宇宙からの帰還 (中公文庫 M 274)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122012325

感想・レビュー・書評

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  • 印象的だったのは、宇宙船の中に閉じ込められた状態と、ハッチを開けて外に出たときでは、宇宙という空間への感じかたが全く違うということ。
    宇宙船の外に出たときにはじめて、自分の目の前に全宇宙があることが実感されるらしい。宇宙という無限の空間のどまん中に自分という存在が放り出されてあるという感じだ。
    完璧な静寂。無音の世界。
    そこに一人ぼっちでただ浮いている。下を見ると地球が在る。
    地球を離れて、はじめて丸ごとの地球を一つの球体としてみることができる。

    お前が見ているものは何なのか。お前と世界はどう関係しているのか。この体験の意味するところは何だ。人生とは何だ。人間とは何だ。

    私という個人ではなく人間として地球との関係を深く考える。

    “我々はどこにいっても結局は地球人なのだ”

    “宇宙からは、本質が見える。
    地表でちがう所を見れば、なるほどちがう所はちがうと思うのに対して、宇宙からちがう所を見ると、なるほどちがう所も同じだと思う”


    アメリカの宇宙飛行士たちの体験のうち、キリスト教の信仰、神の啓示などの宗教に関する意識の変容はかなり面白い部分だった。
    信仰心が篤いもの、信仰心を持っていないもの、信仰心がとりあえずあるもの。
    それぞれが、神の座である天空に昇ったとき、神とのかかわりにおいてどういう内的インパクトを受けたのか。

    アメリカはキリスト教国であり、大半はクリスチャンである。たとえば、キリスト教国の神に対する認識と、八百万の神という考え方を持つ日本で育った宇宙飛行士とでは、衝撃の大きさが全く違うだろうことは容易に想像がつく。
    著者・立花隆さんとの巻末対談で宇宙飛行士・野口総一さんは語っている。
    「自分には宗教的な目覚め、神の啓示といったものとは縁がなかった」
    さらには、こんなこともおっしゃっている。
    「宇宙飛行士黎明期のパイオニアたちと、物心つくころには人類が月面に到達していた現代っ子飛行士では、宇宙に行くこと自体のインパクトが違うかもしれない」
    確かに現代では、以前よりも宇宙に行くこと自体珍しい時代ではなくなってきたし、写真や映像などで情報を得ることができる。
    なればこそ、この『宇宙からの帰還』で描かれるアメリカの宇宙飛行士たちの実体験は、その時代に宇宙へいったものにしか経験できない貴重なものといえるだろう。もう誰にも経験出来ないドラマなのだ。

    とはいえ、宇宙から地球を眺めた「宇宙飛行士」皆が言葉は違えども、地球に対して「美しい」と実感している。そして宇宙から地球を見るという経験は、人を変えずにはいられないということを認識している。そこには時代や国籍、宗教など全く関係ない。人間と地球があるだけだ。

    「宇宙体験をすると、前と同じ人間ではありえない」

  • 「宇宙に行った」というのは、いかなる体験なのか? というノンフィクション。
    文庫でも1985年の刊行なのでかなり古い本なのだが、宇宙に行ったということが宇宙飛行士の内的変化から書かれており、古さを感じさせない内容だった。
    「これは特筆すべきことだと思うんだが、宇宙体験の結果、無神論者になったという人間は一人もいないんだよ」というある宇宙飛行士の表現が、この本を一言で言い表しているかと思う。

    この言葉は正確には、宇宙体験をしてから神を信じるようになった、という意味ではない。しかし、宇宙に行って宇宙体験をした宇宙飛行士の多くが「超越的なものの存在を信じるようになった」と語っているのはとても興味深かった。
    これは、宇宙から地球を見ることによって、自分の存在が「個」を超えた存在――より大きな包括的のものの一部でしかない、という意識を持つためらしい。

    宗教を信じる、という感覚は、私はよくわからない。しかし、それでも彼らが宇宙へ行ったことによって、一種の神秘体験をしたのだな、ということは伝わってくる。彼らの世界が変わったのではなく、認識が変わったのだ。
    おそらく、一番違うのはやはりスケールだろう。より大きなものに触れることによって、宇宙飛行士たちは自分が精神的な存在であることに気づかされたのかもしれない。

    当時科学の最先端にいた宇宙飛行士が「超自然的なものを感じた」と語るインタビューは、読んでいてとてもワクワクした。
    そしてこれは著者の立花さんも言ってあることだが、自分も純粋にその体験をしてみたい、と思った。彼らの言う感覚を、ぜひとも自分も味わってみたい!
    一般人でも宇宙に行けるようになるのは……いったい何年後、何十年後、あるいは何百年後のことだろう?

