中国行きのスロウ・ボート (中公文庫 A 188)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122012882

感想・レビュー・書評

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  • 村上春樹の最初の短編集。1980年春から1982年夏にかけて発表された七つの短編が年代順に収められている。単行本の発売が1983年なので、40年前のことだ。
    村上春樹の小説は、長編も短編も、村上春樹が一体何を書きたかったのかを理解するのが難しい。この本に収められている短編も、うまく理解できたような気はしない。

    この中では「午後の最後の芝生」で、主人公の「僕」が芝刈りのアルバイト先の中年の主婦に「あんたにちょっと見てほしいものもあるんだ」と頼まれて、その家の二階で、「典型的なティーン•エイジャーの女の子の部屋」を見せられ、その女の子について、どう思うかを問われる場面が心に残った。
    主人公は、その女の子が、「とても感じのいいきちんとした人」「成績は中の上クラス」「ボーイフレンドはいます」等と答え、中年の主婦はそれを真剣に聞く。そして、主人公が「問題は….彼女がいろんなものになじめないことです。自分の体やら、自分の考えていることやら、自分の求めていることやら、他人が要求していることやら…..そんなことにです」と言った後、彼女は十分か十五分、口をつぐんでしまう。そして主人公は、何故か疲れ果ててしまう。
    中年の主婦が、口をつぐんでしまった理由は、いくつかの可能性があるだろう。最も悲しい可能性は、もちろん、お嬢さんが、周囲に馴染めずに自殺をしてしまったこと。それをどうしても理解できずに、彼女は、毎日、お昼前からお酒を飲んでいる。最も楽観的な可能性は、自分の娘をなかなか理解できずに、若い「僕」に何らかの意見を求めたかったということ。小説のトーンは、やや悲劇の匂いがする。

    という具合に、この短編を読んだが、他の短編を含めて、色々な読み方ができる短編ばかりだ。
    私はストーリーのはっきりしている小説が好きなので、好き嫌いで言えば、そんなに好きな短編集ではなかった。
    が、何故か、他の短編集も読んでみたい気にさせられた。

  • もちろん時は全ての人々を平等にうちのめしていくのだろう。まるで路上で死ぬまで老馬をうちすえるあの御者のように。しかしそれはおそろしく静かな打擲であるから、自らが打たれていることに気づくものは少ない。
    『貧乏な叔母さんの話』

    .
    千葉哲也の『現代思想入門』を読んで、いくつかの詩を読んで、村上春樹の文章について考えてました。


    一般的な小説はいわゆる"オチ"や"ゴール"に向かって展開されていき、物語は僕らに教訓、驚き、スリル、感動を届けてくれる。それは著者もぼくらもお互い期待していることで、協力して、「目的的に」読む。

    村上春樹の小説を読むときぼくらは、何にもないところに放り出されて、好きに泳がされる。物語はいわば抽象画みたいなもので、それをどう読んで何を構築するかはぼくら一人一人の問題で、「意味わかんない」でもいいし、「なんかかっこいい」でもいいし、「これは著者の意識下を反映してて...」と読んでもいい。詩的に、物語を読むために、「自己目的的に」読んでもいい。あるいは詩的に読むと、物語の筋には関係ないフレーズがいちいちまとわりついてきて、くせになる。もっとこうやって素直に読んでもよかったのかも


    .
    それでも、物語の裏やその先を、探らざるをえない気もします。その物語の理不尽さには何かあると思わされる。ぼくは、今までにあったことを思い出しながら、中国のことを考え、会う人それぞれの背中に貧乏な叔母さんの影を見、変わったフェティシズムを持ったりして、必要以上に芝刈りに時間をかけて、退屈なまちで羊男に会う。

    .
    中国行きの貨物船(スロウ・ボート)に
    なんとかあなたを
    乗せたいな、
    船は貸しきり、二人きり......
               -古い唄
    『中国行きのスロウ・ボート』

  • 久々に読んだな。やっぱ最初のほうの作品はいま読むと下手だな…と思う。要らない文があるように感じられるところがある。
    『午後の最後の芝生』大好き。ジントニック飲みたくなる。ちゃーりーの話も、ホテルの話も好き。

  • 午後の最後の芝生 暑い夏と刈り立ての綺麗な芝生とビール
    土の中の彼女の小さな犬 プールサイドと彼女と会話
    シドニーのグリーン・ストリート ちゃーりーとピザとビールと羊男

