グローバル化時代の大学論1 - アメリカの大学・ニッポンの大学 - TA、シラバス、授業評価 (中公新書ラクレ 429 グローバル化時代の大学論 1)

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  • / ISBN・EAN: 9784121504296

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  • グローバル化時代の大学論 1 アメリカの大学・ニッポンの大学
    TA、シラバス、授業評価
    著:苅谷 剛彦
    紙版
    中公新書ラクレ 429

    アメリカにあって、日本にない大学の習慣 TA:ティーチングアシスタント、シラバス(授業要項)、授業評価

    ■TA:教授を研究に専念させるための教育助手、と、大学院生に対する援助
    日本では、図書館の使い方、論文の書き方の基本的ルール、研究の具体的方法、を教えてもられることはない
    TAセミナー:討論の指導、レポートや試験の主題の方法、採点評価の方法、講義について、社会学概論の教え方、シラバスの作り方、研究計画の指導 等々
    日本の学生はしゃべらなくて、指導を受けるが、アメリカでは、しゃべりすぎて指導を受ける

    アメリカほど日本の学校で、規律が問題にならないのは、全人教育のおかげではないかいわれている

    ■シラバス:講義要項

    シラバスに含まれるもの
     授業に関する基本情報(授業名、科目番号、教室、日時)
     担当講師に関する情報(講師名、所属、研究室の場所、電話番号、オフィスアワー)
     講義の目的、スケジュール(授業のテーマ、あらかじめ読んでおかねばならない文献)
     成績評価の方法
     文献の入手方法
     履修条件、受講資格

    ■授業評価
    日本:モノローグ的、モノローグの連鎖、独り言のメッセージが積み重ねるほうに、ひとつの結論が導かれていく
    米国:ダイアーログ的:コミュニケーションを中心、対話的

    グローバル化ですすむ、人材育成

    大学学習評価 知的能力、批判的思考力、分析的な論理的思考力、問題解決能力、そしてそれを文章に書き合わすための、文章力

    米国:卒業後に職に就くための有利点、職業資格の取得
    日本:講義中心、読んで書く。話を聞いてノートをとる

    目次
    「グローバル化時代の大学論」シリーズ巻頭言
    新書版まえがき
    はしがき
    第1章 ティーチング・アシスタント制度にみる日米大学比較考
    第2章 新米教師のアメリカ学級日誌―もうひとつの日米教育比較考
    第3章 シラバスと大学の授業、授業評価
    第4章 高校から大学へ―高校間格差とトラッキングにみる入学者選抜の違い
    第5章 アメリカの大学からみた日本の大学教育
    第6章 漂流する日米の大学教育

    あとがき
    解説(宮田由紀夫)

    ISBN:9784121504296
    出版社:中央公論新社
    判型:新書
    ページ数:280ページ
    定価:840円(本体)
    発売日:2012年09月10日初版
    発売日:2012年12月10日再版

  •  アメリカの大学院でPh.D.を取得し、その後、その大学でも教えたことのある著者だけに、アメリカの大学の事情を詳しく紹介してくれている。アメリカの大学生はよく勉強すると言われるが本書を読むと、それが実感できる。たとえば一回の講義に対して、受講生は150~200ページもの文献を読まなくてはいけないそうだ。
     それだけの分量を読むにはアメリカ人でもある程度時間がかかる訳だが、それはアメリカの大学生は一学期に3~4科目しか履修しないので、時間的な余裕があるからである。ただし、1科目は月水金の週3回50分授業あるいは火木の週2回75分授業だったりする。
     本書には書かれていないが、筆者(平山)は学部生のときにアメリカ・メイン州のリベラルアーツカレッジに1年間留学したことがあり、そのときにアメリカの大学事情を見たが、多くのアメリカの大学では学生のほとんどはキャンパス内の寮に住み、夜遅くまで(あるいは24時間)開いている図書館で勉強する時間をとれるという特長も指摘されるべきであろう。
     それに対して日本の大学生は一学期に十数科目もの授業をとるので、それぞれに対して予習をする余裕がない。その結果、教師が一方的に講義するスタイルをとることになる。
     また著者は社会学者・中野収氏の言う「日本のコミュニケーションは双方的ではなく、一方的なモノローグ型である」という主張を援用し、日本人は討論が苦手であると指摘する。そのため演習のようなクラスでさえ、真剣な討論がなされることはほとんどない。この指摘は誠に正鵠を射ていると言わざるを得ない。
     私自身、「日本は組織の和を重んじるので、議論での対立より、妥協を選ぶ傾向がある」と思って来ただけに、中野氏の指摘には大いに首肯するものがある。一方、アメリカでは双方向的なダイアローグ型のコミュニケーションが主流なので、学生も討論に積極的に参加するのである。
     日本の大学での講義は、単なる知識の伝達をしているだけで、ものごとの考え方や分析を主体的にすることを教えていないという著者の指摘も,耳が痛いが、当たっていると言える。日本社会の持つ、モノローグ型のコミュニケーションのスタイルでは授業で討論を取り入れようとしても、なかなかうまく行かないことは見えている。
     さらに成績の重視もアメリカの大学の特徴であるそうだ。アメリカでは多くの学生が大学院に進学するので(研究者になるだけでなく、ロースクール・ビジネススクールなどに進むケースも多い)、当然学部での良い成績が重んじられる。さらに採用する企業も大学での成績を重視するので、学生も当然、良い成績を取るべく頑張るのである。それに対して、日本では成績はあまり重要ではないために、学生は良い成績をとる動機に欠ける。
     このように見てくると、アメリカの大学と日本の大学の実情は、それぞれの国の社会・文化の影響を受けていることが明確になる。すなわち、日本の大学が簡単にはアメリカの大学のようになれる訳ではないことが結論づけられるのではないか。

