ゴリラは戦わない (中公新書ラクレ 575)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121505750

感想・レビュー・書評

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  • 気軽に読める割に、含蓄のある本でした。
    群れのリーダーのオスゴリラの立ち振る舞いや、ゴリラの生態などを知ると、いまがむしゃらに経済社会を生きている自分の生き方が、必ずしも絶対的なものではないことに気付かされます。

    あとは動物園の存在意義が語られていて、これまでと見方が変わりました。

  • 冒頭の、山際寿一による「ゴリラの学校」という章に、ぐっと心をつかまれて、あとは一気に読んだ。山際寿一は、動物園は「野性の窓」であり、「超スマート社会の到来で、人間が自然と離れていくのを食い止めてくれる」役割を持つと書いている。人間が野生動物から学ぶことはたくさんあり、「野性を失った時、動物園も人間も進化の歴史から切り離されたただの人工物に成り下がってしまう」とあるのが深く心に響いた。

    動物をよく知ることは、すなわち、人間について知ること。人間が他の動物と際だって違うのはどういう点なのか。また、本来自然の一部である人間が、いかに自然から隔たってしまっているか。あれこれ思い巡らせずにはいられない。

    本書の帯には「ゴリラから幸せな生き方を学ぶ」と、なんというか結構呑気な感じのことが書いてあるが、対談の雰囲気とはちょっと違う。ゴリラやサルをはじめとした動物についての話題が中心ではあるけれど、旭山動物園前園長の小菅氏が、今後の動物園の新たな展開について意気盛んに語り、山際氏は現代社会のありようについて危機感をにじませて発言する。かなり「硬派」な一冊だ。

    このお二人が初めて顔を合わせた、三十年前の学会の話が印象的だった。動物園での観察に基づいた小菅氏の発表に対して、たった一人だけ、真剣に受け止め声をかけて励ましてくれたのが、若き山際氏だったそうだ。やっぱり山際寿一はたいしたもんだ。少し前、ある式典で山際氏のスピーチをきく機会があったが、まったく格式張ったところがなく、妙に媚びてくだけた感じでもなく、訥々と、淡々と語っていて、本当にエライ先生ってこうだよなあとしみじみ思ったのを思い出した。

  • 最初に断っておくが本書は、動物論、ゴリラ論に終始しない。本書は、あるべきリーダー論といっても良い書籍である。

    ゴリラが好きな人のみならず、全社会人に捧げたい1冊なのだ。

    みなさんはゴリラに対してどんなイメージをお持ちだろうか。
    大きい、ちょっと怖い、ドラミング、握力が凄い、ゴリラダンク等々

    見た目から来る漠然としたイメージだけを持ってしまう人も多いかもしれない。

    本書を読むと、ゴリラの世界の奥深さの一端に触れることができる。

    著者の二人は、ゴリラは人間を超えていると語っているのだが、
    その、根拠となっている生態の一つが、「ゴリラは背中で語る」ということだ。

    敵が近くにいるときに、ゴリラはいたずらに威嚇をしたりしない。
    シルバーバックという背中の毛を見せながら、「近づくと危ないぞ」ということを示していく。後ろから攻撃されるリスクもあるのに、決して振り返らず、背中で語るというのだ。

    確かにかっこいい。一方でニホンザルときたらどうだろう。

    敵の周囲を走り回って、キーキーと声を上げる。
    非常にみっともないではないか。ただ、こういう大人のほうがマジョリティを占めているのが、残念ながらわれわれの人間界なのだろう。背中で語れる男などほんの一握りである。

    小菅さんは元旭山動物園の園長だが、学生時代は柔道をやっていたらしい。
    柔道の団体戦でとっていた戦略が紹介されていて、非常に興味深い。

    テーマは「負けない柔道」。体も小さく、パワーでも劣っていた小菅さん率いる北海道大学は、とにかく負けないために、耐え続ける柔道を選んだ。

    その姿を見て、ある先輩などは、「闘争心がない」といったと言う。
    小菅さんは言う。「闘争心とは耐え続けること」であると。

    なんともかっこいいではないか。

    ゴリラも同じで、無駄な争いはしない。むしろ平和主義と言っても良い。
    ただし、リーダーとして仲間のことは全力で守る。

    ゴリラ:リーダー→みんなに推薦されてなる。
    サル:ボス→名乗りをあげてのし上がる。

    大きな違いだ。大体理想の上司にランクインするような人は、みんなに選ばれるリーダータイプであることが多い。

    世の上司の皆様、あなたはリーダーになれていますか?

  • サル学は実に楽しい。「全ての生き物はオスを選択するのはメスでオスには選択権がない」とは思わず笑ってしまう。ゴリラには感動する生態が多々ある。
    また、本書はゴリラを題材とした対談なのに、読んでいると人生論のようにも聞こえる。やはりヒトもまたサルの一員なのだからと思えた。

    2017年11月読了。

  • さらっと読めて、すっと入ってきて、面白い。
    人間しか見ていない私、人間を生き物のひとつとして見られる先生方。
    視点の違いで「生きる」の捉え方も変わるのかもと思った。
    今西先生の本も読んでみたくなった。

  • 2017.3.11
    前に、『ロボットの心』という本を読んだ時にも思ったが、人間ではないものを知ることによって、反照的に人間とは何かということがわかる、ということはある。この本もその点で面白い内容が書かれていたなと思う。
    個人的には「負けない」という思想が一番、ナルボドナーと思った。負けないとは、勝つということではない。勝つか負けるか、という二項対立ではなく、それを超えた意味での「負けない」がある。これはいろんなところで活かせる考え方だなと思った。
    ゴリラ、かっこいいです。

著者プロフィール

札幌市円山動物園参与、北海道大学客員教授

「2022年 『NHK子ども科学電話相談 動物スペシャル!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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