- Amazon.co.jp ・本 (110ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122005198
感想・レビュー・書評
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得体の知れないモノがもつ怪しい美しさと強烈な吸引力、そして、それに囚われる破滅に近い幸福を、豊富すぎるぐらい豊富な語彙を組み合わせた美文調で賛美した、大人の童話とでもいうべき二編。
ビアズリー の「サロメ」を彷彿とさせるモノクロの繊細な線画が印象的な水島爾保布の挿絵二十余点が、艶麗な世界観を下支えしています。
収録作は「人魚の嘆き」と「魔術師」の二作。
どちらもとても短い作品で、ストーリーにどっぷり浸ることができるというタイプではないのですが。
美を形容する言葉って、こんなにヴァリエーションに富んでたのね、と感心せずにはいられません。
美辞麗句のオンパレード…いえ、洪水です。
美しい言葉たちを愛でさせてもらったな、という満足感があります。
愛でるというのは、音律だけでなく、視覚的な意味でも。
玲瓏はまだしも、瑰麗、杳遠、皓潔…これまでほとんど出会うことなかったし、これからもきっとほとんど出会わない。
どっぷり浸れる谷崎ワールドを求める人には少し物足りないかも知れませんが、美的語彙力はどの作品にも増してこれでもかというぐらいにキレッキレなので、それを目当てに読むには短いしおすすめです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
異形コレクションつながりで。谷崎潤一郎を読むのは久しぶり。平凡な感想を許していただければ、文章が上手い。きれい。なぜこう思うのかというと、私が最近ひいきにしている鏡花より谷崎はいつも文学全集で格上の扱いで、密かに「なぜ?」と感じていたが、読んだらよくわかった。小説内容と等しく構成、言葉にも端正な美しさを求めたのだろう。でも鏡花独自の文体や描写のあでやかさもいいんだからねーと1人スネています...。
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旭屋書店の特設コーナーで見付けた文庫。その時は、手に入りにくい書籍特集が組まれており、美しい装丁と谷崎の名に惹かれて購入した。
満州が栄えていた頃の南京が舞台である「人魚の嘆き」。
由緒ある血筋、山のような財産、世にも珍しい美貌と才智を持つ若い貴公子の贅沢な悩み。
商人から人魚を買うが…。
谷崎は西洋に憧れがあったんでしょうかね。。。
本書は初めての谷崎潤一郎には不向きだけれど、異色作ならではの面白味はある。
サロメの挿し絵(オーブリー・ビアズリー)のような水島爾保布(みずしまにおう)の挿画は妖しく耽美で、ルビがふられていないと読めない漢字が並ぶのも、このお伽噺の世界に迷い込む手伝いをしてくれる。
続く「魔術師」でも、まず舞台設定で読者を迷わす。
異色作とは思うけれど、谷崎潤一郎の妖しく美しい世界は存分に味わえる。
少し変わった、男と女の愛のかたち。
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久しぶりに再読。「人魚の嘆き」「魔術師」どちらも、正直小説としてはあまり評価される作品ではないと思うのだけれど、無駄に美文、頽廃的で幻想的な内容、唯美主義な登場人物たちなど、偏ったなりにブレない当時の谷崎の趣味がよく出ていて、個人的にはとても好きな1冊。出版当時の挿画(水島爾保布のビアズレー風の)をそのまま文庫でも見れるというのも嬉しい。中井英夫の解説がまた的確でいい。
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谷崎の作品で、これ程に情景と色彩を意識した作品は無いだろう。
文学と云うよりも絵画と云う芸術に等しい、オスカー・ワイルドの"サロメ"(或いは"ドリアン・グレイの肖像")を想わせる箇も屡々見られる劇的な作品である。
表紙絵・挿絵の水島氏の作品も、"サロメ"にあるビアズリーの作品の雰囲気を意識した、日本特有であって、幻想的・異端な美の描写が何とも云えず文面を誇張する。
"人魚の嘆き"では、憂う情や退屈の苦痛さえも情景として色彩と変える様で、此処では特に水島氏の作品が活きている。
美麗で繊細な描写に絶句する。
"魔術師"も又、感情よりも情景を意識した作品であるが、これはまた別の悲劇を映している様に感じた。
最上の美を有った者こそ真の孤独者であるのだろう。妖艶たるは即ち孤高である。幻惑させ得る魔術師は現実から隔絶され、最も哀れな存在であろう。
対照的な"女"は最後に醜悪な姿に変えられるが、其れは誰かを愛し愛される事の出来る女への魔術師の嫉みでもあり、羨望でもある様に感じた。
対極の存在を魔術を以て、美と醜と云う両極に、虚と愛の両極に、容貌でさえも変えて仕舞う。酷く悲しい噺。
全体の作品としては、矢張り小説としての評価は低い様に想う。
芸術としては魅力のある物で、評価は4にしておく。 -
挿絵や表紙のイメージとは合わない作品が最近多いように感じる。個人的に漫画は好きだけど、その絵柄が表紙の作品は内容がどんなに真面目だったり、硬派だったとしても手に取れない。(ライトノベルならともかく)
読み進めてもその絵柄で頭の中をキャラクター達が動きまわってしまうい気が逸れてしまうからだ。
その点この表紙と合間合間の挿絵は作品を壊したりしない。むしろ美文調の作風を二人の絵師は生かすのだ。引き立て役に徹するのではなくなくてはならないものとしての存在感を見せつけてくる。
正直、上手く言葉にならない。難しいわけじゃないのだが、いざ感想を、と考えると途端に自分の拙い語彙では表現しきれずもどかしさに襲われてしまう。
ただ一つ、氏の作品を読めば日本語の語彙の豊富さ、美しさを再確認させてくれるとハッキリ言える。最近の小説も面白いが氏のような優美な日本語を巧みに扱える作家がすぐに出てこない。 -
たっぷり挿し込まれた水島爾保布挿絵がふつくしい・・・!内容自体は後の谷崎自身も赤面モノというのが分かるTHE幻想耽美。めくるめく極彩色絵図に乱歩が影響されたというのも納得。個人的には引き出しの一つとして読んで損無しでした。ゆったりした字組みにして函入りの頑丈な絵本風にすると女子は喜ぶと思います。
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谷崎の初期作品。「人魚の嘆き」と「魔術師」はどちらも大人のための童話といった趣きがある作風で、豪華絢爛に飾り立てた文章で構築されています。話の筋は単純だけれども、贅の限りを尽くした煌びやかで色彩豊かな言葉によって物語に不思議と奥行が感じられます。作品の評価はあまり高くないようですが、谷崎らしい美意識に貫かれた本作は個人的にはお気に入り。ビアズレーふうの挿絵も素敵です。
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(後で書きます)
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水島爾保布の細微で流麗なカバーや挿絵もそうですが、『人魚の嘆き』『魔術師』は、主にイギリスの天才夭逝画家オーブリー・ビアズリーや、ワイルド等の世紀末文学の影響を色濃く受けたエキゾチックな風情に仕上がっています。エキゾチック…と言いましたが、まるっきり外国風情か言われればそうではなく、「美」を表現するのに多用されるペダントリーに満ち満ちた語彙や、数多の香水の名前、美食、珍酒の羅列などは、やはり「耽美派」と呼ばれた谷崎潤一郎という作家にしかできないと思います。要は、西洋への憧憬を日本文学という形で表現している谷崎潤一郎がスゴすぎる…! ということです。個人的に谷崎潤一郎の短編で好きなのは、ダントツでこの二篇です。中井英夫の解説も素晴らしいかったですね。