誰のために―石光真清の手記 4 (中公文庫 (い16-4))

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122006898

感想・レビュー・書評

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  • 評価は全巻を通じてのもの。大変な傑作。どこまでフィクションが入ってるかは分からないが、知識とした知っている歴史が血の通ったものとして迫ってくる。

    とりわけこの巻では、指示のはっきりしない上層部と現場の葛藤や逡巡など、全く今の日本も変わってないなと感じさせて面白かった。

    現代の日本にはこれだけの気骨を持った人がどれだけいるのか?明治を、近代日本を作り上げたのは間違いなく真清やその妻、その母であったであろう。

  • シリーズ最終巻。

    郵便局の局長となっていた著者に、弟の真臣を通して、もう一度大陸にわたりロシアの情勢を調査するという使命がもたらされます。こうして著者は、レーニン率いるロシア革命によって大きく変貌を遂げつつあるシベリアの地で、現地の日本人とシベリアのコザック、そして当地におけるボリシェヴィキの首領を務めるムーヒンのあいだを奔走し、日本人とロシア人双方のために尽力します。しかし、シベリア出兵によってこの地に派遣されてきた日本軍の実態に疲弊させられることになり、苦い失意をかかえたまま、帰国の途に就くことになります。

    明治から昭和にかけての動乱を、日本の大陸進出のフロンティアで体験した著者の手記にもとづいた作品で、たいへんおもしろく読みました。どの程度編集の手が入っているのかわからないのですが、ドラマティックな編成になっていて読者をひきつける魅力をそなえているように感じました。

  • 自叙伝って、基本的に作家の良いところだけを記したものが多く、あまり好きではありません。
    でも、この本は自分に真摯な著述が心をひかれます。
    この人は日清、日露戦争、シベリア出兵の時代など時代をつうじて、スパイ活動などをしてきた人なのです。
    そして何より素晴らしいのは、日本史に出てくる有名な軍人から、普通の兵士、
    敵方ロシアの将校、満州の人々、そして身売りされてきた日本の女郎など、
    あらゆる人々と親交をもち、人間的に信頼を受けてきたことです。
    第1巻を読むと、その行動は父の生きざまにあったように思われます。
    機会があれば是非一読下さい、決して政治的、イデオロギー的な話ではなく、
    人一人の真摯な生き様を綴ったものであります。

  • 1979年(底本59年)刊。M・T期に満・露にて諜報活動に従事した著者の自叙伝。全4巻中の最終。◆露革命時の露国内の模様がつぶさに。在留邦人(といっても生活本拠は露内)保護に奔走する著者。革命・反革命の両側に知己ができるものの、日本軍の革命干渉戦争に翻弄される。統一的な軍事行動目的のない日本軍は各地で市民に暴虐を振るい、反革命側からも離反の憂き目。一方、満州・錦州にて順調に進んでいた著者の事業は、露内での諜報活動のために他人任せ。国内郵便局事業も同様。戦後恐慌と排日行動もあって事実上文無しで軍から放逐。
    このように利用するだけ利用し、意に添わないとなれば、掌返しをする軍=官僚の冷たさが印象的。そういう意味で、著者の子息に対する「大陸に行くな」という主旨の訓戒にはさもありなん。自叙伝の本書においては、マクロの史的視点とは対極だが、多面的視座に必須のミクロに見た歴史的視点を読者に提供してくれる。こういう書、特に、日本人の経験的叙述が少ない、日露戦前の満・露情勢、ロシア革命干渉戦争の実像は実に価値がある。著者の手記を整理した子息真人氏の功も大。

  • ロシア革命を受けて再び大陸へ渡り任務を尽くした姿を描く。
    石光の生涯は苦難に満ちたものであり、本人も手記の中でその人生をどこまでも外れてしまったなどと息子に語る部分があるが、このような貴重な資料的価値のあるものを世に残してくれたことは、今を生きる私たちにとって非常に意味のあるものである。
    その思いを既に天に召された彼に、伝えることができればこの上ない喜びである。

  • 真清の葛藤書と呼んでもいい。ロシア革命に揺れるアムール。真清の使命はアムール州政府の救済か?それともシベリア出兵の支援か?そして突きつけられた言葉、「君は一体誰のために働いとるんだ、ロシアのためか」。
    ロシアの脅威を誰よりも早く感じ取り、諜報活動に従事し、よかれと思って遂行してきた自分の任務に対して最後に投げかけられた問いが「誰のために」。真清は生涯を振り返り何を思ったのだろう。