    付記 よく「アメリカの大学は入りやすいが、卒業はしにくい」と指摘される。勉強しないものは容赦なく、退学を命じられる、というような旨が主張されることがある。しかし、これは筆者(平山)が学部で留学したときに経験したことであるが、アメリカでは学期の途中でも、相手の大学との交渉次第で、別の大学に移ることが可能なのである。それはレベルを落とす場合もあれば、さらに上のレベルの大学に移るケースもあったようだ。ところが日本では一度、大学を辞めると、狭い門の編転入試験を受けるか、一から入試を受け直さなければならない。つまり、アメリカでは大学を辞めさても、その次の行き先を決めることが出来るが、日本ではそれは簡単ではないので、大学からの退出をそう安易には実行できないという問題がある。つまり、日本には大学を変わるというインフラが整備されていないから、「卒業を難しくする」というやり方はあまり現実的ではないのである。

  • 日本の学校は、掃除や給食そして部活など人間を作る全てを学ぶ、知識だけではない全人教育である。能力差を個人の努力で狭めることで、その精神力を身に着ける。
    アメリカは、多くの情報からいかに個人の意見を作り出すかを学ぶことろが大きく違ってる。 これが日本人の強さと、グローバルに生きるには弱さにもなる点であろう。

  • 日本とアメリカの教育が置かれているコンテクストがよく分かる。20年前の著作だが、学問的な方法論と両国の底流にあるものは不変だ。

    TA、シラバス、授業評価、トラック。どれもコンテクスト抜きには見る目を持てない。いわんや導入など。

    最後の章の大学の漂流は、日米ともに深刻なのだな。

    ・モノローグとダイアローグ。さらにモノローグも成り立たない日本の昨今。
    ・体験学習はクリティカルシンキングを伸ばさない。
    ・グループより個人の学習のほうが、CLAに寄与する。

  • 第一章は少し古いがTAについてかなり詳しく解説してくれている。この部分をよむかぎりあでは、アメリカの大学の素晴らしさだけが伝わってくる。序説的な部分。第一章は読み物として面白く、かつアメリカの大学の授業とそのための準備も詳細。

  • 勉強になりました。

  • 本書は,1992年に玉川大学出版部から出版されたものを新書版にしたものとのことです.

    実際,タイトルにもあるように,書かれている内容は,TA,シラバス,授業評価に関する話題が中心で,既に日本の大学で導入され,運用されています.しかしながら,少なくとも私が勤務しているの大学のそれは,あまりにも形式だけの導入にとどまっており,一体どんな効果が期待されるのか全くもって不明です.私の推測では,その主要因は,教員,学生がともに当該制度の導入意図を十分に認識できていないこと,仮にできたとしても我々の業務過多を増長させるに過ぎないことが挙げられると思います.

    従って,1992年に問題提起された本書のテーマは,現時点においても有効な議論となっており,一読の価値があります.と同時に,如何に日本の大学教育が構造改革を怠ってきたのかを象徴しているのではないでしょうか?

  • オックスフォード大学に所属する著者によるイギリスの大学と日本の大学の比較。
    入学者選抜は顔の見える相手として選抜を行う事、歴史に裏打ちされた自信がある事、チュートリアル制度によってきめ細かい指導を行うといった特徴が日本にはないものだという。

    日本の大学はこれでいいのか、という事を考えるのによいきっかけになる本だと感じた。

著者プロフィール

オックスフォード大学教授

「2023年 『新・教育の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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