夏の朝の成層圏 (中公文庫)

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著者 : 池澤夏樹
  • 中央公論社 (1990年5月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122017122

夏の朝の成層圏 (中公文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 大好きな大好きな池澤夏樹の処女作。南の島、自然と文明、個と全体、理系的な要素と紛れも無い文学性に溢れた文章、彼の作品を彩るエッセンスが剥き出しにぎゅっと詰まってる。その後の小説においてこれらの要素は洗練され、発展していくわけですが、ああここが原点だったんだなあ、って思ってしまって感慨深い。一文一文が染み渡るように、大事に読みました。わたしにとってたいせつな問題を捉えているのも、その問題に対するアプローチ方法も、物語に落とし込むスキルとそれを彩る文章の芸術性も、ぜんぶもっているのはけっきょくのところ、純文学なのかなあ、わかんないけど、池澤夏樹の文学がわたしは本当に好きです。個人として生きていくことを突き詰めて、突き詰めてしまうと、全体性に繋がっていく、そういうのを超えてどこへ行くのかなあっていうのをわたしはけっこう池澤夏樹に求めている気がする。うつくしい文章、澄み渡る空気、感覚的なものも含めて、ああすきだなあ、

  • すごいすごい、素晴らしい。

    無人島に漂着して、生命を維持することが目的の生活を送る。
    その愉悦と現実に戻らないことへの背徳感。

    想像力で人はここまでのものが書けるんだなあ。
    本当にこの作家さんは素晴らしい。
    世界と人間を手のひらにのせて、見せてくれる。

  • ぼくが彼となり、そしてぼくに戻っていく物語といえばいいのでしょうか。
    漂着した島で自然と一体化していく彼。今日1日を生きていくために魚を釣り貝を拾い、火を起こす・・・次第に過去の生活に戻ることを躊躇いはじめます。
    彼は島の精霊たちの声を聞きます。そして精霊たちの喜びは、決して彼ひとりがこの島で生きていくことを見守ることではないと分かります。
    子どもの声が聞きたい。赤子の泣く声が聞きたい。若い女の悲鳴、年増のよがる声、老人のつぶやき、若衆の声、犬の声。聞きたい。聞きたい。それが精霊の熱望する喜び。どうして誰もいなくなったのだ。そんな精霊の声に彼は答える術がありません。男が女と結ばれて子どもが生まれる。反対に老人がその生涯を終えると島の精霊となります。たったひとりぼっちの漂流者である彼にはそれは叶えられません。
    もといた文明の世界からやってきたマイロンたちと島の間に落ち着かなく漂うもの、それが彼なのです。
    そして彼は「書く」ことによってぼくへと戻り文明社会へと帰っていきます。
    忘れたくない夢も目が覚めると忘れてしまっていて。でも、楽しかったことだけは覚えてるんだけど・・・後ろ髪ひかれながらも新しい朝を迎える、そんな気持ちにさせられました。
    最後に人はひとりでは生きられないと思いました。それは物質的なことではなく精神的なもののことなんだけど。人は人と触れ合い語り合い、そこから自分の心の内がみえてくるのだろうと思いました。ひとりでは精神が孤島化してしまう。そこから救い出してくれるものはやっぱり人なんですね。

  • 南の島に漂着した男の不思議な物語。刺激的な描写や、唸るような台詞があるわけではないけれど、全体として捉えた時に、淡く滲むように世界が広がる。

    【いちぶん】
    一時期ぼくの中にあった変身の願望、自然のすぐ近くで単純明快な生活者になるという願望は成就せず、ぼくは何歩も後退して、こんな形で島を出ていく。だが、それもいいだろう。長い目で見るならばぼくは、いつになろうとも、どこで何をしていようとも、この島の刻印を残しているだろうから。

  • ・そうすると、運命の細い隙間を抜けるようにしてここへ来た以上、連れてこられた以上、僕の救出計画にこの島が指定してあったわけだから、この場所にはなにかとても重大な意味があるように思われてくる。漂着という大きな運命の重さに釣り合うだけdのものを僕はここでみつけなくてはいけないように思う。
     考えてみるとぼくは昔から『あそこ』的な人間だった。つまり、今『ここ』で自分がやっていることはすべて仮のものであって、いずれ自分は『ここ』ではないところへ行って、そこで本当の生活をはじめるだろう、心の底ではいつもそう思っていた。彼岸を仮定することによって此岸の生活を真剣に見ることを回避してきた。つまり・・・・・


    ・「時々ぼくは宇宙を裏返して考える」と彼は続けた。「つまりぼくのお腹の真中、それこそ内臓の中心を宇宙の中心として、全体をひっくりかえすんだ。そうすると、この世界はぼくの皮膚によってくるまれた球状の空間で、皮膚は無論内側が表になる。きみもこの島も太平洋も地球も太陽系も、最遠点まで含めた宇宙全体がこの球状の空間に入っている。遠い宇宙の果はこの球の中心になる。きみは、ミランダ、ぼくに一番近いから、この球の内側に寝そべっているんだ。だからきみの肌はぼくに触れている。そしてこの皮膚の外側は無限遠点までずっとぼくの内臓によって埋めつくされている。ぼくの内臓がきみたち全部を虚無から護り、宇宙の秩序を維持している。すべてのものはしかるべき位置にある。だから、きみはこのまま安心して眠っていいんだよ」

  • 十年振りくらいに読んだ。はじめて読んだのは1987年。刷り込まれている。

  • 無人島漂流。

    日々生きる為だけに活動する、生のシンプルさに惹かれた。生きることに必要なものはほんの僅かである。

    なのになぜ都市へ人は群がるのだろうか。

  • 文体も情景もすごく爽やか。スティルライフよりも爽やか。ライトなんだけれど南国気分に没入できる。リラックスしたいときのBGM的に是非。

  • ここではないどこかへたどり着いた彼。
    つむぐ物語は無人島でなんとか生をつなごうとするところから、いずれ戻らなければならないところへたどりつくまでの休暇。

    あとがきの池澤夏樹は「境界を描く作家」というのが心に残りました。

  • あらすじは、「彼」が遭難して、無人島で暮らす。以上。その生活を見事な文章で綴りあげています。情景描写と心境語りのバランスが非常に良くて、するする入ってきて、共感を生みます。
    そして何より、詩的です。この作品を読んだことによって、ピタゴラスイッチ的に伊坂幸太郎の「重力ピエロ」の評価が下がりました。「重力ピエロ」は筋書きは面白くないけど、時々びっくりするほど詩的なことを言い出す、それが唯一良いところだと思ってました。しかし、「夏の朝の成層圏」を隣に置いたら陳腐に見えます。「重力ピエロ」は、台詞に詩を仕込んでくるので非常に違和感があったのですが、こちらの作品がそこのバランスがとてもいい(無人島なのでそもそも台詞がない)。
    非常に感動しました。美しい小説です。買います。

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