  • 明治初年から大正を生きた影の実在の軍人の手記。
    近代史に興味がある方に大変オススメ。
    単語でしか知らない多くの事件の裏に、どのような人々の生き死にが関わっているのかを知ることができる。

    4部作。
    『城下の人』『曠野の花』『望郷の歌』『誰のために』

    父・石光真清の半世紀に及ぶ発行予定の無い膨大な日記・諜報記録を、息子さんが丁寧に編集するというとてつもなく永く繊細な作業の下の大作。

    息子さんがそのような無謀な(失礼)行為に出たくなるほど、父・石光真清は息子にとって謎めいた父親だったろう。

    軍界/官界/商界に成功者の親族を多数持ちながら、軍人のはずの父にはなぜか軍籍は無く、家族は生活に困窮する時期も。中国大陸からは20年のうちに散発的に5度ほどしか帰って来ない。商売に失敗したと言っては借金を作る。その一方でなぜか軍人として満州/シベリアへの駐在命令を受けているのだから。

    病がちな母を日本に置き、その母は親戚との社会的地位の差異により付き合いにも悩む。傍らで見ていた息子さんは、お父さんを恨んだかも知れない。


    しかし、息子さんはお父さんへの疑問を膨大な編纂作業にぶつけた。その結果、見えてきた父の数奇な人生。

    父は、1877年の西南戦争に始まり、1922年頃まで続くのシベリア出兵/米騒動に至る極東アジアの移り変わりを、激動の最前線、満州/シベリアの地から、主に影の任務を帯び、死地を何度も何度も何度もくぐり抜け、時に情報を日本に伝えていた。

    そんな父の想いは、『誰のために』という4巻のタイトルに全て凝縮されているように思う。

    特殊任務のために、亦た大陸に半ば魅せられたために、軍籍を退き、後ろ盾が乏しい中で国のための諜報活動をほぼ片務的に行い、これのために家族に迷惑をかけ続けたことを、父は激動の暮らしの中でも時折思い出し、心の中で謝罪し続ける。

    「自分は、誰のためにこんなことをしているのか」と。

    しかし、懺悔の念を深く抱き、終世自己解決できない境遇に身を置きながらも捨て去れない魅力・引力が、大陸にはあったのだろう。


    読者である自分としては、青年の志のために後ろ盾や約束の無い環境に身を置くことはならん、義理に傾倒し過ぎて家族の生活を棄ててはならんと、強く学んだ次第。

    また、ブラゴベシチェンスクと黒河という露中国境を訪問したくなった。多くの虐殺、そして多くの友好の地。

  • 軍部は石光真清に何をさせたかったのか。ブラゴベシチェンスクでの日々。本人の記述なので、石光の諜報活動が実施どう役立ったか、何を左右したかなどについては何もわからない。そこは物足りない。シベリア出兵に関して詳しく知らないので興味を持った。関東大震災の後の朝鮮人狩り騒ぎについても記述があって、実際に近くの連隊が朝鮮人に警戒せよとふれまわったというのは驚き。錦州の店もダメになって、晩年は結構哀れな感じ。子や孫に囲まれて、「人並」の幸せは手に入れても、大陸に想いを馳せる晩年だったのかな。ところで、石光は大佐じゃないよね。少佐だったと思うけど、ロシア人に大佐って呼ばれて一切否定しないのが不思議。同期生なんかが少将になったりしてるから、やっぱり現役から退いて諜報の道を選んだ事に対して少し悔恨の念があるのかな、なんて穿ってみたり。

  • シベリア出兵に関する記述が中心。

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著者プロフィール

明治元(一八六八)年、熊本生まれ。一六年、陸軍幼年学校に入り、陸軍中尉で日清戦争に従軍し、台湾に遠征。三二年、特別任務を帯びてシベリアに渡る。日露戦争後は東京世田谷の三等郵便局の局長を務めたりしていたが、大正六(一九一七)年、ロシア革命直後のシベリアに渡り諜報活動に従事する。八年に帰国後は、夫人の死や負債等、失意の日々を送り、昭和一七(一九四二)年に死去。死後、その手記が公刊される。 明治三七(一九〇四)年、東京生まれ。早稲田大学卒業後、昭和六(一九三一)年、東京日日新聞社に入社。一三年芝浦工作機械に転じ、戦時中、日本新聞会考査課長、日本新聞連盟用紙課長を歴任。戦後、日本新聞協会用紙課長、総務部長、業務部長を経て、日本ABC協会事務局長、専務理事。三三年、父・石光真清の手記『城下の人』『曠野の花』『望郷の歌』『誰のために』の出版により、毎日出版文化賞を受賞。編著書に『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』等がある。五〇年に死去。

「2018年 『誰のために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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