  • 宇宙での物理的体験はメディアで取り上げられるが、体験者の内面や精神的変化にフォーカスしたノンフィクション本ということで興味をそそられた。もともと宇宙への興味は薄かったが、読後は「宇宙体験したい!」と強く思う。地球の軌道から外れたうえで船外に出る体験は、知識と想像力をいくら働かせても地球上で生きる人間の次元を超える圧倒な状況であり、そのような自己の根源を根底から揺さぶる環境を体感したくてたまらない。(映画『ゼロ・グラビティ』を見て多少理解しても感情にとどまるのみで精神までには至らない)

    インタビュー対象者は全員アメリカ人で、まず彼らの神概念と、その土壌となるアメリカ社会のキリスト教の宗派や政治的な側面が地域や家族やルーツによって異なることが丁寧に解説されているのが良かった。日本人にとってアメリカ=キリスト教国と一括りにされがちだが、宗派の違いが各個人の社会的立場や生活様式や思考まで影響を及ぼすということを読者に理解させたうえで、宇宙飛行士らのバックグラウンドと宇宙体験前と後の内的インパクトを取り上げた本書は、古いながらも類似本の思い当たりがないので、素晴らしい視点の貴重な本だと思う。

    本書に出るのはキリスト教社会を土台としたアメリカ人飛行士だが、イスラム教徒や、ヒンズー教徒などの多神教、あらゆる宗教と神の存在を否定する国家だった旧ソ連や中国等なら、どのような内的変化や神概念を持つのだろう…と、大変興味を掻き立てられる。誰か本書と同様のスタイルで、各宗教や各国の宇宙飛行体験者の精神的インパクトをインタビューして欲しいものだ。。

  • すごく面白い。興味深い。30年くらい前の本だけど、職業として宇宙飛行士してる方が宇宙で体験する感覚(?)は、今も昔も根本的に同じなんじゃないかなぁ

    宗教的には「神がいる場所」とされる空(宇宙)に、いまは科学やら工学やらを叩き込まれたプロ宇宙飛行士しか行けなくて、内面の変化を伝える術を持たないっていう着眼すごいなーって思った。
    本の中で触れられていた、
    「哲学者や詩人が宇宙飛行できる世界になったら、彼らは宇宙体験をどのように表現し、どのように大衆に伝えるのか」
    ってとこ!とても興味あります。


    読んでいて思ったのは、自分の行動がどんなであったとしても、それが直感的に正しいと信じる事ができ、かつ振り返ってみてもその決断が間違っていない… そういう瞬間にひとは自分の行動に神を見るんだなぁって思います。
    あと、「神はパターンである」って考え方。初めて触れたので面白かった。
    古来より成功確率の高いパターンを「神」という存在に重ね合わせるっていう。
    これ成功パターンだよね→これが成功パターンって決めたのは誰?→神だよ!!
    って流れ…
    不可解だけどしっくりくるもの、そしてそれがなぜしっくりくるのか…

    読んでる最中も、読了後も、夜空に浮かぶ月を見つけると、なんかえもいわれぬ気分になります!
    郷愁のような…?
    わたしの故郷は地球なんですが

  • 宇宙体験を通した人間(ここではアメリカ人)の心理や月、地球、と宇宙の間に纏わる知的好奇心を刺激されとにかく深く面白い。この先の人生であと一、ニ回は必ず読み返すと思う。

