統計学が日本を救う - 少子高齢化、貧困、経済成長 (中公新書ラクレ 566)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121505668

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  • データにもとづいて議論しようよと言っている本。高齢化、国の借金、経済成長などの社会問題に対して定性的な印象だけで議論して破滅の道をたどるのではなく、定量的な統計データにもとづいて議論し解決を探ろうとしている。

    人は社会という巨大な複雑さを自らの限られた知見からしか見ることができない。はたしてどれだけの人がその社会を正しく理解しよりよい未来に向けて行動できているのだろうかと思った。

  • <少子高齢化>
    子育て支援を含む家族政策費はGDP比1.25%で、イギリスの3分の1、ドイツやフランスの半分。高齢者向けの社会保障(年金、医療、介護)に対して25兆円が使われているのに対して、少子化対策には2兆円しか使われていない。

    年金の運用は、今の現役世代が支払ったお金や税金を高齢者に支払うという賦課方式をとっているため、少子化対策を進めることが年金運用を破綻させない対策にもなる。

    OECDが2005年に発表したレポートがあげている4つの少子化対策のうち、育児にかかる経済的負担の軽減と、公的保育サービスの拡充の2つは改善の余地がある。日本における標準的な世帯収入に占める児童給付の割合は2%ほどで、3~18%を占める他のOECD諸国の中で最低水準。保育所に在所している2歳以下の児童は22%で、OECDで最も恵まれた水準である50%の半分程度。

    <社会保障>
    生活保護などの社会保障制度は、これまでの歴史の結果として定着している。生活保護受給者の年間支給額は180万円だが、受刑者1人当たりの収容費用は300万円。

    幼児教育は、その費用に対する社会的なメリットの方が高く、収益率は6~17%と推計されている。教育による効果が高いのは、長期的な計画を遂行したり、感情を制御して他人と協働するといった非認知能力。

    高齢者の就業状態で比較すると、就業者の方が無職よりも幸福度が高く、前期高齢者における死亡率も4割以上低い。

    <医療>
    高齢者にかかる医療費のうち、2兆円以上が1年以内に失われた命のために使われている。

    <経済成長>
    各国の国際テストの成績と経済成長率は相関が高い。しかし、日本の政府支出に占める公的教育費はOECD諸国では最低レベル。教育費のうち、就学前は57%、高等教育では68%を家計が負担している。

  • 文字通り、統計をベースとして日本を救うことに対する提言集。

    統計学そのものというよりも、統計を元にした日本の現状に対する提言という感じ。

  • 現役の統計学者である筆者が現在日本が抱えている社会問題を統計データをもとに論じようというもの

    テーマは主に少子化、社会保障、高齢者の医療、経済成長

    主にデータや論文などをもとに以下のようなことがかかれている。
     財政緊縮などによる経済不安は精神疾患などを誘発し、それにより自殺が激増するなど人命が失われる可能性が高い。
     犯罪のリスクやそれを管理するコストを考えると、生活保護などの社会保障が最も費用対効果がいい。
     日本が高齢化している原因の大きな理由は老人が長生きするようになったことよりは乳児死亡率の低下。
     少子化の原因は女性の社会進出というよりは、保育サービスが不足しているから。
     幼児教育により、非認知能力(学力以外の計画性や粘り強さなどの力)を向上させることはのちのちまで影響が大きい。
     高齢者に雇用機会を提供することはお互い(高齢者にも社会にとっても)にメリットが大きい。
     医療費のコスト削減として医療の技術評価を導入すべき
     経済成長では教育投資がもっとも費用対効果が大きい
     日本は公教育に対する投資割合が低く、その分、私的な教育投資の割合が高い

