宰相吉田茂 (中公クラシックス J 31)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121600936

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  •  京都大学法学部教授として、国際政治について鋭い分析を展開した高坂正堯が、戦後政治の中の吉田茂を論じた古典的論説。
     発刊から40年以上たったいまなお、吉田茂論を展開する上で不可避な著作である。

     まず、最初に注目すべきことは、1960年代という年代にあって、保守政治を正面から分析し、一定の評価を与えているということである。
     現在においてもそうだが、保守政治を批判することは、非常にたやすい。現在・過去の政権の失敗をあげつらえば、それで一応まとまりのある論にはなる。

     まして、アメリカに追随して安保を結び再軍備を容認した張本人として、逆コースの親玉として、政権の座に長期に居座った首相として吉田茂について批判的な意見は多い。しかし、高坂は外交官としての吉田のアイデンティティーから、吉田のとった現実主義的な判断を評価する。
     しかし、ここで気をつけねばならないのが、高坂が繰り返し述べている、吉田がいわゆる吉田ドクトリンを作り上げたことを評価しても、吉田ドクトリン自体を恒久的なものとして認識するのは留保すべきということである。

     糊口を凌ぐための手段として建てられた経済重視の吉田ドクトリンを、高く評価してしまうことは吉田が棚上げした問題にいつまでも目をつぶってしまうことにつながる。吉田ドクトリンがじわじわと定着しつつあった1960年代において既にこのような問題点を鋭く指摘している高坂の論調には脱帽する。

     本書は、「宰相吉田茂論」「吉田茂以後」「妥協的諸提案」「偉大さの条件」の4論文から成っているが、真ん中の2つは吉田茂というよりも議会制民主主義と自民党政治について言及している。
     自民党政権が選挙では勝利しながら、国民の高い支持を得られないという状況の中に、大衆が参加しない政権運営、地域利権を主導する自民候補に投票する自民党システムと日本の民主政治の問題点を見いだしている。
     そして、「妥協的諸提案」の中では、国民と政治を結ぶ機関としてのマスメディアのダブルスタンダードな態度についても言及している。

     現在から見れば、広く受け入れられる主張ばかりだろうが、これを40年以上前の段階で、次の時代を見据えて分析している著者の見識は尊敬できる。

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