- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122001855
感想・レビュー・書評
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何度読んでも泣ける。読み返すたびに胸が痛くなるのは、私の年齢が陸軍将校の妻たちに近くなっていくからだろう。
緻密な取材を重ねた筆者は、妻たちの声や思いをありのまま伝えるために、選び抜いた美しい日本語で綴った。声に出して読めば、物静かな言葉運びの中に、前触れもなく夫に置いて逝かれた妻たちのやりきれない切ない叫びが秘められていることに気付く。
ある日突然逆賊の妻となった若い未亡人。死を目前とした夫たちは、獄中から最愛の人へと最期の言葉を残すけれども、残された彼女たちのその先の苦労を、その中の誰か一人でも本気で考えたのかと不意に憤りを感じた。
(もちろんいないこともないが……)
あの時代を生きた男たちを夫に持った彼女たちの宿命であったと、簡単に言い切れる話ではないことは確かだ。
自分の夫や恋人が数時間後に国家の反逆者になったら……もしもの話を考えても、自分がどう判断するのか分からない。今と価値観が違うから、時代が違うから、想像してもリアルさに欠く。
年老いた妻たちは、もう何十年も前のことを振り返って、血生臭い情勢からほど遠い現代に、一体何を思うのだろうか。我が子や孫よりも若くなってしまった夫を、どう想っているのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「妻たちの二・二六事件」澤地久枝著、中公文庫、1975.02.10
255p ¥500 C1121 (2018.05.29読了)(2007.03.10購入)(1995.06.10/25刷)
【目次】
一九七一年夏
雪の別れ
男たちの退場
燃えつきたひと
花嫁人形 暗き陰翳
余燼の中で
秘められた喪章
母としての枷
西田はつ 聴き書き
生けるものの紡ぎ車
辛酸に耐えられよ
過去への旅 現在への旅
あとがき
解説 草柳大蔵
商品の説明(amazon)
若い青年将校たちの決起で始まった二、二六事件、彼らの若い妻たちは事件に対してどう思っていたのか、そして、事件後、どのような人生を歩んでいったのか・・・夫の「愛」が妻たちを束縛する・・・澤地久枝が文字通り足で歩いて検証したもう一つの二、二六事件。ノンフィクション作家としての澤地久枝の処女作。発表当時、非常な衝撃と感動を呼んだ作品。 -
テロ加害者の家族というだけで、加害者側の扱いにされてしまう残酷さ。そして加害者である夫の愛は妻たちにとっては呪縛以外でも何物でもない。事件そのものを忘れてはならないのは勿論だが、それに一生苦しみ続けた加害者家族がいたということも忘れてはならない。
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[公に捨てた私の顔]皇道派青年将校が中心となり,「昭和維新」を目指して立ち上がった二・二六事件。謀反人として裁かれた彼等の妻たちに焦点を当て,その後長く尾を引いた影響について記した作品です。著者は,本作で鮮烈なデビューを飾った澤地久枝。
優れたノンフィクションして誉れ高い一冊ですが,やはり着眼点が素晴らしい。二・二六事件の中に,妻というフィルターを通して「私」という視点を入れることにより,事件の輪郭がより豊かになっていることがわかります。また,歴史を揺るがし,歴史に揺るがされた人間たちの物語としても一級品と呼べる作品です。
〜愛されるとは,辛いことである。二・二六事件の妻たちが,長い歳月,夫の思い出を捨てきれず,事件の影をひいて生きてきたひとつの理由は,死に直面した男の切々とした愛の呼びかけが心にからみついているためである。短い蜜月と死にのぞんでの愛情の吐露,それは妻たちにとっては見えない呪縛となった。〜
前評判どおりの☆5つ -
二.二六事件で処刑された青年将校の妻たちのその後の人生を追ったノンフィクション。青年将校等が事件に加わったそれぞれの経緯や死に際しての家族への痛切な心情等も詳らかに描かれていてる。日本史の一大汚点ともされるこの事件の首謀者たちの素顔と、いきなり重い十字架を背負わされることになった妻たちが歩んだその後のそれぞれの人生を知ることで、改めて「生きるとは?」という重いテーマに向き合った。
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読み応えのある本だ。圧倒された。
恩田陸も宮部みゆきも226を小説にしている。これがテレビに取り上げられると、映画であれ、ドラマであれ、ドキュメンタリーであれ、ついつい見てしまう。なぜだろう。それだけミステリーに満ちているのか。
それにつけても歴史が人生を翻弄するとはまさにこのことなのだろう。
市井の人々のオーラルヒストリーはどんな書物よりも…いや、すごすぎる。 -
二・二六事件とはなんだったのか。青年将校とその妻たちの生涯を事件から30年以上経て集めたルポルタージュ。自分の生活が生ぬるく感じる。もっとなにかできるはずと血迷う。
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澤地さんの文章力と取材力を感じる。事件の当事者青年将校たちは最も尖鋭的に愛国者だった。奥様達を含めて本質的には悪人ではない。国を想い正義を求めた結果が他人を殺さねばならないとの結論に至ってしまうことが悲しい。安穏な現代の私達に批判する資格は無い。ただ本書を通してあの事件の処理方法が政治的に激しく翻弄されたんだということがわかった。226.515事件の関連本を読みたくなった。
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くしくも今日は2月26日。思い出したかのようにこの本のレビューを欠いてみたりする。
一時期、2・26事件についていろいろと本を読んでいた時期があった。
その中でもこの「妻たちの二・二六事件」はかなり心に残る作品だった。
きっかけは映画「226」で安田成美が演じた田中勝の妻の役が強烈に心に残ったこと。ほんのチョイ役でたった一言「赤ちゃんができました」とつぶやくだけだったが、印象深いシーンだった。
その時に彼女たち、青年将校の妻や恋人たちのその後は一体どうだったのだろうかということが常に心に引っかかっていた。
月並みなことを言うと「男のエゴに人生を曲げられた女の悲劇」だが、果たしてそれだけなのか、歴史は常に傍観を許さないということなのか。