    内容がそこそこ専門的なわりには新書ということもあってか、素人でもそれほど負担なく読める。

    個人的印象論だけでなく歴史的事実や学術論文(あるいはそれに相当するレベルのもの)を根拠としているため、説得力はある。

    学術的なものの見方の入門という点では非常にいいかも。

  • 「未来」を変えるられるのは「今」だけ

    公債費分の4割の歳出削減=医療年金といった社会保障+公共事業をゼロにする

    過去の例では社会保障を削減すると大量の人がなくなる ロシア、ギリシャ

    日本が世界最高の高齢化率 出生率の低下、つまり少子化

    育児にかかる経済的負担の軽減(子育て世代向けの大幅な減税給付)、公的保育サービスの拡充は改善の余地あり 少子化対策

    財政問題の大きな原因の一つが高齢化 無駄な公共事業よりも多くの税金が年金医療介護という高齢化に費やされている

    貧困対策 歴史に学ぶと

    貧困者への救済を行わなければ、生活できない国民は治安を脅かし、その社会コストはしばしば社会保障費よりも高くついた
    列島処遇の原則にもとづき刑務所のような施設をつくっても、貧困者に逃げられてまた治安が脅かされるし、管理コストが何倍も高くついた
    生活に必要なお金と賃金の差額を税金から扶助すると、企業側の濫用(低賃金化)を招き、労働生産性が下がり、増税によって貧困者がむしろ増加した
    病気や失業という貧困に転ずるリスクを防ぎ、貴重な国の労働力として活用しようというのが社会保険の考えかた

    幼児教育はお買い得な投資 鍵になるのはIQよりも非認知能力

    プログラムを受けた参加者は、6歳時点でのIQが高く、19歳時点での留年や中退を経験のリスクが低い、27歳時点で自分の家をもっている確率が高く、生活保護受給経験率が低い。さらに40歳時点で逮捕歴が少なく、所得も有職率も貯蓄率も高かった

    そもそもの原因である非認知能力を、幼少期教育というきわめて低コストで堅実な投資で鍛えておいたほうがはるかに賢明ではなかろうか

    貧困者が生まれてしまうとその解消のためには大きなコストがかかる。そこで必要なのが貧困となる原因へのアプローチ

    医療費の内訳
     過半数は65歳以上 1/3は75歳以上

    1954年 2000億円 H25 40兆円 200倍
    インフレや経済成長を加味して、国民所得に占める割合で考える時3倍以上に増えている

    90-2000まで後期高齢者の医療費は倍、人口は3割増えた 一人あたりにかかる医療費が増えたと想定される

    一橋大小塩ら 1980-2010 37%が高齢化 45%が一人あたりの医療費の増大による

    高齢者医療費 23兆のうち2兆が終末期

    医療技術評価 health technology assessment 医療のコスパ

    1990 カナダ、オーストラリア
    1999 イギリス NICE 国立医療技術評価機構
    2008 韓国 その後アジア

    イギリス 徹底的に無駄を省いた上での医療費無料化

    2012 中医協 費用対効果評価専門部会 当事者(医師)が入っているので進んでいない

    終末期のケアを医療の場から介護の場に変えてもコスト減につながっていないことが推測される

    高齢者の歯をきちんと治療して、転倒予防を行って、友人と会わせたり、会合に参加させたり、さらには仕事や家事に従事させることで、介護状態に陥ることをある程度予防できると考えることができるであろう

    介護が必要となるまでの期間を後ろ倒しにできたとしても、男性ならば9年ほど、あるいは女性ならば12年ほど、同じだけの介護が結局は必要になる

    仕事をしている人は、要介護になるリスクが低減する上、介護が必要になるまでの期間を先延ばしすることでコストではなく生産が上がる。5年分長く働いてもらって税金と保険料を納めてもらい、しかも本人が高い幸福度を示してくれたのであれば、誰も損をしない話でないだろうか

    安倍内閣の日本再興戦略において医療技術評価の本格導入は進もうとしている

    高齢者の就労率を上げる

    働く高齢者の方が、健康で幸福度が高いだけでなく、介護を必要とするリスクが低い。彼らが生み出す税金や経済効果が、医療費などのコストを上回るようであれば、それこそが社会保障財源適正化に向けての大きな一歩になることが予想される

    ランダム化比較試験による検証をすすめよう

    人口減少するから経済成長しないという考え方は、様々な実証データによって否定されている
    単純な人口増はむしろ経済成長の阻害因子

    経済成長ににおいて重要なのは人的資本 すなわち教育と研究開発

  • 著者は、現在は「統計家」を名乗るが、元来は医療経済分野の研究者であり、少子高齢化が急速に進む日本において、社会保障費のうち、医療費の使い方が「非効率」であることに警鐘を鳴らす。
    表題は「統計学」を冠しているが特に統計学的に新しい分析があるわけではない。各省などの公表データを、よく読んで簡単な分析さえすれば、誰にでも理解できる簡単な主張が並んでいる。もっともその「分析」をすること自体が難しいのだが。

著者プロフィール

1981年、兵庫県生まれ。統計家。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月に株式会社データビークル創業。自身のノウハウを活かしたデータ分析支援ツール「Data Diver」などの開発・販売と、官民のデータ活用プロジェクト支援に従事。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP社)など。

「2017年 『ベストセラーコード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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