちの宗教、文化が消滅してしまうことに対する必死の抵抗だという。

  • イスラームは、もともとは異教徒と共存する平和な宗教
    政治・軍事・法律が教義に含まれている

  • 1400年分のイスラム史を一冊で読め、しかも専門的すぎない人の手で書かれた貴重な本。

  • 昨今、イスラム教と言えば、テロとかを思い出してしまうほど、メディアに洗脳されているようだが、きちんとイスラム教の教えや、辿ってきた歴史を学ぼうというもの。
    ただ、逆にイスラム教寄りすぎて、若干、うーーん、と頭を捻るとこもある。他国を攻めたけど、改宗はせまってないよ、虐殺はしたけど、とか。それは、昔の戦であれば、日本だってないわけではない。だけど、だからいいでしょ、とはならない。
    でも、イスラム教の歴史を学ぶには、かなり網羅されていると感じた。歴史書のようで、退屈なところも多いが、ためにはなる。わたしは、もう少しざっくりでもいいとは思うけど。半分くらいの量がちょうどいい

  • 2020/3/14
    挫折

  • イスラームは、公正な共同体を建設し、社会を構成する人々が、最も弱く虐げられやすい者も含め、皆無条件で大切にされることを第一の使命とした教えであること、そのため、歴史の中に神を見出し、より良い歴史を築くために活動しなければならないということが、我々がイスラームを理解するための根底として理解しておかねばならない重要なことであると感じた。

    このような基本の考えがあるために、イスラームの世界においては、宗教と政治は必ずしも無関係なものではなく、むしろより良い共同体を築くために政治に積極的に関わるべきだという考え方も主流となる。政教分離の考え方が主流となっており、それを近代国家の一つの要件としている西洋諸国との間で相互理解が進まない点でもあるだろう。

    本書ではイスラームの歴史をグローバルな視点から通史的に辿っているが、そのような課題にどう向き合っていったのかということが統一的な問題意識として貫かれた記述になっており、過去から現在まで一つの流れとして見ることができた。

    イスラームは、ムハンマドの時代から多民族、多宗教をその統治下に抱えており、多様性を持った社会の中でクルアーン(コーラン)の説く理想の共同体を築くための方法を模索してきた。

    すでにその草創期から宗教者と政治の関わり方や宗教的な戒律と社会の法の関係性の整理の仕方について様々な議論が繰り返されている。また、(ヨーロッパ史でいうところの)中世の時代には世界帝国を築いていたが、中近東からヨーロッパではキリスト教やユダヤ教徒、インドではヒンドゥー教をその社会の中に統合するなど、歴史の中の他の世界帝国が持ったのと同じ多様性を包含した社会の建設も行っている。

    一方で、西洋が生み出した近代社会と対面して以降のイスラームはその世俗的で変化の早い社会においてより良い共同体を築くための方策を、探しあぐねているように思える。

    イスラームの法学者がクルアーンやハディース(言い伝え)をどのように解釈し、現代の社会の規範として行くのか、国家の政体はいかにあるべきなのかということについて、非常に世俗的かつ科学的なものから原理主義的なものまで、乱立しているというのが現状だろう。

    ただ、本書を読むことでそれらの試行錯誤が、現代に限られたものでないこと、イスラームのみが宗教のドグマにとらわれて近代との間に葛藤を抱えているというわけではないということが分かった。逆にイスラームも、社会の多様性や急激な変化に対応した国家を構築多歴史をもっており、宗教と現代社会という課題は、キリスト教社会でも仏教や儒教といった東洋の社会でも、共通してみられる課題であると言える。

    筆者は、社会における課題を解決するために、宗教が持つ共同体における精神的な紐帯や善に対する義務といった要素も必要不可欠であると考えており、そういった意味で、イスラームが現代において直面している課題は、宗教と社会の関係が抱える本質的な課題に、最も直接的に向き合ったものであると言えると思う。

  • イスラームについて何も知らなかった。新聞やニュースなどの報道を通して感じた、怖いイメージしかなかった。
    大半の人が普通に生活をしていて、テロなどの暴力とは無縁だとは思いながらも、行動には出さないだけなのかもともなんとなく思っていた。
    イスラームのそもそもの思想は、宗教の自由と平等であると知り、特殊な人達ではない、むしろ高い理想を持っているのだとわかった。日本とは違う、大陸の激しい生存競争のなか、よりよく生きたいとの思いがあるのだと思った。
    近代以上にこれから先の未来は、科学技術の進歩が早く、人間がよりよく生きるための方法を見出せないまま、人びとは生活していくこととなる。
    著者の大切にしている"共感"が大切だと思う。悩みながら、対面し、寄り添いながら、試行錯誤していかなければならないと、改めて思った。

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著者プロフィール

英国の宗教学者。1960年代にローマ・カトリック教会の修道女として7年間を過ごす。オックスフォード大学セント・アンズ・コレッジで英文学を専攻。その後、著述と放送番組の制作等に携わる。A History of God(高尾利数訳『神の歴史:ユダヤ・キリスト・イスラーム教全史』柏書房)、Islam: A Short History(小林朋則訳『イスラームの歴史』中公新書)、Muhammad: Prophet for Our Time(徳永里砂訳『ムハンマド:世界を変えた預言者の生涯』国書刊行会)、The Bible: A Biography、The Case for God、Twelve Steps to a Compassionate Lifeなど著書多数。2005年、宗教的信条と伝統に対する相互尊重を推進して人類の相互依存を再確認する国連の新たな取り組み「文明の同盟」の上級代表の一員に任命される。2008年、「フランクリン・D・ルーズベルト4つの自由賞」およびTED賞を受賞。2013年、異文化間の理解促進への貢献により、英国学士院の第一回「Nayef Al-Rodhan賞」を受賞。

「2022年 『血の畑 宗教と暴力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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