生命を捉えなおす 増補版: 生きている状態とは何か (中公新書 503)
- 中央公論新社 (1990年10月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121905031
感想・レビュー・書評
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「生きている状態」と「死んでいる状態」を分けるものは何かという問いに対し、本書は動的秩序という概念を持ち出して答える。
生命現象に共通する特徴の1つに、「マクロ系に秩序が自発的に出現すること」があり、これは開放系において熱力学的ポテンシャルエネルギーの減少とエントロピー増大のバランスが前者に傾いたときに生じる。このような動的秩序の際に現れる秩序構造をプリコジンは「散逸構造」と名付けている。
本書によると、動的秩序の形成条件は、1)ミクロな自己複製機構があること、2)複製が自己増殖的に進行する条件(=不安定さ)が系に備わっていることであり、2)の不安定状態を解消しようとして(=ポテンシャルエネルギーを減少させるため)、系に協同的におきる変化こそがマクロ秩序の駆動力となる。
上記の動的秩序形成の例(自己組織化の例)としては、べナール対流やレーザー光などが挙げられる。なお、プリコジンも指摘しているように、このような複雑性は必ずしも生命現象にのみ限られているわけではない。生命のシステムの一側面を理解する上で「動的秩序」や「自己組織化」という概念は大きな助けにはなるが、これらだけを用いて「生きている状態」を定義するのは難しいだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
生物学、物理学、組織論、多様な分野の知識を横断的に組み合わせ「生きている状態」を捉えなおす、といったところ。知的好奇心への刺激の塊。
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生命を"もの"としてではなく、"こと"として捉え直す。
動的平衡としての生命に、科学がその足を踏み入れようとしている。 -
生命とは何か?
たまに哲学的な気分になると考えるテーマですね。昔から考えつくされてるテーマだと思いますが、正しい答えなんてないんじゃないかと思います。
この本は細胞や生体分子が持つ秩序を自己生成するという機能を化学的に解説しています。そして社会的な組織や環境にも同じ性質があることを述べ、そういった系もある意味では生命と考えられるということを示唆します。
ちゃんと理解しようと思ったら結構専門的です。難しいです。でも高校レベルの物理化学が分かってれば雰囲気は味わえると思います。
僕はエントロピーとか全然知らなったんですが良くわかった気がしました。
とても面白かったです。 -
「生きている状態とは何か」
内容はとにかくおもしろい。絶対に読んだ方がよい。特に分量的に大半を占める第一部は、ずいぶんと前に書かれたものなのに、なんかこうけっして古くないというか。少なくとも自分に大してはいろんな示唆に富む内容。
それ以上に、清水博という人の魅力を感じたなぁ。時代を先駆けた人だったんだろうなって思った。
これの第一部が書かれたのは、分子生物学が大手を振って生命科学研究の世界を席巻し始めた頃。しかし、清水博は、ダイナミックなシステムとしての生命を追い求めた!
第一部の前半は、エントロピーやエネルギー、静的な秩序(結晶などの自由エネルギーの低い状態)の解説から始まり、散逸系の動的秩序の説明として、レーザーを用いてハーケンのシナジェティックスの話をしたり、BZ反応を用いてプリゴジンの散逸構造の話をしている。
しかし、おもしろいのはやはり清水博らの独自の成果に関する言及があるその後から。清水博は、筋肉の研究において、「動的協力性」を実験において示した。それはプリゴジンの散逸構造でもあったし、ハーケンのシナジェティックな理論とも共通するものがあった。それらの理論の具体的な例として示した。(ちなみに津田一郎はこれに対してをマックスウェルデーモンとの関係で興味を持っているそうだ)。「動的協力性」の概念は筋肉にとどまるものではない。細胞内のレベルから、細胞群、組織、大脳皮質のハイパーコラム、人間のコミュニティ、社会、文化、生態系、全宇宙まで広げられる概念である。
さらに、後半では情報の観点から生命に関する考察が重ねられている。印象に残ったのは、「シャノンの情報理論では、意味の荷い手(アルファベットだとかデジタル信号だとか)としての情報が扱われるが、生命にとって重要なのは、生物にとっての『意味』であり、それを扱わなければいけない」ということ。うーん、なるほど!
そして、科学、科学技術、社会、哲学、西洋・東洋などの歴史と未来についての考察。
第二部は、かなり時間がたってから書き加えられた部分。その後発展した非線形力学の概念であるカオスに言及してあったりする。また、清水博の興味は大脳へと向かっており、それに関する考察もある。