  • 少し粗削りな印象を受けた。
    熟しきっていないような、そんな感じがした。
    特にカンガルー通信は、カンガルー日和をぱっと思い出すけれど、やはりクオリティーは圧倒的にカンガルー日和の方が高い気がする。
    この本は村上春樹の初期の短編集らしいので、これらの話が寝かされ温められ、熟して、奥行きを広げていったのだな、と思った。






    1999.5.21
    村上春樹チックな内容だった(笑)彼が「格言」めいたものを好むという意味がよくわかった。彼の文章は、彼の思想というか思考とスタイルに支えられている。素材はけっこう平凡だ。しかしスタイルと視線が少し(大幅に)違うから、新鮮なのだ。「シドニーのグリーンストリート」は、コミカルで、いい。そして、彼独特の言葉の使い方も面白い。

  • **

  • 昔読んだものの再読。この中の芝生の話の短編がもう一度読みたくて。
    夏に芝を飼った話。それだけがなぜかずっと印象に残っていた。が、今読み終えて、「へーっ、こんな話だったのかー」と思った。細かなところまでは憶えていなかった。たぶん、ストーリーはどうでもみ良かったのかもしれない。夏の日差しの下のし芝刈りが、あたまに残っていただけなのだろう。

  •  貧乏な叔母さんの話が、好きだと思った。

     好きな人と、たまにそんな話をする。まぁ間違いなくもっとくだらないけど。

     よく話すのは、彼氏さんの髪の毛の中に住む小さなおじさんの話。(たまに耳の中に引っ越す。)

     8月によく現れる、「溶ける女」の話。
     道を歩いていると、アイスのようにその実体がなくなっていって、どろどろになり、人間の形をなさなくなった臨界点を超えると水風船がはじけた観たく液体が飛び散ってその存在がなくなる。(…元に戻るにはどうするんだったかなぁ。また夏が来たら話そう。)


      あと都合が悪くなると現れる「良子」(私の中の漢字はこの「良子」だ。)

     (使用例)
     「お菓子食べたの誰?」
     「…良子じゃない?」



     …はぁ。今気づいた。世界中どこ探してもきっと、私のこんな会話に付き合ってくれるのは今の彼氏さんだけな気がする。


     また最近険悪な感じなんですが、


     うまい感じにまたまとまれたら嬉しいなぁと…思う。
     喧嘩ふっかけたの私なんですけどね…。
     さようならなら、さようならだ。
     私といるか否かを決めるのは、彼の選択だ。
     と思うのは、自分が上記のようなうわ言を発する人間、もしくはそういう類の考え方をする「浮いた人間」だからに他なりませんが、それは、「逃げ」なんだろうか、とも思う。

  • ムラ・ハルの短編集。ムラ・ハルは短編や翻訳ものの方が読みやすい。

  • (2011.08.22読了)(拝借)
    小川洋子さんが「博士の本棚」で繰り返し紹介していた本なので、かみさんの本棚で探して、読んでみました。
    村上春樹の最初の短編集ということです。単行本は、1983年5月に刊行されています。
    7つの作品が収められています。
    「中国行きのスロウ・ボート」「貧乏な叔母さんの話」「ニューヨーク炭鉱の悲劇」「カンガルー通信」「午後の最後の芝生」「土の中の彼女の小さな犬」「シドニーのグリーン・ストリート」
    (書きかけ)

    ☆村上春樹さんの本(既読)
    「風の歌を聴け」村上春樹著、講談社文庫、1982.07.15
    「ノルウェイの森(上)」村上春樹著、講談社、1987.09.10
    「ノルウェイの森(下)」村上春樹著、講談社、1987.09.10
    「沈黙」村上春樹著、全国学校図書館協議会、1993.03.01
    「アンダーグラウンド」村上春樹著、講談社文庫、1999.02.15
    「約束された場所で」村上春樹著、文春文庫、2001.07.10
    「1Q84 BOOK1」村上春樹著、新潮社、2009.05.30
    「1Q84 BOOK2」村上春樹著、新潮社、2009.05.30

  • 村上春樹の初期の空気を最もよく伝えているように思う。個人的には、短編の方が空気感が直に伝わってきて好き。結果はいらないと思う時もあるでしょう。

  • 本当はここらあたりがピークだったのに、画像もないのが残念。

  • レビューが無くてゴメンネ。
    村上短編集の中でもコレが1番好き。特に「午後の最後の芝生」は村上作品の中でも上位にランクイン

  • 短編。
    あんまり覚えてない。
    短編はほとんど全集で読んだ。
    家本棚に並んでましたので。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

村上春樹の作品

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