  • 立花隆氏の代表作と呼んでも良い自然科学ノンフィクションの1冊。宇宙飛行を経験した宇宙飛行士が、精神面においてどのような変化を受けたのかを丹念に取材した結果をまとめたノンフィクション。
    宇宙飛行自体の技術的な内容よりも、宇宙飛行中や”その後”に彼らが宗教観や神の存在などについて、どのように感じたのかを追っています。
    一言に宇宙飛行と言っても、アポロ計画で月まで行った宇宙飛行士によれば、「地球を周回するだけの地球周回軌道は地球環境の周辺の一部に過ぎず、地球を離れる月往復軌道は全く別の体験」であるとか、宇宙服を着て船外活動を経験した宇宙飛行士によれば「船外活動服を着て、たった一人で宇宙空間に出る経験と、宇宙船内だけの経験とは全く別」など、ディティールに拘った証言が紹介されています。深い証言を宇宙飛行士から引き出せるのは、やはり著者の宇宙や宇宙飛行に関する造詣の深さから、その質問が的確であるからだと感じます。
    バリバリ理系・技術者の宇宙飛行士が宗教や神について自らが感じたことを述べているという点が非常に興味深いです。アポロ15号で月面に降り立ったジム・アーウィンが自らの体験について「月面上で感じたことを正確に表現する術がない。私が詩人や作家であれば良かったのに」との証言をしていることは説得力があります。
    単行本初版は1983年。今から40年近く前ですが、内容に全く古さを感じさせません。宇宙飛行を経験した人が増えたと言ってもガガーリンから数えてまだ600人弱です。地球で生活する感覚に慣れ切った人間が宇宙空間で感じる事について、今と40年前ではそれほど大きな違いがあるわけではなく、その点が今でも本書の内容が色あせない要因ではないかと思います。
    実は私はこの本を中学生だった時に購入し、途中で読むのを断念していました。当時はもっと技術的な記述の多い内容を期待していたのですが、50歳を過ぎた今に読み終わってみて本書の内容の深さをようやく感じることが出来ました。

  • 職場の同僚(イギリス人)から1995年のクリスマスプレゼントにいただいた。
    ※2008.10.12売却済み

  • この本はかなり前から知っていたが、どうしてもっともっと早く読まなかったんだろう、という悔いを強烈に感じた。
    一冊の本から、次から次へ読みたい本が出てくる。これはもう、しばらくの間、宇宙、哲学、宗教などの本に世界にさらに入っていかざるを得ない。宇宙を飛行していて、あたかも予期せぬ重力圏内に入ったように。

    記録 p272〜p274、p300〜p309、p312〜p325
    J.E. Lovelock “Gaia- a new look at life on Earth” Oxford Univ. Press

  • 著名な本だが、読んだ事が無かった。宇宙飛行士の内面の変化を取材した本。もっと直截に言えば、宗教観への影響。しかも、一級の科学者や技術者にそれを問うという、ある意味では極めて挑戦的な試みとも言える。

    鳥瞰という次元よりも、更に天上から眺める地球。戦争も含めた、人間自前のルールの下での営みを、別次元から見る。その感動が、絶対的な存在を感じさせ、人は神を想像する。そのような超越した意思あるいは力がなければ、地球の存在は有り得ないという事だ。そしてそれは決して科学と矛盾するものではなく、その存在に迫る事も科学だと。

    スケールの大きな読書。本著を読む事で少しでも、その感覚を味わえたなら素敵な事だと思う。ちっぽけな自分たちを。

  •  物理学の本をいくつか読んでいると、宇宙のことについてあまりにも分かっていないことが多すぎるということに驚く。理論で説明はできたとしても、検証はできないことも多い。宇宙飛行士が地球へ戻ってきた後に宗教的になるという話を聞いたことがあるのだけど、そういった物理の本を読んでいると確かにそうなるだろうな、こんなに分からないことだらけの宇宙に身を放り投げると理屈では説明できない、それはもう「神」の施しとしか思えなくなるだろうな、ということがすんなりと想像できる。ということで宇宙飛行士の地球帰還後について詳しく書かれた本が読みたくなり、本書を手に取った。

     宇宙へ行ったことによる内的インパクトはもちろん人それぞれなのだけど、多くに共通していることは、宗教観への影響、環境意識への影響だと思う。写真で見る地球とは比べ物にならないくらい地球は美しい、それは実際に宇宙から自分の目で見た者にしか分からない、とみな口を揃えて言っている。あれほどに美しい地球が、偶然に素粒子同士がぶつかってできたりするとは思えない、それは誰かの何らかの意思がなければ作り得ない、だとしたら誰か?それはもう「神」としか言いようがない、ということらしい。そして宇宙からそんな地球を見た時に、地球は惑星におけるone of themでしかないいたってローカルな存在であり、その中の国、人種、宗教などの違いなんてものは微々たる差違でしかない、という実感を強くする。この視点は宇宙へは行けないとはいえ地球人として持っておきたいものだなと思う。

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著者プロフィール

評論家、ジャーナリスト、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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